壁
毎朝、駅で壁に向かって一人でボソボソしゃべってるおっさんがおるんやけどな?
そういうの気味悪いやろ?わし正義感強い方やから、この前怒鳴り散らしたんや。
「おい‼︎邪魔やろ‼︎どけや‼︎」
おっさんはちらっとこっちを見たかと思ったら、ニタニタ笑って、またすぐ壁に向かってボソボソしゃべり出した。なんや気持ち悪いおっさんやな。
「おい‼︎お前頭おかしいんか⁈しゃべるの止めえや‼︎」
おっさんは壁に向いたままニタニタ笑う。しゃべるのも止めん。
もう頭に来てな。ボケだのアホだの大声で叫んでやった。そしたら騒ぎ聞きつけた人がゾロゾロ来て、おっさんの方じっと見よんや。
可哀想やな…。頭おかしいんかな…。言うてな。最高やで。
ただ…それでもおっさんは壁に向かってしゃべり続けとった。まるでわしの言うことが聞こえてないみたいやった。
わしはゾッとした。こいつは殴らんと分からへん。そう思った。当たり前やろ?言うて分からん奴には身体に覚えさせななぁ?
おっさんの顔面めがけて思いっきり右ストレートかましたった。
次の瞬間、わしの拳はおっさんの身体をすり抜けた。
おっさんは消えた。いや、最初からおっさんなどいなかったのだ。
私が怒鳴っていた場所には灰色の壁があるだけだった。
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