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Pitching Summary 2020 髙橋遥人

こんばんは。
フライパン3つ・鍋3つ所有の独身男性(26)です。

いつの間にやら春季キャンプも佳境に入り、実戦が各地で組み込まれていますが、我らが阪神タイガースでは若手の熱いバトルが繰り広げられていて毎日ワクワクしています。
スパイス時代の枯れたキャンプでもワクワクしていた身としては、現在の阪神の活気あふれる感じに夢が広がりまくりです。

2020年の阪神タイガースを振り返る、第4回は髙橋遥人投手です!
…と、元気に行きたいところでしたが残念なニュースが。

左腕エース筆頭候補として臨んだ対外試合初登板の2/16の楽天戦後、右脇腹の筋挫傷との診断を受け、開幕ローテ入りが厳しい情勢となってしまったようです。
毎年怪我による離脱があり、その才能は誰もが認めるところでありながらフル回転とはいかなかった髙橋投手でしたが、今季もいきなり悔しいスタートとなってしまいました。

そんな遥人ちゃんの怪我からの復帰、そしてキャリアハイの投球を祈願して、昨年の投球を振り返りましょう。


成績

12試合 5勝4敗
9QS⑬ 5HQS⑦
76IP 75SO⑭ 17BB
ERA2.49⑥ FIP2.78①
K% 24.5%⑤ BB% 5.6%⑧
WAR 2.6⑧
(丸数字はリーグ順位、ERA以下は70IP以上対象)

3年目のシーズンは左肩コンディション不良により開幕から出遅れ、昨季の一軍初登板は8/6の巨人戦。しかしながら7回11奪三振無失点の快投を披露し、"遅れてきたヒーロー"感を醸し出します。
その初登板から5試合連続のクオリティスタートを記録(うち3戦は対巨人)しますが、例年通り援護に恵まれないケースが多く、9/22時点で防御率2.35ながら2勝3敗と負けが先行することに。

ただ、9/29の中日戦で大量6点の援護を得て勝ち星を記録すると、10/5の巨人戦では自身初となる14奪三振での完投をマーク。
最終的にキャリアハイの5勝・防御率2.49、初の勝ち越しとなるなど、稼働期間こそ長くはありませんが飛躍への足掛かりとなるようなシーズンを過ごしました。

奪三振の多さと与四球の少なさに起因し、FIP2.78は70イニング以上の投手では1位(2019年は2位)。健康な状態でさえいればリーグ屈指の支配力をもつ先発投手であることを今年も示しました。


投球割合

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髙橋遥人のメイン球種はストレート・ツーシーム・カットボール・スライダー。低スピン量で減速が小さく、巨人・坂本勇人も絶賛するストレートを軸に据え、いわゆる"亜大ボール"である落差のついたツーシームや鋭く曲がり落ちるカットボールで空振りを奪います。

投球割合の推移を見ると、9月後半の登板以降カーブやチェンジアップといった遅いボールの割合が上昇しています。こちらについては次の球速分布でも見ていきましょう。


球種別球速分布

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ストレートのMAXは150km/hで、シーズントータルで見ると140キロ台中盤から後半が中心。ツーシーム・カットボールは130キロ台後半で、球速帯が完全に一致している点が特徴で、同じ球速から対になる変化を操る投球は打者にとって難しさを感じさせる源泉になっているのかもしれません。

シーズンを通じての球速推移を確認すると、9/29を境にストレートの球速が大幅に低下している様子が見られます。
本人曰く「力を入れても(ストレートが)良くない」というように体調・メカニクス的な要因で球速が思うように出ない状態だったようですが、前述した10/5の巨人戦では"6割くらいの力感"による脱力投法がハマるなど、状態が上がらない中でもカーブやチェンジアップを加えるなど工夫を凝らして試合を作る投球を見せていました。


投球ヒートマップ

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まずは対左から。
ストレート(左から3番目)は主にアウトコースに投じており、カットボールやスライダーと投球コースが概ね一致します。曲がりの小さいカットボールはゾーン内が多い一方、スライダーはアウトローのボールゾーンへの投球も多いようです。対してツーシームは内角~真ん中の低めボールゾーンに徹底して集め、空振りを狙うボールとして機能させていることが推測されます。

続いて対右。
ストレートはゾーン内にまばらに投球しており、インコースを突くような投球が一定数見られます。同様にカットボールも懐付近を攻めるボールが多く、スライダーはバックフット気味にインローに投じています。逃げ落ちる軌道になるツーシームは対左に比べるとゾーン内への投球も多く見られ、空振りもゴロアウトも狙える使い方をしている傾向がありそうです。


球種別スタッツ

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どの球種もNPBの平均的なボールを上回るクオリティを見せていますが、とりわけツーシームが一級品。SwStr%はツーシームとしてはかなりの高数値で、NPB平均の8.0%を大きく上回るNPBトップの21.9%を誇ります。

ツーシーム SwStr% (min 100Pitches)
髙橋遥人(神) 21.9%
大野雄大(中) 21.9%
中村稔弥(ロ) 18.6%
清水 昇(ヤ) 17.1%
泉 圭輔(ソ) 17.0%

一方、ストレートのSwStr%はNPB平均7.1%を下回る5.3%と、回転数が少なくやや沈むような軌道を反映しています。被長打の多さを示すISOで見ても、先発投手のストレートとしては最も長打を浴びにくいことが示されており、低リスクの投球を支える球種と言えます。

先発投手 ストレート ISO (min 100AB)
髙橋遥人(神) .052

福谷浩司(中) .053
和田 毅(ソ) .056
畠 世周(巨) .057
岸 孝之(楽) .077

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左右別にスタッツを確認すると、特に右打者に対して無類の強さを発揮しています。内角を突くストレート、外に逃げ落ちるツーシーム、バックフット気味に曲がるスライダーの好数値が目立ちます。
対して左打者には、カットボール・スライダーが逃げる軌道になる分SwStr%こそ上昇するもののやや分が悪くなっています。ツーシームの占率が小さいようですが、左右関係なく成績を残せている点を考慮すると、左にも積極的に使用してもいいのかもしれません。


カウント別投球割合

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カウント別の投球割合の特徴として、カットボールの割合が追い込むにつれ低下、ストレート・ツーシームの割合が反対に上昇していく傾向が見られることが挙げられます。
絶対的な決め球になりうるツーシームの割合が上昇するのは不思議ではありませんが、打者にとって一般に打ちやすい球種であるストレートの割合が上昇するのは、先発投手としては珍しい傾向と言えるでしょう。ストレートへの自信の表れとも感じられます。

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カウント別の成績では、2ストライク時の低被打率・高SwStr%が際立ちます。
課題があるとすれば1ストライク時の投球で、ストレート.458(24-11)・ツーシーム.333(18-6)と速球系を打ち込まれやすい傾向が見られるようです。
かねてから課題に挙げているように、カーブやチェンジアップによる"緩急"を活用した投球は今後も必要となってくるかもしれません。


ストレート:決め球にもなる"低回転強烈直球"

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右打者へのストレートはまばらな分布に見えますが、0/1ストライク時には比較的インコースに集中しているように感じます(主観)。追い込んだ後に外に逃げるツーシームを際立たせる効果があるかもしれません。
2ストライク時にはゾーン内での凡打の多さが目立ち、映像を確認すると差し込まれたようなゴロアウトの多さが特徴的です。落ちるボールや足元に投じられるスライダーをケアしながら減速の小さいストレートに対応することの困難さを感じます。

ストレート GO/FO (min 100AB)
高橋  礼(ソ) 3.05
メルセデス(巨) 2.33
笠谷 俊介(ソ) 2.25
髙橋 遥人(神) 1.78
今井 達也(西) 1.77

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対左のストレート被打率.339が示すように、対右(.186)に比べ被安打の多さが目立ちますが、長打はわずかに1本。制圧力こそありませんがリスクの低い投球はできており、他球種との組み合わせでよりよい結果を残すことは可能であるように思います。


ツーシーム:高SwStr%を記録する"亜大ボール"

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マネーピッチである右打者へのツーシームはアウトロー中心にきれいな三角形◣に分布しており、特に2ストライク時の高SwStr%が驚異的です。
初球にはゾーン内の投球が多く見られ、見逃しでのストライクもある程度記録しており、状況に応じたコースや曲がり幅の調節も考えられます。

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左打者への投球割合は12%と多くありませんが、甘く入って半速球になったケースでしか安打を許しておらず、効果的なボールであったようです。
カットボールやスライダーを一定割合ツーシームに置き換えることでそれなりに効果が期待できるのではないでしょうか。


カットボール:ゾーン内で小さく変化するカウント球

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カットボールは左右(1枚目が右)ともにベースの右端に集める傾向があり、カウントの浅い段階でストライクを稼ぐ目的で投じているように見受けられます。
映像や投球コース、空振りの少なさから推測するに、縦の変化量は小さく、横に小さく曲がるタイプのボールであると思われますが、縦変化成分がもう少し増えてくるとツーシームとの対がさらに際立ち、より効果的な球種になるように感じます。


スライダー:大きく曲がり見逃しストライク多数

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最後にスライダー。
右にはバックドアによる見逃しストライクを奪いつつ足元にも時折投じるボール、左には外角中心にカウントの浅い状況で投じるボールとなっています。左右ともに初球の入りで多くのストライクを記録しており、カウント優位に対戦を進める上で有効なボールと言えます。


"脱力投法"がもたらした変化

ここまでシーズントータルの投球を振り返りましたが、「球速分布・推移」の項で触れたように、9/29の登板を境に球速の低下が見られました。
10/5の登板ではいわゆる"脱力投法"にトライし好投を見せましたが、実際のところ投球はどのように変化していたのでしょうか。

主要な球種の平均球速・SwStr%・被打率の変化を下表に示します。

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スライダーを除く3球種は軒並み球速の低下が見られます。
特にストレート・ツーシームの球速低下幅は大きいようですが、SwStr%の変化は対照的で、ストレートは4.1ポイントの上昇・ツーシームは8.2ポイントの低下を示しています。

ツーシームに関してはシーズン序盤から「速いほど空振りが多い」という傾向があり、球速低下によりある程度説明がつきます。
一方で球速が落ちたにもかかわらず空振りが増加したストレート。背景にはどのような要因が考えられるのでしょうか。

要因その1 "ストレートの球速帯"

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それぞれ球速低下前(上)・低下後(下)のヒストグラムを上に示しました。
球速低下前の140キロ台後半のストレートは隣の山を形成するツーシーム・カットボールとはっきりと球速帯が異なる一方、球速低下後のストレートの一部は上述の2球種と分布が重なるようになりました。

髙橋のツーシーム・カットボールは大きく曲がる変化球ではなく、ストレートに近い軌道から鋭く変化するタイプのボールであることから、これらの2球種とほとんど変わらない130キロ台のストレートを判別して打者がコンタクトすることは困難であった可能性が考えられます。

プロウト「お股ニキ」も注目 阪神・高橋は脱力投球で進化 プロ初完投の巨人戦がよみがえる!
>130キロ台のストレートは同じぐらいの球速の左右に曲がり落ちるツーシームとカットとも区別がつかなかったと思います。


要因その2 "ストレートの球質"

上述した球速帯による要因に加え、ストレートに関して変化が見られた指標がもう一つ。

ストレート GO/FO(ゴロアウト/フライアウト比率)
球速低下前:1.33(=20/15)
球速低下後:4.00(=12/3)

サンプルは決して多くないものの、元々ゴロ打球の多い球質だったストレートのゴロ割合が球速低下後さらに上昇しています。
何度か触れているように髙橋遥人のストレートは低回転数かつシュート成分の少ない"真っスラ"タイプですが、球速低下を境に一層この傾向が強くなり、フライ打球を上げることが難しくなったという可能性もありそうです(現在取得できるデータで確かめる術はありませんが、、)。

球速低下後にカットボールの投球割合が5%強上昇していたことや、ストレートの空振り率8.0%がカットボールの10.3%に近いこと、球速差が縮まったこと等から、"球速の異なる二種類のカットボールが打者を幻惑していた"と捉えることもできそうです。


2つほど推測される要因を書き連ねましたが、髙橋本人あるいは後半戦にバッテリーを多く組んだ坂本誠志郎捕手が意図した効果なのか、意図せざる効果なのかは定かでないのが正直なところです。
ただし、調子が悪い中でも緩急や駆け引きを駆使して抑える術があるという気付きを得ることができているとすれば、それは将来にわたって髙橋遥人を助ける財産になるでしょう。


最後に

力強い独特のストレートと鋭い変化球で打者を制圧する現代型左腕の姿と、球速を落としたストレートで打者を幻惑する脱力型左腕の姿を見せた2020年の髙橋遥人投手。
どちらも魅力的な投球ではありましたが、個人的にはやはり前半戦の"左腕エースの投球"を期待してしまいます。
紹介した記事内で本人も言及している通り、この脱力投法は「力を入れても全然良くなかった」という状態から生まれた怪我の功名。本調子でない中でも先発投手の役割を果たすことができる能力には感服しかありませんが、本来の力強いストレートのイメージを打者が持っているからこそ生きてくる投球であるとも言えます。

まずは万全な状態での復活を祈りつつ、打者を制圧する投球と脱力投球で得た駆け引きを組み合わせた"2021年型のピッチング"が見られることを待ち望んでいます。

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