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生きる質

癌の末期。できる治療はいたみのコントロールだけ。

そんな方々が、何人もいらっしゃる。

死が目前の時に、積極的な治療をしますか?と、医師がご家族に確認することもある。助かる見込みは少ないが、心臓マッサージや人工呼吸器をつけますか?どこまでの延命をされますか?

酷だけど、必要な意思確認なんだと思う。どこにも正解はなくて、患者さんとそのご家族が選んだ答えこそが正解。

痛みがあって、体がダルくて、食事も取れなくて点滴だらけの生活。それでも、今日は車椅子に乗ってみるかな、そう言ってくれた患者さん、嬉しかった。

5分くらいの間、奥さんと一緒に病棟の中を散歩して、自動販売機を眺めて「なんだ、なんもいいジュースねえな」と笑いながら毒づいたり、窓の向こうの雨雲を見ながら「パッとしねえ天気だよな、晴れたらいいのにな」そう話したり。

気ままに、我が道を行く患者さんで、こんな病院なんかクソだ!俺は病院の世話になんかならねぇ!と退院していった。しばらくして、痛みで動けないと搬送されてきたときは、痩せ細って動けなくなっていた。「痛くて駄目だった、孫が遠方から彼氏連れてくるってさ。婚約者なのかもしれないな。あと3日後だったんだ、我慢しようと思ったのに、痛くて我慢できなかった。看護婦さん、また世話になるわ、よろしく頼む。」

別人のようになって、悔しい悔しいと涙を流しながら入院してきたのだった。

相変わらずの我が道を行く生活っぷりだけど、そのまま彼らしくあって欲しい。熱が高くても「アイスノン?んなもん、いらねぇよ」 そんな彼が、私は好きだ。

部屋に入ると「いよぅ、また熱と血圧はかるのかよ。それしかできねぇのかよ」とニヤリと笑い、付き添っている奥さんにたしなめられている。

彼らしく。そんな彼を、支えられたら、と思う。




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