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第一話 『唯一無二』 note×ジャンプ+原作大賞用

——西暦2050年
人類史に技術革命が起きた

『デジタルデータの具現化』

常識を覆し、世界を変えるテクノロジー
人はそれを "ネオNFTエヌエフティ" と呼んだ……

西暦2069年 6月
都内某所 戦場 荒廃したビル群

シン日本兵
「——『ミント!!』」
コマンドを唱えると
白い幾何学模様の羅列が浮かび、
瓦礫から機関銃が具現化される

——ズガガガガガガガガガ!!

オーク
「チッ、報告よりも敵が多いな……」
反社会組織 "ヘルメス" 関東支部リーダー
崩れた建物に隠れながら敵の様子を伺う

その周りでは、仲間達が
バタバタと撃ち倒されていく

シン日本兵(三人組)
「隠れてばかりか?
 なら、叩き出してやるぜ?
 おい、お前ら——『ミント』!!!」

3人同時、地面に両手で触れる

——バリバリバリ!!
具現化の際に発生する音

ヘルメス兵士
「!?なっ、パーツごとに!!?」

シン日本兵
「ハッハッハ!!!
 ビルごと吹っ飛ばしてやんよ!!」

ロボットを3人がかりで具現化し乗り込む

オーク
「…… "アレ" を使うしかない!!」

——ブンッ
オークに殴りかかる

オーク
「——『ミント』!!」

地面に両手を触れ
赤い幾何学模様の羅列が地面を覆う

まるで聖樹のような巨大な盆栽を具現化し、
盾として攻撃を防ぐ

シン日本兵
「で、か!!!
 木……いや盆栽!!?
 あんなふざけた "NFTエヌエフティ" で
 防がれたのか!!?」

NFTエヌエフティとは
替えの効かないデジタルデータの総称である

その進化版である "ネオNFTエヌエフティ" は
もともと人々の生活を豊かにするために
開発された超技術

しかし、その汎用性の高さから
次第に武器として戦争に
利用されるようになっていった

オーク
「『ふざけた』だと?
 時間の芸術……
 盆栽の素晴らしさが分からないとは、青いな。
 ——『ミント』!!」

オークは瓦礫を手に取り
コマンドを唱える

赤い幾何学模様が出現し
両腕にパワーアームを装備

——キィィィィン!!!

オーク
「ふがっ!!!」
盆栽を引き抜く

シン日本兵
「な、抜いた!?」

オーク
「ガキども……
 盆栽にはな、多くの知識と経験、技術が必要なんだよ。
 "ネオNFTエヌエフティ"
と同じでなぁ!!!」

シン日本兵
「む、無茶苦茶だコイツ」

オーク
「ふん!!!!」

盆栽をぶん回し、
ロボットの脇腹を狙いぶっ飛ばす

——ドガァァァアアン!!!

オーク
「盆栽のッ愛!!!!」

一方、後方では……

上から見る戦場は炎と瓦礫の海だった

???
「……これが、戦場」
ゴクリと息を飲む

ヘルメス兵士
「おーい、アオイ!
 戦場でそんな目立つ所に
 突っ立ってんじゃねぇー!!」

アオイ
「えぇい、うるさいな!
 オーク以外の奴がぼくに指図するな!!」
黒髪のリーゼントヘアに、
青いメッシュが特徴の少女

ビルが崩れてできた瓦礫の山から
戦地を広く眺めていた

——ザッ!!

???
「おい!!」

突然、
アオイの真後ろから声がかかる

アオイ
「!!?」

シン日本兵
「お前、どこのガキだ?」

アオイ
「な、何だ!!
 ヘルメスだって言ったら殺すのか?」
(しまった……
 全然気が付かなかった……!)

動揺しながらも
アオイは「キッ」と相手を睨む

シン日本兵
「大丈夫だ、殺しはしない。
 ガキは色々と必要だからな……
 ちょっと気絶してもらうぞ。
 ——『ミント』!!」

瓦礫の山に右手を触れながら唱えると
白い幾何学模様が現れ、
電撃を放つ警棒に変化

アオイ
「!?ヤバい!!!」
(噂の "子供狩り" か!?
 ……くそ、一か八かだ!!)

「——『ミント』!!」

アオイはバッとその場にしゃがみ
両手を地面に当てる

……しかし
何も起こらない

シン日本兵
「???
 ……おいおい、マジか。
 『ミント』できない奴なんて
 初めて見たぜ……!!」

アオイ
( !!!
 くそ!!なんで……なんで!!!
 ぼくだけ出来ないんだッ!!)

通常なら
体内に埋め込んだチップが
声に反応し『ミント』できる

しかし、アオイだけは
なぜか反応しない……

シン日本兵
「覚悟しな、小僧!!
 いや……嬢ちゃんか」
電撃の通った警棒を
バチバチ鳴らしながら近づく

アオイ
(やめッ!?)

アオイが目を瞑った
その時……

???
「——『ミント』!!」

——ズバンッ!!

シン日本兵
「!?がっ、は……!!!」
目の前でシン日本兵が血を流し倒れる

オーク
「アオイ!!!!
 何してんだ、バカヤロウ!!」

アオイ
「オーク!!?」

オーク
「『オーク!!?』じゃねぇだろ!
 俺の側から離れんな!!!」
子供を叱るようにアオイにゲンコツ

アオイ
「痛い!!
 ぼ、暴力反対!!」

オーク
「言う事聞かねぇガキには
 当たり前だ!!!」

アオイ
「ね、ねぇ、オーク。
 コイツは……死んだの?」

オーク
「……このくらいじゃ、
 人間は死なん。
 運が良ければ、助かるだろ」
 

アオイ
「そうか、良かった……」

オーク
(……)
オークは無言で顔を顰める

オーク
「アオイ!!!
 次はもう助けねーからな!!」

アオイ
「うん……わかった」
力になれず、
今回も助けられてしまった事実に凹む

——ふと、
この戦争に志願した数日前を思い出す……

ヘルメスのホーム(倉庫跡)

アオイ
「頼む、オーク!
 一回!!一回でいいから
 戦場に連れて行ってくれない?
 この通りッ!!お願い!!!」

両手をパチンと合わせ
何度もオークに頼み込む

オーク
「だからな……
 何度言われても絶対にダメだ。
 お前なんかが来ても、
 ただの足手まといだろうが。
 ほら、さっさと掃除でもしてろ!!」

アオイ
「!!!!掃除……?!ぼくは……
 掃除するために生まれたんじゃない!」

オーク
「〜〜!!とにかくダメだ!!
 シン日本国……国が新しくなってから
 "子供狩り" が流行っているんだ。
 お前みたいなガキがいたら、
 迷惑なんだよ!」

アオイ
「!!…………」

オーク
「……スマン、
 ちょっと言いすぎたな」
 

アオイ
「……ぼくは、諦めないよ!
 もし連れてってくれないなら……
 勝手についてくからね!!」

オークは深くため息をつき
右手で額を押さえる

オーク
「はぁ、全く……
 なんでそこまで
 戦場にこだわるんだ?」

アオイ
「……確かにぼくは、
 まだ何もできないと思う」

アオイは
迷いを断ち切るように顔を上げる

アオイ
「……だからって
 ただ "守られているだけ" なんて嫌だ!
 ぼくも力をつけて、オークみたいに
 大切なものを守るんだ!!!」

その瞳には意志の光が宿り
拳は強く握られている

オーク
(!!?おいおい……)

数年前に中央に連れ去られた息子と
アオイの姿が一瞬重なった

オーク
(……アイツも同じこと言ってたな。
 ……結局、我慢だけさせて)

数秒沈黙し、考えるオーク

オーク
「……今回だけ、だぞ」

アオイ
「!!?
 ありがとう……オーク!!」

彼の胸中を知らないアオイは、
両手を天井にかざし、
ぴょんぴょんと飛び跳ねる

オーク
(また、天国の妻に怒られそうだな……)


オークは小さくため息を吐き
子どもに諭す様に言い聞かせる

オーク
「……ただし!!
 必ず俺のそばにいる事。いいな?」

アオイ
「うん、わかった!!!」

アオイの真っ直ぐ見つめる瞳は
オークに覚悟を感じさせた

オーク
「アオイ、最後に一つ」

アオイ
「???」

オーク
「……ヘルメスはな、戦うしか能がない
 ロクでなしの大人の集団だ。
 ……だが、そんなロクでなしにも
 守りたいものがある」

アオイ
「守りたいもの?」

オーク
「お前達 "子供" だ。
 シン日本軍を倒し、奪われた家族を取り戻す。
 そして、二度と奪われないように日本を変える。
 これだけは、皆同じ想いなんだ」

アオイ
「…………」

オーク
「……だけどな、
 戦うことが正解とは限らん。
 だから、お前は自分の道を探せ。
 アオイにしかできない事……
 何か、見つかるといいな」
そう言って、優しい目をして微笑んだ……

……場面は現在に戻り

――
―――
――――イ……オイ……

???
「アオイ……アオイってば!!」

アオイ
「!?くーちゃん!
 どこにいたんだ?心配したんだぞ!!」

くーちゃん
「さっきからいたよ!
 それよりも……大丈夫?」

そばで話しかけるのは
白い毛並みの子犬
"くーちゃん"

アオイ
「あ、うん。ちょっと出発前、
 オークに言われたことを
 思い出しててさ……」

アオイは、
オークの背から視線を滑らせる

すると、
衝撃的な光景が目に飛び込んできた

アオイ
(!!?くーちゃん、しゃがめ!!)

くーちゃん
(!!?)

二人の目線の先には、
シン日本兵が数人、民衆を取り囲んでいる

シン日本兵A
「水も食料も全部、車に乗せろ!
 もしガキがいたら、
 気絶させてトラックに積め!!!」

シン日本兵B
貴重な水を頭から浴びる兵士

シン日本兵C
民の食べ物を頬張る兵士

アオイ
(!!?アイツら……
 好き勝手しやがってッ!!)

アオイは
シン日本軍の蛮行を目の前にし、
拳を強く握り締める

くーちゃん
(ねぇ、アオイ!!
 もっとしっかり隠れてよ!
 見つかっちゃうってば!!!)

アオイはくーちゃんの指摘で
瓦礫の影に隠れ直すが、
視線はシン日本軍のまま

——その時、

子供
「やめろ!!
 お母さんを、いじめるな!!!」
アオイよりひと回り小さな男の子

シン日本兵D
「威勢のいいガキだな。
 外の人間……特に大人にはな、
 価値なんてねぇんだよ!!!」

——ドガッ!!
子供を蹴り倒す

アオイ
(!!!?
 ——あいつら、子供まで……!!)

くーちゃん
(アオイ、落ち着いて!!)

シン日本兵A
「おい、やめろ!
 ガキは丁寧に扱えよ!」

シン日本兵D
「チッ!うるせぇな……
 ——『ミント』!」
警棒型のスタンガンを具現化し、
バチバチさせる

アオイ
「!?やめろぉぉおおお!!!!」
勢いのまま、瓦礫の陰から駆け出し、
シン日本兵の顔を思い切り殴る

——ズザザザ!!
兵士殴られて転ぶ

シン日本兵D
「!!?なんだ、コイツ!?」

アオイ
「それが、大人のすることかよ!!」

オーク
「!!?アオイ!!
 何してんだ、逃げろ!!!」

オークはすぐに騒ぎに気がつく

目の前の敵と戦いながら、
慌てて声を荒げる

アオイは、
オークの言葉にハッと我に返る

アオイ
「オーク!!!!
 だって、こいつらが……!!」

その時……

シン日本兵D
「〜〜!!ガキが!!
 ——『ミントッ』!!!」

——パンパンッ!

アオイ
「ガッ……!?
 ぐあぁぁぁあああ!!
 あ、足がッ!!」

——ガチャ!

シン日本兵D
「本当は無傷で捕まえたいが……
 お前みたいな悪ガキには、
 発砲許可が出てるからな」

倒れたアオイの頭を足で踏みつけ
両手に手錠をはめる

オーク
「アオイ!!!
 ぐっ、貴様ら……!!!!」

シン日本兵D
「おぉっと、動くなよ?」

——パン、パンパン!!!

オーク
「がはっ!!!?」
腹部を撃たれる

アオイ
「!?オーク!!!!!」

くーちゃん
「!!?やめろーー!!
 アオイを、放せぇぇええ!!」

——ガブッ!!!

勇気を振り絞り
シン日本兵の足に、
思い切り噛み付く

シン日本兵D
「!!?イダダダダ!!
 喋る犬!?は、離せ!!!」

銃で何度もくーちゃんを叩きつける

くーちゃん
「ぐっ、が、ぐうぅぅぅうう!!!!」

——ズザザザザザ!!!
健闘するが、シン日本兵に振り飛ばされる

アオイ
「!?くーちゃん!!!!
 クソ、やめろ!放せ……」

シン日本兵D
「黙れ、ガキ」

——パン!!
くーちゃんを撃つ

くーちゃん
「!!??」

アオイ
「!!!!!??
 何してくれてんだぁぁあーーー!!!」

——バチッ!
バチバチバチバチ!!!!

全員
「!!?」

その瞬間、アオイの周囲に電撃が走り
 "ネオNFTエヌエフティ" 全てが音を立てて
ショートする

オーク
(!? "例のアレ" か……!!
 アオイの昂った感情が、
 周囲に干渉してやがる……!!)

オークは額に汗を垂らす

シン日本兵D
「な、何が起きた!?
 武器が……う、動かない」

手元の銃をガチャガチャいじるが、
何も作動しない

オーク
(もし、アオイが敵に捕まれば……!
 くそ、連れてくるべきじゃなかった!!)

アオイ
「???
 な、何か起きたのか?!」

オーク
「ぐっう……!!!!!」
(撃たれた箇所が、悪いか?!)
オーク膝をつく

くーちゃん
「…………」

アオイ
「二人とも!!!?」

シン日本兵
「ハハハハハッ!!!
 手出しできねぇだろ、
 ザマァみろ!!!!!」

アオイはもがき、
背中を踏みつける敵を睨む

アオイ
「——お前ら、
 よくも、くーちゃんとオークを!!!
 ぼくが、テメェらを……!!!」

——ガンッ!!!

アオイ
「……ゔッ!!!!!」

シン日本兵は、
アオイの後頭部に壊れた銃を
強くたたきつけ気絶させる

シン日本兵
「『テメェらを』なんだって?
 ……おい、連れてくぞ!!!!」
仲間の兵士に撤退の命令をする

オーク
「ッ!!?アオイを置いてけ!!」

すぐさま駆け出そうとするオークを、
周りの者達が慌てて制止する

ヘルメス兵士
「何やってんですか!
 リーダーまで捕まっちまったら、
 終わりだ!!
 それに……その傷じゃ!!」

オーク
「ごちゃごちゃ言うな!!!!
 戦わせろッ!まだ間に合う!!
 ……ガフッ!!」
血を流しながら
仲間の腕を振り解かんと、
激しくもがく

シン日本兵D
「安心しな、可愛がってやるからよ!
 じゃあな、国家に抗うクソ集団」

オーク
(俺は、また……
 何やってんだ、俺は…っ!!)


同年 6月15日 深夜
東京第二拘置所

深夜 豪雨の中、不気味に映る東京第二拘置所

アオイ
「——うぅ……」

アオイはコンクリートの独房で、
ハリツケにされていた。

華奢な体は傷だらけで、
独房の中は血で濡れている。

シン日本軍 拷問官
「オイ、最後のチャンスをやる……
 ヘルメスのアジトを吐けば、
 そのまま奴隷にしてやる。
 もし、答えなければ……」
謎の薬が入った注射器をチラつかせる

アオイは、
拷問官を睨みつけ
かすれた声で答える

アオイ
「くーちゃんと……
 オークは、どうなった?」

シン日本軍 拷問官
「同じことばかり、言いやがって……!!」

アオイ
「くーちゃんと……
 オーク、は…………?」

シン日本軍 拷問官
「〜〜!!!
 ……もういい」

拷問官はついにキレる
そして、注射器をアオイの首筋に刺す

シン日本軍 拷問官
「お前はもう、生きて帰れない」

アオイ
(くーちゃん、オーク……)

薄れゆく意識の中で、
くーちゃんとオークに出会った記憶が流れる


………2年前
シン東京郊外の砂漠化しかけた荒野

大地は枯れ、ビルは崩壊している

くーちゃん
「キャンッ!!」

シン日本兵
「急に噛みつきやがって、
 このクソ犬がぁぁああ!!!」

——ズザザザザァァ!!

シン日本兵は
くーちゃんを蹴り飛ばしている。

アオイ
「頼む、もうやめてくれ!
 くーちゃんは、大事な家族なんだ。
 殺すなら、ぼくを……

 ぼくなら、死んでもいいから……
 くーちゃんだけは、
 殺さないでくれ……」

アオイは、
シン日本兵に対し懇願する。

シン日本兵
「はぁ?犬が家族とか
 馬鹿じゃねぇのか?

 今の日本ではな……
 自分を守ることだけ、
 考えてればいいんだよ!」

そう叫ぶと、シン日本兵は
アオイの左脇腹に
強く蹴りを入れる。

アオイ
「ゔうッ!!?」

アオイは痛みで、
その場にうずくまる。

シン日本兵は
彼女の側頭を踏みつける。

シン日本兵
「……もう、この国には
 希望なんてねぇんだよ」

シン日本兵は、
片手でくーちゃんの首を掴み
呼吸ができないように
力を徐々に入れる。

アオイ
「や、やめてくれ……!!」

アオイは
頭を踏みつけられながら、
歯をギリギリと食いしばる。

アオイ
「なんで……なんでお前らは、
 命を奪おうとするんだ……
 そんな権利、お前らにないだろ……!!」

——ブンッ!

シン日本兵は
くーちゃんをアオイに投げ飛ばす

シン日本兵
「……権利だと?
 そんなもの、今までずっとねぇよ!
 何をしても中央に獲られる……。
 水、食料、金、資源……ヒトまでもだ!!

 だから、俺は奪う側に回る。
 弱肉強食の世界で生きるなら、
 強者につく……ただそれだけだ!」
アオイの頭や体を容赦無く蹴る

アオイ
「ぐッ!!やめ……ろ!」

その時、アオイは偶然目の前に
小銃が落ちているのを発見する

アオイ
(!?……武器だ!!)
「ぐ!!……く、くらえ!!」

アオイは必死でその小銃に手を伸ばし
シン日本兵の腹部に向け、
撃とうとする

しかし……

——ガキンッ

トリガーを引こうとしても固く、動かない

アオイ
「!?なんで……」

シン日本兵
「お前、何も知らないのか?
 『ミント』した銃はな、
 本人しか使えないんだよ!

 ……つまり、
 他人の銃がその辺に転がってても
 それはただの "ゴミ" だ。
 お前みたいな、な!」
愉悦に表情を歪ませ、嘲る

アオイ
「ぐっ!!
 うぅぅぅ!!!!!」
(グゾォォ!!!)
目の前の希望が一気に消え、
全てが真っ白に映る

シン日本兵
「国が "ガキを集めてる理由" は分からねぇ。
 奴隷以外の使い道が、何かあるらしいが……
 俺はそんなの興味ない——『ミント』!」」
手に持った瓦礫から、
軍用の日本刀を具現化する

片目を瞑り、首元に照準を合わせる

シン日本兵
「恨むなら、自分の無力さを恨め。
 ……死ねッ!」
躊躇なく刃を振り下ろす

その瞬間……

——ズバンッ!!

一人の大男が急に現れ
シン日本兵を背後から切り倒す

アオイ
(!!?うぅ……?)

オーク
「ガキが一人……か
 相当、やられたな。ん?」
アオイの近くに
犬が倒れていることに気が付く

アオイ
「!?触る、な……」
犬を守ろうとするが、
痛みで身動きが取れない

オーク
「お前の犬か?
 大丈夫だ。悪いようにはしない……」

アオイ
「フゥーッ、フゥー!!
 ……くーちゃんに、
 触るなぁぁあ!!!!!!!」
最後の力を振り絞って立ち上がり、
枯れた声で叫ぶ……

——バチバチッ!バチン!!!

その瞬間、
男の腰に据えていた武器や
周囲の送電線がショートする

オーク
「なッ!!?」

——ガシッ

アオイは倒れ、男の足を掴む

アオイ
「ぼくは……死んでもいい。
 その代わり、くーちゃんだけは……」

——フッ

オーク
(!?コイツ……)
意識をなくしても
男の足を強く掴んで離さない精神力に驚く


……数時間後

東京郊外 ヘルメス ホームの医療室(元工場)

アオイ
「!!?」

目を覚ますと
ベッドの上に横たわっていた

慌てて身体を起こす
全身に激痛が走る

アオイ
「!?いっつ……」

その時
木製の扉がギイィと音を立てて開く

例の大男が
パンと飲み物を手に持ち
部屋に入ってきた

オーク
「起きたか、どうだ気分は」

周りを見渡すと、
部屋には薬や包帯が置いてある

アオイ
「!?くーちゃんは?」

オーク
「あぁ、お前の犬……
 くーちゃんなら、大丈夫だ」

男は隣のカーテンを引いて、
ベッドで気持ちよく寝ている
くーちゃんを見せる

アオイは安心して、ため息をつく

オーク
「それよりも、
 お前の方が重体なんだ。
 安静にしてろよ」

アオイは、
敵意のない男に緊張がゆるむ

オーク
「……なぁ、聞いてもいいか?
 嫌なら答えなくてもいいが……
 お前、他に家族は?」
 

パンと飲み物を机に置きながら、
男は話し出す

アオイ
「……」

アオイは沈黙する
男はその様子を見ながら、
質問を続ける

オーク
「……親や姉妹は、いないのか?」

アオイ
「……」

男は少し咳払いをする。

オーク
「……悪いが、同情はしないぞ
 今は戦争だ……。
 家族を亡くした奴は、
 お前だけじゃないからな」

アオイ
「……記憶が……ないんだ」

オーク
「!?……記憶がない?」

アオイは両手を重ねて握り、
徐々に話し出す

アオイ
「ぼくは……
 ガレキの中で目を覚ました。
 その前の記憶は……ない。
 家族の記憶も、全くないんだ」

男は、彼女の話を真剣に黙って聞く

アオイ
「ずっと、一人だった……
 でもある日、
 くーちゃんに出会ったんだ」

アオイは隣のベッドで眠る
くーちゃんを改めて見つめ、
少しだけ微笑んだ

アオイ
「大変だったけど、
 二人で必死に生きてきた。

 危ない連中に襲われた時も、
 少ない食料を手に入れた時も、
 いつも二人で分けてきた……」

男は「そうか」
とひと言だけ相槌をうつと、
再び黙ってアオイの話に耳を傾けた。

アオイ
「……本当の家族の事は、
 もうどうだっていいんだ。

 今、ぼくにとって大事なのは
 くーちゃんだけ……
 たとえ死んでも……絶対に守る!!」

男はアオイの過去に、
自分の境遇を重ねて
心を動かされていた。

オーク
「なるほど、それは大変だったな
 記憶もない、守ってくれる人もいない
 信じれるのは自分だけ」
左手の薬指につけた指輪を無意識に撫でる

オーク
「今の日本は失うことが日常……
 だから、俺は他人に同情しねぇ」

アオイ
「!?同情なんて頼んでない!」

オーク
「……だけどな」

アオイは、
続きの言葉を待つように男に視線を向けた。

オーク
「誰かのために、
 必死にもがいてるヤツは別だ。
 ……お前はホントに頑張った。
 大切な家族を、お前が命を懸けて守った。
 ……本当に凄いことだ」

男は我が子を称えるように、
誇らしげに笑った。

アオイの表情が、パッと明るくなる。
これまでの警戒と緊張が、一気に解かれた。

オーク
「でもな……だったらお前、
 "死んでもいい"
 なんて絶対に言っちゃダメだろ!」

アオイ
「……えっ?」

アオイは驚く様子を見せるが、
自分の台詞を思い出す。

アオイの記憶
(……殺すなら、ぼくを殺せ。
 ぼくなら、死んでもいいから……
 くーちゃんだけは、殺さないでくれ……)

オーク
「くーちゃんは家族なんだろ……?
 あいつにとっても、
 お前は家族じゃねぇのか?」

アオイはその言葉でハッとする。

アオイ
(!!!!?
 もし、ぼくが死んだら……)

男はアオイの気がついた顔を見て
問いかける。

オーク
「……くーちゃんにとって、お前は
 " NFTエヌエフティ" と同じ存在なんだ。
 言ってる意味、わかるか?」

アオイ
「……?」

オーク
「代わりの利かない、
 "唯一無二の存在" ってことだ。
 ……つまり、
 お前の代わりなんていない。
 死ぬなんていうな、堂々と生きろ」

そう言うと男は、
パンを優しく投げ渡す。

オーク
「食え、腹減ってんだろ?」

アオイはお腹を鳴らし、
大きく口を開けてほおばった。

アオイ
「ん、ん……ぐすっ。
 ひく、ひっく……」

一口食べると涙が止まらなくなり、
その場で大声を上げて泣いた。

オーク
「もう "死んでもいい" なんていうなよ?」

アオイ
「……約束するよ」


——ハッ!?

現実に戻ると、意識がはっきりと戻った

アオイ
(!?——ダメだ、必ず!!生きて帰る!!)

「う、あぁぁあああーーーーー!!!!!!」

——バリバリバリバリバリ!!!!

シン日本軍 拷問官
(!!!?薬が、効かない!!?)
「ッ!!?ぁああああ!!!!」

拷問官は衝撃波で、
壁に飛ばされ気絶する

……バツンッ!!

それと同時に、
拘置所内の電気が落ちる

アオイ
「な、なんだ!?」

——ウーーウーーーウーーー!!

急に激しいサイレン音が
外から拘置所内に響く

牢屋の外が異様にザワつき始める

アオイ
「……次は、なんだ!?」

牢屋の外 シン日本兵
「——おい!
 侵入者だ、逃すな!!
 !!?バケモノ!?デカいぞ!
 落ち着いて対処しろ 」

パンッパンパン!!
——シュンシュンシュンッ!!!

外からは銃声のほかに、
まるで風を素早く切るような
鋭い音が聞こえる

アオイ
(……???何が暴れてるんだ?
 バ、バケモノ……!!?)

牢屋の外 シン日本兵
「貴様ら!!!
 絶対に逃すなよ!!!
 中央にバレたら、大事になる!
 総員、全力で対処するんだ!!!」

アオイは、
外の異常事態に必死に耳を傾ける

——シュンシュンシュン!

牢屋の外 シン日本兵
「ヒィィ!!グワァぁ!」

アオイ
「!!?」
(な、なんだ!?
 シン日本兵が、やられてる?)

——タッタッタ……!!
——ピタピタピタピタ

アオイ
(!!?……足音が、
 二つ……近づいてくる)


するとアオイの独房の前で、
銃撃音や悲鳴が突然止んだ

サイレンだけが、
不気味に響き渡る室内
乾いた喉でゴクリと唾を飲んだその時

———ガゴォォン!!

アオイ
「!!?」

突然、独房の扉がこじ開けられる

アオイはじっと目を凝らし、
乾き切った声で叫んだ

アオイ
「———誰だ!!?」

アオイのぼやけていた視界が
暗闇に慣れ、
だんだんと辺りが鮮明に見えてくる

独房の入り口に、
誰かが立っているのがうっすらと見える

美しい銀髪に、
緑色の長い髪を編み込んだ少女

その傍らには、
アオイのひと回りは大きい
大型の白鳥が寄り添っている

アオイ
(…………綺麗だ)
その神秘的な姿に
数秒間、自身の状況も忘れ見惚れた

——コツ、コツ……

すると、
銀髪の少女が歩み寄ってくる
アオイは我に返り叫ぶ

「!!?やめろ……
 ぼくに、近づくなぁあ!!!」

——ビリビリビリッ!!!! 

また、アオイの身体とその周囲に
例の電撃が走る

白鳥
――ズキッ!?

白鳥は頭を翼で押さえる
そして、頭を横に振り
痛みを誤魔化そうとする

銀髪の少女
「……やっぱり、あなたは特別ね」

アオイ
「な、なんの事だ!!」

その意味深な言葉に、警戒する

銀髪の少女
「アオイ……
 約束を、果たしに来たわ」

アオイ
「!!?」

——アオイの特別な力を知る、銀髪の少女との出会い。こうして、アオイはシン日本帝国との戦いの渦に巻き込まれていく——

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