見出し画像

【不思議な夢】嘆きの剣士

自分の弱き心と向き合わされた不思議な夢の話。

夢の中の私はある人物を見つめていた。
彼は謎多き男剣士、幾度となく私の夢に出てきた好青年だ。
長身で彼よりも大きな大剣を軽々と扱うような歴戦の剣士である。

ある時は敵対しており、ある時は強力な助っ人として現れた。
敵か味方か分からない関係でありながらも、今まで何度も私の夢に出てきては強い印象を与えてどこかに消えていくような風変りなところがあった。

どの夢でも共通してとても強い、そして謎が多い。

夢の中の私も剣を扱っているので当然ながら剣士である。
武器はその都度変わるが、多くの場合は片手剣だ。
日本刀を持ち歩いている場合もあるし、見たこともない洒落た片手剣を装備していることもある。

速さや器用さに重点を置いているようなステ振りでもしているのか、ヒット&アウェイ戦法を取ることが多い。
敵の攻撃を避け続け、間髪入れずに攻撃を繰り出す。

敵の守りが弱ければいづれは倒すことは出来る。
しかし、今まで戦った相手の多くはなかなか倒れてくれなかった。
こちらの動く回数が多くなることで疲労が増えてくる。

ピンチに陥ると同時に彼が駆けつけて敵を倒してくれた。

助けられて嬉しいものの、私も剣士のひとりである。
悔しさは人一倍強いのか、自分の不甲斐なさに落ち込むことも多かった。

今日も今日とて彼の戦いを側で見ては惹かれる気持ちと負けたくない複雑な感情が入り混じって何とも言えない精神状態になっていた。

私は剣士を続けていてもいいのだろうか?

自分の存在に段々自信が持てなくなる。
もっと別の職業に就いた方がいいのではないか。
それとも、戦うことを諦めて一般市民に戻った方がいいのかもしれない。

本当のことを言うと、戦うことはあまり得意ではない。
それなのになぜ剣士になっていたのか。
夢の中の私は今まで一体何体の敵を倒して何人の人を助けてきたのか。

肝心な活躍がどれほどのものだったの、そのような記録がない。
証明となるものがないから自分に自信が持てない。
自分は立派な剣士である、そういう証となるものが欲しかった。


男剣士「どうした、何をしている?」

私「私は剣士を続けてもいいのかどうか・・・」

男剣士「そんなことを悩んでいたのか」

私「あなたにとってはどうでもいいことかもしれませんが、私には重要な悩みなんです」

男剣士「・・・そうか」


しばらく彼は考え込んでいたが、私に会わせたい人物がいるからついてこいと言った。

目の前が急に暗くなる。
ぐるぐるぐる・・・私の周辺が回転している。
引き込まれるように回転の中心部分に私の魂は入っていった。

はっと気がつく。
ここは・・・見覚えのある場所だ。

私が子供の頃に住んでいた田舎村だった。
村の中心にある無人の神社の側に私は突っ立っていた。

辺りは暗くなっていたので夜中になっていたのだろう。
視界はあまりよろしくなかった。
霧が発生しており、少し肌寒かった。

人の気配を感じ取る。
誰かが側に居る!?

神社の参道を歩いている者の存在を確認する。
彼だった。
霧の中から姿を現すと、私の顔を見ることもなくどこかに歩いて行った。

慌てて彼を追った。
小さな石の階段を登っていくと、和風な建物が見えてきた。
霧はいつの間にか晴れていた。

庭先には仙人を連想させるようなどこか幻想的な雰囲気を醸し出している年配男性が盆栽の手入れをしていた。

年配男性はどうやら男剣士の父親のようだ。

男剣士の姿は消えており、私はどうすればいいのか迷った。
すると、年配男性は口を開く。


年配男性「今からお前には戦ってもらう」

私「戦いですか!」

年配男性「心の中に思い浮かべよ、自分が対峙すべき相手を」

年配男性「お前の思い描いた存在が目の前に出てくる、それと戦え」


私は年配男性の言葉に動揺してしまった。
いきなり戦えと言われても武器は持っていない。

年配男性は心配するなというような表情をして私を見つめている。
私はもうやるしかないと覚悟を決めた。

目を閉じる・・・。

私は一体誰と戦う必要がある?

願ったものが目の前に出てくるということは・・・。

私が克服したいものを想像すればいいのかもしれない・・・。

誰と戦う?

私は今まで何を悩んできた?

願え、現れよ、対峙すべき存在!

バッと目を開ける。
目の前に現れたのは・・・もうひとりの私だった。

庭先に居たはずなのに、何故か場面は変わっていた。
無機質なグレーの四角い塊のようなものがたくさん敷き詰められている、現実世界には存在しないようなよく分からない空間だった。

私の手には日本刀が握られている。
武器は念じたことで出てきたようだ。

もうひとりの私は素手だった。
素手でも戦う気があるのか両手をぐっと握りしめて体の前で構えている。

私は自分だけが武器を持っていることに何となく違和感を覚える。
このまま戦っていいのだろうか。

ふとあることに気が付いた。
相手は構えているが動いて来ない。

同じ姿勢でこちらを見ているだけだ。
私も同じで武器を構えているが、攻撃をするタイミングを掴むことが出来ずに立ち尽くしているだけだった。

・・・もしこのまま戦うのを辞めたらどうなる?

そういう考えが頭に浮かんだ。

そうか、私は戦いたくないんだ。
目の前のもうひとりの私は武器を携帯していない弱い心を持った私なんだ。
だから動いて来ない。

戦おうとする意志はあるが、迷いのせいで動くことが出来ない。
もしこの日本刀でもうひとりの私を貫けば・・・簡単に倒すことは出来るだろう。

だけど、倒す必要があるのか?

今の私に必要なものは、自分の弱さから逃げることではない。
認めて受け入れることではないのか?

自問自答する・・・。

私はとても弱い。
だけど弱いからこそ理解できるものがある。
弱さは恥ずかしいことではない。

弱い人には弱い人なりのやり方がある。
私は弱くていいんだ。
無理に強くならなくていいんだ。

だから、もうひとりの私と戦う必要がないんだ。

答えが出た瞬間にもうひとりの私は霞となって消滅した・・・。

無機質な空間から元の庭先に戻っていた。
年配男性は穏やかな表情で私を迎え入れてくれた。


年配男性「お前が対峙したのは弱き心を持ったもうひとりの自分だった」

年配男性「弱さを認め、それを受け入れたことで戦いは終わりを迎えることが出来た」

年配男性「だが、もしもお前が神と戦いたいと願っていたら出てきたであろう」

年配男性「神と戦うことが正解であったかどうかは分からぬがな」


私はゾッとしてしまった。
もし願った存在が戦ってはいけない相手だったら、私はどうなっていたのだろう。
もしかしたら私の存在が消滅するような結末になっていたかもしれない。

年配男性ともっと話がしたいと思っていたが、いつの間にかどこかに消え失せていた。
私ひとりだけがその場に取り残されてしまった。

男剣士はあれから姿をくらましたままだ。
もうここに居ても仕方ない。

・・・いつの間にか目が覚めていた。

また謎多き男剣士の夢を見てしまった。
だが、今回の内容はあまりにも不思議なことばかりだった。

新たな登場人物、予想外の展開、そして自分の弱さと向き合わされたこと。
今までの私は弱い自分を情けないと思っていた。
強くならなければ、そういう焦りがあった。

現実でも周囲からは「もっと強くならないと!」とよく言われてきたが、無理に強くならなくてもいいと今回の夢でそう思うことが出来るようになった。

辛い現実を生きていると様々なトラブルに心を切り裂かれることがある。
切り裂かれて痛いと訴えることは決して悪いことではない。
無理に強がっても良いことなど何もない。

私は、私らしくあればいいんだ。
私らしく生きていこう・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?