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オレたちは強い!

団体優勝は俺たちだ〜!!
隣の仲間と喜びのハイタッチ。
No1の楯を中心にみんなで記念写真。
最後の無差別級の試合が終わるまで長い時間、この為に待ってました。
そう、この瞬間をみんなで共有するために。

隣の仲間は誰なのか名前も知らない今日初めて会った人。
でも、俺たちが日本で一番強いチームなんだよな。
この瞬間の為にオレたちは田舎からトーキョーに試合をしに来たんだ。
遅くなったけど新幹線まだあるかな、、、。

「はい!わかりました。今回の全日本マスターにはうちも選手を出します。
10人、、いや15人は送り込みますよ。
すいません田舎なんで参加させれる人数がすくなくて、、。
会場にはそろいの道場tシャツですよね。もちろんうちのメンバーは所属意識高いので、会員に買わせときます。」

SNSでは俺はリスクをとって独立した敏腕個人経営者。
雇われ社会人とは違う。
と息巻いている道場主の背中がこんなに小さく見えたことはなかった。

練習終、黙想をした後に敏腕個人経営者が話し出しました。

全員集合!
本部からの通達、お前らでも何かはこの時期なら全員わかるよな?
今回の全日本マスター、団体優勝獲得を目指す。
説明は不要だろうが、念のため言っておく。
本当に強い道場ってのは、俺たちメインのマスター会員がチーム優勝すること!
一致団結して、この大会に全力参加するぞ!
本部への帰属意識!
俺への帰属意識!
全部見せれるのはここだけぞ!

押忍!
いい返事だ!
やる気があるなら、声に出せ!
団体優勝!
聞こえねーぞ!
団体優勝!
よし!
全員、全力で行くぞ!
押忍!

僕たちに向けられた熱い言葉。
まるでお昼務めてる会社だよ。
地域本部長に予算を振り分けされた後の支店長の朝礼みたいなことしちゃってさ。

こうして、全国のまだ見ぬ仲間たちと所属と心を1つにして全日本マスターに参加することになりました。
でも、みんなで大会に向けて練習するのは楽しかったな。

ただ、団体優勝できるかなってドキドキ感は全くなかった。
アダルトのみの全日本選手とは違って全日本マスターは年齢別にたくさんのカテゴリーがあるから参加人数がそのまま結果に結びつきやすいよね。

5人参加して半分優勝したチームより50人参加して半分入賞したチームの方がポイントが多くなる。
大会参加者のエントリーリスト見た時点でもうこれは一位になるなって思いました。


かくして私たちのチームは全国No.1になりました。
表彰台での2位や3位のチームの冷めた目。
午後3時くらいには、そりゃーそんだけ人数を集めて参加したら1位になるだろ。
って空気が体育館の中に充満してました。

とはいえチーム優勝。
最後に全部の道場で合同参加の飲み会でもあるのかな?って思ったけどそんなものはなく、そそくさとみんなで田舎に帰りました。

「みんなよくやったよ。誇りに思っていいよ。俺たちは全国1位の道場って証明したんだから。」
一仕事終えた代表の安堵した表情はまるで中間管理職のようでした。
慌てて乗った自由席の中で缶ビール片手に僕たちだけの小さな打ち上げ。
座れずに立ってる人もいました。

確かに、1回戦負けの人でもアカデミーは確かに1位でした。
これって嬉しいことだよね?喜んでいいんだよね。
知らない人たちと1日だけ仲間になってチームが優勝。
これって嬉しいよね?みんな嬉しかったんだよね?

「俺1回戦負けだったけどさ、頑張ったんだよ。優勝してもらったあの楯。ちょっとでいいから触ってみたかったな。」
家庭内予選を勝ち抜いて参加したメンバーがぼそっと呟きました。

「きっと、後から楯は送ってくれるよ。各支部で記念撮影とかできるように気を回してくれるよ。」
確約もない絵空事をうつろな目で敏腕個人経営者は言っていました。
さすがにね、、。まあ活躍した都内の支部を一通りまわったら俺らのところにも送ってきてくれるのかなー。 と思ってました。

でも、しばらく待ってましたが楯が送られてくるなんてことはありませんでした。
見ることはもちろん触れることなんてできないまま道場に通う日々。

練習中にまた敏腕個人経営者の背中が小さくなるところを見ました。

「次はアジア選手権ですよね!ここでチーム優勝したらもちろん、うちもアドヴァタイズになりますよ。道場もバリューアップ間違いなしです。他の道場と差別化ができますよ。今回はベースラインで25人アサイン?もちろんコミットさせていただきます。」

またか、、、団体優勝のためにトーキョーに行くのか。
うんざりするメンバーも何人かいる中、この大会は帯昇格の判断の大事なファクターになる。と言われ参加することにした人がたくさんいました。
2度目の団体優勝の記念撮影の時にはもう私は残る気もせず、自分の試合が終わったら先に帰ることにしました。
指定席で椅子に座れるの最高〜

そういえばアジアの前にトーキョーに出張があり本部の道場に出稽古に行ったことがある。
あの時の一位の楯を見たかった。
写真を撮られせもらえたらな。
田舎の仲間に見せてあげたかった。

受付にはあの日一緒に集合写真を撮ったスタッフがいた。
「どうも初めまして。ご連絡いただいた出稽古の方ですか?」
まるで初めてあったかのような態度だった。
地方の会員のことなんか顔も名前も覚えなんかいないよね。

受付の辺りを見回してもあの楯はどこにも飾っていなかった。
クラスに参加中に会員の方が話しかけてきた。
「うちの支部ってそんなところにもあるんだー。へー初めて知ったよ。田舎は会費も安くていいね。でも、先生の質も安くてこっちと差がでちゃってるかな?まあ今日は楽しんでよ。」

あの日はみんなで団体優勝したんだよな?なんでどの地方に支部があるかも知らないの?
あの日は俺も2位になってポイント貢献しました。
楯を見せてください。そう言えなかった。

楯はどこにあるのか分かったのは年の瀬の大掃除の時期でした。
SNSで大掃除中にたくさん楯が出てきました笑と投稿されているのを見ました。
他の楯と一緒に乱雑に置かれていました。
あの日、みんなで手に入れた楯はそんな扱いでした。

全日本、アジアと団体優勝をした後、大して新規会員の獲得に効果がなかったのかその後は団体優勝を目指すお誘いはなくなりました。
俺たちはもう充分証明したからもういいんだよ。とのことでした。

柔術という個人競技でエントリー制限もない大会の団体優勝。
あれってなんなんだろう。
ふと考える時があります。
誰か教えてください。

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