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ヘッドハンター名鑑vol.19

※掲載内容(プロフィール等を含む)は取材当時のものです。

今回は、キャリア インキュベーション株式会社の阿部哲也氏へインタビューを実施いたしました。
阿部氏は、株式会社ビズリーチ主催の「JAPAN HEADHUNTER AWARDS」にて優秀賞(MVP)を3回受賞されており、受賞部門も商社・流通・サービス部門をはじめ、インターネット部門、コンサルティング部門とご活躍は多岐にわたります。
今回はそのなかでも現在注力されている商社のお話を中心に伺いました。
活躍する現役ヘッドハンターへのインタビュー記事をぜひご覧ください。

【阿部哲也氏 プロフィール】
新卒で株式会社リクルートに入社。その後は求人メディアの企業の立ち上げ期に参画、大手学校法人、出版社勤務を経て、2000年にキャリア インキュベーション株式会社の創業に参画。商社業界の専任担当として総合商社への転職を支援。強みは的確なアドバイスと情報提供で、ある商社では数年にわたり全内定者のシェア4割という実績を持つ。

インタビュー

Q. 新型コロナウイルス感染症(以下:コロナ)の流行によって、商社業界は何がどのように変わりましたか。また変わらなかった部分があれば、その点についても教えてください。

私は7大商社のうち中途採用を実施している6社を中心にご支援しています。
総合商社は扱っている品目数が膨大で、さまざまな業界・企業と取引関係があります。そのなかでコロナの影響を受けて低迷している業界もあれば、業績を伸ばしている業界もあり、一概にはいえないですね。

Q. ではコロナよりもっと前のお話をお聞きしたいのですが、ここ10年くらいの商社業界における人材採用の面で、変化を感じる部分はありますか。

積極的に中途採用をするようになったことです。
私がご支援している大手総合商社を例に述べると、中途採用の歴史は他業界よりも浅く、今でも新卒採用が多いのが事実です。しかしながらそういった傾向に変化をもたらしたきっかけとして、1997年のアジア通貨危機の後に商社不遇の時代が2000年から2005年頃まで続き、その間は各社が新卒採用人数を大幅に絞ったという背景があります。その後、景気の回復に伴い2010年頃から組織の人口ピラミッド上でへこんでしまった世代を中途採用で増強しようとなったわけです。
そのような動きから商社の中途採用が加速し、少し性質を変えながら、今も継続しているという流れになります。

Q. 総合商社への転職を目指す方への支援で、苦労したエピソードはありますか。

総合商社への転職を希望される求職者は、どうしても商社の表面的な部分、かつ自分にとって都合の良い部分だけを近視眼的に見ていることが多いです。
新卒の就職活動時代の断片的な印象のままで情報が止まっており、「社会人になっていろいろと貴重な経験をしたうえで、商社で働きたいのはなぜか」という問いに対して、自分の考えをしっかり言葉にできる方は残念ながら少ないように感じます。
そのため弊社では、総合商社への転職を目指す方に対して「商社とは」という根本的な説明をするところからサポートします。結果的に半年から1年以上かけて転職の準備をされている方が多いことが、この業界を目指す方との関わり方の特徴の一つかもしれません。

――準備に半年から1年を費やすというのは、転職活動としては長い印象ですね。
そうですね。理由としては、商社が中途入社者に対して厳選採用をしている性質上、業界理解がしっかりできていないと内定を得るのが厳しいことが挙げられます。まれに、業界理解は浅くても面接でのコミュニケーションや経歴を評価され入社に至ることもありますが、そういった場合は、入社後のミスマッチによって本人が不満を感じるケースが出てきます。狭き門を通過して入社したにもかかわらず、結果的にそうなってしまうのは双方にとって非常に残念なことです。

弊社ではしっかり時間をかけてご支援をしているので、求職者の学びはもちろんのこと、気づきや内省などにもつながるため、面接や、入社後の活躍と定着率の高さを評価していただいています。

Q. ここ10年くらいで総合商社が中途採用に求める人材要件に変化はありますか。

世の中の動きと連動していますね。前半の5年くらいは、資源系のビジネスが主流だったため、投資銀行や会計士、コンサルタント等の事業投資に強い方や、事業投資後のプロジェクト管理や会社運営がうまくいくことを主眼として、ファイナンスに強い方が求められていました。
後半の5年は、非資源系として食料品をはじめ自動車や小売・流通などの、BtoC領域のバリューアップや事業経営に強い方、および商社の多様なビジネスのかけ算となるDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速するデジタル系人材が求められるようになってきました。
いずれにしても共通していえることは、商社にいない人材を採用しようというのが人材要件にあるということです。

Q. 総合商社で働くメリットは、どのようなものがあると思いますか。

人それぞれいろいろな考えがあるので一概にこれがメリットとはいえませんが、よく聞く転職理由は「年収」「労働時間」「働く環境」「やりがい」の4つです。
「年収」は一般的にも注目をされる点ですが、商社は30代半ばで年収1,500万円くらいになるといわれています。同時に定年まで安定して働けることも商社の魅力ですね。
「労働時間」は、海外との仕事であれば時差などもありますが、昔ほど残業時間は多くありません。
「働く環境」では、尊敬できる優秀な社員が多いことや、クライアント企業との関わりが古く、関係性が構築できているという点などに仕事のしやすさがあるのではないでしょうか。
最後に「やりがい」ですが、自分が担当する目の前の仕事でしっかりと成果を出したい(広い意味で稼ぐ力)と考えている方が多い印象です。またグローバルな仕事環境や海外駐在比率の高さを挙げる方も多いですね。
一方で、総合商社はメーカーではなく、商材を持つクライアント企業のビジネス全般を裏から支えるような仕事が基本となります。そのため、そういったことにやりがいを持てる方がこの仕事に向いているように感じますね。

Q. 裏から支えるようなことにやりがいを感じられる方とは、どういった人物像でしょうか。

いくつかポイントを押さえてお話しすると、商社は積極的に事業投資もしていますが、もともとは、明治維新以降の国力を上げるための商い(営業)として始まりました。商社の営業とは複合的な仕事です。具体的にいうと国をまたいだ取引(貿易)では、輸送に関わるリスク回避やトラブル対応まで広くカバーしているため、それらを解決する力が非常に強いと感じます。仮にある総合商社で働く従業員数を5,000人とした場合、その人数で5万品目あまりを日々守り続けているのです。また担当業務や配置変えも3年に1回程度発生し、営業から投資部門、さらに海外子会社への異動なども普通にあります。
そういったことを踏まえると、総合商社で働く方の守備範囲はとても広く、1つのことに長く集中したいスペシャリストではなく、環境変化を柔軟に受け入れるゼネラリストが求められますね。
経験の積み方が似ているのは、2年に1回程度仕事が変わる官僚、電力会社、金融機関、コンサルティングファームなどの、公共性が高く、かつ1社のために尽くすというよりも多くの企業を裏から支えるような役割を果たす仕事だと思います。そのような企業で働いている方々は、キャリアの性質が似ているので相互に行き来するような転職をされている傾向があると思います。
例えば官僚の方は、民間企業での経験がないがゆえに、民間企業への転職活動に苦労するのですが、転職に成功されている場合は商社、不動産デベロッパー、コンサルティングファームへ行かれるケースが多いです。それは官僚として大規模案件や困難な場面を何度も乗り越えてきた経験があるため、どのような環境でもすぐに適応して高い能力を発揮できるゼネラリストとしての性質を持っているからだと思います。
もう1点異なる視点から述べると、「Harvard Business Review」に掲載された記事「CEO職に最速で駆け上がる人は、何が違うのか」のなかで、そうした人物はMBA取得や会社の中枢にいることだけが評価されているのではなく、むしろキャリアの過程で大胆な動きを取り、それによってトップに飛躍したと述べられており、具体的に成功した要因が3つ挙げられていました。

(1)小さいことを手掛けて、大きなインパクトを上げる
(2)思い切ったジャンプをする
(3)大混乱を引き継ぐ

私はこの記事を読んで、商社で働く魅力はまさにこれではないかと感銘を受けました。
異動先で初めて経験する大混乱(修羅場)を何度も経験し、そこから稼ぐ力を発揮した方を、経営人材として引き上げるというような流れがこの話から見えますね。

Q. 若くして総合商社から転職してしまうケースには、どういった理由が考えられますか。

例えば20代で商社を辞めてしまうのは、ゼネラリストとして社内異動が多いことへの不安や、昇進のサイクルが長いために、40代になるまでの間の非連続な点と点に感じられる修羅場経験がどれほど重要なのかがイメージできないことなどが理由のようです。商社で経営人材として活躍するのは40歳を過ぎてからになるので、そこまで自分自身のモチベーションを保ちながら仕事ができないと、転職を考えてしまうのではないでしょうか。

Q. これから商社を目指す方へ、転職準備としてアドバイスはありますか。

常に私がお伝えし続けていることなのですが、ぜひ商社で働く友人に会いに行ってほしいです。
商社が何をする組織で、何をしない組織なのか、直接現場で活躍されている友人・知人の話を聞くのが一番だと思うからです。そして、できれば1人ではなく数人の方とお会いすることをご提案しています。

Q. クライアント企業や求職者に関するエピソードがあればお聞かせください。

エピソードは数多くありますが、最近弊社が実施した内定後のアンケートをもとにご紹介させてください。

(1)大手商社に決定した求職者の方(国家公務員)
【弊社を選んだ理由】
ご担当いただいたコンサルタントの方の商社成約実績と実際にお会いした際の印象がよかったからです。
【依頼してよかった点】
そもそもどんなキャリアを形成したいのか、自らしっかり考えるためのアドバイスをいただき、しっくりこない転職をするよりは現職にとどまったほうがいいと「転職ありき」ではないサポートをしていただきました。
加えて、選考に進む会社の過去情報などを多くご提供いただけたこともよかったです。
【感想】
夜間や休日を含め、どのような細かい質問にも、迅速かつ丁寧に対応していただき非常に感謝しています。
(2)大手商社に決定した求職者の方(大手企業の経理)
【弊社を選んだ理由】
商社専門の担当者がいたこと、面談およびメールでの情報提供が豊富で、他社と比較してノウハウが多く、頼れると感じたためです。
【感想】
適時適切にサポートしていただいたのでとても満足しています。
(3)大手商社で2年以上採用できなかった部署での採用決定
【依頼の背景】
大手商社の人事部門から、ある部署の中途採用が2年以上も決まらずに困っているとの相談がありました。
【採用決定に至った理由】
あらためて、現場のマネジメント層を含めて採用要件の擦り合わせをするミーティングを実施し、一部条件の見直しと修正を弊社からご提案しました。
それにより優秀な候補者を複数名推薦でき、無事に内定に至りました。
人事部門だけではなく、商社の現場側の信頼と協力を得られたことが成功の要因と考えます。
次回のヘッドハンター名鑑vol.16は、2021年5月7日(金)公開予定です。


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