見出し画像

ヘッドハンター名鑑vol.15

※掲載内容(プロフィール等を含む)は取材当時のものです。

今回は、株式会社ビズリーチ主催の「JAPAN HEADHUNTER AWARDS 2017」にて特別賞(地方創生)を受賞された、株式会社Tryfundsの丹野裕介氏へインタビューを実施いたしました。
丹野氏の率いるTryfundsは、地方・中小企業の経営戦略コンサルティングを主軸に、M&Aアドバイザリー、ブランディング、海外進出支援、事業投資など幅広いサービスを一貫して提供しており、その戦略を実現する経営層の採用支援に強みを発揮しています。
活躍する現役ヘッドハンターへのインタビュー記事をぜひご覧ください。

【丹野裕介氏 プロフィール】
リクルート(現:リクルートホールディングス)を経て、2012年に株式会社Tryfundsを創業し代表取締役CEOに就任。日本企業の海外進出コンサルティング、新規事業開発、M&Aアドバイザリーなどを手がけ、東証1部上場企業から中小企業まで500プロジェクト以上を手がける。
東証マザーズ上場企業である株式会社ゼネラル・オイスターの代表取締役CEO等、複数社の経営に従事。
2017年、株式会社ビズリーチ主催の「JAPAN HEADHUNTER AWARDS 2017」にて「特別賞(地方創生)」受賞。

インタビュー

Q. 貴社の人材紹介業において、新型コロナウイルス感染症(以下:コロナ禍)による影響はありましたか?

経営トップの交代の案件については、コロナ禍により落ち着いた印象を受けています。このような時期だからこそ、経営トップを代えるという手法ではなく、自らの力でこの波を乗り切ろうという意志を感じます。そのためか、地方・業界問わずに、DX(デジタルトランスフォーメーション)やCX(コーポレートトランスフォーメーション)に向けた取り組みの推進にアクセルが踏まれている印象を受けており、CxOクラスの紹介依頼が相次いでいます。
例えば飲食系や小売店ですと、経営状況が厳しいといわれる昨今、既存事業を見直し、デジタルシフトや新規事業開発にかじを切る意思決定をした企業が少なくありません。それを実現できる人材は内部ではまかなえないことが多く、デジタル・IT系、新規事業開発系人材の採用は活況になっている印象を持っています。

Q. 貴社の取引先企業・求人案件の特徴を教えてください。

売り上げ規模ですと200億~1,000億円くらいの、オーナー系の企業様とのお取引が多いです。相対しているのは基本的には企業の経営トップ層の方々で、事業成長、ターンアラウンドに向けて、挑戦的な経営の意思決定をしていただくご支援をしています。意思決定をするにあたって人材や資本が制約となってしまうことがありますが、そういった制約条件を取っ払い、より意義のある挑戦をしていただくため、戦略実行をリードする経営層および事業部長層の採用を中心にご支援させていただいています。最近の特徴をあげるのであれば、地方企業様で、大きなトランスフォーメーションを目指したり、IPOを目指したりする案件が、今までより増えてきた印象です。
コロナの影響下における経営判断ですが、当初は一過性の環境変化と捉えられていた部分が多かったように思います。しかし現段階では、クライアント企業の多くの経営者様は不可逆の変化と捉え、これを好機としてCXを実行するという意思決定につながることが増えてきました。デジタルシフトを中心に、M&Aや新規事業開発などさまざまな手段を通して、ビジネスの新しいあり方や顧客との新しい関係性に挑戦する段階に入ってきていると感じます。

Q. 経営者のマインドの変化により、次に変化が求められるのは、人材紹介業なのかなと思います。人材紹介業に求められる変化や価値発揮はどのようなものだと思いますか。

人材紹介業の発展に伴い、ヘッドハンターのコモディティー化が進んだと思っています。転職市場の整備は労働力の流動化に寄与した一方で、企業様の希望する要件に近い人材をそのままあてがうような紹介は価値を相対的に下げることになりますので、単純なマッチングのみの人材紹介であれば終焉に向かうと思います。
これからの人材紹介においては、経営戦略を共に描き、その実現に向けて本当に必要な人材を明確化するという能力がベーススキルになると考えています。戦略性やストーリーがない人材紹介は、安価なマッチングテクノロジーなどに置き換わる可能性が高いと思いますが、経営者の視座を持って活動する人材紹介会社へのニーズはいっそう増えていくのではないでしょうか。
例をあげると、DXのようなバズワードのケースです。「DX人材を採用しよう」とトップダウンで指令が下るものの、経営としてどのようにデジタルを活用すべきかが定義されないまま、採用担当者から人材紹介会社に「DX人材のご紹介を…」と話が展開されるようなことがしばしば起こっているように感じます。経営戦略に照らし、攻めのDXと守りのDXをどのようなバランスで実現するのか、さらに各現場のデジタルシフトのステージによっても、求められる人材像は大きく異なるはずです。
特に地方中小企業ではバックオフィスがゼネラリストで、人事と並行して経理・財務や総務などを兼務していることが少なくありません。ヘッドハンターが人材領域のスペシャリストとして戦略と人材像を接続し、採用支援をしていくことが、経営者の方々が本当に望む支援になるはずだと思います。
また、企業側がこれまでの自社の人材と異なる層に対して、コストをかけてでも採用しにいこうとする時代へと変化しています。既存の事業、現行の人事制度や社風といった今見えるものに縛られず、理想の将来像から逆算した、企業と候補者の真のマッチングを図っていく技術が求められるのではないかと考えています。そのため、ヘッドハンターには今まで以上に複数の要因を組み合わせた、高度なマッチング技術が求められると考えられます。

Q. 求職者が「良いヘッドハンター」を見極めるポイントは何かありますか。

求職者の方々にご不満を伺っていると、「風呂敷を広げるように、自分の経歴に合いそうないくつかの求人をパターン的に提示されるが、とりあえず紹介された感覚が強い」という残念なケースに加え、「自分の希望をよく聞いてくれ、条件に近い求人を紹介してくれるが、なかなか転職が決まらない」といった場合があるように思っています。
当たり前の話ですが、求職者の方のキャリアの志向とこれまで培ってきた能力、企業側の今後の経営戦略と該当ポジションに求める期待・役割の4つがきちんとマッチして初めて良い転職になると考えています。本当の意味でのヘッドハンティング求人であれば、当然ながらヘッドハンターはクライアント企業の経営アドバイザーとして、経営戦略から組織戦略まで求職者の方と対話をし、マッチングを図るような面談をするはずですので、上記のような不満は生まれようもないと考えています。
メンバークラスから中間管理職層の転職支援の場合は、経営戦略、組織戦略といったレイヤーでの議論が必要でない場合もあるかもしれませんが、少なくとも企業の採用担当の代弁者として、該当部署の戦略や求められるパフォーマンスを理解し、そのなかで求職者の方の生かせそうな点や懸念となりそうな点などを、率直にお伝えできることが望ましいのではないでしょうか。
ヘッドハンターは、企業と転職希望者の方のマッチングという機能を果たすものと思われてしまっているかもしれません。ただ、本物のヘッドハンターは、企業にとっては経営アドバイザーの視座で議論ができる人材、転職希望者の方にとっては、キャリアアドバイザーとして中長期のキャリア形成に対してアドバイスできる人材でなければなりません。
求職者の方々は、それを念頭に置いたうえで、企業にとって良いヘッドハンターとはどのような人物かを考えていただくと、どのような人材紹介会社・ヘッドハンターに転職活動支援を依頼するのがいいのか、クリアになっていくのではないかと思います。

Q. 若手ヘッドハンターの方々が、本質的な人材紹介のスキルを磨き、経営者の方々に向き合えるようになるために、何かアドバイスはありますか。

スキル・知識と、スタンスとで分かれるかと思います。当社ではスキル・知識は各自の自己研鑽に委ねています。経営層と相対する仕事を志す以上、そこは当然の努力をするものとして共通認識があるからです。単に、経営者の思いを御用聞きするだけでは、変化の早いこの時代に、企業に誤った採用を推進してしまうことにもなりえます。例えば、大量にオペレーション人材を採用してきた経営者様に対しては、RPA・機械学習の導入を推奨するという視野が必要になりますし、逆にむやみにAI人材を求める経営者様に対しては、システム開発をした場合と人材採用をした場合、また外部委託をした場合との投資対効果・メリットとデメリットを議論するということが当たり前にできなければなりません。今後の社会では当たり前のように必要とされるであろう、AI、データサイエンス、各種SaaS等の知見は必要となりますし、経営分析についても、経営者様を少しでもリードできるくらいにはスキルを身に付けてから議論に臨むよう心がけています。
一方で、スタンスに関しては、当社のヘッドハンターが自ら会社経営に携わった経験から培われている側面が大きいように思います。当社のヘッドハンターは投資先や子会社の経営メンバーで構成しているため、私たち自身も経営に関する悩みや不安を経験する一人の人間として向き合わせていただく瞬間が少なくなりません。経営の苦悩を語り合える経験を持った人材が、経営者の周りにある見えない背景を考えながら寄り添おうとする姿勢が、経営者の皆様から当社メンバーをご評価いただいているポイントの一つになっているように思います。
ただし、全てのヘッドハンターが経営経験を持たなければならない、という話ではありません。まずは思いをはせること、そして究極的には相手の苦悩・苦労を「知った気にならない」ことが大切です。例えば、身近な訓練として自社や自組織の経営に積極的に関心を持つことは重要だと思います。さまざまな会社の意思決定や方向性に対し、自分が社長ならなぜこの経営判断をしたのかと考える訓練をしたり、時にはその仮説を持って上長と討議したりすることも良い経験になるでしょう。ヘッドハンターの皆さんは、時間をかけてでも企業様の最適なマッチングを実現したいと願う一方で、目先では月次ノルマに追われるというロマンとそろばんの問題をお持ちだと思います。私は、この悩みこそが経営者目線の原点であり、日々、経営者の視座に近づく第一歩ではないかと思います。

Q. 最後に、2021年は貴社の人材紹介業をどんな年にしていきたいですか。

2021年は大きな節目の一年になるだろうと思います。コロナ禍を経て、多くの企業は「変わるか変わらないか」ではなく、「変わるか『消えるか』」の選択を迫られていると考えています。ITの導入を拒み続けていた会社も、ITを主体とした経営に切り替えない限り、事業が成り立たないという外部環境になりました。70代、80代の経営者様と、当たり前のように日々「Zoom」で経営議論をするような未来は、2020年の初頭には全く考えられませんでした。
こうしたなかで、意志ある経営者様が、本格的なCXに着手する年になることは明白です。多くの企業様の年頭所感を読んでいても、「会社として変わる一年にしたい」といった趣旨の表現が非常に多く、大小問わず何らかの変化を求める年になると思っています。
未曽有の社会環境の変化に直面し、経営・事業戦略を大転換する節目において、外部からの人材獲得が大きなアジェンダとなることは疑いようもありません。大げさかもしれませんが、日本の産業・地域構造のトランスフォーメーションに対して、ヘッドハンターである私たちの介在価値が試される一年になるのではないかと考えています。
会社が大きく変わる節目に、不用意な採用支援をしてしまえば、その会社は危機にひんします。一方で、本質的な経営目線を持ち、企業経営の未来を共に考えられるヘッドハンターは、会社のパラダイムを変えるような支援ができると思っています。
これまで以上に、既成概念を超え、企業様がこれまでに考えたこともなかったような人材採用・組織戦略策定のご支援をする。結果的に、求職者の方にもこれまでに考えたことがなかったようなキャリアのチャンスをつくっていきたいと考えています。

次回のヘッドハンター名鑑vol.16は、2021年3月8日(月)公開予定です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?