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地銀の新戦略!

地方銀行が債権回収事業に参入する動きが広がっています。これは、中小企業の再生支援と銀行自身の収益力強化を同時に狙う、新しい戦略だと言えるでしょう。この動きは、地域経済の活性化にもつながる可能性があり、注目に値します。では、なぜ今、地銀がこの事業に乗り出すのか、そしてどんな効果が期待できるのか、詳しく見ていきましょう。

背景を探る

まず、この動きの背景について説明しましょう。新型コロナウイルスの影響で、多くの中小企業が借入金を増やしました。政府の支援策のおかげで一時的には助かったものの、結果として過剰な債務を抱えてしまった企業が増えたんです。

具体的な数字を見てみると、資本金1億円未満の企業の長期借入金は、コロナ前の2019年度には約132兆円だったのが、2022年度には157兆円まで膨れ上がりました。これは約20%も増えたことになります。

こうした状況で、中小企業との取引が多い地方銀行にとって、この過剰債務問題は避けて通れない課題となっています。対応を誤れば、銀行自身の経営にも影響しかねませんし、地域経済全体にも悪影響を及ぼす可能性があるんです。

債権回収とは

ここで、「債権回収」について簡単に説明しておきましょう。債権回収会社(サービサー)は、金融機関が持つ債権を買い取ったり、債権の管理回収業務を請け負ったりする会社のことです。

債権回収会社の収益構造は

債権回収会社の収益構造は、大きく3つの要素から成り立っています。

1. 手数料

債権回収会社は、債権者から委託を受けて債権回収業務を行う際に、手数料を徴収します。手数料は、回収金額の一定割合で設定されることが一般的です。手数料率は、債権の種類、債務者の属性、債権の回収難易度等によって異なりますが、一般的には5%~20%程度です。

2. 債権譲渡益

債権回収会社は、債権者から債権を買い取り、回収後に債務者から回収した金額と買い取り金額の差額を利益とする場合があります。この利益を「債権譲渡益」といいます。債権譲渡益は、買い取り価格と回収価格の差によって決まるため、債権の回収難易度等によって大きく変動します。

3. その他の収入

債権回収会社によっては、調査費用、訴訟費用、競売費用等を債務者に請求することで収入を得ている場合もあります。また、近年では、債権回収ノウハウのコンサルティングや、不良債権の証券化等、新たな収益源を模索している会社もあります。

各収益源の割合

各収益源の割合は、債権回収会社によって異なりますが、一般的には手数料が最も大きく、次いで債権譲渡益、その他の収入の順となります。

収益性向上に向けた取り組み

債権回収会社は、収益性を向上させるために、以下のような取り組みを行っています。

  • 回収業務の効率化: 業務プロセスの見直し、ITツールの導入等により、回収業務の効率化を図る

  • 高度な専門知識の習得: 弁護士や税理士等、専門家を採用したり、研修を実施したりすることで、高度な専門知識を習得する

  • 新たな収益源の開拓: 債権回収ノウハウのコンサルティング、不良債権の証券化等、新たな収益源を模索する

  • M&A等による事業規模の拡大: M&A等により事業規模を拡大することで、収益基盤を強化する

地銀の新戦略

さて、ここからが本題です。地方銀行が債権回収事業に参入する動きが広がっています。例えば、京都フィナンシャルグループ(FG)は2024年4月に債権回収会社を設立し、10月から営業を開始する予定です。以下の詳細をお伝えします。

1. 会社概要

  • 商号: きょうと事業再生債権回収株式会社(通称:きょうとサービサー)

  • 英文名称: Kyoto Turnaround Servicer Co.,Ltd.

  • 本店所在地: 京都市下京区烏丸通松原上る薬師前町700番地

  • 設立日: 2024年4月1日(予定)

  • 事業開始日: 2024年10月(予定)

  • 代表者: 代表取締役社長 中井 秀治(就任予定)

  • 事業内容:

    • 受託した特定金銭債権の管理回収(再生支援)業務

    • 譲受け(買取り)した特定金銭債権の管理回収(再生支援)業務

  • 資本金: 500百万円

  • 株主・持株比率: 京都フィナンシャルグループ 100%

2. 設立の目的

  • 地域の活性化に貢献するため、債務整理に悩む企業や個人への支援を強化

  • 京都銀行の不良債権処理を効率化

  • 将来的には、京都府内の金融機関との共同事業も検討

3. 今後の見通し

  • 2024年10月の事業開始当初は、京都銀行からの不良債権を中心に取扱う

  • 中長期的に、京都府内の金融機関からの債権回収業務や、個人向けの債務整理業務にも拡大

この動きには、いくつかの狙いがあります:

  1. 効率化とノウハウの蓄積:
    銀行内に債権の管理回収業務を集約することで、業務の効率化を図れます。同時に、債権回収のノウハウを蓄積できます。

  2. 専門人材の育成:
    債権管理や回収の専門知識を持つ若手行員が不足しているという課題があります。債権回収会社を設立することで、こうした人材を育成する機会にもなります。

  3. 中小企業の再生支援:
    地銀系のサービサーは、単に債権を回収するだけでなく、企業の再生支援に力を入れています。これは、地域経済の活性化にもつながる重要な取り組みです。

成功のポイント

では、この新戦略を成功させるポイントは

  1. 地域密着型のアプローチ:
    地方銀行は地域の事情に詳しいという強みがあります。この強みを活かし、地域に根ざした再生支援を行うことが重要です。

  2. 専門性の向上:
    債権回収や事業再生には高度な専門知識が必要です。外部の専門家を招いたり、行員の研修を充実させたりすることで、専門性を高めていく必要があります。

  3. 他の金融機関との連携:
    一つの企業が複数の銀行から借り入れをしている場合も多いです。そういった場合、複数の地銀が連携してサービサーを運営することで、より効果的な支援ができる可能性があります。

今後の展望

この新しい取り組みは、まだ始まったばかりです。しかし、うまく機能すれば、地方銀行の収益力強化だけでなく、地域経済の活性化にもつながる可能性を秘めています。

債務処理を含めた需要は今後も高まっていくと予想されます。地方銀行系のサービサーが、その目利き力を活かして適切な判断を下し、企業の再生や新たな成長につなげていけるか。これからの展開に注目です。

引用: 2024/06/26 日本経済新聞 朝刊 9ページ

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