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Oh!my guitar 大作戦

始まりは「弾き語りで活動を再開しよう」だった。

脳卒中で入院して、そこで記憶をだいぶ無くし、それでも日々の問題と向き合って2年ほど経つ中で何とか日常に戻りつつあった。

さぁ、そろそろ自分の音楽をやろうと思い立ち、昔自分で塗装からパーツ交換からイジくりまくって「自分好みのギターをつくる」というコンセプトで作ったストラトキャスターを引っ張り出して自分の曲を弾いてみた。
だんだんと気分が乗ってきて「これぞ自分のやりたい事だ」と思ったのが今回の記事の始まりだった様に思う。

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詳細は別の機会に書きたいと思うが、やはり最高の音がするストラトだった。
名前は「01(ゼロワン)」。ジョンメイヤーの「black one」やクラプトンの「blacky」、ギルモアの「black strat」みたいな名前をつけて、人に話すのは恥ずかしいので自分だけで呼んでいた。

しかし久しぶりに引っ張り出して弾いてみると、多少ネックの反りやフレットの減りもあるのでそう遠くない将来にフレットの打ち替えなどの大きなメンテナンスが必要になる事が予想出来た。

写真のようにメイプル指板のギターなのだが、問題はローズ指板に比べフレットの打ち替えにはコストも労力もかかる事だった。しかも沖縄に信頼できるリペアマンを個人的に知らないため、必然的にその作業は内地への輸送が必須となる。

いくら良いギターでも時間的にも金銭的にも負担のある個体に頼り切るのはリスクが高い。

もう一本必要だ。

そんな事情もあって、まぁつまり、また「自分のギターを作りたい」と思ったのだ。

ギターに求めるものはなんだろう?
音?品質?コストパフォーマンス?弾きやすさ?色々あるし、人によって様々だろうが、最も大切なのはこれ

ロマン!

これに尽きるだろう。我々ギタリストはあんな音程が不安定で、ネックの反りなどコンディションも不安定で、周辺機材にもやたらと金のかかる楽器をあれやこれや気を揉みながら何故好き好んで鳴らすのか?


それは、「カッコいい」からだ!


そこには楽器として単純な音だけでは無い、匂い立つような魅力があるのだ。

数々の伝説的なミュージシャン、そしてその伝説の光を共に浴びる特別な存在感、それがギターにはある。
ギターにはミュージシャンの数だけ物語があるのだ。


その物語はいくら金を積んでも手に入らないものだ。
何本ものストラトを買い、自分の気に入ったパーツで自ら組み立てたクラプトンのブラッキーの様に、それは人の手と情念がこもったものなのだ。
ギターへのこだわり、探究心、アイデンティティの凝集が伝説のギタリストとそのギターを生み出したのだ。
そして、不運にもそんなギターの魅力に囚われてしまった僕は、それらの伝説の魅力を一欠片でも欲しいと思うギタリストなのだ。

今回はそんなギタリストとギターとの出会い、そして制作に至る物語を読者の方々には読んでいただきたい。そんな長く無いけど。よろしくどうぞ。


まぁ、そんなわけで新たにストラトを手に入れるために楽器サイトをネットサーフィンする事になったのだが、二本目のストラト探しに際して、何を買おうか悩む事は無かった。なにせイジりまくる前提なのだ、なんだって良いやと言う感じだった。

またゼロワンに話を戻すと、あのギターを作り上げたとき考えたのは「自分だけのギターにしたい」だった。
そんな時に自分の生まれ年のギターを買おうとするのは僕だけでは無いだろう。
1986年製のストラトを探した。Fender USAだと値が張るし、質も大して期待は出来ない。Fender Japanなら質の良さやコスパも優れる。というわけで、たしか通販で北海道の楽器店から購入した。

今回もそのつもりで探すと、適当なギターはすぐに見つかった。1980年代のFender Japan。ボディはナチュラルでメイプル指板のやつだった。今回も通販で購入、関西の店だったと思う。行った事ないんだよなぁ、関西。

元々ゼロワンにはローズウッド指板のネックがついていた(色々あって現在はテレキャスターのネックに交換しているが、状態は問題ない)。それを保管していたので差し替えるつもりだった。
ナチュラルのボディは初めから塗装を自分好みにするつもりだったので問題は無かった。
ポチった後数日待ち、自宅にモノが届くと早速開封して弾いてみた。


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第一印象は「ふむ、やっぱり」という感触だった。

時は遡り10年前。
ゼロワンの時に思った事だが、当時は「ギターの塗装は薄ければ薄いほど良い。既製品は分厚い塗膜で覆われているため音が悪い」という言舌が巷に溢れており、僕も「まぁそういうものなのか」と理解していた。

なのでゼロワンの塗装を剥ぎ、自分でラッカーを吹いた後に「どんな音になってるんだろう、きっと聞いたこともない素晴らしい音に違いない」とワクワクしながら弦をかき鳴らしてみて「あれ?」と感じてしまった。

カスッカスな印象だった。「枯れた音」と言われればそうかも知れないけれど、なんだかボソボソとしているような…。塗装を剥ぐ前はプリプリとしていて「これぞFenderのストラト、それ以上でもそれ以下でも無い」という音で、それはそれで十分魅力的な音だったのだ。
ここに来て初めて塗装も音のうちなのだ、と気づいた。実際にやってみないとわからない事はこの世に沢山あるのだ。(その後10年を経て現在では他に変えられない素晴らしい音になっているので、不思議。結果として時間はかかったがやって良かった。)

そして今回のギターである。「ふむ、やっぱり」と思ったのは前述のプリプリ感にまた出会えたからであった。
しかしまぁ、なんとも良い音がする。ゼロワンと弾き比べるとこちらも個性が良く立っており、等価な良音と言える。むしろキャラクターとして曲によって使い分けるような扱いも出来そうだ。…ネックを交換予定のローズウッド指板に替えてみたらどんな音になるだろう。メイプル指板の音の個性をこれだけ引き出せる地があるのだ、きっと悪くはならんだろう。

というわけでこう。

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弦もそのまま、ネックだけ付け替えて弾いてみた。
するとやはり!暑苦しいくらいにミッドが際立ったジューシーな音!
(なんか食レポみたいな文章だな。)

しかし、これぞ欲しかった音だった。塗装を剥ぐ事を前提としてプランを立てていたが、もちろん変更。この音を失うリスクは避けたい。
塗料をこの上から直接塗る事にした。まぁオーバーラッカーしてるギターも良くあるし(ギルモアのblack stratも確かそう)別に問題は無いだろう。


という訳で待ちに待った休日、朝も早起きして早速作業開始。
まずはパーツを外していきます。

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せっかくなのでキャビティ内も掃除。こんな時くらいしかやらないものね。ていうかなんでこんな色々入ってるんだ。

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マスキングテープと詰め物して下準備。

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ラッカースプレーを構えたら
いざ!
プシーーーーッッッツ!!!!!
うぇっほ!ごっほ!ごほ!ごほっ!ごほっ!
ぐはっおぇ!!!!!!!!!!!!!!!

という感じで綺麗に染まりましたね。下地の色としてマットホワイトを塗りました。

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慣れてないもんだからなんの防備もせずにスプレーして色々大変でしたが明らかな健康被害もなく一応塗り終えることができました。この作業、仕上げの時にワンモアか…と少し気が重くなりましたが、まあ概ね問題なく仕上がりました。

2日ほどベランダで野ざらしにしてスプレー臭が取れた頃に、さて次の作業です。むしろここからが本番。別に美術の学校に行ったわけでもなく、義務教育で絵の具ペタペタやった事くらいしか無い人間にとってはメチャクチャ失敗のリスクが高い作業です。また気が重くなります。


しかしやるしか無い!ほりゃ!

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正直こっからどうしたら良いのかわからなかった。あっぶねー。念のためあまり人目につかないボディ裏から始めて良かった〜。

因みに絵の具はアクリルガッシュ。もちろん人生で初めて触るものだ。へー、水彩絵の具と全然違うな、混ざって色が変わるの面白〜い、なんて言いながら作業していた。


まぁでも正直なところ描きたいイメージはかなりハッキリしていたのだ。構想二ヶ月、といったぐらいだけど色々写真やグラフィックアート、花の色合いなど自分の中のイメージを固めるために色々と探して分析をしていた。

元々はジミ・ヘンドリックスがモントレーポップフェスティバルで弾いてたジミ本人のペイントが施されたギターに触発されたのがきっかけだった。

こんなの

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「いつかあんな風なカッコいいペイントを自分のギターにしたい」「あんなにオリジナルなギターは他に無い」
とその存在を知ってから十数年も夢想していた。(今回絵の具もジミヘンに倣ってマニキュアでペイントしようかとも思ったが、やめて良かった。いくらなんでもハードルが高い。あとシンナーでクラクラしそうだ。)

しかしあんな感じにサイケな雰囲気のペイントをやって二番煎じみたいなギターを作っても意味がない。「あぁ、ジミヘン好きなの?」となっちゃ困るのだ。俺は俺なのだから。

でもでも流石にモデルは必要だ。素人も良いとこな人間が何の具体的なイメージも無くペイント作業をするなど失敗の予感しかしない。やればやるほど深みにハマって何もかもが嫌になって作業を投げ出すのが容易に想像出来た。(実際、可能な限りしっかりイメージを固めたのにほぼそんな状況になった)

なのでジミヘンギターの他にモデルとしてレッチリのベーシスト、フリーのサイコ・ベース

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エリック・クラプトンのクラッシュギター

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などを参考に、あとはネットでロックっぽいデザインを適当に検索かけてみたりした。(レディオヘッドのアートワークも良い参考になった)


ところがそんなに簡単に物事が上手くいく訳はない。出したい色味や、質感がどうやったら出るのか?全く手探りの中での作業なのだ。
えー⁈とかうわー…とか言いながら4時間くらいで作業を終え、うーんでもまぁ絵の具の使い方はわかってきたな、となったところで表側の作業に入った。

正直裏側のデザインはアイディアBの方で、うまくはいったがもう一歩何かが足りなかった。何が足りないのか考えてわかるもんでも無いし、と一旦保留とした。


そして表側の作業にかかると滑り出しはかなりスムーズだった。ある程度自分のイメージする質感が出せる絵の具の使い方は裏側の作業の時に掴んでいたのだ。
よしよし、と思いながら作業を進めていたが途中で雲行きが怪しくなってきた。

どうしても出せない色があったのだ。発色が足りない、というかその色だけ材質が違うものが求められるのだ。アクリルガッシュのマットな質感では無理なのだと、作業の中で気づいてしまった。
今回イメージしていた全体像の中でこの色が今回の主役とも言えるものだったので、途端に窮地に立たされてしまった。

それまでの作業はこの色の魅力を際立たせるためのものだった。その主役が最終段階にきて別の色、質感で立て直すしか無くなってしまったのだ。

そこからは試行錯誤の泥沼だった。何時間もこうでは無いああでも無いと絵の具をこねくり回し、次第に手も動かせなくなった。

腕組みをしてジッとギターを睨んだまま時間が経過していく。
何が足りない?裏側の作業の時も思ったのだ。何が足りない?何が?


何故かはわからないけど、フッと風船を描いてみた。
そうすると見えてきたのだ、足りなかったものが。
そうか、このギターはキャンバスなのだ。だとしたら、ここにはこんな線が必要だ、ここにもこの模様、ここは少し質感をイジらないと…


そんな感じで午前4時まで作業を続け、完全に昼夜逆転の生活になってしまったが、なんとか完遂する事ができた。


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しかし、何とかなるものだ。
なんというか、作曲をする時に近い感覚があった。僕は曲を作る時どうやって作ったのか覚えていないのだが、今回も同じように気付いたら作業が完了していた。

当初イメージしていた形とはずいぶん違ってしまったが、結果的にかなり満足できる物に仕上がった。いや?よくよく見ると制作前に自分の頭の中にあったイメージより何倍も素晴らしいデザインが出現していた。これは、奇跡的だ。2度は起きまい。

なんというか、かなり子供のラクガキみたいなデザインだが、これが作りたかった。学生時代、一時期岡本太郎にハマり著書を読み漁っていたのだが、その時に芸術に対する姿勢にかなり影響を受けた。

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あと何冊かはあったと思うが、今のところ探し回って見つかったのはこの三冊だった。大掃除の際に家中あちこちの隙間に挟んでしまったのだろう。

「今日の芸術」はベタだが、一度読んでみて頂きたい。この価値観、アティテュードがある無しで自身の制作物に対する見方が変わって来るだろう。僕は基本的にポップミュージックを作る人間だが、僅かにでもその難しさに向き合うことが出来る様になったと思う。
今回のペイントでは、自分をぶつける事に手応えを感じた。見てるだけで心拍数が上がるほど、刺激的だ。


さてペイント作業は完了。あとは絵の具がしっかり乾くのを待って、よく晴れた日にクリアラッカーを全体に吹き付けるだけだ。

という訳で、はいっ!またマスキングテープと詰め物でしっかりと下準備をして、と

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今回は鼻に入らないようしっかりとマスクをして、目に入らないよう眼鏡もして装備に細心の注意を払って準備万端です。

ラッカースプレーを構えたら
いざ!
プシーーーーッッッツ!!!!!
うぇっほ!ごっほ!ごほ!ごほっ!ごほっ!
ぐはっおぇ!!!!!!!!!!!!!!!


サージカルマスクじゃ防ぎきれませんでした。結局適当なジーパンで鼻と口を覆って作業を継続。シンナーのせいかなんか1時間くらい軽く頭も痛かった。


シンナー臭が消えるまでベランダで数日野ざらしにしたら
はいオッケー!
あとはネック、その他パーツを組み込んでいきます。

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そして弦を張って塗装の厚み分弦高、ピックアップの高さ調整などをして


はい完成!

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出来たーーーーーー!!

名前は「02(ゼロツー)」

ゼロワンのネックを引き継いでいる、さらに汎用性の高い二本目のメインストラトキャスター。塗装に手間が掛かっている分、愛着も強くなりますね。満足感がヤバい。

というか、ここまで何かを手に入れ、所有する事で感動した事は今まで無かったかも。
お金を払えば手に入る物ではなく、手間もかけ工夫も凝らし全力で自分が求めるものを追求してこの世に生み出した、唯一無二の存在。それがこのギターなのだ。それに出会えた喜びがこの感動なのかも知れない。


音を出してみる。生音は文句無し。普通にストラトに求める「良い音」がする。塗装の影響は懸念していたよりもずっと少なそうだ。すでに良い音だが、これがデフォルトなので今後いろいろリプレイスメントパーツを交換すると更に追い込めるかも知れない。

プラグインした音は少し硬めな質感があるので、キャパシターを交換するなり、線材を変えるなり、もしくはピックアップを思い切ってゼロワンに付けているタイプに近い物に交換するのも面白いかも。

しかしながら多分ピックアップは問題ではないだろう。線材・ハンダ・キャパシターを変えるだけでも十分なくらいの些細なものではあるので、時間があるときにビフォーアフターして、また記事にしてみようかな。


プレイした時の音が文句無しに良いのは、今回の狙いとして大成功。ゼロツーで今後やりたい事としては作曲がある。

今現在の自分の持ち曲は全てゼロワンで作ったものである。東京にいた頃にコツコツと作って、現在まで何度もアレンジを変えながら人前で演奏してきた。
やっぱりその頃と現在の自分とは違った人間になってきている実感がある。もう少し等身大でまた曲を作ってみたい。

今、昔とは違い自分の演奏スタイルが徐々に完成してきている感覚がある。それまでの様な上手くいかない、もしくは不十分だと感じながらの演奏では無く、全力でやりたい表現に取り組める素地がやっと整った様に思う。

時間がかかった。随分と遠回りし、情熱の火が何度も消えかけるほど時間がかかった。周りを見ても自分と同年代の人間は成功して音楽を生業としている人間か、もしくは仕事と家庭で音楽どころではない人々しかいない。(幸か不幸か、僕は未だ責任のある家庭を持つに至っていない)
いっぱしの社会人として、みんな音楽と折り合いをつけている年代だ。


だけど僕はこれからなのだ。これはどうしようもない。僕はいつも人より時間がかかる人間なのだ。天才に生まれていたらと思う事も何度もあったが、これが僕なのだからしょうがない。(この「しょうがない」という言葉も歳をとるにつれ自然に口から漏れ出る様になったように思う。これが老いるという事なのだ。)

さて、活動再開にあたって準備は万端。
あとは「音楽」するのみ。これまで色々なことがあったがここからまた一歩踏み出してみよう。
だから、頼んだぞ、相棒。

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