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盗聴防止へ量子暗号強化とは

先日2021年11月22日の産経新聞朝刊1面に『盗聴防止へ量子暗号強化 経済安保、補正に145億円』という見出しが出ていました。

量子暗号通信についてふれるまえに、量子技術は、日本においてどういう位置づけなのかを量子技術イノベーション戦略(令和2年1月21日 統合イノベーション戦略推進会議資料)を参考に記載します。

量子技術は、AIやデータ連携基盤を発展させる鍵となる基盤技術

歴史的なパラダイムシフトのなかで、日本は将来の目指すべき社会像として「Society 5.0」や「データ駆動型社会」を世界に先駆けて掲げています。
特に人工知能(AI)やデータ連携基盤は経済・産業政策上、競争力の源泉となる重要な技術インフラとなっており、量子技術は、こうした重要技術インフラをさらに飛躍的・非連続的に発展させる鍵となる基盤技術です。
あらゆる面で大変革が起こり得る世界において、先端技術の獲得やイノベーション実現に向けた国際競争が激化する中、重要な革新技術かつ基盤技術である量子技術について、国際連携・協力と国際競争を使い分けた戦略的な取組が必要不可欠です。

「量子技術イノベーション」で目指すべき3つの社会像

同資料には「量子技術イノベーション」を通じて達成する将来の社会像を3つ明確に設定しています。

① 生産性革命の実現
IT(デジタル)、AI に続く「量子革命」を通じて、産業競争力の強化による生産性の飛躍的向上を実現。
現在のスパコンでは非現実的な時間を要する問題を、超高速・超並列情報処理する「量子コンピュータ技術」や「量子シミュレーション技術」により解決策を見出します。(情報通信・製造・金融・運輸・製薬・化学等)
また、既存技術を凌駕する精度・感度を持つ「量子計測・センシング技術」や、極微の世界で発現する量子性を利用した「量子物性・材料技術(量子マテリアル技術)」により、素材・材料、半導体、デバイス製造、蓄電・省エネ・創エネ等での革新を実現。

② 健康・長寿社会の実現
量子技術を用いた革新的な医療や健康管理等を通じて、世界に冠たる健康・長寿社会を実現。
生命現象の本質的理解に基づく治療法・創薬や高精度な早期診断・モニタリングなど、生命科学・医療に飛躍的発展をもたらし、関連する医療や医薬品・医療機器産業等における革新を実現。

③ 国及び国民の安全・安心の確保
量子的な効果を応用した通信・暗号技術により、高度セキュリティ社会を実現し、国及び国民の安全・安心を確保。
近年の「量子コンピュータ技術」の飛躍的発展により、公開鍵暗号技術等が破られる可能性があります。耐量子計算機暗号への移行に向けた対応を進めつつ、唯一の原理的安全性を持つ「量子通信・暗号技術」により、機密性・完全性等を有するセキュリティ環境を構築・高度化する必要があります。

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量子技術イノベーション戦略(令和2年1月21日統合イノベーション戦略推進会議資料P61)より

量子暗号化とは

量子暗号システムの最終的な目標は、従来型の暗号方式(公開鍵暗号など)と同じく秘密通信(secret communication)を安全に行うことです。従来型の暗号との最大の違いは「無条件安全性」(unconditional security)が実現できることです。既存の暗号であれば、PC とインターネットがあればほぼ何でも出来るのに対して、量子暗号においては、レーザや光ファイバなど大掛かりな装置が必要となります。量子暗号の機能は、送信者と受信者の間で(毎回異なる)ビット列k を共有することであり、事後の検証に成功した場合には、それが途中で盗聴されていないことを確信できるというものです。このように量子鍵配送の安全性のよりどころとなるのは、「手が加えられた場合には、高い確率で変化が起こる」媒体であることです。


日本における量子通信・暗号の現状

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量子技術イノベーション戦略(令和2年1月21日統合イノベーション戦略推進会議資料P59)より

東芝やNECが世界最高速の BB84方式の量子暗号装置を製造し、また情報通信研究機構(NICT)や東京大学、NTT、三菱電機等が、理論研究及び実証で世界を先導しています。


・NICTが量子通信・暗号送受信装置の開発を進め、都市圏テストベッド「Tokyo QKD Network」で世界最長期間の運用実績を有するなど、世界をリードしています。


・東京大学は、量子コンピュータでも解読できない暗号アルゴリズム研究を推進しています。


・衛星量子通信に関しては、中国が独自開発した衛星「墨子」を用いて地上との間での量子通信に成功したと発表し、世界を驚かせましたが、日本ではNICT が低軌道衛星と地上局間での実証実験に成功しています。

近年、量子コンピュータでも解読困難な耐量子計算機暗号技術や現在の公開鍵認証基盤からの移行技術に関する検討が活発化しています。また、クラウドサービス向けの秘密分散や秘密計算も実用化されつつあります。これらの技術を量子暗号と統合することにより「超長期の機密性、改竄耐性、可用性、計算機能を有する量子セキュリティ技術」を実現でき、将来にわたり堅牢なセキュリティを持ったサイバー空間を構築することができます。
量子技術を基礎に他の技術との組み合わせでさらなる発展が見られそうです。

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量子技術イノベーション戦略(令和2年1月21日統合イノベーション戦略推進会議資料P65)


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