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原子力の熱を利用した熱化学法で、水から水素製造

水素はクリーンなエネルギーとして注目されていますが、いかにして大量に製造するか、そして輸送、保管が課題となっています。

工業的な水素製造法とその特徴

水素の製法は現在、電解法とガス法とに大別されます。
電解法(電気分解法)は水を電気分解する方法です。

経済産業省「ケミカルワンダータウン」より引用

ガス法のなかでも現在、化石燃料を燃やした熱を使い、メタンと水を高温で反応させる水蒸気改質法が安価で世界の90%を生産するなど主流をしめています。

JAEA「様々な水素製造法」より引用 

原子炉の熱をつかって水素製造

今回は、安全のための試験が行われている熱化学法をご紹介します。

日本原子力研究開発機構が進めるHTTR(高温工学試験研究炉)(茨城県大洗町)では、原子炉の熱を850~950℃の高温ヘリウムガスで世界で初めて原子炉圧力容器外へ直接取り出すことに成功しています。この原子炉は、被覆粒子燃料-黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉で、通常の原子炉よりはるかに高い900度超の熱を得ることができます。取り出した高熱を使って水素を作ろうとするのが熱化学法です。

日本原子力研究開発機構は2019年1月25日、高温ガス炉の熱供給能力を有効利用するため開発を進めてきた「熱化学法ISプロセス」による水素製造試験装置で、150時間の連続水素製造に成功したと発表しました。長時間運転の目安となる150時間(30リットル/時)の連続水素製造に成功したことで、今後、運転データをさらに取得していくもようです。そしてISプロセスの自動運転制御など、大量の水素を安定的に製造できるシステムの実用化に向けて研究開発を進め、HTTRからの熱を用いた水素製造の実証を目指していくとのこと。

JAEA「ISプロセスの原理」より引用

HTTRを用いた研究開発
HTTR(高温工学試験研究炉)は、水素製造に利用可能な高温核熱を世界で初めて供給可能であることを実証しましたが、震災により一時停止していました。
HTTRは、2021年7月30日に運転を再開し、9月19日に原子炉出力 100%、冷却材温度 850℃に到達し、100%出力にて行う原子炉の性能を確認するための定期事業者検査を9月22日に終了しました。 これで新規制基準への適合性確認の審査を受け、対応が完了しました。


JAEA「原子炉と水素製造設備を組み合わせた未来の社会」より引用

安全な原子炉へ

2022年1月から国際共同試験として高温ガス炉の安全性を実証する試験のための運転が実施されています。

世界初試験!冷却設備を全停止しても安全

2022年(令和4年)1月28日(金)、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構は、HTTRの炉心冷却喪失試験(原子炉出力約30%(9MW)において、制御棒による原子炉出力操作を行うことなく、全ての冷却設備を停止し、冷却機能の喪失を模擬した試験)を世界で初めて実施しました。
その結果、原子炉が冷却できない状態においても自然に原子炉出力が低下し、燃料温度の異常な上昇等もなく、安定な状態を維持することにより、高温ガス炉の高い固有の安全性を確認し、試験が計画どおりに終了したとのことです。
今後は、2022年3月に原子炉出力100%(30MW)における炉心流量喪失試験を実施する予定とのことです。

高温ガス炉に関する動画(2023/1/4追記)


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