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EX帰寮2021備忘録① 離島脱出編

【この記事は10分で読めます】

どうも。びらきちです。
京都大学の学生寮、熊野寮で冬に開催される熊野寮祭の恒例企画

「エクストリーム帰寮」

に私と同じく法学部2回生のわーつと参戦してきました。地図なし財布なしで、ぽとんと落とされた地点から聖護院にある熊野寮へ帰ってくる。その模様をいくぶんかお伝えできたらなと思います。これを読んだ方が来年帰寮に参加して大変な目に遭っても責任は取りません。それではスタート。

1.深夜テンションに任せよ

帰寮参加者の朝は早い。大抵の参加者は日付が変わってすぐのド深夜に寮を発ち、それぞれ帰寮開始地点に落とされていく。一方我々の出立は朝の8時予定、最終便だ。わーつも私も朝型人間であること、スタートしていきなり深夜の寒さに体力を奪われるのはバカだろう、ということで朝にしたのだが……

バカなのは私であった。

そもそも頭のおかしいこの企画、冷静に参加してはいけないのである。深夜テンションに任せて突っ切るのが正解なのだ。熊野寮へと向かうため、実家のある亀岡を朝6時過ぎに出発し、電車に揺られながら既にスタートしている他のメンバーの様子をうかがう。すると知人が亀岡の山奥に飛ばされていた。

「………歩いて亀岡から熊野寮へと向かう人間がいるなか、なぜ私は50キロ歩くために公共交通機関で亀岡から熊野寮へ向かっているのか?」

家から寮までの1時間は、私を冷静にするには充分すぎる時間であった。かなり冷え込んでいたので、100円ローソンでネックウォーマーと手袋を仕入れ市バスに乗り込む。これがなければ開始早々低体温症でリタイアしていただろう。防寒は必要以上にしておくべき。

寮で合流したわーつは、正気に戻った私とは正反対に、遠足前の小学生のごとくうきうきわくわくしていた。

「びらきちは俺がいるから道は大丈夫やと思ってるやろ、だから俺も下調べせずに来た!」

は?

マジかよ。ちなみに私はドのつく方向音痴である。地理にも疎い。下調べしようがしまいが多分わからんので下調べはしていない。方向感覚が強そうなわーつにその辺は全て任せるつもりで来た。運営さんにバナナはおやつに入りますか?と聞く彼の姿を見てもう不安になってきた。

わーつ 「バナナはおやつに入りますか?」
後輩 「はじめてその正しい用法を目にした」
運営さん 「正しい用法なのか……?」

2.ドライバーも過酷

帰寮に参加するために熊野寮に8時に集まったのは、私とわーつのグループのほかに、35キロコースの知人4人組(帰寮の鉄板、京北に飛ばされたようだ)とそれぞれ単身で35キロ、50キロに挑戦する2人であった。全員時間通り集まっていたものの、ドライバーがまだ前の帰寮者を送り届けてから帰っておらず、それを待つことになった。

8時過ぎ、ドライバーをしているピンク髪の友人が帰ってきた。1時間の仮眠しか取っていない中で既に2回帰寮者を送り届け、100キロ以上運転しヘロヘロであったが、我々のためにラストランをしてくれることになった。
フル稼働していたもう1人のドライバーの帰りを待って、朝9時前にようやく熊野寮を出発!帰寮開始前に疲労困憊のドライバーが事故って死ぬんちゃうかと心配しながら。

ドライバー 「お!おもろいスタート地点残ってるやん!」
びらきち 「なにそれ不穏すぎる、京北は嫌だ」

ドライバーの愛車レモンハート号には、私とわーつの他に、単身で参加する2人も乗り込んでいた。
到着地点が分からないよう目隠ししながら進んだせいで、35キロコースの方は盛大に車酔いをし、フラフラしながら下車。予定地点より少し手前、滋賀県の畑のど真ん中で帰寮スタート。大丈夫だったんかなあ……。

もう1人は竜王の山の上の公園で降ろされていた(彼は無事帰還した模様、すごい!)。さてさて、いよいよ我々の番。いったいどんなところに置いていかれるのか!

いざ、出発!

3.エクストリームドライブ


端的に言います。事故りました。

本当に事故った。ただ、ドライバーに過失はない。

畑を突っ切る細い道で、対向車が来たので徐行しつつ寄せて車を止めたドライバー。一方でスピードを緩めることなく突っ込んでくる対向車のおばちゃん。

ゴンッ

「あ、やりやがった!」

レモンハート号のサイドミラーは、対向車にぶつけられ、無惨にも鏡板が吹き飛んでいた。ミラーを動かす音もなんだかおかしい。どう見ても過失割合0:10の物損事故。
ぶつけた側の車から降りてきたおじいちゃんは見るからにあわあわしていた。一方でうちのドライバーは至極冷静に警察に電話をかける。

「とりあえず警察呼びますね、事故処理してもらわないと保険下りないんですよ」

とおじいちゃんをなだめる余裕まである。警察という単語に硬くなった表情がそういうことかと少し緩む。速やかに警察を呼び保険の書類などを用意する、今年4度目の事故経験者であるドライバーの手際の良さには感心した。

百聞は一見にしかず。事故処理も実践に限る。

ドライバー 「あのポリ、俺を事故初心者扱いしやがって」
びらきち 「いや事故慣れしてるほうがおかしいから」

4.タイムリミット

「これだから事故初心者は手際が悪くて困る」

というドライバーの愚痴を聞きながら、事故処理を終え運転再開。この時点で11時半近く、かなり時間が遅くなってしまった。ドライバーの補助でついてきた、帰寮の運営さんがやけに時間を気にしている。詳しいことを言うとヒントになるので理由は言いません、と言われたが、マジで検討がつかない。

――――――山道を(猛スピードで)抜けると、
                    そこは船着場であった――――――


運営さんが私に1000円札を渡し、人が並んでいる方を示す。

「あの船に乗ってください」

びらきち・わーつ 「「!?!?!?!?」」

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船には「おきしま通船」とあった。堀切港と沖島を結ぶ船であることだけはかろうじて分かったが、両方聞き覚えがない地名である。今自分たちがいる場所が沖島なのか、堀切港であるのか、分からないがもう出るところだったのでとにかく船に乗り込んだ。

「行ってらっしゃい〜!」

と2人に手を振られ、船の中で混乱した頭を整理する私とわーつ。どうやら先程いたのが堀切港で、我々は沖島とやらに向かっているらしい。
運賃は片道500円。手元には1000円。我々は2人組。

「これって……現地でお金か船を調達しろ……ってコト……!?」

↑絶望的なツイート。
帰寮後はじめてドライバーに会った時、笑顔で「おかえり!」って言われて、シバいたろかと。


約10分後、沖島の漁港に到着。買い物に行っていたらしき地元の人と、釣竿を持った人たちがわらわらと船を降りていく。
「帰りは14時か16時やなぁ!」
という声が聞こえた。通船の時刻表だ!

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↑案外本数がある通船の時刻表

なるほど。ドライバーたちが急いでいたのは出港時間に遅れそうだったからか。

彼らの「(帰寮開始地点として)おもろいとこ残ってた!」 「最初以外は道わかりやすいから大丈夫〜」というセリフにも合点がいった。確かに島を出たあとは琵琶湖沿いを辿るだけだが、おもろいの種類が斜め上すぎるやろ。誰やねんここにピン打った運営。

同時に、沖島が船でしか行き来のできない完全な離島であることも確認。ここが真の帰寮スタート地点ということね。泳いで帰るか?

びらきち 「……泳いで帰る?」
運営さん 「風邪ひくのでやめてください」
わーつ 「ダメな理由、風邪ひくからなん!?」


5.島民との交流

とにもかくにも早く島を出る手立てを見つけねばならない。なぜなら、

相棒のわーつには明日午後彼女とデートの予定がある

からだ。アホなんか?帰寮なめすぎやろ。堀切港に向かう車内で、明日紅葉を見に行くから日付変わるくらいには帰りたいという話を聞かされ、私は耳を疑った。ただのデートどころか、嵐山で紅葉!?死ぬほど歩いてまだ歩くんか!?

沖島に置き去りにされ、ようやくわーつも自らの愚かさに気が付いたようである。しかし、今更予定は変えられない。何としてでも河原町10:30集合に「デートできる格好で」間に合わせねばならない。楽しい寮祭が原因で、友人カップルの信頼関係にヒビが入っていいはずがないのだ。

閑話休題。

幸いにも我々は見知らぬ人間と臆せず話せるタイプである。コミュ障だったら島から出れずに死んでたな。コミュ力を信じての離島飛ばしだったんか?嬉しくねえ信頼〜〜〜〜〜!!

まずは漁港周辺にいる人に話しかけた。自らこのラベリングを持ち出すのは癪ではあるが、「おもろい京大」であることを隠さない方が話がスムーズだろうと考え、我々が京大の学生であること、寮祭の企画でお金を使わずに京都まで帰らねばならないことを漁港のおっちゃんに伝えた。

「熊野寮ってどっちや!中核派おるほうか?大学となんや揉めとるほうか?」

おっちゃん、詳しい。
私は入学するまで吉田寮以外知らなかった。

中核派おるほうですね〜と返しつつ何か手立てがないか聞く(熊野も当局と揉めとるやないかいというツッコミはご遠慮願う)。掃除でもなんでも働くので!と言ってみるものの、おみやげのつくだになどを作っているご婦人方は「給料出せる余裕ない!」と一蹴。面白がって話聞いてくれるおっちゃんも助ける気はゼロ。

「この島の上の方にある川から流れていけば琵琶湖疏水通って三条くらいにつくんちゃうか」

こりゃダメだ。この島の財政事情、厳しすぎて余所者にタダで施すなんて発想がない。離島において、収入源にならない余所者に慈悲はない。

雨かつ昼間であるせいで、漁船も動いていない。一隻だけ出港しようとする船があり、乗せてくださいと叫んだがあえなく敗北。いちばん現実的なアドバイスは、明朝漁に出る船に乗り込んで手伝いをし、ついでに対岸まで送ってもらうというものであった。
ぶっちゃけ、エクストリーム帰寮というコンテンツ的にこれはかなり美味しい展開である。が、明日まで待つなんて悠長なことは言ってらいられない。なによりもわーつがデートに間に合わない!!!!

ここで観光客から帰りの駄賃をむしり取……なんとか援助していただく方針に変更。まだ次の船まで1時間以上あるので、助ける気ゼロのおっちゃんの勧めで世界で唯一の淡水島にある教育機関だという沖島小学校を見に行った。土曜日なので誰もいなかったけど。

長居する場所でもなかったこと、雨が降ってきて寒いこともあり我々は一旦引き返すことにした。その時、子連れの神様に出会う。

「あ〜!さっき港で話聞こえてたよ〜!!いやぁ〜!お金使わずに京大の寮まで帰るんよな?若い時にしか出来んやつやな〜!ええなあ〜〜! 」

4歳と6歳くらいの息子を連れた見るからに人の良さそうなぱっぱである。間違いない、これが最大にして最後のチャンスだ。

改めてエクストリーム帰寮の趣旨をちゃんと説明する。

「お金使っちゃダメって、誰かから貰ったやつもあかんのん?いいなら全然あげるよ!ほい!頑張って!」

と1000円札を手渡してくださった。

最初の難所、沖島からの脱出、(ほぼ)達成!!

話し始めて1分くらいで船賃を入手できてしまった。ぱぱさんの人柄の良さに恐れ入るばかり。あんな大人になりたい。勉強などで相談したいこととかあれば、それくらいしかできませんが、いつでも連絡くださいとお礼代わりにLINEを交換した。

「うちの子らも京大行けるくらいになってほしいね〜!多分帰りの船も一緒やろうし、またあとでな!」

人って、あったかいなあ。

14時の船までかなり時間はあったが、雨が降っていて寒い。体力温存を選んだ。まだ「徒歩での」帰寮は始まってすらいない。観光に足は伸ばさず、のんびり船を待った。

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さよなら沖島!二度と来ねえ!

14時15分、本土に帰還。改めて船賃をくれた親子にお礼を言い、ようやく真の帰寮が始まった!!!!

ぱぱ 「京大の寮って、よく警察来るほうではないよな?」
びらきち 「警察来るとこの寮ですね………」

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