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私にとってのガンダムは0083だった

君は「ガンダム」を知っているだろうか。
私はまだ、ほんの少ししかガンダムを知らない。

人間は2種類に大別できる。
ガンダムを知っている人間と、まだ知らない人間だ。

しかし、大元は一つだ。
かつては誰一人としてガンダムを知らなかった。
今どれだけ深くガンダムを知っている人間でも、かつてはガンダムを知らなかったのだ。

「ガンダム」を知らなかった私が「ガンダム」を認知するに至った経緯について聞いて欲しい。
なるべくネタバレには配慮するようにするが、劇中の台詞を一つ引用させていただくので未視聴の方はご注意を。

私が生まれた頃には、既に「ガンダム」は存在し、世を席捲していた。
正しくは、アムロ・レイという一人の少年があまりにも広く認知されていたのだ。
幼少期の私にとって、「ガンダム」はアムロ・レイだった。この、いつも頬を叩かれている少年の顔を私は「ガンダム」という記号に結び付けていたのだ。
アムロ・レイの駆る白いモビルスーツ「RX-78-2」は、当時の私にとってガンダムではなかった。

高校生の頃、私はふと「ガンダム」に触れてみようと思い立った。
「ガンダム」を知らない人間から、「ガンダム」を知っている人間になりたかったのだ。

その頃には既に「ガンダム」はいくつも生み出されていて、何を観れば「ガンダム」を知っていることになるのか、私には分からなかった。
ファースト(初代ガンダム)を観なければならないのは分かる。
でも、ファーストは私にとって「ガンダム」ではなかった。
上手く言語化できないが、例えばモビルスーツについてのみ言えば、ファーストにおけるガンダム「RX-78-2」は、私にとって「ガンダム」ではなく、「昔のガンダム」だったのだ。
私は「ガンダム」が見たかった。
ファーストもΖもΖΖも、その頃放送していた「最近のガンダム」でさえも、私にとっては「ガンダム」ではなかった。

しかし、そんな「ガンダム」を追い求める日々の中、ふと手に取った「0083」こと『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』は、私にとって紛れもなく「ガンダム」そのものだった。
0083劇中で本作の主人公コウ・ウラキが最初に搭乗する「ガンダム」、ガンダム試作1号機は、私が思い描く「ガンダム」そのものだった。
何故かは分からない。
幼少期、無意識にガンダム試作1号機を目にする機会があったのかもしれない。
はたまた、単純に0083の作画、絵柄が私の感覚にマッチしただけなのかもしれない。
いずれにせよ、私は「ガンダム」に巡り合った。

0083は、一言で言えば「ままならない」話だ。
劇中での分かりやすい成功やハッピーエンド(少なくとも本作内での)は、視聴者からすれば感情移入がしにくい、上層部のおっさん達が持っていく。
では、登場人物たちの空回りを露悪的に描いた作品なのかと言われれば、そうではない。
何というか、どこまでもリアルな作品なのだ。
単純な勧善懲悪であれば主人公に適度なピンチが与えられて絶妙に回避できるのだけれど、残念ながら双方に主人公気質の人物が所属している本作では、お互いにとって絶対に起こってはならない事態が頻繁に起こるし、絶対に成功させてはならない作戦がしばしば成功してしまう。
その辺りのままならなさから来る、胸を締め付けるような登場人物たちの心の動きや、時に土のにおいが香ってくるほどに泥臭く、時に息をのむほど美麗な映像が、私を惹きつけてやまないのだ。


0083の好きなところを挙げればキリがないが、以下に最も印象に残っている台詞を紹介したい。


「阻止限界点を超えた」


これである。
0083の時点で、主人公サイド(連邦)は「勝者」の立場であり、平和、権勢の維持が勝利条件となっている。
本作はこれに対して敵側(と断じられるほど単純な対立構造ではないのも本作の魅力の一つではあるが)のジオン軍残党が連邦の勢力を脅かす、というお話であるが、作中では主人公サイドからすれば「絶対に成功させてはいけない作戦」がジオン残党軍によって、「複数回」行われる。未視聴の方についてはその目で結末を確かめて欲しいところであるが、そのうち一つの作戦を阻止しようと奮戦する中で、主人公のコウ・ウラキの口から洩れた言葉が上の「阻止限界点を超えた」である。
叫ぶわけではなく、しかし拒絶に満ちた声音で、現状を自らに飲み込ませるように言う。

自分にとって許容しがたく、回避するために持てる限りのリソースを割いていた最悪の事態が結果として起きてしまった時、それでもその事態を飲み込まなければならなくなった時、人間はこうなるのかもしれないな、と思わせる。
是非聞いて欲しい。

私は「ガンダム」が好きだ。どのガンダムも好きだ。
そして、私にとって最もガンダムめいた「ガンダム」は0083だった。

私はガンダムの話をするのが好きだ。
君とガンダムの話がしたいし、溢れんばかりの、君にとっての「ガンダム」を聞きたいと思っている。

君は「ガンダム」を知っているだろうか。
私はまだ、ほんの少ししかガンダムを知らない。

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