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オリジン・ストーリー │ 貧乏万斎

人間の肉体を手に入れた生体電池は予期せぬ訪問者に招かれ、別の世界で静かに暮らしていた。しかしその待遇は生体電池を監視する口実で、生体電池を封印すべしとの意見が勝っていた現れだった。生体電池は何んとなしにその雰囲気を感じ取っていたので、出来るだけ騒ぎを起こさぬよう大人しくしていた。

だがその静寂を打ち破ったのは一人の老婆だった。予期せぬ訪問者とは風貌が違い、見た目こそ生体電池と違わないものの、誰に対しても態度が横柄で老獪だった。老婆は予期せぬ訪問者の制止を無視して生体電池を見つけると、生体電池を拉致していった。

生体電池が目を覚ますと、見慣れない星空が広がっていた。紫色の宇宙の下にでこぼこした灰色の大地、小さなクレーターの中に生体電池は横たわっている。そこは彗星と呼ばれる出来損ないの星の上だった。生体電池の記憶は自分の鳩尾に老婆の拳がめり込んだ辺りからなかった。

「なんだい、やっと起きたのかい」その声の主が生体電池を向く。「世界を滅ぼしたのがどんな悪党かと思ったが、とんだ小僧っ子じゃないか」くつくつと笑う老婆を見て生体電池は心の中で引いた。今までに見たことのない性格の老婆だったのと、性格が合わないだろうと思ったからだった。

「どうして私を連れ出したのですか?」「連中がお前の処分に困っていたからさ。みすみす閉じ込めるなら、いっそのことあたしが引導を渡してやろうと思ってね」生体電池は驚いたが、処分を受ける覚悟は出来ていた。「だがお前は思っていたより素直そうだ、ヘタレではあるがね。だからあたしがお前の器を磨いてやることにしたのさ、もう二度と暴走しないようにね」

それから生体電池は老婆の話を素直に聞いた。かつて老婆は勇猛な戦士であったこと、生体電池が世界を滅ぼしたのは故意ではないにしろ、生成したエネルギーを抑えきれる肉体(器)を持つべきだったこと、その為には健全な肉体、精神、魂を鍛え上げる必要があることだった。そして罪滅ぼしの旅をすることは、予期せぬ訪問者から生かされる唯一の方法ということだった。

「地獄を見ることになるよ」老婆の言葉は生体電池を竦ませたが、生体電池がその申し出を断ることはなかった。そのことが意外だったようで老婆が笑うと生体電池も頬を緩ませた。しかしすぐにその顔が引きつることになる。

老婆から科せられた訓練は常に死と隣り合わせだった。巨大な岩の塊を持たせながら星を一周させられたり、強い重力下の中での鍛錬や度胸をつける為に山頂から突き落とされたりもした。中でも一番辛かったのは老婆との組手だった。老婆は本気になると若返り、全盛期の実力で生体電池をこれでもかと痛めつけた。生体電池は悲鳴を上げはしたが、決して諦めなかった。

生体電池は闘争に対する意欲が少なかったので、老婆は「闘争の種」という活力のもとを食べさせた。これが後にタタカイダイスキーの原因になった。それから生体電池は戦うことの喜びを感じ始め、生存能力、もとい戦闘能力を上げていった。老婆に敵うことは一度もなかったが、それでも以前とは比較にならない力量に成長した。

こうして生体電池は肉体、精神、魂を向上させ、人格もはっきりと宿すことになった。老婆がひとまず考えていた存在になると、最後に質素倹約を楽しんで生きるよう「貧乏 万斎」という名を与えられた。

そして白い衣から青い衣を渡され、個を手に入れた生体電池、貧乏万斎は老婆のもとを離れ、様々な世界を放浪する世直しの旅に出た。

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