美術を学ぶための100冊、選書しました。

『Histoire de l'art du Japon』1900

第5回パリ万博で各国要人や学者に配布された日本が公式に初めてまとめた日本美術史。後に『稿本日本帝国美術略史』として国内向けに出版された。

木下直之『写真画論 写真と絵画の結婚』岩波書店 1996

写真という不思議な技術が日本に登場したとき、それは旧来の絵画を横目に見ながら、さまざまなパフォーマンスを演じた。正当な美術史に組み込まれなかった作家たちは、視覚芸術や社会をどのように変貌させたのだろうか。

グリゼルダ・ポロック『視線と差異 フェミニズムで読む美術史』新水社 1998

西洋近代美術の歴史が記述・記録されるなかで強力に働いている規範に含まれる偏りを明らかにした論争の書であり、フェミニストによる文化研究の理論的提起。

北原恵『アート・アクティヴィズム』インパクト出版会 1999

美術作品や広告などのヴィジュアル・カルチャーにおける女性の表象をフェミニズムの立場から分析し、ゲリラ・ガールズ、バーバラ・クルーガー、シューリー・チェンらによる抵抗・転覆・浮浪の表現について考察。

ジャポニスム学会『ジャポニスム入門』思文閣出版 2000

ジャポニスムとは、西洋の芸術の諸分野にわたって与えた日本美術の影響をいう。19世紀後半から20世紀前半にかけて、西洋のほぼ全域にわたった、ジャポニスムの諸相を国別・分野別にやさしく解説。

ジョン・A・ウォーカー 他『ヴィジュアル・カルチャー入門 美術史を超えるための方法論』晃洋書房 2001

イギリスやアメリカ発祥のヴィジュアル・カルチャー・スタディーズを、概説的に紹介した入門書。

ルーロフ・ファン・ストラーテン『イコノグラフィー入門』 ブリュッケ 2002

イコノグラフィー(図像学)の歴史、理論、実践例を平易に解説した入門書。

ロバート・S・ネルソン 他『美術史を語る言葉 22の理論と実践』ブリュッケ 2002

現代の美術史学が用いる22の批評用語を論評し、具体的な美術作品を解釈する。美術史のなかで理論について言葉で語り合うことを促し、他の分野の批評理論と美術史の間に架け橋を作る試み。

エルヴィン・パノフスキー『イコノロジー研究〈上〉』筑摩書房 2002

芸術作品を読み解き、その背景にある意味内容と歴史的意識を探究していくイコノロジー。美術史学という枠を越え、人文諸科学の基本的手法として広く親しまれてきた記念碑的名著。

ヴァーノン・ハイド マイナー『美術史の歴史』ブリュッケ 2003

プラトン、アリストテレスに代表される古代の理論から、現代最先端の美術理論にいたるまで「美術史」はどのような学問であったのかをわかりやすく解説する。欧米で好評を得た、最良の「美術史」入門書。

ケネス・クラーク『ザ・ヌード』筑摩書房 2004

裸体像は古代ギリシアで成立後、西欧の美術において理想的な造形表現とされ、今日に及んでいる。時代や文化を越えて胸を打つ優れた肉体表現を取り上げ、その芸術性を論じる。

辻惟雄『奇想の系譜』筑摩書房 2004

奇矯で幻想的なイメージの表出を特徴とする絵師たちを「奇想」という言葉で定義して、“異端”ではなく“主流”の前衛と再評価する。絵画史を書き換える画期的著作としてセンセーションを巻き起こし、若冲ら再評価の火付け役となった名著。

エルヴィン・パノフスキー『イデア』平凡社 2014

芸術を否定したプラトンの「イデア」概念が、中世・ルネサンス・マニエリスム・古典主義と、様々に姿を変えながら、ヨーロッパの芸術理念の中心を占めるに至る芸術思想のドラマを描く。

ジョナサン クレーリー『観察者の系譜 視覚空間の変容とモダニティ』以文社 2005

視覚の近代の成立に決定的な役割を果たした<観察者の誕生>。この誕生の諸相をさまざまな視覚器具、絵画、人間諸科学の大胆かつ繊細な分析をとおして明らかにする。

ジョナサン・クレーリー『知覚の宙吊り 注意、スペクタクル、近代文化』平凡社 2005

注意する知覚がはらむパラドクシカルな様態を、美術史、思想史、科学・技術史などの学問分野を越境しながら、近代の転換期を画すマネ、スーラ、セザンヌらの作品のなかに読み取いてゆく。

クレメント・グリーンバーグ『グリーンバーグ批評選集』勁草書房 2005

マネ以降の美術のモダニズムを歴史的洞察を通して理論化し、ポロックらと共に抽象表現主義をつくり上げた20世紀を代表する美術批評家の主論文、エッセイ集。

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお』平凡社 2006

イメージの資料性を頑なに否定する者たちに抗し、証言や写真がどこかへ届くはずだと信じた希望なき人びとへの応答=責任として、不完全な断片から1944年夏の絶滅の歴史を再構成せんとする強靭な意志。

佐藤道信『美術のアイデンティティー』吉川弘文館 2007

美術は誰のため、何のためにつくられ、どこに向かおうとしているのか。「美術」「美術史」「人間」の現在とアイデンティティーを捉え直す。

ケネス・クラーク『風景画論』筑摩書房 2007

中世末期から現代にいたるまでの画家たちの心象と製作意図を読み解き、風景画の変遷をたどる。西洋美術史の碩学がさまざまな画家や作品を縦横に語りつくし、西洋美術の奥底に潜む、信仰心、欲望、想像力を浮き彫りにした名著。

今橋映子『フォト・リテラシー』中公新書 2008

カルティエ=ブレッソンにまつわる多くの誤解や神話を起点に、写真が客観的事実を捉えているという思い込みを解きほぐしてゆく。フォトジャーナリズムの歴史からその倫理的問題までをたどり、写真へ向き合う心構えを論じる。

ヴィクトル・I・ストイキツァ『影の歴史』平凡社 2008

絵画の歴史は事物の影をなぞることから始まったが、美術史学が影の歴史を主題的に扱うことはなかった。「影」は文字どおり絵画の陰画であり、それはもうひとつの絵画史を形成する。

小田部胤久『西洋美学史』東京大学出版会 2009

古代から現代にいたるまで、西洋の思考のうちに芸術はどのように捉えられてきたのか。感性や美との関わりをふまえつつ、芸術の理念が変化してきた歴史を大胆に描きだす。アートや美について考えるための基本書。

エルヴィン・パノフスキー『〈象徴形式〉としての遠近法』筑摩書房 2009

合理的な空間を表現する透視図法は、ある時代の精神が求めたシンボル的な制度、教義的な形式だった。古代、ルネサンス、近代の展開を追いながら、時代の空間観・世界観を、人間の精神史と対応させる。

並木誠士『絵画の変 日本美術の絢爛たる開花』中央公論新社 2009

秀吉の活躍した16世紀、日本絵画は何を対象にして、どう描くかという表現の問題だけではなく、絵画を鑑賞する場など、さまざまな変化があった。それを「絵画の変」と捉えて、実態を浮かび上がらせていく。

長岡龍作『日本の仏像―飛鳥・白鳳・天平の祈りと美』中央公論新社 2009

釈迦に会いたい。そう願い、仏を現世に再現しようと、古来、人々は心を砕いてきた。仏像を造り、祈った人々に注目し、仏像の表情と荘厳を読み解く。日本の仏像の起源、祈りと美の原風景をたずねて。

木下直之『美術という見世物』講談社 2010

写真油絵、生人形、パノラマ館、石膏細工、西洋目鏡。官による「美術」の指導と民の「見世物」への欲望が交錯した幕末・明治。西欧近代と江戸の伝統の衝突が生んだ「奇妙な果実」を検証し、その豊饒な世界を再評価する。

黒ダライ児『肉体のアナーキズム』grambooks 2010

これまで忘れられ相互に無関係に見えていた1960年代の日本におけるパフォーマンスの実践が、美術のみならず日常生活における制度化への抵抗を継承していった事実を明らかにし、戦後日本前衛美術史の欠落を補填する。

岡田温司『半透明の美学』岩波書店 2010

どっちつかずの両義性にこそ、従来の窮屈な芸術観を乗りこえる豊かな可能性が潜んでいるとしたら? アリストテレス、聖書、ダンテ、ドゥルーズらの言葉と数々の芸術作品との交差点から、知られざる「半透明の美学」が姿を現す。

シンシア・フリーランド『でも、これがアートなの? 芸術理論入門』ブリュッケ 2012

21世紀の美術に何が待ち受けているのか。美学的な観点から、西洋の芸術表現と理論の枠組みとを考察。軽妙な語り口で、時代ごとの具体的な作例と理論の関係性をわかりやすく解説。

木下直之『股間若衆 男の裸は芸術か』新潮社、2012

「曖昧模っ糊り」の謎を縦横無尽に追求する本邦初、前代未聞の研究書!?

足立元『前衛の遺伝子 アナキズムから戦後美術へ』ブリュッケ 2012

沸騰する前衛芸術!あるいは自壊/再生する運命について。近代日本の芸術史に伏流するもの。

池上英洋『西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書) 』筑摩書房 2012

名画にこめられた豊かなメッセージを読み解き、絵画鑑賞をもっと楽しもう。ヨーロッパの中高生も学ぶ、確かなメソッドをベースにした新しい西洋美術史の教室へようこそ。

山口晃『ヘンな日本美術史』祥伝社 2012

自分が描いたことにこだわらなかった「鳥獣戯画」の作者たち。グーグルマップに負けない「洛中洛外図」の空間性。「彦根屏風」など、デッサンなんかクソくらえと云わんばかりのヘンな絵の数々。絵描きの視点から見える日本美術史

若桑みどり『イメージの歴史』筑摩書房 2013

ポスト・コロニアル理論とジェンダー論など、絵画と社会のかかわりや画像の解釈方法などの理論を踏まえ、さらに西欧文化が繰り返し描いてきたイメージにメスを入れ、その精神的・社会的な背景を明らかにする。

ロバート・ステッカー『分析美学入門』勁草書房 2013

美しいとはどういうことか? 芸術とは? 芸術作品とは何か? 美学と芸術哲学についてわかりやすく解説する本邦初の入門書。

遠山公一『西洋絵画の歴史 1 ルネサンスの驚愕』 小学館 2013

遠近法や明暗法など、西洋絵画の根幹をなす画期的な表現技法が生み出されたルネサンス期。絵画とそれが展示される場所との関わりに注目することで、絵画が担った機能や社会的・政治的・宗教的な意味にまで迫る。

シルヴァン・バーネット『美術を書く』東京美術 2014

美術に関する文章を書く為の技を伝授。アメリカで美術のための文章読本の決定版として版を重ねる “A Short Guide to Writing About Art”の日本語版。文系の学生から美術ブロガーまで、美術を言葉で語るための必読の書。

北澤憲昭・森 仁史 他『美術の日本近現代史』東京美術 2014

美術史研究の制度論的転回。その成果の集大成。日本社会における美術の展開を、幕末から2010年代に至るまで制度論を軸に編纂した、美術の日本近現代史。

岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』文藝春秋 2014

フィレンツェのサンタ・マリア大聖堂を創造したブルネレスキ、ブランカッチ礼拝堂壁画を描いたマサッチオ…。ルネサンスの天才たちの作品の精緻な分析を通じて、芸術の秘密を明らかにする。

金沢百枝『ロマネスク美術革命』新潮社 2015

古代ギリシア・ローマやルネサンスだけがスタンダードではない。ロマネスク美術こそは、ヨーロッパ美術を大きく変える「革命」だった。知識より感情を、写実より形の自由を優先する新たな表現が、各地でいっせいに花ひらく。

ハンス ベルティンク『イメージ人類学』平凡社 2015

美術史学を広くイメージの学として構想し直した理論的主著。美術作品、考古学、映画や広告、イメージの全てを対象とする学の誕生。

池上裕子『越境と覇権』三元社 2015

1964年のヴェネツィア・ビエンナーレでアメリカ人初の大賞を受賞し、世界的名声を得たラウシェンバーグ。彼の越境性に着目し、戦後の国際美術シーンにおけるパリからニューヨークへの覇権の移行を、世界美術史の見地から検証する。

吉良智子『女性画家たちの戦争』 平凡社 2015

第二次世界大戦中、女性画家たちは戦争を描いた。長谷川春子、桂ゆき、三岸節子、そして女性画家集団・女流美術家奉公隊らによる作品の数々。激動の時代を生き抜いた女性たちの証を語り継ぐ、もうひとつの美術史。

針生一郎(編)『改訂版 戦争と美術 1937-1945』国書刊行会 2016

長らく美術史のタブーだったアジア太平洋戦争期の美術を総括。研究者と批評家による、国家と美術の結びつき、戦後との繋がりを踏まえた論考や解説を収録。一度はめくってみたい美術画集。

圀府寺 司『ユダヤ人と近代美術』光文社 2016

ベラスケス、ピサロ、シャガール、ロスコ、ニューマン……。有史以来、絵を<描く>ことも<見る>ことも禁じてきた民の<美術をめぐる静かな闘争>の物語。

クレア・ビショップ『人工地獄 現代アートと観客の政治学』フィルムアート社 2016

アートと社会の関係性はいかに変化してきたか? 20世紀以降の芸術史において見逃されてきた「参加」の系譜を再編集し、現代アートの最新動向を批判的に読解する。

加藤磨珠枝 他『西洋美術の歴史2 中世I キリスト教美術の誕生とビザンティン世界』中央公論新社 2016

初期中世の美術は、地中海世界の伝統とケルト、ゲルマン、オリエントの躍動的な出会いであった。キリスト教美術とビザンティン美術の誕生をめぐる。

大野芳材 他『西洋美術の歴史6 17~18世紀 バロックからロココへ、華麗なる展開』中央公論新社 2016

17世紀初頭から18世紀中頃にかけての西洋美術は、史上もっとも壮麗な、見る者に圧倒的な力で訴えかけるものであった。

三浦篤『西洋絵画の歴史3 近代から現代へと続く問いかけ』小学館 2016

近代文明が絵画にもたらした影響など、絵画とその「外側」との関係に着目する一方で、抽象と超越性、引用とコラージュ、絵画の枠組みそのものを問いかける絵画など、絵画の「内側」にも注目。

芳賀京子・芳賀満『西洋美術の歴史1 古代 ギリシアとローマ、美の曙光』中央公論新社 2017

芸術における理想とされる古代の美術だが、当時にあっては信仰の対象であり、政治の一部であった。西洋美術の歴史がここに始まる。

田中正之(編)『現代アート10講』武野美術大学出版局 2017

アートは私たちの価値観を攪乱し、視座の見直しをせまる。ある表現の出現を考えることが、社会が抱える問題の本質をえぐり出す。デュシャンから3.11以降の日本の美術まで、10のアプローチによる現代アート入門。

ボリス・グロイス『アート・パワー』現代企画室 2017

近現代芸術は、力の均衡を理想として、自らに向けられた偶像破壊的な身振りを流用し、芸術制作の新たな様式とすることで力を示してきた。プロパガンダとしての芸術に目を向ける美術批評家ボリス・グロイスのエッセイ集。

アーサー・C・ダントー『芸術の終焉のあと 現代芸術と歴史の境界』三元社 2017

巨匠のナラティヴによって芸術を定義しうる時代が終わったポスト・ヒストリカルな現代に可能な美術評論の原理とは? 芸術の哲学的歴史観を踏まえ、「芸術とはなにか」を探究する。

木俣元一 他『西洋美術の歴史3 中世II ロマネスクとゴシックの宇宙』中央公論新社 2017

中世においてもっとも活発に芸術が生み出されたロマネスク・ゴシック期。キリスト教に驚くべきエネルギーを注ぎ込んだ人々の当時のまなざしを再現する。

小佐野重利 他『西洋美術の歴史 4 ルネサンスI 百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』中央公論新社 2017

フィレンツェやヴェネツィアをはじめ、各都市で多彩な才能が花開き、盛期ルネサンスをむかえる。三巨匠の他国への、あるいは後世への影響もみていく。

秋山聰 他『西洋美術の歴史5 ルネサンスII 北方の覚醒、自意識と自然表現』中央公論新社 2017

ルネサンスの芸術が華々しい頃、アルプスの北側でも、それに勝るとも劣らない美術が実を結んでいた。独自な着想と南北の影響関係があいまって、精緻かつ大胆な美術が展開する。

尾関幸 他『西洋美術の歴史7 19世紀 - 近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ』

市民社会が成立し科学技術が進歩した19世紀。美の基準は、伝統的価値観から「今ここ」の多様性を認める近代的な価値観へ移行する。常に新しく独創性を追求する、美の永久革命がはじまる。

井口壽乃 他『西洋美術の歴史8 20世紀 越境する現代美術』中央公論新社 2017

20世紀は、抽象美術の登場でその変革を加速させた。政治と美術が連動し、社会における芸術の意味と価値が問い直されるなか、身体や新たなメディアを用いた試みがさまざまに展開する。

高橋裕子『西洋絵画の歴史2 バロック・ロココの革新』小学館 2017

宗教改革と対抗宗教改革、市民社会の隆盛などヨーロッパ社会を揺るがす大きな時代の流れの中で、風俗画や風景画、静物画などのジャンルが生まれ、絵画がもつ意味や役割が広がるとともに細分化されていく。

中村るい『ギリシャ美術史入門』 三元社 2017

神々と英雄と人間たちが織りなす造形世界の魅力。
すべての時代の芸術家にとって、参照すべき古典であり乗り越えるべき規範でもあるギリシャ美術。その全体像をやさしく学べる入門書。

荒木慎也『石膏デッサンの100年 石膏像から学ぶ美術教育史』アートダイバー 改訂版2018

美大受験生たちの血と汗と涙の結晶、「石膏デッサン」とは何だったのか? その受容から普及、さらに賛否それぞれの主張を検討し、その存在意義を問う、石膏像を巡る苦闘の歴史。

平芳幸浩『マルセル・デュシャンとは何か』河出書房新社 2018

マルセル・デュシャンっていったい何なんだ。「現代アートの元祖」といわれながらも、何を考えているのだかよくわからないアーティスト。その作品と人生、そして後世への影響が手に取るようにわかる入門書

宮崎克己『ジャポニスム 流行としての「日本」』講談社現代新書 2018

19世紀後半に西洋で起こった日本ブームは、新たな美意識へとヨーロッパ人たちを開眼させた。「19世紀のクールジャパン」とも言うべきインパクトを、美術の分野に止まらず、幅広い文化現象として捉え直す。

田中修二『近代日本彫刻史』国書刊行会 2018

彫刻という領域を工芸的な造形なども含めて広く考察し、江戸時代から明治期、および昭和戦前・戦中期から戦後期という大きな時代の変化を連続的にとらえる視点で包括的に記述する近代日本彫刻史。

古田亮『日本画とは何だったのか(角川選書)』KADOKAWA 2018

伝統絵画と西洋画の接触が産み落とした、近代日本画は明治以後の画家たちに、近代とは、西洋とは、国家とは何かという不断の問いを突きつけている。その成り立ちと多様性を時代ごとの様式の変遷から描ききる。

塚原史『ダダイズム』岩波書店 2018

あらゆる既成の価値観と芸術に抗して始まった芸術運動「ダダ」。パリ、ベルリン、ニューヨーク、東欧、南米、日本へと展開していく広がりをグローバルな視点で捉えなおし、その多様性と越境性と、そこに込められた現代性を再考する。

岡崎乾二郎『抽象の力』亜紀書房 2018

キュビスム以降の芸術の展開の核心にあったのは唯物論である。戦後美術史の不分明を晴らし、現在こそ、その力を発揮するはずの抽象芸術の可能性を明らかにする。

宮下規久朗『聖と俗』岩波書店 2018

宗教改革がもたらした西洋美術の大断層と、その亀裂に浸透していった美術家たちの水脈をたどる。権力と野合したバロック芸術隆盛の一方で、日本など欧州の外に流布された祈りの表象型はどのように変容し、現在にも継承されていったのか。

打林俊『写真の物語』森話社 2019

写真発明の前史から現代までの400年の歴史を、発明競争、技法の開発、大衆の欲望、美術やメディアとの相互関係といった観点からたどり、「モノ」としての写真とその発展をめぐる人々の物語を描き出す、新たな写真史。

エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』河出書房新社 2019

世界でもっとも広く読まれている美術書。美術史を原始の洞窟壁画から現代の実験的な芸術にいたるまで壮大なスケールで見通し、率直かつシンプルな文体で、一つの物語としてくっきりと浮かび上がらせる。

秋田麻早子『絵を見る技術』朝日出版社 2019

同じ絵を見ても、プロと素人では、見ているところが違っていた!? 知識がなくても、目の前の絵画を「自分の目で見る」、そして「良し悪しを判断する」ことは、できるんです。謎を解くカギは、ぜんぶ絵の中にあります。

中嶋泉『アンチ・アクション 日本戦後絵画と女性画家』ブリュッケ 2019

草間彌生、田中敦子、福島秀子。三人の女性画家の画業をたどり、戦後美術史と美術運動の問題点を探りだし、「女性画家もいる」美術史を構築する。

足立元『裏切られた美術 表現者たちの転向と挫折1910‐1960』ブリュッケ 2019

戦前から戦後にかけての50年間、美術・漫画・記録映画と社会運動の危険な交わり。

古田亮 (編)『教養の日本美術史』ミネルヴァ書房 2019

縄文から現代までの日本美術を、時代背景、様式の特徴など各専門家が詳しく論じる。「彫刻」「書」「建築」「やきもの」「浮世絵」などジャンルごとの通史も織り交ぜ、日本美術史を立体的に浮かび上がらせる入門書。

洪 善杓『韓国近代美術史 甲午改革から1950年代まで』東京大学出版会 2019

「西洋美術の移植」という西洋美術研究に基づく見方ではなく、「伝統と近代の統合」という視点から新たな韓国美術史を拓いた第一人者による通史。韓国社会の歴史のなかでの美術史が学べる概説書。

山本浩貴『現代美術史』中公新書 2019

20世紀以降、芸術概念は溶解し、定義や可能性を拡張した新しい潮流が続々と生まれている。美術は現代をいかに映し、何を投げかけたか。難解と思われがちな現代美術を、社会との関わりから意義づける。

佐々木健一『美学への招待 増補版』中公新書 2019

20世紀の前衛美術は「美」を否定し、藝術を大きく揺さぶった。さらに現代では複製がオリジナル以上に影響力を持つようになった。こうした藝術がいま突きつけられている課題を、素朴な疑問を手がかりに解きほぐす美学入門。

ジュリアン・ベル『絵とはなにか』中央公論新社 2019

古代から2000年代の現代アートまで、多数のカラー図版で具体例を挙げながら、近代に大きく変化した芸術の価値観を問い直す。根源的だからこそ新鮮な絵の見方を示す、刺激に満ちた芸術思想史。

ロザリンド・クラウス『視覚的無意識』月曜社 2019

モダニズムの眼が抑圧している欲望とはなにか? エルンスト、デュシャン、ジャコメッティ、ベルメール、ピカソ、ポロックらの作品のなかに近代の視を土台から蝕むものたちを見出す試み。

ハル・フォスター 他『図鑑 1900年以後の芸術』 東京書籍 2019

キュビズム、バウハウス、抽象表現主義、ミニマリズムなどの運動・動向、モダニズム、ポストモダニズム、ポストコロニアリズムなどの思潮・思想を800を超える作品図版とともに取り上げながら明快に論じる。

松井裕美『キュビスム芸術史』 名古屋大学出版会 2019

作品においても、理論や批評の言説においても、多面的かつ国際的な拡がりをもつキュビスム。その誕生・深化から、二度の世界大戦を経て、歴史的評価の確立へと至る展開を、美術と〈現実〉との関係を軸に描ききる。

津上英輔『危険な「美学」』集英社インターナショナル 2019

芸術作品が政治利用されることの危険についてはあらゆる本で論じられてきたが、本書は「美」あるいはそれを感じる感性そのものに潜む危険を解き明かす。「美学」という学問の画期的な実践編。

エリック・R・カンデル『なぜ脳はアートがわかるのか 』青土社 2019

絵画を見て「よい」と思うとき、脳では何が起きているのか。複雑怪奇な現代アートが「わかる」とはどういうことか。ノーベル賞を受賞したエリック・R・カンデルが人間の美的体験のメカニズムを解き明かす。

前川修『イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編』東京大学出版会 2019

ベンヤミン、シャーカフスキー、バッチェン、バルト。これまで写真について紡がれた代表的な言説をたどり直し、そこに伏在する二項対立を撹乱し「逆撫で」することで見えてくる写真理論の新たな相貌。

デイヴィッド・コッティントン『現代アート入門』 名古屋大学出版会 2020

なぜこれがアートなの? 注目を集めると同時に、当惑や批判を巻き起こし続ける現代アート。私たちは何を経験しているのか。「モダン」な社会や制度、メディアとの関係から現代美術の挑戦を読み解く。

北澤憲昭『眼の神殿 「美術」受容史ノート』 筑摩書房 2020

明治洋画の開拓者・高橋由一が構想した「螺旋展画閣」。時代の力動を体現した構想は、「美術」の生成と軌を一にしていた。美術をめぐる諸制度の成立、定着の過程を分析し、美術史研究を一変させた衝撃の書。

小田部 胤久『美学』東京大学出版会 2020

美学は18世紀半ばに作られた哲学的学問であり、感性・芸術・美という主題が収斂するところに成立した。美学の古典といえるカント『判断力批判』を題材にし、そこでの重要なテーマをめぐって、古代から現代までの美学史を概説する。

美学会『美学の事典』丸善出版 2020

あらゆるものに向けられる人間の感性は、どのように動き、何に動かされてるのだろうか。洞窟壁画からVRまで、「美しい」から「醜い」まで、人間の感性を概観し、新たな思索の入り口となる一冊。

李 松『中国美術全史 第一巻 先史・殷・周・秦・漢 (1)』科学出版社東京 2020

中国美術の権威たちが執筆陣に名を連ねた『中国美術誌』全4巻(人民大学出版社、2014年)の日本語版。第一巻では先史・殷・周・秦・漢の時代を扱う。

小田原のどか『近代を彫刻/超克する』講談社 2021

街角の彫像から見えてくる、もう一つの日本近現代史、ジェンダーの問題、公共というもの…。都市に建立され続け、時に破壊され引き倒される中で、彫刻は何を映すのか。〈思想的課題〉としての彫刻を語りたい。

佐藤 道信 『〈日本美術〉誕生 近代日本の「ことば」と戦略』ちくま学芸文庫 2021

作品じたいは古くからあった。しかし、「日本美術史」という歴史体系は、「ことば」によってつくられた。背後にあるのは、近代日本で芽生えた「日本」意識と、欧化・国際化との相克だ。

秋山聰・田中正之(監修)『西洋美術史(美術出版ライブラリー 歴史編)』美術出版社 2021年

美術の起源から現代まで、約700点におよぶ豊富なビジュアルとともに通史を学ぶ、最新の西洋美術史。第一線で活躍する研究者が、最新の視点からわかりやすく解説。

リンダ・ノックリン『絵画の政治学』筑摩書房 2021

ジェンダー、反ユダヤ主義、地方性。19世紀絵画を、形式のみならず作品を取り巻く政治的関係から読み解く。美術史のあり方をも問うた名著。

前崎信也『アートがわかると世の中が見えてくる』IBCパブリッシング 2021

これまでの美術史本には書かれてこなかった、日本の美術を理解するために必要な歴史や日本の美術が生まれた理由、世界から見た日本美術の価値、美術界の問題点などをできるだけやさしく解説。

ロザリンド・クラウス『アヴァンギャルドのオリジナリティ モダニズムの神話』月曜社 2021

モダニズム芸術の中核概念である「特異性」「オリジナル」「唯一性」などを神話として分析し、それらによって覆い隠されている「反復」「コピー」「差異」といった現実を顕わにする。

西村清和『幽玄とさびの美学』勁草書房 2021

日本の芸能や文学を規定する美意識として機能してきた「幽玄」や「さび」。再発見/再評価以降で微妙に意味やニュアンスを変えつつ「日本的美意識」と呼ばれてきた観念の本質とは。曖昧なままにされてきた価値基準を問いなおす。

山下裕二『商業美術家の逆襲 もうひとつの日本美術史』NHK出版 2021

浮世絵から新版画、そしてイラストレーション、マンガまで。商業美術こそが日本美術の伝統を継承し、次代の表現を生み出す原動力となってきた。従来の日本美術史の枠をはみ出した破格の才能を紹介する。

アントニー・ゴームリー、マーティン・ゲイフォード『彫刻の歴史 先史時代から現代まで』東京書籍 2021

彫刻界の巨人アントニー・ゴームリーと批評家マーティン・ゲイフォードが、古今東西の「彫刻」の流れを語り尽くす。大著 ❝Shaping the World❞ の日本版、ついに刊行!

ジャポニスム学会 『ジャポニスムを考える』思文閣出版 2022

「世界に向けて発信された日本文化」といった、越境的な文化表象および受容を広く示す言葉として流通し始めているジャポニスム。日本の外からあるいは日本の外を意識してイメージされた「日本文化」を問う。


Twitterで日本美術史について呟くbotをやっています。こっちのフォローもよろしくね! https://twitter.com/NihonBijutsushi