広報用作品画像の解像度について
美術品の画像は、高精細であればあるほど価値が高い、とおそらく一般に考えられていると思います。どうせなら細部まで細かく見ることができて、本物との違いが少なければ少ないほどいいはずだからです。
作品のイメージを棄損しないようにブランディングをするという意味でも、質の高い画像を提供することは重要になるでしょう。展覧会のポスターに印刷する画像が、細部が荒っぽくて、色も不正確だったら台無しになってしまいます。ここは予算をかけてでも気合を入れたいところです。
ただ、ネット上で画像を公開する際、解像度をあえて落としたり、ダウンロードできないわけではないけど、それが難しいようにちょっとしたプロテクトを施したりすることが一般に行われています。右クリックできないようにしたり、画像の上に透明なgif画像ファイルを被せたり、いろんな手法がありますがまぁここでは置いておきましょう。
そこには、画像を公開して展覧会には興味を持ってもらいたいけれど、画像がむやみにネット上に流通して、預かり知らないところで利用されてしまうのは避けたいという思惑が見え隠れしています。それはなぜでしょうか。
まず、理由として、著作権が考えられます。著作権が有効な作品の画像は、当然ながら保護されなければなりません。引用や私的利用などは例外ですが、基本的にそうした画像を使いたければしかるべき許可が必要だからです。
逆に言えば、著作権保護期間が満了している作品は、パブリックドメインとして人々が自由に利用できることになりますが、だからといって積極的に公開されているかというと、そうでもありません。
よく海外の有名な美術館で、パブリックドメインとなった作品の画像が自由に利用できるようになったという報道がなされることがありますが、日本において現状そうした取り組みをしている施設は、主に東京国立博物館、愛知県立美術館、私立だと東京富士美術館など、数が限られます。
なぜ日本ではオープンアクセス化が進まないのかについてここでは詳しく検討はしませんが、おそらく日本の美術館がおかれている厳しい財政難や(画像の貸借は収入源の一つと考えられています)、複雑化した著作権法に対する理解不足、作品の取り扱いに関する慣習などが大きな理由かと思われます。
作品の取り扱いに関する慣習のひとつには、所有者の気持ちがあります。たとえ著作権保護期間が満了していたとしても、所有者があまりむやみに画像を使ってほしくないと思っている場合、やはりこれをお借りしている立場の博物館や美術館はそれに寄り添う必要が出てきます。
そして、最後に、ウェブメディアの慣例というものもあります。展覧会などを広報するメディアは、主催する館から受け取った広報用の作品画像を使って宣伝するわけですが、その際、無用なトラブルを避けるために、一律に画像の解像度を下げたり、ダウンロードしにくいようプロテクトをかけて公開するのです。
さて、今回は、展覧会の宣伝のために作品画像がいろんなメディアで公開される際、画像の解像度がどれくらいに設定される傾向にあるのか、その相場観を調べてみようと思います。
メディアは、提供された画像を宣伝に使う際、これくらいの解像度に下げれば問題ないだろうという判断をしているはずです。
あんまり解像度が高すぎてもいけないし、かといって小さすぎると宣伝効果が薄くなってしまう。そのバランスをとるとしたら、どれくらいの解像度がベストと考えられているのでしょうか。つまり、広報以外の目的で画像をむやみに使ってほしくないと考える美術館でも、これくらいの解像度なら文句はないだろうという水準は、どの程度だと見積もられているのでしょうか。
調査したのは以下のサイトになります。
・ファッションプレス
・アートアジェンダ
・スパイス
・美術手帖
サンプルとして参照したページ(条件を揃えるため、パブリックドメインの作品だけを公開している直近のページから適当に選択)
各サイトの画像の解像度
ファッションプレス 長辺1500ピクセル
アートアジェンダ 長辺700から900ピクセルくらい
スパイス 長辺1000ピクセル
美術手帖 長辺1030ピクセル
調べた結果、ファッションプレスが一番大きくて、アートアジェンダが一番小さかったです。平均としては長辺1000ピクセルが一つの基準になりそうです。地上デジタルの画質は長辺1440ピクセルだから、テレビの画面に映しておさまる程度といえばイメージしやすいでしょうか。
これだけ解像度を落としておけば、もし最悪ダウンロードされてどこかで勝手に利用されてもリスクは少ないという判断がおそらくあるはずです。
もちろんそれに加えてダウンロードしずらくなるように、サイト上で右クリックできなくしたり、上に透明な画像をかぶせてマスキングしたりといった細工をしておけば、画像利用を未然に防ぐことができるでしょう。ただ、じつを言うと、ほとんどの場合、Google画像検索で画像のダイレクトURLが補足されて検索に挙がってきます。完璧なプロテクトを目指すのはあまり現実的ではありません。
そこで、念には念を入れて「画像の無断転載、無断転用は固く禁じます」なんて権利の主張っぽい文言を付け加えて置けばさらに万全と考えているのか、こうした手法はかなり広く行われています。しかし、パブリックドメインとなっている絵画などの平面作品の画像は、誰もが無断で利用しようとなにも違法性はありません。そんな知識のない人は怖気づいてくれるかもしれませんが、わたしはそうした法を歪曲するようなことはすべきではないと思っているので、そうした文言を見るたびにモヤってしてしまいます。
ともかく、以上のことから、長辺1000ピクセルまで解像度を下げていれば、画像利用の際のトラブルは少なくて済むということは言えそうです。ただ、これもメディアがトラブルを未然に防ぐための自主規制のようなものであるというのは念頭に置いておいた方が良く、画像解像度の下限はこれくらいの目安だと思っておくに留めるべきでしょう。
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