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U-18 BEST 3 MATCH 2019

2019.10.27
Jユースカップ3回戦(ベスト16)
vs 大宮アルディージャU18
3-4(前半2-0、後半1-3、延長0-1)森田①、重野①、臼井①

 今年のチームは、率直に評価すると、打たれ弱かった。失点するとネガティブな空気が立ち込めて、それを自分たちで払いのける技術やメンタリティ、あと、少しばかりの幸運をチームとして準備しきれなかった。誰が良くなかったとかいう話ではない。糧にして成長すればいいだけのことだから。でも糧にできるかはピッチに立った選手自身に委ねられている。
 東田正樹は、2年生までセンターバックの不動の控えだった。彼がピッチに立つ機会をあまり得られなかったのは、小林と右田という相思相愛のコンビが先輩としていたからだ。彼らが去り、3年生になって、出場時間という点で決して経験豊富とは言えない彼の背中には、神戸のバックラインを統率するという重荷が課せられた。やたらと野心的でアグレッシヴな右サイドバックに、なかなか固定されない相方と、左サイドバックの下級生を従えて、彼は必死にミッションをこなそうとした。でもプレミアのレベルは甘くない。戦術で、気持ちで、選手たちを結んでいる「鎖」が断ち切れる音を何度も聞いた、何度も。
 秋を迎えて、Jユースカップの3回戦で対戦することになったのは、プレミアEASTに所属する大宮アルディージャ。夏のクラブユース選手権のグループリーグで同組になり、堅い守備に根負けした苦い敗戦が記憶に新しい。1回戦・2回戦と多めにゴールを奪って勝ち進んだこともあって、ヴィッセルの選手たちには大宮にリベンジしてやろうという熱があった。クラ選では0-1のロースコアゲーム。そのときとの違いは、こちらが3バックに変えていること。
 前半は神戸のゲーム、右WBの五味が何度も相手の裏を脅かし、折り返しをFW森田が押し込んで先制。さらに、カウンターから持ち運んだ重野が強烈なロングシュートを決めて追加点。2-0で折り返す。後半は一転、大宮が盛り返す展開。受け身になった神戸の左サイドの脆さを突いて、ボールを積極的に回し、浮いてフリーになった選手がエグい弾道のミドルを決める。東田も必死に暗雲を払おうとするが、ハイボールの空中戦とスピードの地上戦を織り交ぜる大宮の攻めに、ゲームをコントロールする余裕を失っていく。裏抜けを許した選手を緒方が倒してしまいPKを与えて同点に。しかしここから途中交代で入った臼井が五味のクロスを枠内に押し込んで、まさかの勝ち越しに成功。チームもピッチ外の我々も歓喜に沸く。時間は後半40分過ぎ、リベンジが見えた。アディショナルタイムに入り、残った時間は僅か。とにかく押し込む大宮、エースの高田がバネだけで縦に突破してクロス、限界まで張ったバックラインの「鎖」は、体ごと飛び込んでくる相手を止められずに、残り数秒で断ち切れた。
 延長戦。日差しが夕暮れに近づく。ラストワンプレーで追いつかれた神戸は明らかにチーム全体が疲弊していて、バックラインに大宮の決勝ゴールを止めてみせる余力はもはやなかった。
 敗戦で「鎖」が断たれようとも、また次の試合がやってくればトレーニングに勤しみ、次の鎖を準備して試合に臨む。彼らはそれを繰り返して強くなる。いつでもそう信じて我々は見守っている。残り数秒で勝利を逃したことと、延長の20分、準備したはずの鎖がバラバラになっていたことを受け入れなければならない悔しさで、試合後の挨拶、キャプテンマークを巻いた東田は目を赤くした。

 余談だが、今年のJユースカップは、1回戦がアルビレックス新潟、2回戦がレノファ山口と、チームカラーがオレンジのチームが続いた。ご存知のとおり大宮もオレンジ。もし勝てていれば、次はベスト8で清水エスパルスが待っていた。きまぐれオレンジロード、せっかくなんだから制覇したかったな。

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2019.9.22
プレミアWEST第14節
vs ガンバ大阪ユース
OFA万博フットボールセンター
0-0(前半0-0、後半0-0)

 ガンバ大阪ユースにすっかり勝てないようになってしまって長い、ってほどでもない、けどストレスを感じる程度にはここ最近ホントに分が悪い。戦績挙げるのも面倒いんで各自で調べてください。
 その相性の悪さにようやく歯止めをかけたのがこの日の試合。スイッチが入ると止まらない攻撃力を誇るガンバユースに抵抗するため、この試合をターニングポイントとしてチームは大きく戦い方を変えた。端的に書くと、3CB+2WBの守備的な布陣でスタートすることを選んだ。と言っても、撤退してとにかく籠城ドン引き状態という感じではない。5バック気味になり両翼に佐々木と五味の2年生を配して、目の前にある広大なスペースからロングカウンターを狙う。一方で最終ラインは高めに維持しつつ、裏のスペースは対人に優れた3バックが歯を食いしばってケアし続けるというコンセプト。ネガトラのシーンで相手のスペースを圧縮できずに前を向かれて自由にしてしまう悪い癖を、ガンバユースの懐に入り込むかたちにして矯正してしまおうという試みである。
 結果はというと、あまりの変わり身にガンバユースが面食らったのか、キーパーストップに頼るような危ういシーンは数回あったものの、パスコースを閉め続けてゴールを許すことなく90分を過ごせてしまった。貴重な勝ち点1。優勝争い中のガンバからすると痛恨の勝ち点1。ミッションコンプリート。しかし、残念なことに、熱量を維持しプライドを懸けて、チームが誰ひとり諦めないサッカーを観ることができたのは、このガンバユース戦が最後になった。正直に書くならば、振り返ってみるとこの試合(と前節のアビスパ福岡戦4-3)がシーズンのピークだったように思う。
 なぜチームが残り試合で強度を保てなかったのか。その理由として、この試合で成功した3421(もしくは343)の布陣が意外とあっさり研究されたこともあるのだけど、そういった強み弱みが露わになってしまったことも含めて、相手の嫌がるプレイやチャレンジを、粘り強く淡々と続けることができなかったモチベーションの不安定さに結局は行きつくように感じる。チームの熱量を保持する自燃性のキャラがいなかったというか、いても発揮できなかったというか。
 そうしたユルさをエリートの甘えと切って捨てるのは簡単ではあるけれど、この試合だって誰ひとり満足した表情は見せたわけではなく。割り切った戦法で意表を突いて、それでもドローに持ち込むのが精一杯の自分たち。ゴールの匂いはほとんどしない。優勝争いをしているガンバユースとの差をまざまざと痛感させられたはずで、若い彼らがこの経験を活かそうとしたのか、コートの外にいる賑やかしにはどうしてもわからない。いろいろな光景から推し量るしかない世界。答え合わせは簡単にできない。
 基本、遠めから眺める主義なので、自分から選手に話しかけることはあまりない。そんな自分が珍しく何かを伝えることにした試合が、奇しくも2018シーズンの同じガンバユースとのアウェイゲーム。前半から為す術なく3点奪われて、喝を入れられた後半に2点奪い返すもさらに2失点し、2-5で敗れた。その後半、ポジションをボランチを1.5列目に変更して、意地を露わにビューティフルなボレーを叩き込んだのが2年生で主力となっていた山内翔。中盤でコンビを組んでいた3年生が負傷離脱してしまい、徐々に下降していくチームを支えて我慢のシーズンを強いられていた。
 細かくは覚えていないけど、試合後の彼に「ユルい心持ちでガンバとの試合に臨んでいいってアカデミーで教えられてきたか?そうじゃないでしょ」みたいなことを言ったと思う。別に、トップチームいわゆるプロ興行の要素としての対立関係をそのまま敷衍したいわけじゃなくて、要するに、関西4クラブのアカデミーの選手なんて選ばれしプレイヤーなんだから、コーチに叱られて漸くスイッチが入るような態度では上に行けないよと、もっと全力で実力を披露しなさいよと。まあ、2年生で背負うものも大きかった選手にわざわざ言うべきことではなかったかもしれない。とはいえ、そんな愚痴めいた話でもニュートラルに耳を傾けて、真剣に受け止めてくれたことを覚えている。3年生になっても、U-17ワールドカップ代表に選ばれても、泰然自若なプレイそのままに年長者でも後輩でもニュートラルに関わっていける、本当に得難い人材だと思う。
 今シーズン、不安定な戦いを続けてしまったのは、ある意味突出した山内翔というキャプテンに、チームが頼りきってしまったからではないか。皆が熱くなって力を出し尽くしたゲームで、ひとりの選手として目の前の強敵に没頭して戦えていた彼の姿を思い起こすと、そんなことを感じたりする。頂を掴め。

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2019.12.8
プレミアWEST第18節
vs 東福岡高
4-2(前半2-0、後半2-2)重野①、佐々木①、臼井②

 小田裕太郎のU-18での3年間は、チームの戦術と自分の存在をすり合わせることに苦悩した時間だったように思う。U-15から昇格してすぐに出場チャンスを貰って年代別代表らしい輝きをみせてきたが、どんなときも計算できるスーパーな選手かというとそうじゃなく、対戦相手のフォーメーション次第で出来不出来があり、ハマると怖い存在だが、少しでも採るべきプレイに迷いだすと周囲と噛み合わなくなる難しめの素材だった。
 と言っても、年代別の代表チームでは長所を評価され、442の左サイドハーフというプレイしやすいポジションを任されて、結果を出して信頼を重ねていくサイクルができていたから、反面、ポゼッション志向が強くて、インサイドとアウトサイドの出入りを求められ、ショートパスを多用するスタイルでプレイヤーとして貢献することは、感情を内に秘めがちな彼の性格からすると難題であったのだろう。それでも、起用されたときには獰猛にチャンスを狙ったし、学年が上がるにつれて攻撃陣の中で欠かせない存在になっていった。
 最終学年を迎え、夏頃に本格化し、爆発的な初速を身につけた彼は、チーム戦術の枠に収まらないピーキーなアタッカーになった。ただ、どうしてもゴールが遠く、コンスタントに活躍できない試合が続く。トップチーム昇格に相応しい素質も素材も持っているのに、勝利に貢献できない。力を証明するために群がるマークを強引に突破しようとし、悪いタイミングで奪われる。自らのシュートで完結させようと重圧を己に科すかのような。よくないときは、チームと彼が別のゲームをしている印象すらあった。ひとりの高校生ではなく、野心を隠さないプロ候補生がひたすら刃を磨き、野武士の如く挑みかかる姿。チーム成績は上向かなかったが、育成という視座からすればまた別の評価があるだろう。
 ただ、最後の公式戦。数字上は降格の可能性があるとはいえ、事実上残留が決まっている試合。ピーキーな存在だった小田裕太郎は、チームに貢献しようと、サッカーを楽しむようにプレイを選んだ。何度かのシュートは枠を捕らえきれなかったけど、ドリブルで突進すると見せかけてのラストパスで臼井の決勝ゴールをお膳立てし、プレスがかかる前に周囲とのワンツーで軽やかに突破しようとするなど、プロ予備軍の選手とは違う姿があった。
 まだまだ朴訥としたストーンフェイスだけど、神戸の13番の価値を知っている小田裕太郎は、サポーターに愛されるフットボーラーになってくれると確信している。

 試合終了直前、大外から持ち込んだ裕太郎が山内翔につなぐと、翔から裏のスペースへ素晴らしいリターンパス、これ以上ないタイミングで飛び込んだ裕太郎のシュートは決まったように見えたけど、やっぱりほんの少しだけ枠を逸れた。誰もがハッピーエンドになれるはずのゴールは、未来にとっておくってことらしい。

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