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大谷翔平の二刀流物語を妻に語る。後編

中編からの続きです。最終回です。

今年はリアル二刀流に挑戦

さて、ア・リーグに所属する大谷さんの起用は、下のようになると前に書きました。

★ア・リーグの場合(DH制あり)
・投手で出場する試合は投げるだけで、打席はDHの選手に任せる。
・投手で出場しない試合は、DHとして打席に立つ。

ひじの手術の治癒を待つためにほとんど投球しなかった2019年からの2年間をのぞき、メジャーリーグに移籍して以来、実際に大谷さんはこの方法で起用されていました。具体的には、投手で出場したら翌日は休み、続く二日以上は打者で出場。そして投手先発の前日は休む。これをシーズンを通して繰り返す起用法です。ところが、私たちのスーパーヒーローの大谷さんは、これだけでは終わりません。今年はさらに運動の強度を上げて、下のような二刀流をめざしています。

・投手で出場した試合は、DH制を利用せず打席にも立つ(DH解除)。
・投手で出場しない試合は、(可能な限り)DHとして打席に立つ。


同じ日に投手と打者を両立する「投打同時出場」ということで、最近ではこれを「リアル二刀流」と呼ぶようになりました。しかしながら、この起用法にはひとつの弱点があります。それは、大谷さんは「出来るだけ長いイニングを投げなければならない」ということです。どういうことかと言うと、例えば大谷さんが先発投手かつ二番打者として出場したとします。最近のメジャーリーグでは、二番と四番は強打者が受け持つ打順です。考えたくないことですが、もし大谷さんが試合開始早々に打ちこまれてしまって交代となると、代わって投げる投手が、重要な二番目の打順を打つことになります。DH制のあるア・リーグの投手たちは、ふだん打撃することを想定していませんから、ほとんど攻撃力として期待できません。それならば、代打を送る手もありますが、二番打者に打順が回って来るたびに代打を送れば、そのつど投手も新しく投入せねばならなくなります。九人のメンバーのうち八人で攻撃するナ・リーグと異なり、DH制によって九人中九人が攻撃力となるア・リーグでは、このことは大きなリスク要因となってしまいます。

ついにMLBでリアル二刀流を実現。マンガみたい。

そんなすべてを乗り越えて、2017年4月4日のホワイトソックス戦で、大谷さんは「二番・投手」で先発出場しました。ついに「リアル二刀流」を実現したのです。渡米後初めて投打で同時出場し、打っては第一打席で二号ソロ、投げては勝敗こそ付きませんでしたが、五回途中二安打三失点(自責点一)。さらに、剛速球は自己最速タイ101.1マイル(時速約162.7キロ)、特大本塁打は、自己最長の137メートルの大飛球でした。MLB公式サイトは「シーズン序盤の偉大な七つの出来事」を特集したとき、大谷さんが投打同時出場を果たした“リアル二刀流”をそのひとつに選出しました。記事では「私たちが夢見てきた試合をショウヘイ・オオタニがやった」と絶賛。開幕からこのときまで全試合に出場する大谷さんに「エンゼルスはもはや彼を抑制しなくなった。彼は両方の役割で自由に100%の力を出し切ることができるようになった」と評しています。

MLBの選手登録のルールを変えた

少し時間が前後しますが、大谷さんの登場により、メジャーリーグ機構は昨年から新ルールを作りました。大谷さんの投打の活躍を受けて、選手登録名簿(ロースター)に「Two-Way Player(二刀流選手)」という呼称を加えたのです。その定義は、“投手で20イニング以上、野手で20試合以上の先発出場、なおかつその20試合で最低3打席出場した選手”となります。今のところ、こんなことをクリア出来るのは大谷さんしかいそうもないため、これは「The Shohei Rule」と呼ばれています。大谷さんはMLBのルールを変えてしまったわけです。制度や技術、戦略などの面で、MLBがどんどん近代化してゆくなか、「二刀流」は80年くらいのあいだ、その道がふさがれていました。これを大谷さんがふたたび切り開いたのです。今後、大谷さんが歩く道の後ろに続くメジャーリーガーは、大いに増えることと思います。

大谷さん、がんばって!

私はメジャーリーグの大ファンです。野茂英雄選手が海を渡ってから、たくさんの日本人メジャーリーガーを応援して来ました。日本人選手が関わった多くの感動的なシーンは、強く記憶に刻まれています。その中で、もっとも印象的で、ドラマティックな試合をひとつ挙げろと言われれば、この4月4日の大谷さんの試合だと答えるでしょう。実際にそんな質問を受けたら、悩み抜いて、決め兼ねて、「ひとつと言わず、十試合を挙げさせてください」とお願いするかもしれません。それでもやはり、私の妻に大谷さんの大きな魅力を伝えるためにも、この“リアル二刀流”の試合を選びたいと思います。
・・・と、ここまで説明したところで、私のわきに横たわる妻を見ると、すやすやと寝息をたてていました。(おわり)

★追記★

最後に、この原稿を書いているのは、2021年4月25日です。今日の時点で大谷さんは、打撃において打率.292、本塁打6、15打点、3盗塁です。投球において登板2試合、勝敗はつかぬものの防御率は1.04、WHIPは1.62です。あまり日本では報道されませんが、米国では大谷さんの走塁にも注目が集まっています。ベースランニングのタイムも、俊足揃いのメジャーリーグの選手たちのなかで、上位にランクしています。さらに、今日のアストロズ戦では、大差で負けていたためもあって、米国に渡って以来はじめて、左翼の守備につきました。どれだけ活躍すれば気が済むのか、もう分からないほどです。いまだ右手の指のマメが完治しておらず、初の“リアル二刀流”を実現したあの日以降、投打同時出場はいちども果たせていません。でも、大谷さんなら大丈夫。リアル二刀流で、豪速球と特大ホームラン、盗塁まで決めて、きっとまた、マンガみたいな活躍を見せてくれることでしょう。
がんばれ、大谷さん!応援しています。

この話はこれで終りです。
長文をお読みいただき、まことに有り難うございました。

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