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新年早々、長くなります。

ハッピーニューイヤー!
2020年はオリンピックイヤーてことで盛り上がってるけど。
2020年最大のトピックはオリンピック差し置いて、なんといってもコレ。↓
ベートーヴェン生誕250周年!
いやー素晴らしい。めでたい。
そんな記念すべき2020年、私は28歳になる。

ベートーヴェンと28歳といえば、すごく思うところがあって。

でもその前にまずベートーヴェンて?
って話よね。
ダダダダーン。運命?
あーなんか年末よくやってるよね第九。
クラシック音楽といえば?なんとなくベートーヴェンは思い浮かぶよねとりあえず。
まあ音楽は重ーい感じ。特にはおもんない印象。
教科書にのってた肖像画を思い出す限りなんとも気難しそうな人物やし。。
みたいな印象かなぁ。ごく一般に。

でも私は、ベートーヴェンがすごく好き。
その音楽は論理的に緻密に構築されつつも、情熱がほとばしり、魂が込められてる。
心の琴線に触れてくる、ハッとさせられる素晴らしい曲ばかりを残してるのだ。
彼は波乱の人生を歩むんだけど、とにかく新しいことにチャレンジして、それまでのクラシック音楽の概念を覆すような革新的な取り組みをいっぱいやった。
彼なしでは今のクラシック音楽の形はないって断言できる、まさに歴史を作りあげた人。

いやーでも250年前って古っ!そもそも世の中どんなんやったんやろ?想像つく?
ベートーヴェン(1770-1827)が生きた18世期後半から19世期前半は、彼がいたヨーロッパではフランス革命が起こってそれまでの貴族社会が崩れちゃって、市民が力を持ち始めた。

そう、やからベートーヴェンも最初は伯爵に仕えてえらい人に献上するために音楽を作ってたんやけど、途中からフリーランスになるんよね。パトロンなしでがんばる。
ずっと教会や貴族のために音楽を作るっていうスタイルだったんだけど、自分が本当に作りたい音楽を作って生計を立ててくっていうスタイルに変えていった。音楽家は芸術家であると主張した。
これ、今では当たり前のことやけど当時の社会ではほんまにありえんこと。
彼は史上初の独立した音楽家とも言われてて、そういう点でもとても革新的。音楽史の分岐点。

美術の世界で言うと
〜ロココ美術→新古典主義→ロマン主義〜
あたり。
ベートーヴェンと同じ年代に生きた画家はアングルやダヴィッド、ゴヤ、ドラクロワとかそのへん。
うーん…なんかパッとせんよね。
ピカソ!とかフェルメール!
みたいにめっちゃ有名な人はおらん時代だな。

あと、ちょうどゲーテが「若きウェルテルの悩み」を書いたのもこのころ。
実はベートーヴェンとゲーテは仲良しで、一緒に散歩とかしてたらしい!ベートーヴェンは先輩であるゲーテをすごく尊敬してて、後に作品に音楽をつけたりもしてる。
ちなみにベートーヴェンが生きたこの時代のいちばんの有名人はナポレオン。
ナポレオンはゲーテの「若きウェルテルの悩み」を愛読の一書としてて、エジプト遠征の時も持ってったっていう噂。
図1は、新古典主義の代表作とも言える、ダヴィッドの描いたナポレオン。教科書で見るやつ。

図1 ルイ・ダヴィッド《サン・ベルナール峠のナポレオン》1801年

アメリカはちょうど建国のころで、日本はというと江戸時代。鎖国してたわ、このころ。
日本美術でいうと、京都では伊藤若冲が晩年の作品を描いてた。(図2参照)
酒井抱一や鈴木其一が活躍した江戸琳派の全盛期でもある。

図2 伊藤若冲《菜蟲譜》 1790年

ほんでベートーヴェンが生まれる前からもうすでに京都の某お茶屋さんはお商売をしていて、お茶を売ってた。なんかロマン感じるよなぁ。

こうやっていろんなところから紐づけてみると想像しやすいし、なんとなくわくわくしてきたり…
ベートーヴェンの曲を聴いてみるのも悪くないなって思えてきませんか?

そんな、今とはぜんぜん違う時代に生きたベートーヴェン。
ちょうど28歳のころ、耳に異変を感じ始めた。
そこからだんだん聞こえなくなって、
40歳のころは完全に全聾になっちゃう。
えー嘘!って思うよね、だって音楽家として耳が聞こえないって、致命的。
むしろ、音楽家続けられるんかそれってくらいやで…耳が聞こえないってびっくり。
10歳ごろから音楽家として曲を作り演奏活動を続けてきてて、28歳。脂が乗り始めてこれからだって時。絶望やんな。
そんな当時、日々聞こえづらくなっていく不安に苛まれ、嘆き苦しみながらも作曲したのが、ピアノソナタ第8番。

3楽章からなるこの曲には「悲愴」っていう標題がつけられてる。
2楽章がとても有名だから、皆さん絶対聴いたことあるはず。
渡辺直美と田中圭が出てるボートレースのCMでポップにアレンジされてる、アレね。
「のだめカンタービレ」では、のだめと千秋先輩が出会うキッカケになった曲でもある。

2楽章のこの旋律はとても儚げで物憂いし美しいのだけれど、悲愴感は特に感じない。むしろ温かさや懐かしさのほうがしっくりくる。
単純に見えて意外とリズム刻んでるし、フラットが4つもついている。譜例1の赤い丸の部分だけを繋いだメロディをイメージしがちだけど、ちゃんと奥行きのある構造になっていて弾きがいあり。

譜例1 第2楽章冒頭

1楽章から続けて聴いてこそ、このピアノソナタの真髄が味わえるのでぜひ1楽章の冒頭から聴いてみてほしい。(正直「悲愴」に関しては3楽章はおまけ的な感じがする。1、2楽章をじっくり味わって3楽章は軽く聴き流すで良しです。)
1楽章を聴くと、あーなるほどって思うはず。これが「悲愴」たる所以かと納得するはず。
序奏はどっしりと重厚感のある和音。フォルテピアノで焦燥感を掻き立てる。(譜例2参照)
曲が進むにつれてベートーヴェンの心情が色濃く反映されてくる。
襲ってくる不安、でも前に進もうともがき、這い上がり、それでも解決には到達せず落ちる。
暗いトンネルのなか、光が差す、でもまた行く手は阻まれ、迷い躓きながらも進み、また迷う…

まさに人生そのものが音楽になっていて、滲みる。彼の苦悩が、懸命さが伝わってくる。

譜例2 第1楽章冒頭

2005年録音のバレンボイムのベルリンでの「悲愴」
が名演なので、ぜひとんで聴いてみて。

このピアノソナタ第8番「悲愴」の調性はハ短調(独:C-Moll,英:C minor)。
私が思うハ短調の持つイメージは、力強い悲しみ。色でいうと、暗いけれど強い、黒ってかんじがする。
同じ調性でJPOPだとね、山Pの「抱いてセニョリータ」とか「もののけ姫」とかがある。
あとはゴッドファーザーのテーマもそうだし
(例にあげるんこの3曲かよ、なんかちょっとちゃうやろってかんじで笑けるかもやけど…クラシック音楽の調性は難しく捉えがち。でも現代の曲ならどうかなって考えてみることで親近感わくし、案外と曲の持つ真意が合致してたりしておもしろかったりする。)
同じベートーヴェンだとダダダダーンの交響曲第5番「運命」もハ短調。
ハ短調といえばベートーヴェンってくらい、彼の名曲はハ短調であることが多い。彼の生き様が濃くて深い悲しみに包まれてるからかなって思う。
ただ、悲しい短調の後には歓喜の長調がくる。現に「悲愴」の2楽章は長調だしね。音楽は決して後ろにはいかない、常に前進してこそ成り立つもの。ベートーヴェンの音楽は、喜びに向かうように作曲されてる。

28歳からはじまった難聴はその後生涯に渡り彼を苦しめた。何度も自殺を試みたし、遺書まで書いた。
でも結果、生きることを選ぶ。
音楽家にとって死にも瀕する状況でも諦めんかった。
ピアノの弦の振動を利用して、耳が聴こえなくても作曲活動に専念。
交響曲、室内楽、ピアノソナタ、歌曲…などなどクラシック音楽の様々なジャンルにおいて数々の名作を残し、後の作曲家たちに多大すぎる影響を与えた。
音がまったく聴こえないなか、あの合唱付きの第九を書き上げた。燃え上がるパッション、すごいわ。
ベートーヴェンには予測できていたのだろうか、250年後もなお、世界中で自分の曲が演奏されているという事実を。
ベートーヴェンが残した"楽譜"という共通言語を通して、世界中のいろんな演奏家がいろんな場所で、いろんな時に演奏をする。それが250年続いてきててきっとこれからも続く。人や環境や時代に左右されて、必ず一期一会の演奏が生まれる。
国境や宗教関係なし。すごくない?!
ロマンに溢れすぎなシステム。これだからクラシック音楽はやめられないなぁと思う。

彼みたいに波乱万丈じゃないし、あんなに立派にはなれないし世に名は残せない。
でもきっと彼と同じように誰の人生にも楽しい反面、苦しみはある。
何が言いたいかっていうと、
ベートーヴェンのように、困難に屈せず情熱を持って強く生きたいってこと。
それから、
ベートーヴェンの音楽(を通り越してクラシック音楽全般と言ってもいい)は人生を照らす光になる。素晴らしく奥深い、大好き。ぜひもっと多くの人に聞いてみてほしいってこと。

そんな、2020年と28歳とベートーヴェンです。

最後にこれだけはおすすめさせてほしい。皆さんにぜひクラシック音楽に触れてみてほしい。ベートーヴェンは入門にぴったり。ただ、どうしても敷居だったりハードルだったりが高いぜ、おもんないぜって部分もあると思うから映画がちょうど良いはず。
ベートーヴェンの曲が使われている映画のおすすめトップ3を下記に記すので、もし万が一時間ができて暇を持て余すなどという状況になった時とかにみてみてください。

3位・・・路上のチェリスト
メインの曲は、チェロ1本なら鉄板!のバッハの無伴奏チェロソナタやけど、劇中でベートーヴェンの曲が多用されてる。交響曲第3番「英雄」、弦楽四重奏曲3曲に、チェロソナタも。ベートーヴェンのいろんなジャンルの曲が楽しめる作品。映画の内容も悪くない、なかなかいける。

2位・・・のだめカンタービレ
言わずと知れたのだめ。前編後編とあるけど、ベートーヴェンがたくさん聴けるのは前編。今回取り上げた「悲愴」も出てくる。あと散々ベートーヴェンの曲は重いとか暗いとかいったけど明るい陽気な曲もちゃんとあって、その代表ともいえる交響曲第7番の1楽章が聴ける。これ、のだめのテーマソングやね。第九も流れるよ。話もおもろいし気軽にみれる。

1位・・・英国王のスピーチ
あああぁぁぁ音楽がストーリーを引き立てるいい仕事してるわ。これベートーヴェンかってなる。ここでこの曲か、痺れるな〜って。
使われてるんは、交響曲第7番第2楽章と、ピアノ協奏曲第5番第2楽章。この2曲のみ。
これ以上は語りまへん。みるべし!

ベートーヴェンの人間性を掘り下げたり、「悲愴」の和音進行のドラマ性について詳しくレポートしたりしたいところやけど…ほんまに長すぎるので、いつかにとっておきますね。

ですがまあ私はベートーヴェンよりもメンデルスゾーン、メンデルスゾーンよりもブラームスのほうが好きなのであしからず。
その話は、また今度!

本年もどうぞ、よろしくお願いします。

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