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ついにグッドウィンも登場!!ベテラン勢のサンドヴァルやブレッカーも実にカッコイイサウンドを聞かせてくれます。グラミー賞受賞ビッグバンドを年代別にみていく【2010年代 後編】

はい、ビッグバンドファンです。今日はグラミー賞の「最優秀ジャズ大規模アンサンブル・アルバム賞」の歴代の受賞作について2010年代の受賞作について後編です。

改めて2010年代の「Large Ensemble」部門、受賞者一覧は以下の通りです。

第52回(2010年) Book One | New Orleans Jazz Orchestra
第53回(2011年) Mingus Big Band Live at Jazz Standard | Mingus Big Band
第54回(2012年) The Good Feeling | Christian McBride Big Band
第55回(2013年) Dear Diz (Every Day I Think of You) | Arturo Sandoval
第56回(2014年) Night In Calisia | Randy Brecker, Włodek Pawlik Trio & Kalisz Philharmonic
第57回(2015年) Life In The Bubble | Gordon Goodwin's Big Phat Band
第58回(2016年) The Thompson Fields | Maria Schneider Orchestra
第59回(2017年) Presidential Suite: Eight Variations On Freedom | Ted Nash Big Band
第60回(2018年) Bringin' It | Christian McBride Big Band
第61回(2019年) American Dreamers: Voices Of Hope, Music Of Freedom | John Daversa Big Band Featuring DACA Artists
第62回(2020年) The Omni-American Book Club | Brian Lynch Big Band

さて、前編ではTed Nash、John Daversa、Mingus BigBand、New Orleans Jazz Orchestraを紹介しました。全般的に洗練さは勿論のことより高度な技術も前提とした作品が多いこと、またカッコよさは当然としてそこに政治的なテーマ等を含めることでよりパンチの効いた作品にしていること、2世ミュージシャンやバンドが活躍していること、伝統と革新のバランスの良さが目立つこと、といった特徴をあげていきましたが、残りのバンドに関しても同じような傾向が見られますので紹介していきます。

Gordon Goodwinの登場

洗練さと高度な技術を前提としている作品としては何といっても2015年のGordon Goodwinと2016年のMaria Schneiderという話になると思います。Gordon Goodwinですが、ただ意外にもこの作品を含めてノミネートは3回と出している作品のクオリティや作品数を考えると少ない印象ではあります。Gordon Goodwinさんの作風はなんといっても超絶技巧のメンバーに支えられた聞く人間を圧倒するような音の動きの凄まじさとアレンジのキャッチーさにあります。まさに洗練さと高い技術力を前提にした作品ということで2010年代のグラミー賞の傾向とがっちり一致したようなバンドと言えます。

2000年代のLarge Ensemble部門の常連「Maria Schneider」

そして2000年代にグラミー賞を受賞ノミネートだけで言えば計14回にのぼる常連となったMaria Schneiderさん。ただ彼女の場合、受賞がLarge Ensembleだけでなく作曲賞やボーカル曲の作曲賞、クラシック部門での作曲賞など受賞部門が多岐に渡るというのがあります。もはやビッグバンドに収まりきらない彼女の才気という特徴がよく出ている話かなと思います。ちなみにこの「The Thompson Fields」も前回のグラミー賞を受賞した「Concert in the garden」と同じくArtist Share、クラウドファンディングで作られています。まぁ2016年にもなると最早珍しいものではなくなりましたが、ここまで続けられるというのは凄いことだなと思います。

現代の名手:Christian McBride

さて、ここまでGordon GoodwinとMaria Schneider、この2人はバンド結成も90年代という比較的新しい世代になります。そこはJohn Daversaなどとも共通しますが、もう一人2000年代に入って大活躍のベーシスト、Christian McBrideですね。グラミーにも1997年に初ノミネート以降、実に14回、うち6回受賞ということで、ノミネートだけで言えば2000年代以降ノミネートされていない年を探すのが大変なくらい、大活躍です。ベースという楽器の性質上どうしてもサイドマンになりがちですが、そんなChristian McBrideがリーダーとして率いているビッグバンドが「Christian McBride Big Band」になります。このバンドもサウンドの傾向としてはNew Orleans Jazz Orchestraと伝統的な30年代-40年代のビッグバンドサウンドにポストバップサウンド、アフリカ系のサウンドを融合させるという伝統と新しさのバランスがとても良いのが特徴です。本人のベースプレイの安定さが実に聞いていて心地よく、色んなリズムを絡めながらも崩れることなく安心して聞けるのは実にうまいなぁと思います。

ベテラン勢も負けてないぜ、Arturo Sandval

さて、2000年代に入ってから伸びてきた方々を中心にここまで見てきましたが長年キャリアを積んできたベテランも負けてません。ひときわ目立つのがArturo Sandvalですね。ディジー・ガレスピー楽団での活躍が印象的なプレイヤーですが、彼はキューバ出身者です。キューバは地理的にはアメリカに近いところにありながら長年社会主義側の国として体制が出来ていた国です。1949年生まれのサンドヴァルはまさに冷戦真っ只中の時代を生きてこられた方であり、1965年にはプロ活動を始めたもののアメリカの音楽であるジャズを堂々と演奏することが出来ない状態でした。キューバの国営バンド「イラケレ」のメンバーとして活躍するわけですが、一説にはジャズを面と向かって出来ないがラテン音楽ならOKということで、ラテン音楽をベースにそこにジャズ的な要素を入れる形でイラケレでの演奏活動を行っていたなんて話もあります。その後1990年にアメリカ合衆国に亡命、1999年にアメリカに帰化しています。そうした経緯もあり、グラミー賞では長らくラテンミュージック部門での受賞が多かったサンドヴァル氏ですが、ここでビッグバンド部門での受賞。アルバムもDear Dizということで勿論盟友ディジー・ガレスピー特集ということで「Night in Tunisia」「Con Alma」「Things To Come」といったディジー・ガレスピーのナンバーを超絶トランペットで聞かせてくれます。文句なしにカッコイイです。

Randy Breckerも若いと思っていたらもう75歳

そして、Randy Breckerもついつい音楽性が若いので若い若いと思っていますが、もう75歳です。立派にベテランでございますが、このグラミー賞受賞作品は文句なしにカッコイイです。Vince Mendoza指揮のメトロポール・オーケストラを彷彿とさせるストリングのセンスの良さが印象的ですが、これもコアとなっているカルテットがかなりハイレベルに機能しているからでしょう。アルバムのコンセプトにもなっているポーランドのピアニスト兼作曲家のWlodek Pawlik氏、同じく地元ポーランドのKalisz Philharmonic Orchestra、これにRandy Breckerが加わったというもので、古都カリスツの1850周年を祝うアルバムというものです。Pawlikの作曲自体がかなり洗練されたメロディをもっており、アップテンポのモーダルなスコアを、これまた表現豊かなオーケストレーションで展開する。また、オーケストラとソリストの音楽的なバランスも理想的で、2000年代にも申し上げましたがやはりヨーロッパ特有の洗練さと高い技術レベルをもったアーティストがタッグを組むと、ここまでの表現が可能になる、そんなことを実感するアルバムになっています。

帽子がトレードマークのBrian Lynch

更に、最後になりますが、昨年グラミー賞を受賞したのは帽子がトレードマークのトランぺッターBrian Lynchです。個人的にはこれすごく驚きました。というのも、彼の印象ってトランぺッターとしての印象が強くて、特に82年から86年まで穐吉敏子さんのビッグバンドに在籍されていた時の印象があったので、まさかビッグバンドのリーダーアルバムでグラミー賞取るとはという感じです。しかもこれ多分これビッグバンドとしては初リーダー作品だと思いますが、この年代のグラミー賞受賞作品の特徴かもしれませんが、外れ曲が無い。全てカッコイイという、なかなかです。昨年なんでね、是非実際に聞いてみてください。

というわけで、以上グラミー賞ビッグバンド部門受賞作品、年代別全部終了です。この先、今度は2020年代どうなるか?個人的に勝手な予想としてはラテン色が強くなるんじゃないかな?と思ってます。これはまぁ安易ですがBrian Lynchもそうですし、Arturo Sandvalもそうですが、洗練さと高い技術力をもった表現が出来るとなれば行きつく先はポリリズムかな?とか思ってまして、そうなるとリズム色が強いビッグバンドというのが今後グラミー賞のLarge Ensemble部門の主流になるかな?なんて勝手ですが予想してみます。当たるかどうかは10年後ぐらいに振り返ってみましょう。以上、ビッグバンドファンでしたぁ、ばいばい~


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