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何かと耳にする「ジャズ型組織」についてビッグバンドファンの観点からきちんと考えてみる


はい、ビッグバンドファンです。今日は「ジャズ型組織」についてビッグバンドファンの観点からきちんと考えていこうと思います。

「ジャズ型組織」という話はどこから出てきた?

そもそも「ジャズ型組織」という話はどこから出てきたか、というのを調べてみると、1990年に当時のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)CEOだったジョン・クラークソンさんという方が書かれたリーダーシップに関する論文だそうで、以下が原文になります。

こちら内容は読んで欲しいのですが、タイトルの通りクラシックオーケストラのような組織との比較で語られています。で、気になるのが、ジャズの例として出てくるのがDuke Ellingtonという点です。

Duke Ellington was not an unusually gifted individual or musical theorist. It is disputed how well he could read musical notation. But measured by his output of original compositions, he may be the dominant figure in twentieth century music.

そう、ジャズといってもこれビッグバンドの話なんじゃないの?とビッグバンドファンは読み解いてしまうわけです。ジャズとビッグバンドの微妙な話は以前も以下の記事で少し触れたので見て欲しいのですが、微妙に違います。

少なくとも「ジャズ」と聞いて「ビッグバンド」を想像する人はそういないのではないでしょうか。そこで勘違いされても困るしと思って、「ビッグバンド」って答えると、相手が「何それ?」という顔になったりする。

そう思って読み進めていくとこの違和感が確信に変わっていきます。ここからちょっと長いのでDeepLで翻訳した文章を引用します。

その天才的な創造性はどのように説明されるのだろうか。彼と一緒に仕事をした人たちの話によると、彼はジャズグループのさまざまな個性をひとつの創造性豊かな楽器にまとめる方法を学んだようだ。彼のバンドのメンバーは、彼がいかにして走りながら創作することを学んだかを語っている。彼は、アイデアの断片を提示して、大まかな希望を提案し、あとはプレーヤーがお互いにヒントを得て、自分のパートを最適と思うように埋めていくのを頼りにしていた。彼のプレーヤーは優秀だが、同じようにはいかない。彼は、彼らの癖や才能、問題点を知り、彼らができないと思っていたことをできるようにすることを奨励したのである。何人かの選手は出入りしたが、多くの選手は何年も在籍した。彼らは、グループの一員として成長し、お互いに学び合った。そして何よりも、経験を積み重ねることで、彼らの革新能力が高まっていったのです。また、ジャズクラブという密な雰囲気の中でライブを行うことで、観客の反応がすぐに目に入り、新しいアイデアがどんどん洗練されていきました。ピアノを弾くエリントンは、そのプロセスの真ん中にいて、瞬時にコミュニケーションをとることができる。その結果は、驚くべきものであった。

エリントンの名言「私の楽器はピアノではなく私のオーケストラ」の通りで、ここで書かれているのはエリントンがどのようにオーケストラを運営し、その中でどのように独創的な楽曲を生み出してきたかをまとめているわけです。エリントンがメンバー一人一人の個性を意識して作曲をしていたというのは有名な話ですし、それが出来たのもメンバーの入れ替わりが割と少なかったから、という話も有名です。

で、このエリントンのバンド運営や楽曲制作の手法がこれからの経営には有効である、そういう話になります。

これからの勝ち組組織は、交響楽団というよりもジャズアンサンブルの集合体のようになるだろう。機能的な障壁は減るだろう。さまざまな専門分野の人たちが、より永続的なチームを組んで、特定の顧客機会に取り組むようになる。顧客との接触は継続的に行われます。情報は最新かつ豊富で、誰もが利用できるようになります。リーダーは遠隔地にいるのではなく、流れの中にいるようになります。個人の競争力を犠牲にして、チームワークと協力関係が強化されます。協力的なサポートが不安を和らげ、リスクを取ることを促す。才能ある人々は、プロセス全体を見渡し、影響を与えることができること、他の知識豊富な人々から学ぶことができること、そして創造し成長する機会があることに惹かれます。このような環境から生まれるリーダーは、従来のモデルとは全く異なるものになるでしょう。彼らは必ずしも一つの専門分野に秀でているわけではない。また、すべてのアイデアを持っているわけでもありません。また、独占的な意思決定権や圧倒的な個性、情報の独占に頼ることもできないだろう。リーダーシップを発揮できるのは、チームのメンバーが自分の能力を最大限に発揮できるように、ビジョンで鼓舞できる人である。このようなリーダーは、忠誠心を求めるのではなく、忠誠心を生み出すことができ、優秀な人材は彼らと一緒に働きたいと思うようになる。さまざまな人と効果的にコミュニケーションをとり、多様な視点の対立を利用して新たな洞察を得ることができます。彼らは、自分が強化する価値観によって影響力を行使する。彼らはチームメンバーのリーダーとなるでしょう。もうセットプレイはありません。作曲家、指揮者、演奏者の区別もなくなってきています。新しいリーダーたちは、私たちの周りにいます。

ここまで読めばもう分かりますよね?要はエリントンの話なんですよ。そして重要なのは、いわゆるアドリブソロの話なんてどこにも出てこないことです。これ強いて言うなら「ビッグバンド型組織」の話なのではないかと、そんなことさえ思うわけです。

「ジャズ」という言葉が一人歩きした結果

ところが「ジャズ」の言葉が一人歩きした結果、日本ではこんな感じに解釈されてしまうわけです。

では、ジャズ型組織の特徴には何があるのでしょうか。バーナードは「共通目的、貢献意欲、コミュニケーション」を組織の構成要素としてあげましたが、ジャズバンドも組織である以上、そういった側面を持っていると考えられます。まず、オーケストラの目標が楽譜に書かれている作曲家のビジョンを具現することにあるとすれば、ジャズバンドの目標は、曲に組み込まれている作曲家のビジョンや意志を再現するのではなく、演奏者の個性や創意性に基づく「インプロビゼーション」を通じて、既存の音楽とは差別化されたブランド・ニュー音楽を生み出すことにあります。

はい、もう分かりますね?この人の頭の中に「ビッグバンド」は無いです。だって、サムネイルの写真これだし。

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何度も言いますが、アドリブソロの話なんてクラークソンは全く触れてません。

あとはこんな社長さんのブログも

「ジャズバンド型」というのは、ビッグバンドは例外として、多くは4,5人までで其々の違った楽器で自己を表現しながらお互いをサポートしたり競争したりして一つの作品を表現していく。

ビッグバンドは例外として
ビッグバンドは例外として
ビッグバンドは例外として
ビッグバンドは例外として
ビッグバンドは例外として
ビッグバンドは例外として

勝手に例外にすんなぁ、ボケェ!!!!!!!!!!

                        ┌────┐
                      ┌───┘ し~♪   |     ♪
            ┌────┘ よ~♪ . ┌─‐v─┘
    ┌───┘って~♪ ┌─‐v──┘
    │逝~♪  ┌─‐v─┘
    └─‐v──┘                     ♪
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っていうかコンサルのこういう話って、正確に広まらないと影響デカいんだよねぇ。だって、いわゆるコンボジャズの形で100人規模の組織を機能させようという発想でしょ?それって理想のリーダー像は「渋谷毅」ってことになりまっせ。

いや、これはこれでねカッコいいのよ。すげぇ盛り上がるのよ。ライブも最高なのよ。でもね、でもね・・・そんなこと、BCGのCEOが間違っても言うかよ!!!!いや、これをクラークソンさんが意図してたなら逆に尊敬するよ。いや、渋谷毅がスゲェってことなのか?アァ、もう訳わからん。

これはやっぱり「ビッグバンド型組織」って話だと思う

話を戻すと、つまり「リーダーはエリントンを目指せ」ということですし、「これからはエリントンのオーケストラのような組織が成長しまっせ」って、少なくともBCGのCEOは言っているという話かと。

ただ、これってエリントンに限らないよな?と、ビッグバンドファン的には思う訳です。例えば、渋谷毅のようなリーダーを目指し、渋さ知らずのような組織を育ててもいいと思うわけです。

ここでクラークソンさんの文章から、組織の要件に関わる部分を箇条書きにして抜き出してみます。

1. さまざまな専門分野の人たちが、より永続的なチームを組んで、特定の顧客機会に取り組むようになる。顧客との接触は継続的に行われます。
2. 情報は最新かつ豊富で、誰もが利用できるようになります。
3. リーダーは遠隔地にいるのではなく、流れの中にいるようになります。
4. チームワークと協力関係が強化されます。協力的なサポートが不安を和らげ、リスクを取ることを促す。
5. 才能ある人々は、プロセス全体を見渡し、影響を与えることができること、他の知識豊富な人々から学ぶことができること、そして創造し成長する機会があることに惹かれます。

この要件とエリントン以外のビッグバンドの被り具合を見ていけば、エリントン以外のビッグバンドでも同じことが言えるのではないか、というわけです。

組織要件1. さまざまな専門分野の人たちが、より永続的なチームを組んで、特定の顧客機会に取り組むようになる。顧客との接触は継続的に行われます。

例えばカウント・ベイシー楽団においても後にキングオブポップスのプロデューサーにもなるクインシー・ジョーンズを迎えたり

スタンケントン楽団には若かりし頃のメイナード・ファーガソンがメンバーにいたり

ボブ・カーナウがプロデューサーになってからは「Chicago」のナンバーを取り入れたアルバムを大ヒットさせたり

こんな具合に様々な専門分野を持った人間がチームを組んでツアーやアルバムリリースといった活動を継続して行っていました。いわゆる1回限りの企画ものではなく、一定期間継続してやっていたということです。

組織要件2.情報は最新かつ豊富で、誰もが利用できるようになります。

そして、そうした最新の音楽ノウハウはメンバーにも共有され、後に独立してより新しい音楽を生み出すことにもつながっています。カウント・ベイシー楽団で活躍していたサド・ジョーンズが退団した後に、メル・ルイスとの双頭バンド「サド・ジョーンズ&メル・ルイス ジャズオーケストラ」を結成、よりグルーヴィーでよりジャズの濃い部分を凝縮したようなサウンドを打ち出し、現在まで続くマンデイナイトのビッグバンド演奏の皮切りにもなりました。

そのサドメル楽団にはボブ・ミンツァー、ジム・マクニーリー、ボブ・ブルックマイヤーといった若くて才能あるプレイヤー・コンポーザー・アレンジャーが沢山集い

その彼らがまた独立してより新しい音楽をWDR BigBandなどのヨーロッパのビッグバンドやニューヨークのミュージシャン達と共に作り上げています。

そんなジム・マクニーリーのところには狭間美帆が

ボブ・ブルックマイヤーのところにはマリア・シュナイダーが

弟子入りし、その彼女らもまた世界中で活躍している。触れ合いながらも常に音楽が進化しているのが目に見えて分かります。

組織要件3. リーダーは遠隔地にいるのではなく、流れの中にいるようになります。
組織要件4. チームワークと協力関係が強化されます。協力的なサポートが不安を和らげ、リスクを取ることを促す。

そして彼ら彼女らは決して作編曲だけして、演奏する時にはバンドにいない、なんてことはない。演奏することもあれば、指揮を振ることもあるが、常にバンドと共に現場にいて、現場のお客さんの反応などもキャッチアップしています。そういう中で、時に失敗することがあっても、チャレンジを優先してきた。これは例えば60年代〜70年代のエリントンが、一般的に【前衛】と呼ばれるような作品をリリースしながらグラミー賞を受賞しているという事実、これがチャレンジを優先してきた証左と言っても過言ではないと思います。

60年代後半、受賞無しを挟んでいますが、第8回、第10回、第11回はデュークエリントンが連続受賞となっています。ただ、このエリントンがグラミーを受賞している作品を見るとEllington '66、Far East Suite、And His Mother Called Him Billの3作品で、恐らくA列車で行こうやサテンドール等をエリントンのイメージとして考えている人からすると全く頭の中には無いのではないかと思われる作品です。例えばEllington '66はその前年に発表されたEllington '65から続くポップス曲集で、ビートルズナンバーも入っていてオリジナルナンバーは2曲のみというアルバムです。

組織要件5. 才能ある人々は、プロセス全体を見渡し、影響を与えることができること、他の知識豊富な人々から学ぶことができること、そして創造し成長する機会があることに惹かれます。

そしてメンバー同士が切磋琢磨しながら技術を磨き合い音楽的なクオリティを上げてきたことは言うまでもありません。またサドメルバンドが当初は単なるリハーサルバンドだったにも関わらず、やがて優れたミュージシャンが次々に参加するようになり、ついにレギュラーバンドとなったというエピソードも、まさにミュージシャンが成長機会を求めることでバンドもまた成長していった好例と見ることが出来ます。

という訳で、エリントンに限らず優れたビッグバンド全般にいえる話だということが分かりました。なので、「ジャズ型組織」は「ビッグバンド型組織」と是非言い換えて欲しいと思います。以上、ビッグバンドファンでした〜、バイバイ〜



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