何の役に、誰の役に立つのか

黒板五郎さんが亡くなった。言わずとしれた田中邦衛さんのことだ。わたしの中では北の国からの五郎さんとしての時間が実に長すぎて、田中邦衛という役者の方はどこか遠くの人で、黒板五郎さんは親戚の、いや、実の親のような教えをたくさん受けてきたように思う。

若い頃は純のような気持ちで。年をそれなりに重ねたいまはちょっと先を行く先輩を見るような気持ちと。

五郎さんは「ありがとう」という声の届く範囲でいいんだ。オラそこで頑張るんだというようなことをぼそっと誰に聞かせるでも諭すでもなく自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。

そのことがすごく素敵で、粋で、正直で、素直で、ほんとうで。こんなおとなになりたいと感じた。

実際にいいおとなになった今、そういう生き方ができてきた自分も振り返ると、ほんとに五郎さんは正しかったなあと感謝するのだ。

おそらく、今の時代にそれを言うことはたやすいことで、誰もが同じように感じるかもしれないけれど、五郎さんが生きたあの昭和の時代は、どこか時代遅れのように聞こえた人もいるかも知れないし、そんなことじゃこれから生きていけないよと思った人もいたことだろう。でも、若いわたしのこころにはその言葉が突き刺さったし、長く長く生きる灯火として光り続けてくれた。

五郎さん、ありがとう。おつかれさま。

このありがとうは届かないかもしれないけれど、わたしはこれからもリアルな声が届く範囲で生きていく。


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