渡辺佑基『進化の法則は北極のサメが知っていた』(河出新書)

すごく読み易かった。専門的な内容でも噛み砕いて説明してくれているのでどんどん読み進められる。

変わった生物の生態を紹介していく感じかと思って読んでみたら、良い意味で予想を裏切られた。ニシオンデンザメ、アデリーペンギン、ホホジロザメ、イタチザメ、バイカルアザラシの5種を取り上げているが、この5種の生態から、生物全体の生態や進化を規定する物理法則にまで考えを広げていた。考えてみると、「生物も物理法則に従って生きている」なんていうことは当たり前のことだが、私は言われて初めてはっきりと意識した。

筆者が注目していたのは、動物の体温だ。ものすごく要約すると、体温と体の大きさによって基礎代謝量が決まり、それによって動物の生活スタイルが決まるという話だ。体温が高いとそれだけ生物の細胞内での化学反応は活発になり、エネルギーの消費量(代謝量)は大きくなる。体温が高い生物ほどより活発に活動することができるが、その分エネルギーも多く消費するので必死にエネルギーを摂取しなければならない。逆に、体温が低いと代謝量が小さくあまり活発に活動することはできないが、エネルギーを摂取する頻度や量もその分少なくて済む。

また、体の大きさも動物の生活スタイルを規定する大きな要素だ。ジェームズ・ブラウン博士の研究によると、動物の代謝量は体重の4分の3乗に比例して増加する(パイプ式輸送ネットワークモデル:生物の体の中を通る管に注目)。このことから、体重1キロ当たりの代謝量は体重のマイナス4分の1乗に比例して減少すると言える。つまり、体が大きければ大きいほど、体重1キロ当たりの代謝量は小さくて済むということだ。体の小さい動物は小さい割に高出力なので、せかせか動いてエネルギーを沢山摂取しなければならない。逆に体の大きい動物は体の割には低出力なので、小さい動物のようにエネルギー摂取のためにちょろちょろ動き回らなくても良い。

体温と体の大きさというたった2つの要素で、全生物がなぜそのように生活しているのかを説明できるというのは衝撃だった。地球上にはものすごく多様な生物がいて、それぞれ見た目から体の仕組みまで全く異なる。私もその辺のカラスや犬も皆、温度や体の中を通る管という、同一の物理的な要素に縛られて生きていると思うとなんだか不思議で面白いなと思った。本書では、この理論を応用して、生物多様性の地域差やそれぞれの生物の時間感覚まで考察している。それもとても面白いので読んでみてほしい。

他に印象に残ったのは、筆者の挑戦する姿勢だ。ホホジロザメの生活スタイルを調査するために、記録計を取り付けなければならないのだが、当然野生の生きたホホジロザメに取り付ける必要がある。ホホジロザメといえば危険な生物の代表格であり、記録計の取り付けが困難なことは誰の目にも明らかだが、筆者は仲間と共に粘り強く挑戦して成功している。また、本書では失敗した調査の事例にも一章を割いて触れている。この調査は結果的には失敗してしまうのだが、どんなに難しいことでも挑まずに諦めてしまっては何にもならないということを教えてくれる。

筆者は学部生時代に夢中になれることを見つけられずぼんやりと日々を過ごしていたそうだ。自分の全能力を賭けて勝負できることに出会い、それを自分がやることで少しでも世界に良い影響を与えたいと思っていたと述べている。今の私と重なる部分がある。私もそういう生き方をしたい。


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