京アニ放火が起きた今だからこそ、火災の恐怖について考える【歴代の大規模火災と最適な避難方法考察】

※この記事は筆者がかつて書いたものをnoteに移したものになります。ご了承ください


まずは、この度の京都アニメーションの放火事件で亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々の一刻も早い快復を祈念いたします。

まだ事件の全容が明らかになっていない中でこのような記事を書くのも心苦しいのですが、「だからこそ」と思い、執筆いたしました。

今回の事件ですが、犯行に多量のガソリンが用いられたため、「こんなもの防ぎようがない」という意見が多数を占めているようです。

現に私自身そう感じていますが、しかしそこで思考を止めることが正しいとは思えません。

仮に0.1%でも助かる確率が上がる方法があるなら、それを考えておく必要があると思うのです。

そして今回の件を考えるにあたり、あらためて火災というものを考え、リサーチをしてみましたが、自分のモノの知らなさ、考えの至らなさに愕然としました。

  • 大津園児死亡事故の前から交通事故に対しては非常に気をつけるようにしていたり

  • 夜道で常に前後を確認しながら歩いたり

  • 電磁パルス攻撃の存在を知ってから文明が停止することを前提にサバイバルの本や携帯用浄水器を買ってみたり(これはほぼ趣味ですが……)

と、自分なりには災害や危機に対しての管理意識や感度は高いと思っていたのですが、ある種メジャーな災害である火災に関しては、小学校の避難訓練のレベルで止まっていることに気付いたのです。

この記事では、主に大規模建物火災についての歴史や事例をまとめるとともに、自分が遭遇した際、最も生存率が高くなると思われる行動について考えていきます。

(なお、この記事は素人がWEBで調べた知識のみに基づいて執筆していますので、正しさに関しては一切の保証をいたしません。また責任も一切負いかねますので、くれぐれもご注意ください)

大規模建物火災の歴史

人類と火災との歴史は、長きにわたり、「火事」という名前の通り「火」との戦いの歴史でした。

太古の山火事に始まり、ついこの間、ほんの太平洋戦争の前後までは「火そのものからどうやって逃げるか」というのが命題だったわけです。

江戸時代の明暦の大火や大正時代の関東大震災がまさにそれ。

四方を炎で囲まれて行き場を失う、あるいは火災旋風に巻き込まれる、といった事態が死因の多くを占めていたと思われます。

しかし近現代に入り、(高層の)鉄骨造の建物が増えるに従い、火事は「煙」との戦いになっていったのです。

単一建築物として、日本史上最悪の死者数(208名)となった1943年の布袋座火災wikipedia)。

焼け跡からは焼死体以外にも、多数の窒息死した遺体が見つかったようです。

これが「煙」による被害、すなわち「一酸化炭素中毒」です(一酸化炭素以外にも危険物質は多数あるようですが、量・毒性・無味無臭とあらゆる観点で危険度が高いようなので、一酸化炭素にしぼって話を進めます)。

そして、ビル火災として日本史上最悪の死者数(118名)となった1972年の千日デパート火災wikipedia)。

こちらに関しては、デパートの3階で出火し、炎は全く届かなかったにも関わらず、118名が7階で亡くなっています。

まさに「火事=煙の恐怖」というのをまざまざと見せつけた火災となります(「火が迫ってきた」というような証言もあるが、これが熱波のことを指しているのかは不明)。

他、教訓を残した重大火災としては、

  • 1973年 大洋デパート火災(wikipedia

  • 1980年 川治プリンスホテル火災(wikipedia

  • 1982年 ホテルニュージャパン火災(wikipedia

  • 2001年 歌舞伎町ビル火災(wikipedia

などが挙げられます。

いずれも「袋小路の建物からどう逃げるのか」ということが問題になった火災と言えます。

現代の火災は「建物からの脱出」がキーポイントになるのです。

一酸化炭素中毒の恐怖

火災の際によく言われるのが、「一酸化炭素中毒」の危険性についてです。

なんとなく「かなり危険だ」ということは認識していても、具体的に毒性や特徴を知っている人はほとんどいないと思われます。

一酸化炭素中毒の怖さを具体的に見てみましょう。

こちらの記事(DIAMOND online 1)によると、濃度の高い一酸化炭素の環境下で、人は1~2分で死に至ると書いてあります。

私は素人なので断言はできませんが、京アニ火災では一瞬にしてこの濃度(あるいはこれ以上?)になったのでは、と推測できます。

そして、先ほどの記事やこちらの記事(DIAMOND online 2)に記載がありますが、一酸化炭素中毒は、睡眠中はもちろんのこと、起きていたとしても気付かぬ間に発症する可能性があります。

いや、可能性があると言うより、無味無臭なのでむしろ事前には気付けないと思っていた方が良いと思います。

そして、一度発症してしまうと、

右手を動かそうとしても自由に動かなくなりました。手を上に挙げようと力を入れても動かないのです。これはもしやと思い、「CO漏れてないか!!」、と声を出そうとしましたが唇がしびれ「ううう、やや、」とうまく発声できません。そればかりか、よだれ、鼻水、涙が垂れてきました。

https://diamond.jp/articles/-/191010?page=3

3度ほど呼吸をしたかと思ったら、吐き出すことも吸うこともできない。ちょうどプールで溺れ水を吸い込んでいるように呼吸ができない。(中略)そのまま倒れてしまった。(中略)倒れたまま動けないが意識はある。恐ろしいことに意識があるのに体が動かない。

https://diamond.jp/articles/-/195236?page=4

このように、「意識はあるのに何もできない」という時間があり得るようです。

(このことを知ってしまうと、実際の火事を想像したとき、非常に辛くなります……)

 

ではこの一酸化炭素中毒、本当に全く発生を感知できないかというとそんなことはありません。

そうです、「煙」は目に見えるからです。

こちらの記事(DIAMOND online 3)とこちらの記事(DIAMOND online 4)を総合すると、煙には3種類(3色)あるようです。「白煙」「黒煙」「黄色い煙」です。

白い煙

「純粋な白煙」は基本的に水蒸気ですので、煙そのものは無害のようです。
ただし、火災現場での白煙は不純物を含んでいるため、当然危険性はあります(このあとの煙よりははるかにマシと思われますが)。
また、温度が80度を超えてくると窒息の危険性もあるようです。

黄色い煙

白煙は時間とともに灰色を帯びていき、一度黄色い煙になるようです。
この黄色い煙は、様々なものが中途半端に燃やされることで発生する猛毒の煙だということです。

黒煙

そして煙は、最終的に黒煙になります。
黒は煤(すす)の色、すなわち一酸化炭素が発生している証拠と思われます(記事に厳密に記載はありませんでしたが)。

 

これを考えると、基本的に煙が白いうちは「火事としては比較的初期段階」と言えると思います。

よって建物内にいる場合、「通常の経路で逃げるなら、基本的にはこのタイミングしかない」ということになるかと思います。

もちろん、自分のフロアに届いた煙は白かったが、下層階はすでに大業火……という可能性もあるので一概には言えませんが。

※本記事は素人がWEB知識のみに基づいて執筆していますので、正しさに関しては一切の保証をいたしません。また責任も一切負いかねますので、くれぐれもご注意ください

火の恐怖 フラッシュオーバーとバックドラフトも

基本は「煙」との戦いになる現代火災ですが、ものすごい勢いで火が燃え広がるケースがあるということは知っておいた方が良いと思います。

この2つ、原因や過程こそ違うものの結果としてはほぼ同じなので、あえて区別して認識する必要もないと思いますが一応、

  • フラッシュオーバー:室内に引火性ガスが溜まり、引火することで一気に爆発的に燃え広がること

  • バックドラフト:密閉空間に溜まった不完全燃焼の一酸化炭素ガスに、解放したドアから流れ込む酸素が結びつき、化学反応で爆発すること

という違いがあります。

いずれにせよ、この現象が起きる前に逃げることが肝心です。

「まだ大したことないから」とは思わないことです。

京アニ放火では、ガソリンが撒かれたため、揮発したガスに引火して一気に爆発するという「爆燃現象」が起きたと言われています。

これらの現象が起きた際は、「既に」か「次の瞬間」には、黒煙が充満していることになるので、細かくは後であらためて検討しますが、「大至急、新鮮な空気を確保する(≒窓際に逃げる)」必要があると考えられます。

新鮮な空気は火勢を強めると言われますが、それより自分の呼吸の方がよっぽど大切です。

実際の事例および映像から、各火災の詳細・特徴を確認する

千日デパート火災

火災の詳細はWikipediaでご確認いただければと思います。ここでは、要点を絞って経過をまとめます。

①概要

  • 7階建てデパートでの火災。死亡者数118名

  • デパートと名は付いているが、百貨店というよりは複合商業施設・ショッピングセンターだった

  • 「雑居デパート」ということもあり、防火対策や連絡系統などが杜撰で被害を拡大させた(ただしこの手の杜撰さは、この火災に限らず、この記事でのほとんどのケースで当てはまる)

  • 火元は3階

  • 21時のデパートの閉店後、作業していた電気工事士のたばこが原因だったと言われている(詳細不明)

  • 被害を受けたのは7階のキャバレー『プレイタウン』

  • デパート閉店後、ビル内で唯一営業していた店である

簡略化したフロアの図面を載せておきます。

経過と照らし合わせながら、ご確認いただければと思います。

かなり簡略化していますので、事実と多少違うところもありますが、要点は間違っていません。

緑〇は開いているドア、赤〇は施錠されているドア、オレンジ部分は階段を表します

②経過

当初プレイタウンには客57名、ホステス78名、従業員ら35名、バンドマン10名、ダンサー1名の合計181名が滞在

【22:33】3階で工事士が火災認知(高さ70センチ、幅40センチ程度)→ 初期対応
【22:34】1階保安室で3階の警報ベル検知(7階には伝わらず)
【22:36】7階で数人が白煙認知(初めは火災とは思わず)
【この頃】保安員が3階へ移動も、すでに手に負えず撤退
【22:39】店内が騒がしく、事務所から出てきた支配人が火災認知(ただしボヤと誤認)
【22:40】保安室から119番通報
【22:41】クローク係が白煙認知、瞬く間に黒煙に変わる(この時点でエレベーターホールも一瞬で通れないほどの黒煙にまみれた)
【22:42】クローク係が自身の後ろにあったB階段で脱出
【この頃】黒煙と異臭がホールに流入し全員(※)が火災を認知、エレベーターに殺到 ※泥酔客は除く(穏やかな表情でソファに座り、マイクを持ったまま亡くなった方もいたそう)
【この頃】すでにエレベーターは使えず(使えないように思え)、店内にパニックが生まれ始める。
【この頃】客1人とホステス1人がエレベーターで7階に上がってきたが、エレベーターホールの煙に驚き、その場にいた別のホステス1人とすぐさま地上に戻る(ここの正確な時系列は不明)
【22:43】消防隊第一陣到着
【この頃】支配人の指示で、従業員が「ホステスの皆さんは落ち着いてください」と場内アナウンス
【この頃】エレベーターホールから逃げてくる人とエレベーターに向かう人がぶつかり合いパニックが増大
【この頃】施錠されているA階段のカギを取るために従業員がクロークに向かうが、猛煙で断念
【この頃】一部、窓際にたどり着いた(元々いた)人たちが助けを求めはじめる
【22:45】3階でフラッシュオーバーが発生、7階の煙が一気に増加
【この頃】エレベーターホールの煙が酷く、パニックの中、ほとんどの人がホールの中に戻る

なお、この段階で人々がどこに居た、あるいは逃げたのかを大まかにまとめると以下の通り。

 ・煙から遠い窓際
 ・煙の少ないトイレ
 ・ベニヤ板で閉鎖された工事中の連絡通路前
 ・当初から孤立していたホステス更衣室

これをふまえた上で、経過の続きを見ていきたい。

【22:46】消防隊が放水開始、4階でフラッシュオーバー
【この頃】「窓際」に逃げ込んだ人が救助袋を1階へ投下する(備品に不備があり、セッティング完了は22:49)
【この頃】「トイレ」に逃げ込んだ人は、これ以上の逃げ場がなく(トイレは窓が無かった)、袋小路となってしまう
【そして】少しでも煙から逃げようと便器に顔を突っ込む人もいたが、数分後には全員亡くなったと思われる
【この頃】「連絡通路」からベニヤ板を破って脱出しようとした人たちだが、工事が想定より進んでおり、連絡通路はコンクリートで塞がれていた
【そして】パニックになった人が蹴ったり叩いたりして破壊を試みるも当然壊れず、数分後には全員亡くなったと思われる
【この頃】「更衣室」のホステスが隣部屋から取ってきたカギでE階段からの脱出を図るが、すでに煙まみれで断念
【そして】ダクトが近かったため、すでに廊下にも出られず、完全に孤立
【そして】一部ホステスはせめてもの抵抗でロッカーの中に逃げ込むが、数分後には全員亡くなったと思われる
【22:48】支配人らがF階段で屋上に避難しようとするが、シャッターを開けたとたんに猛煙が流入、使用を断念
【この頃】飛び降りる人が出始める
【22:49】プレイタウン停電。大パニック発生で、転倒に伴う胸部腹部圧迫での犠牲者が出る
【22:50】B階段からホステスが生還(クローク係に続いて2人目・詳細に関する記載がないので推測だが、この時刻は「脱出に成功した時刻」だと思われる。つまり7階を出たのは、7階→1階が2分程度として48分頃と推定)
【この頃】窓際以外の人は全員亡くなったと思われる
【この頃】はしご車で救助される人が出始めるが、待ちきれずに飛び降りる人も続出(はしご車での救助者数は、23:23の救助終了までで50名にのぼった)
【この頃】また、セッティングが完了した救助袋だったが、7階で使い方(袋の入口を開けて、中を滑り降りる)を知っている人がおらず、袋をロープ代わりに握りしめて(抱きついて)降りようとする人が続出(結局、この方法は生還8名、死亡13名となった)
【23:15】消防隊は7階からアーケードの屋根に飛び降りた2名を救助(実質的高さは5階程度か?うち1名は、アーケードに架かるワイヤーをめがけてダイブ。クッション代わりに使うことに成功したが、それでも重傷)
【23:30】これ以上の生存者なしとして救助活動打ち切り

以上が、火災の主な経過です。必要最低限の情報量にしたが、それでもこれくらいにはなってしまいますね。

分かりにくい場合は、動画サイトなどに『奇跡体験!アンビリバボー』の再現動画が上がっている場合もありますので、そちらでご確認ください。

③店内の経過を図で振り返る

文字で振り返っても分かりにくいので、視覚に訴える形で見ていきたいと思います。

まず、初期状態がこれです。

22:36(ここを基準点とします) 何人かが白煙を認知

しかし、あなたが客の場合、このフロアの認識はこうなります。

これ、結構辛いですね。移動手段がエレベーターだけですが、白煙が出ている時点でエレベーターには乗れません。

もしあなたがこの店に初めて来たなら、そのタイミングで「あれ、このビル、エレベーターしか移動手段がないぞ」ということには気付いていないといけないわけです。

もし入店時に気付けたのなら、白煙が上がった時点でいち早く、事の重大さに気付くことができます。

エレベーターが使えなければ閉じ込められるわけですから、この時点で詰んでいるわけです。

ここに気付ければ、恥も外聞もなく、それこそ死ぬ気で階段を探せるはずです。

もし運が良ければここでB階段にたどり着きます。

仮に火事じゃなかったとしても、会計などあとで何とでもなるのですから真っ先に逃げるべきです。

しかし、B階段はクロークの奥にあり店内からも見えず、一部のスタッフしか存在を知らなかったということです。

となると、どれだけ聞いて回っても、階段の情報を得られなかった可能性が高いです。

できることはせいぜい窓の位置を確認するくらいでしょうか。

これも隠れていれば難しいですが……。

そして、そもそも店の奥に居れば、白煙にすら気付けません。

ちなみにこの頃、店内は正常性バイアス(詳しくは後述)が働いていて、恐ろしいことにほぼ誰も何もしていません。

22:41(5分後) 7階に黒煙が上がってくる

そうこうしているうちに、5分後には黒煙が上がってきます(本当に時間が無いです。白煙のうちに避難できるかが全てです)。

階段を探しながらうろついていたあなたは、エレベーターホールで黒煙を視認したとしましょう。このときの状況が下図です。

このとき、煙が上がってきているのは主に2か所、エレベーターとダクトです。

あなたの認識はこうです。

中に戻るしかないです。

そしてここまでに、つまり白煙を見てから5分以内にB階段の存在に気付けなければもう通常ルートでの脱出は不可です(A階段やF階段は施錠されているので出られません)。

通常ルートでの脱出が不可になった以上、黒煙を見たら、呼吸の確保が最優先です。

店内を壁伝いに動いて窓を探します。

22:42(6分後) 黒煙が立ち込める

黒煙が見えたと思ったら、1分としないうちにあたりに立ち込めます。

視界はやや不良、異臭が広がるという感じでしょう。

史実では、このタイミングでB階段からクローク係が脱出しています。

フロア全体はこんな感じ。

先ほどまでのタイミングであれば避難可能だったかもしれないA,E,F階段も、この時点でかなり厳しくなります。

ちなみにこの頃、店内では入り口近くの人が慌ててエレベーターに向かいますが、当然もう乗れません(正確にはイチかバチかギャンブルで乗ることはできたかもしれませんが)。

ちなみに、現代では煙を感知したらエレベーターは止まるので、絶対に乗れません。

そして、異様な雰囲気が店内を包みはじめます。

あなたのフロア認識はこうです。

幸い窓はスムーズに見つけられたはずです。

また、店内では「ホステスの皆さん、落ち着いてください」という案内が流れ、実際に一部ホステスは素直に席について様子を見守ります。

その一方、エレベータへ向かう人も増えますが、先に行った人が乗れずに戻ってきているのでぶつかり合い、混とんとしてきます。

史実ではこの少し後、消防隊が到着し、窓際にいた人が助けを求め始めたということになっています。

22:45(9分後) 3階でフラッシュオーバーが起こり、煙の量が一気に増大する

天井付近を漂っていた黒煙が一気に目線以下まで降りてきます。

ここからはほぼ視界の効かない状況で、身をかがめての避難になります。

あなたはひたすら窓際で待機するしかありません。

しかし、パニックになって叫んでいるだけではいけません。

もしここで、冷静に状況を判断できれば、「今いる窓は道路から遠い=はしご車の救助が後回しになるかもしれない」ということに気付けます。

今回は、その事実には気付けなかったとして話を進めましょう。

22:48(12分後) 店内の煙の量が限界近くなる

一部の人はトイレに逃げ込み、その後亡くなります。

別の集団は工事中のベニヤを破ろうと物置に入りますが、ベニヤはブロックになっており、その後亡くなります。

更衣室にいたホステスは事務所からカギを取ってきて、E階段へのドアを開けますが、すでに煙で使用不可。その後亡くなります。

F階段もすでに使用不可でしたが、支配人はじめ何人かは窓際まで逃げてきます。

この時の店内の状況が以下の通り。

この頃最初の飛び降りが出てきます。

1人飛ぶとパニックになった何人かが後に続きますが、どう見ても助かっているようには見えません

もはや少しの猶予もありませんが、はしご車が自分の窓のところに来る気配はありません(史実でも、この窓には来ていません)。

※推測ですが、この窓は下にアーケードがあったのではしご車が入りづらかったと思われます。また、図でいう下側が大通りだったと思われます(現に控室の窓にははしご車が来ている)

ちなみに、あなたの認識はこう。

頭には「飛び降りかはしご車」しか浮かびません。

しかし、7階から飛び降りて助かる確率はほぼありません。

しかも、はしご車も来ないのであれば、何か別の活路を探さないといけません。

ちなみにこの頃、店内を死ぬ気で這いずり回っていたホステスがB階段に到着し、2分後には1階から脱出します(すごい……)。

22:49(13分後) 停電が起こる

ただでさえ視界がほぼ無くなってしまう大火災で停電が起きれば、もはや移動は不可能です。

このタイミングで窓際にいなければ、もう生き残ることは絶望的です。

 
 

このタイミングで、

 
 

救助袋の先を地上で一般人が持って、下降の準備が整ったという記録があります。

もし、あなたが窓にへばりつきながらもあらゆる可能性を探していたとすれば、救助袋の先っぽが見えたかもしれません。

あるいは「早く降りろ」という声が聞こえたかもしれません。

停電したことで、隣の窓の存在に気付けたかもしれません。

その瞬間に、あなたの認識はこうなります。

救助袋の使い方を知っていれば、これでノーリスクで生還です。

史実ではこの後、救助袋の使い方を誰も知らず、生還率50%にも満たない数字で、7階から袋の外側を滑り降りていきます。

窓からは飛び降りが続出し、2名を除いて飛び降りた人は亡くなってしまいました。

……と、人災の側面がかなり強いとはいえ、これほどまでにあっという間に人間というのは逃げ遅れてしまうものなのか、ということがお分かりいただけたかと思います。

ちなみに。

見るのも辛いですが、亡くなった方の店内での位置はご覧の通りです。

やはり基本的には集団で固まっていることが分かります。

そして、窓際と内部側での生存率の違いも一目瞭然です。

更衣室や厨房など、身を寄せ合うように亡くなっているのはとても辛いですが、生き残るには、B階段から降りた2人目の女性のように、単独ででも合理的な行動を取らないといけません。

彼女は、「落ち着いてください」というアナウンスで一度は(こんなの現実なはずがない、という誘惑に負けて)席に戻ってしまっています。

それでも、猛煙と暗闇の店内を決死の覚悟で歩き、フロント側の壁に到着。

多くの人が茫然として動けなくなったり、パニックになってブロックを叩き割ろうとしているのには目もくれず、一旦トイレに駆け込み、嘔吐しつつもハンカチを水に濡らして、避難の態勢を整えます。

トイレにはすでに逃げ込んで「ここは安全」と思い込むように現実逃避していた人もいたはずですが、勇気を振り絞って再び外に出て、煙の発生源であるエレベーターホールの脇を抜けて、B階段までたどり着くわけです。

誰しもが彼女のような行動を取れるわけではないかもしれませんが、また、彼女自身運が良かった部分もありますが、しかし彼女から学ぶことは多いはずです。

ここであらためて、見事に生還を果たした方の避難ルートを整理しましょう。

これが「いざというときの判断材料」そして「いざというときになる前に行動するための参考」になります

④避難できた人のタイプ(避難ルート整理)

当時の建物内には、6階で作業していた改装工事作業者や1階の保安員もいましたが、彼らは除いて考えます。

プレイタウンの滞在者181名中死者が118名なので、残りの63名が生還者です。内訳は以下の通りです。

  • まず、はしご車での救助者が最も多く50名

  • 救助袋にしがみついて降りてきたのが5名

  • 救助袋の降下中に転落したもののシートで受け止められ助かったのが3名

  • 7階から飛び降りて重傷ながらも生還したのが2名

  • B階段から降りてきたのが2名

  • 奇跡的なタイミングでエレベーターで降りたのが1名

生還ルートで分類するとこうなります。

「とにかく窓際で待機」「救助袋で降下」「窓から飛び降り」「非常階段」
(エレベーターは通常、火災時に使えないので、今回は考察対象外とします)

とにかく窓際で待機

ビル火災で逃げ遅れた場合は、やはりこの生還方法がベースとなります。

下手に動き回るよりは消防を信じて窓で待機。

特に現代の建物は基本的には防火設備や延焼を防ぐ設備が整っている(はずな)ので、消防車の到着を待つ余裕はあるはず、です。

なお、この火災では、防火責任者の支配人も(真っ先に)この方法で助かっています。

救助袋で降下

これは、結局正しい使い方を知らなかったがために、この方法を選んだ人の半数以上が亡くなりました。

初めていく場所で避難器具の場所を把握するのは難しいですが、職場や自宅の避難器具に関しては、いざというとき使えるように、使い方と場所をきちんと調べておくべきでしょう。

私自身、ベランダの避難はしごのフタを初めて開けてみました

窓から飛び降り

7階から飛び降りて生きている可能性はゼロに近いですし、生きていても重大な後遺症が残る可能性が高いです。

なので、基本的にこの方法は選ぶべきではありません。

千日デパートでは、スカイダイビングが趣味という方がワイヤーめがけて飛び降りたというケースがありましたが、これはさすがに異例でしょう。

ただし、運動能力によりますが、

  • 2階なら大丈夫

  • 3階は着地先次第

  • 4階は原則×だが、最後の最後の最後の手段

というのは、頭の片隅に入れておくべきかもしれません。

非常階段

普通であれば、全員ここから逃げるべきであった非常階段。

このケースでは生還者はなんとたったの2人(使用者も2人)でした。

というのも、4つあった非常階段のうち、火災を認知した時点で使用可能だったのは1つだけで、しかもその1つは一部従業員しか存在を知らない、奥まったところにあったというのだから酷い話です。

ちなみにB階段で脱出した1人目は、比較的火災初期に(普通に)降りました。

これは正しい判断です。

2人目は、フロア内が猛煙で満たされ、呼吸もできない、視界もゼロ、店内はパニック状態の中、普段使っていた1階直結階段まで、壁伝いに途中何度も吐きながら到達したとのこと。

逃げ遅れは致命的でしたが、情報と勇気で乗り切りました。

ここまでの話をまとめると、火災現場から生還するのに必要な要素というものが見えてきます。

情報・早めの対応・運動能力・冷静さ・酸素

です。

まず、B階段で降りた2人は「施錠されていない非常階段がある」という情報を持っていました。

この「情報」というのは極めて大きいです。

これによってB階段2人目の脱出者は、暗闇の中でも目標を持って、パニックにならずに移動することができたわけです。

そしてB階段の1人目の脱出者は、黒煙を視認した時点でいち早く脱出しています。

対応の早さは火災現場、災害現場でのキーワードです。

※ただし、本来であれば黒煙が見えてからの対応では遅いと言わざるを得ないです
※また、もしB階段が1階直通でなければ、あるいは火元が1階なら、脱出不可でした

 

さらに、運動能力も生死を分けます。

7階からの飛び降りはさすがに例外中の例外だと思いますが、救助袋をロープ代わりに降りるというのは、モロに運動能力が問われたことでしょう。

もっとも、正しい救助袋の使い方という情報の方が100倍大事ではあったわけですが。

そして、いずれも持っていない場合は、冷静さと酸素が不可欠です。

つまり「覚悟を決めて、窓際(できれば救助されやすそうな窓際)でひたすら待機する」ということです。

逆に、ゼッタイ選んではいけないのが「窓のない奥まった部屋」です(煙から逃れたい一心で選んでしまいがちです)。

また窓際に追い込まれると人は冷静さを失い、飛び降りることが多々あります。

これをいかに耐えられるか、というのが生死を分ける大きなポイントになります(ただし、9.11で体に火が付いたまま飛び降りた人がいたように、どうしようもない場合もあるわけですが……それでも飛び降りてはいけません)。

ちなみに後述もしますが、はしご車の限界高度は30メートル少々だそうです(40メートル級もあるがどちらが来るか丁半博打はできないと思います)。

通常のマンションの10階11階程度です。

さて、ここまで千日デパート火災に関して、かなり詳細に見てきました(この事故だけ研究が進んでいるということもありますが)。

ここからは、その他の代表的な火災に関して簡単に見ていきたいと思います。

大洋デパート火災

詳細はWikipediaでご確認ください。

この火災から分かることは、「屋上は屋内よりは安全(マシ)」だということです。

火災というのは、基本的に速やかに地上に降りることが最優先ですが、それが無理であれば、(状況によるが)窓際で待機が次点です。

しかし、窓が遠いないし存在しないなどの場合、本能的に上に上に逃げることになると思います。

この場合、果たして屋上は安全なのか……というのが気になっていたのですが、その事例としてこの大洋デパートが挙げられます。

YouTube動画:https://www.youtube.com/watch?v=09bNIPqp1go

もちろん火の回りや煙の量など、状況によってケースバイケースではありますが、少なくともこの大洋デパートのケースでは、かなりの猛煙ですが、屋上はなんとか安全性が保たれています(恐らく、少なくとも屋内よりは)。

こう考えると、屋上に逃げて救助(はしご車)を待つ、というのは合理性があると言えそうです。

しかし注意したいのが、京アニ放火では、屋上へと続く階段で多くの方が折り重なるようにして亡くなっていたという事実です。

京アニのケースでは、一瞬で異常な量の黒煙が発生しました。

そして煙は上から溜まっていきますので、まさに屋上への階段のところに猛毒の黒煙が溜まっていたはずです。

ドアも、施錠こそされていなかったものの、少し開けるのが難しいタイプだったとされていますし、視界もほぼ無かったと思われます。

ここにパニックが発生すれば、屋上への移動は事実上不可能になるでしょう。

屋上自体は、屋内よりは安全と思われますが、そこまでの移動の安全性は別問題と認識しておく必要があります。

また、京アニのケースでは屋上もかなり状況的には厳しいです。

が、手すりなど見えている部分もありますし、それでもやはり屋内よりは安全性は高い(マシ)と言えそうです。

ホテルニュージャパン火災

詳細はWikipediaをご覧ください。

この火災の特徴は、起こるべくして起きた、ということでしょうか。

本件に限らず大火災というのは、基本的に防火体制に問題があったり、重大なヒューマンエラーがあったりするものですが、この火事はそれの最たる例です。

社長の横井英樹は「昭和の買収王」を呼ばれる実業家で、徹底的なコストカッターとして有名でした。

スプリンクラーの不設置や安い建材の使用などは当たり前で、電気代をケチるために冬場なのに加湿を一切しないという徹底っぷり。

さらに恐怖政治も相当なものだったらしく、

  • 「客を避難させてボヤだったら社長に激怒される」と考えて就寝中の客を置き去りにして逃げた従業員

  • 駆け付けた消防隊より社長との電話を優先した守衛

  • 高級家具の搬出を命令し、「人命救助が先では」という意見に逆ギレした秘書

など、問題のある人を量産することになりました(これらはもちろん個人の資質の問題もありますが、これだけ多発しているとなると社長の影響は大きいはずです)。

そしてこの社長、火災翌日の記者会見で「本日は早朝よりお集まりいただきありがとうございます」という伝説の挨拶をかまします。

この火災の教訓は何なのか。

それは「法律が整備されようが、平均的に防火意識が底上げされようが、爆弾となりえる人はいつの時代もいる」ということです。

「この火災が起きたのは1980年。そこから40年近く経った今ではこんなことは起こりえない」という人がいるかもしれませんが、少なくとも21年後(2001年)には歌舞伎町で発生しましたし、2019年には「ガソリンを使った放火テロ」という形で現れることになりました。

火災に限らず言えば、韓国セウォル号沈没事故(Wikipedia)なども似たような構図なのかもしれません。

※千日デパート同様『アンビリバボー』の動画がある場合もあります

また、このニュージャパンの例を見てもらうと分かりますが、「気が付いたときには火の海」ということは往々にしてあり得ることです。

というより逃げ遅れの原因はすべてこれです。

京都アニメーションだけの(放火だけの)特殊事例でないことは強く認識しておく必要があります。

ちなみに、このニュージャパンの火災では消防総監が指揮をとり、23区内の全勢力を集める第4出場をはじめ、通常外の応援部隊を呼ぶ増強特命出場、多数の負傷者に対応するための救急特別第2出場など、異例の緊急対応がとられたとのことです。

歌舞伎町ビル火災

こちらも詳細はWikipediaに譲ります。

この火災もまた防火意識の低さが生んだ人災だったわけですが、結局、人間変わらないということです。

「令和に入って、今どきこんな意識の低い建物あるわけない」と思っていても、これは残念ながらまたどこかで起きるでしょう。

ここまで杜撰で被害が大きくなるかはともかく、類似の事案は絶対にどこかで起きるのです。

そして、この歌舞伎町ビル火災ですが、やはり映像の持つ力は強いということを感じさせます。

これまでの事件は、ニュージャパン含め「古い映像」「昔の出来事」でしたが、これは新宿の雰囲気も人の雰囲気も今とほぼ変わりがないです。

しかしそれでいて、この映像には、令和の今ではあり得なくなってしまいましたが、人の遺体が映っています(もちろん直接的にではなく、救急隊が毛布にくるんで搬出しているところの映像で、サラリーマンの足が少し見えている程度ですが)。

いまや、この手の作業には基本的にブルーシートでの目隠しがなされますし、仮に亡くなっている人を撮影したとしても、テレビ側がそれを流すことはないでしょう。

それだけに、この今と変わらない雰囲気の歌舞伎町でこういう映像があるというのは(しかも地上波で!)、足が映っているだけとは言え、かなり衝撃が強いです。

災害に直面した際に判断を狂わせる心理要素(と外的要素)

さてここまで、千日デパート火災を中心に様々な事例を見てきましたが、ここからは人々が逃げ遅れる心理的要因というのを見ていきたいと思います。

これらを知っているかどうかで、かなり生存率は変わってくるものと思います。

ちなみに、以下の項目はそれぞれが別個で存在しているというより、それぞれ関連し合って我々に襲い掛かってくると見た方が良いでしょう。

パニック

災害からの避難時に発生する心理状態として、最も有名なものがパニックでしょう。

今さら説明するまでもないですが、パニックとは「個人または集団が、激しい恐怖でヒステリックかつ無秩序に行動すること」を指します。発生条件として、以下の3つが揃ったときとされています(こちらのサイトより)。

  1. 緊急かつ重大な危険の認識

  2. 閉じられそうになっている限られた脱出路の認識

  3. 状況についての情報不足

このうち、どれかが欠けている場合はパニックにはなりません。

例えば、日航ジャンボ機墜落事故(Wikipedia)では、機内でパニックは起きていません。

これは「閉じられそうになっている限られた脱出路の認識」が欠けていたからです。

つまり、墜落する飛行機にはそもそも「脱出口」がないのでパニックは起きなかったということになります。

あるいは、転覆した船のエアポケットに閉じ込められた後なども同様です。

パニックというと「集団で我先にと混乱しながら行動している」というシーンが想像されますが、個人の視点から見たとき、パニックというのはこのような現象であるようです。

 なお、この火災で事務室にいた中年の女性は、ドアから漏れてくる煙を見て火事だと思った瞬間から記憶がなくなり、気が付いたときには部屋の中に煙が充満していたそうです。こうしてはいられないと思った後また記憶がなくなり、次に気が付いたときには建物の外だったとのことでした。この火災に限らず火事だ、逃げなくてはと思った後どのようにして避難したか全く覚えていない人達の火災事例が時々見受けられます。これも火災時にパニックに陥る事例であります。

https://www.jlma.or.jp/anzen/pdf/bousai_hinan_tie.pdf

もっとも、火災のような緊急事態で出口が1つしかないのであれば、そこに殺到するのはパニックというより、ある種合理的な競争行動でもあります。

そう考えるとパニックというのは防ぎようがないケースも多々あります。

それでもパニックを起こさないようにするには、理想は「パニックが起こる前に逃げる」ですが、そう上手くも行かないでしょう。

その場合は、上記3条件をどうやったら崩せるか、という話になります。

例えば、千日デパート火災ではバンドチームがリーダーの指示のもと、控室の窓際ではしご車を待機して助かる、ということがありました。

これは「窓という脱出路がある」という確たる脱出路の情報をリーダーが提示したことが大きいです。

こう考えると結局情報が大部分です。

平時にどれだけ情報を持っておけるかで、緊急時の対応が変わってくるでしょう。

集団パニックが起きないようにするのは、一市民には正直ほぼ無理でしょう。

集団パニックは起こるものとして、自分だけはどうやって冷静さを保つかに全勢力を注いでください(もし、あなたが店の責任者や救助隊であれば、適切に情報を与えて誘導してあげることで、パニックを防げる可能性はあります)。

しかし実は、多くの場合、パニックというものはまず起きません。

なぜならパニックというのは「本当の極限状態」でしか起きないからです。

それよりも、直接的に逃げ遅れの原因となるものがたくさん存在しています。

正常性バイアス(楽観バイアス)

逃げ遅れの原因として一番有名なのは、この「正常性バイアス(楽観バイアス)」でしょうか。

ささいな環境の変化に対して全て過敏に反応していては心が休まらないので、人間というのはだいたいのことを「いつも通りだ」と思い込む習性があります。

そして特に、異常事態が迫ってきていても「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」と考えてしまうことを正常性バイアスと言います。

一番有名かつ衝撃的なのが、韓国テグの地下鉄放火事件でしょう。

黒煙が迫っており、ハンカチで口を覆っている人がいるほどなのに、誰も動いていないという衝撃の写真です。

他にも、御嶽山の噴火Wikipedia)の際に、噴火が起きても逃げずに、携帯で写真を撮っていた死者も見つかっています(検視をしたうちのおよそ半数)。

なお、この噴火は「警戒レベル1」という極めて低い状況で起きました。

それだけに、山を知っている人ほど「こんな状態で噴火するわけない」と思い込んだ可能性もあります。

そして、何と言っても3.11の東日本大震災(Wikipedia)の津波が挙げられるでしょう。

津波が来るまでに移動しないどころか、津波が来ているのに避難しないで撮影するケースや、

このケースでは意図してかたまたまか、近くに避難できる建物がありましたが

「まさかここまで(自分は大丈夫に決まってる)」で完全に巻き込まれているケース(1人称の動画はかなり貴重なので、3本続けます)、

など様々ですが、どれも「ここまでは来ない」「こんなことあるわけない」と思考を放棄した末に起きる現象です(自戒を込めて厳しめの表現にてすみません)。

正常性バイアスは、先進国の人間こそ気を付けるべき心理状態です。

分かりやすい言葉で言うと「平和ボケ」ですが、普段から危機にさらされることがなければないほど「正常」な状態に慣れているわけですから、このバイアスは強くなります。

また、経験が多い高齢者ほど「今まで大丈夫だった」という思い込みが正常性バイアスを強め頑固になる(この程度で避難するなんて情けない、など)と言われていますが、若い世代は逆にメディアやネットで知識だけが先行する形になってしまっているので、「自分は知識があるから大丈夫」と思ってしまう危険性も指摘されています。

凍りつき症候群

これも正常性バイアスと表裏一体の特性を持っていますが、災害に直面した際に何も考えられなくなる、あるいは動けなくなることを指します。

いわゆる「頭が真っ白」というやつですね。

深夜2時頃、息苦しさで目覚めると、部屋中に古い扇風機から出た煙が充満していた。妻を起こして「逃げろ!」と叫んだところで記憶がなくなり、次に気付いたときは、なぜかリビングにあった木彫りの熊の置物だけを持って外に出ていた。足には小学生の娘の運動靴を履いていた(50歳・男性)

「3・11で津波が迫っているのにもかかわらず、ゆっくり歩いている人がいた。その中で奇跡的に助かった人に、『なぜ、走らなかったのか』と聞いたところ、『走っているつもりでした』と答えている。要するに足が前に進まなかったということで、これが凍りつき症候群です。様々な情報処理機能を司る脳が、過去に同様の事例がないために適切な決断ができず、身体に指示が届かなくなる」

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/31900


この状態の人が大半の環境で、一定の条件が整うと「集団パニック」が引き起こされる可能性もあります。

ちなみに興味深いデータがあり、9.11テロの際、先に飛行機が突っ込んだのはワールドトレードセンター北棟(以下WTC1)の高層階だったのですが、WTC1とWTC2のそれぞれ高層、中層、低層の中で避難をし始めるまでにかかった時間が一番長かったのがWTC1の高層階だったというのです(出典)。

これは、一番強い衝撃を受けたWTC1の高層階では、あまりのことに凍り付き症候群が発生してしまったものと思われます。

集団心理(多数派同調バイアス)

これも正常性バイアスと関連して起こりがちなエラーです。

「みんなが逃げてないから大丈夫」という考え方ですね。

テグの地下鉄放火も、東日本大震災の津波も、9.11テロも究極的にはこれが影響しています。

会議室に人を集めて煙を流入させ、避難を始めるまでの時間を調べる実験などが有名ですが、基本的に周りが逃げなければ逃げない(逃げ遅れる)、という結果になります。

このバイアスを打ち破るには「自分が一番初めに逃げる」という強い決意を普段から持っておくことです。

日本人は特にこのバイアスに囚われやすい人種だと思います。

普段から強く意識しておく以外には恐らく方法はありません。

愛他行動

災害の現場では、目の前の危険にさらされた人に対して自分に特別な役割があるように思え、危機的な状況の中で救助作業を続けて自らが命を落とす、というケースがあります。これが愛他行動です。

助けている本人が危険を認知しているパターンも認知していないパターンもあるでしょう。

しかしいずれにせよ、一度冷静に「自分のいる場所が100%安全か」を見つめる必要があります。

有名な事例としては、東日本大震災の防災無線で避難を呼びかけ続けた職員や、ニュージャパンで煙にまみれながらも誘導を続けた宿泊客などがいます。

彼らが自分の命を捨てる覚悟だったのか、あるいは彼らにも正常性バイアスが働いていて「自分は死ぬわけない」と思い込んでしまったのかは、今となっては知る由もありませんが、災害の際はまず自分の身を守ることが最優先です(そもそも防災無線の件は、放送設備が危険なところにあるというハード的な欠陥ですが)。

人として非常に尊敬できるこの愛他行動ですが、その行動を取ろうと思える人は亡くしてはいけない人です。

どうか無茶をしないでください。

東日本大震災で人を助けに行って……という映像もありますが、辛すぎるのでさすがに貼れません。

どうか自分の安全を第一に考えてほしいと思います。

見栄・気恥ずかしさ・申し訳なさ

この要素に関して言及しているサイトはほぼありません。

少なくとも独立した項目として立てているサイトはありませんでした。

では、なぜ私がこの項目を立てているのか。それは私自身の実体験に基づいています。

何年前だったか、少なくとも社会人になってからですが、いわゆるショッピングセンターの6階あたりで買い物をしていたとき、火災報知のベルが鳴ったことがあり、すぐさま「ただいま状況を確認しておりますので、しばらくお待ちください」というアナウンスがありました。

私は、靴を試着しているタイミングでした。

元々、この記事を書く前から「正常性バイアス」などに関しては知っていましたので、私はすぐに(ああ、確かにこのフロアは何も起きてないし、根拠は無いのに大丈夫な気がしてくるぞ、これが正常性バイアスだな)と冷静に思ったのを覚えています。

ここまで認識できていれば、念のため逃げれば良いわけですが、結論から言うと私はその場で待機をし続けました。

なぜかと言うと、その場を離れるのが難しく感じたからです。

(靴を試着している状況で慌てて脱いで逃げるのも気恥ずかしいし、「すいません、少々お待ちくださいね」と言って隣で待機してくれてるこの店員さんにも申し訳ないな……)

という謎の見栄?を張ってしまったのです。

この根底にも結局「今回は大丈夫だろう」という正常性バイアスは働いているわけではありますが、これがもし私が接客を受けておらず、店の前を歩いているだけであれば、ほぼ確実に1階まで速やかに逃げていたと思います。

しかし接客を受けていたために逃げられなかった……この「見栄や気恥ずかしさ」は避難を難しくする大きな要因足りえます。

靴の試着をしながら一応、

(煙が見えたらダッシュで逃げるぞ……)

とは思っていましたが、今回の執筆でそれでは遅すぎるということを思い知りました。

今考えると、これが大火災だったら私は死んでいたわけですから、ただ「運が良かった」としか言えません。

正常性バイアスのことを知っていても、それだけでは逃げられることにならないというのは先ほどの、

若い世代は逆にメディアやネットで知識だけが先行する形になってしまっているので、「自分は知識があるから大丈夫」と思ってしまう危険性

に通ずるものがあります。

このケースでは、「すみません。心配なので念のため降ります。何もなければ戻ってきます」と言って速やかに靴を履き替え、地上階まで降りるというのが正解でした。

避難誘導の責務がある店員は実被害が確認されるまで店を離れることはできませんが、客は違います。

危険性が1%でもある状況なら、最速かつ確実に安全なところまで移動すべきなのです。

そもそも、(この後きちんと見ますが)館内放送というものは、語弊を恐れず言えば、基本的に信じるべきものではありません。

少なくとも盲目的に信じるべきではありません。

「アナウンス」の怖さについて以下で見ていきます。

ウソ情報・デマ(エリートパニック・エキスパートエラー)

館内放送を信じるべきでないというのは、災害時において「ウソ」が平気で流れてくる、というのが理由です。

エキスパートエラーなどと言われることもありますが、これは直感的に分かりにくいお勉強用語です。

分かりやすい表現は「ウソ」です。

緊急事態に流れてくる情報は「ウソ」だと思って行動してください(というか、その指示に合理性があるかどうかで判断、というのが正確な表現です)。

煙まみれの千日デパートでの「ホステスは落ち着いてください」はまだ全然良い方で、

  • 川治プリンスホテル火災「これはテストですからご安心ください」

  • セウォル号沈没事故「その場から絶対動かず待機してください」

  • コスタ・コンコルディアの座礁事故「問題は解決した。客室にお戻りください」(Wikipedia

これらは、見方によっては指示を出す側が「正常性バイアス」に囚われてしまっている、ということになるわけですが、情報の受け手としてはただの「ウソ」でしかありません。

少しでも異常を感じたときは、「他人の言うこと、偉い人の言うことは信じない」「常に最悪のケースを想定する」という作業が必要になります。

これを「エリートパニック」「エキスパートエラー」と言うこともあります。

どういう意味かというと、情報を与える側、権力を行使できる側(エリート・エキスパート)が「一般市民(客)がパニックを起こしたら困る」という固定観念に囚われて、誤った情報を提示・権力を行使してしまうことです。

古くは、

  • 1906年のサンフランシスコ大地震で起きた市長による市民銃撃指示

  • 1923年関東大震災で起きた社会主義者、朝鮮人殺害事件

などが挙げられます。

近年ではさすがにここまでの無法行為はないですが、1979年スリーマイル島原子力発電所事故で情報を隠蔽して市民を危険にさらした知事をはじめ、隠蔽や誤情報で市民(客)をパニックにしないようにしたがる(結果、被害が拡大する)というケースが多く存在している、というのは事実です。

十分な注意が必要です。

さてここまで、避難を難しくする様々な心理的要因を見てきましたが、結局最も重要なことは「人の行動、上からの指示に左右されず、自分で思考・判断して行動する」ということになります。

そのためには、災害時の原則を知り、普段から様々なシーンを想定しておく必要があります。

今回は火災の記事ですので、火災に関して考えていきます。

ビル火災に巻き込まれた時の避難方法

常に複数の避難動線を考えておく

初めて行く場所などは現実問題として難しい部分もありますが、やはり巻き込まれる前に考えておく癖をつけておくことが、一番大切だと思います。

飲食店でも、商業ビルでも、ホテルでもそうです。

エレベーター以外で2つは考えておく、確認しておくのがベターです。

そして、これらが確保できないビルにはなるべく立ち入らない、というのが、自分の身を守る最も確かな方法だと言えます(現実問題、完璧に遂行するのは難しいですが。特に雑居ビル)。

そして何より、滞在時間が圧倒的に長い「自宅」と「職場」。

これらに関しては、少なくとも3つずつは避難ルートを確保しておくべきです。

参考までに、これを機に私もあらためて自宅を確認しましたが、4つ手段がありました。

  1. ベランダから避難はしごで1階まで降りる

  2. ベランダで、はしご車を待機する(11階)

  3. 階段で1階まで降りる

  4. 階段で9階まで降りて、隣のビルの屋上に飛び移る

私の自宅は15階建て(の11階)なのですが、1フロアに4部屋しかなく、非常にヒョロ長いです。

それだけに、下層階で火事が起きると避難経路がかなり限られることが予想されます(築5年程度の比較的新しい建物なので、火事が燃え広がる可能性はそもそもかなり低いと思いますが、何があるかは分かりません)。

その中で、「ベランダから避難はしごで1階まで降りる」はベランダ側が生きている想定です。

ちなみに今回初めて避難はしごの使い方をきちんと調べました。

開ければ勝手にはしごが降りるわけではありませんし、チャイルドロックを外すのもパニックになっていればスムーズにいかない可能性があります。

続いて「ベランダで、はしご車を待機する(11階)」ですが、通常のはしご車は最大伸展時、およそ31m(10~11階相当)程度になるそう。ギリギリですね。

もちろんエリアなどによって、これより長いはしご車もあるようですが、たまたまそのはしご車が来るかは分かりません。通常に合わせて考えておくのが良いでしょう。

「階段で1階まで降りる」はそりゃそうだろうという感じですが、ベランダ側が燃えている場合はこの方法になると思います。

最後に「階段で9階まで降りて、隣のビルの屋上に飛び移る」ですが、この方法は今回この記事を書くにあたって初めて気が付いた(きちんと認識した)脱出ルートです。

ベランダ側も廊下側も燃えているが9階までなら降りられる場合は、これが唯一の脱出ルートです。

10階までしか降りれなければ、10階からジャンプが推奨でしょう。

11階からはかなり厳しそう(着地点など)なので、ベランダではしご車を待つのがベースになりそうです。

また、本記事では割愛しますが、職場も同様に考えてみてください。何階に何があるのかどの方向にどれだけ非常階段があるのか避難器具は何があるのかなどです。

そして、あらためてですが、エレベーターは乗らないでください。現代ではそもそも煙を感知したらすぐ使えなくなるはずですが、何が起こるか分かりませんので。

さて、避難動線を確認したら、次のポイントに移ります。

まずは煙の状況を確認し、速やかに移動する

白煙が上がっている場合(あるいは煙が上がっていない場合)

絶対とは言えませんが、やはり、いち早く下層階(できれば建物外)に逃げることが確率的にはベターと思われます。

白煙は基本的には毒性は低いです。

この間にいかに避難するかが課題だと思われます。

例えば9.11では、ある人が何人かで下へと避難しているとき、パニックになった人が上へかけ上がってきたというケースがあったそうで、いかにこういう状況に囚われないようにするかが大切です。

パニックの人は往々にして「声が大きい」ので、凍り付いている人は多数派同調バイアスがかかって、この手のデマに飲み込まれます。

この9.11のケースでは、下の状況を見て「そうは思えない」と思ったその人だけが勇気を出して下を選び、残り全員は上へ避難し、その人のビル脱出後、丁度のタイミングでビルが崩壊したそうです。

黒煙が上がっている場合

黒煙が届いていない階段や、逃げられそうな外階段、避難器具があれば最優先はそれらになります。それらを使って地上まで逃げてください

しかし、すべての避難路がすでに潰されているのであれば、優先すべきは窓の近くを確保することです。

もし最上階の1つ下などにいて、屋上へ続く道、階段が安全そうなら屋上へ避難することも検討できますが、京アニのようなケースもあるので、状況によりますが、基本はやはり窓際です。

逆に絶対行ってはいけないのが、窓のない奥の部屋。

千日デパートのトイレのケースや更衣室のケースが該当します。

これに陥るしかない袋小路なら、イチかバチか煙や火の中に突っ込んで、窓や階段を探すしかありません。

姿勢を低くする、ハンカチで口元を隠すの意義

ここまで見てきましたが、それでも文章だけだと本当の煙の怖さが分かりません。

もちろん、臭いや呼吸、温度に関する部分は実際に体感するまで分からないわけですが、唯一「視界」だけは映像からでも「本当の怖さ」というものが分かります。

リンク:https://www.youtube.com/watch?v=EsVYC0V3KKI

この映像の10分13秒を見てもらうと分かりますが、完全に視界が効かなくなっているのが分かります。

「いくら煙がすごくても、息を止めて外や屋上まで逃げればいい」という意見をたまに聞きますが、この映像を見ればそんな発想は基本的にあり得ないことが分かるでしょう。

正直私自身、ここまで視界が限られるのか、と驚きました。

もちろんこの実験では、発生した煙がすべて2階の小部屋に向かう構造なので特に酷くはなっていますが、しかし実際の火災でも十二分にあり得るパターンです。

例えば、千日デパート火災のE階段、F階段(ともに脱出に使おうとしたが断念)や、京アニ放火の屋上への階段はこんな状態だったと思われます。

また、「姿勢を低く」とか「ハンカチで口をふさいで」などと聞くことも多いですが、果たしてこれに関して有用性があるのか、立ったままでも走って逃げた方が良いんじゃないか、という疑問についても、この動画から分かります。映像の7分12秒あたりを見ると一目瞭然ですが、

ご覧の通りです。

確実にかがんで、場合によっては這いずる形で口をふさぎながら逃げた方が良いです。

ちなみに以下は、黒煙が上がってきており、窓際から動けない(動きにくい)状況を前提に考察を進めていきます。

避難経路があるかを確認する

救助袋、避難はしご、避難ロープなどなど。

職場や自宅など普段からいる場所は、どこに何があるかそして使い方を把握しておくべきです。

以下は、これらが無い(見つからない)前提で進めていきます。

出火階を確認する(下の階が燃えているか?)

「実際に火事に遭遇したら、そんな余裕ないだろ」と思われるかもしれないが、実際にこれで助かった人がいたのがホテルニュージャパンのケース(シーツを繋いで10階から7階まで脱出しました)。

地上へ続く配管なども念のため確認しておきます。

また、落ち着いて部屋を眺め、上層にしか黒煙が溜まっていない状態で、階段まで非常に近く、迷わず確実に移動できる場合は、姿勢を低くしながら速やかに階段で降りる、というのも手です。

実際の現場では難しいと思われますが、これで助かった例が、千日デパートのB階段の2人目のケースです。

もっともこの例は火元が1階ないしB階段だったら生還できていないので、ある種賭けにはなりますが、それでも状況的に賭けるしかなければ行くしかないでしょう。

ただ、言うは易し行うは難し。

実行できたこのホステスはあらためて本当に勇敢だったと思います。

あとはひたすらはしご車の到着を待つのみ

はしご車だけじゃなく、屋上からロープが降りてくるかもしれませんし、下に飛び降りのマットを用意してくれるかもしれませんし、要は救助を待つということですね。

「飛び降りる」という判断をどう下すべきか

これは、基本的には本当に最後の最後に残された、極めてやむを得ない状況での最終手段(2階を除く)です。

基本的には選んではいけませんが、何階にいるかと火の状況と運動神経によって、選ばざるを得ないケースもあるかもしれません。

ちなみに追い込まれた状況だと、炎や煙から逃れたい一心で地面が近く見えてくると言います。

ずっと下を凝視しているため、遠近感が狂って地面が近く見えるという説もあります。

この「同じものを凝視していると遠近感が狂う」というのは通常の心理状態の時でも起こる現象なので、非常に説得力があるだけに怖いです。

最悪の最悪は、車、植え込み、木、土、トタン屋根、フェンスの上などを狙うしかありません……。

電線は、調べたところ感電の危険性がありそうなのでオススメできません。ただし、ワイヤーでの生還例はあります(千日デパート火災)。

基本は飛び降り厳禁ですが一応覚えておくべきなのは、飛び降りをギリギリまで粘った場合(ギリギリまで粘るべきですが)、少なくとも軽度の一酸化炭素中毒にはなっているはずなので、運動能力が高い人でも、通常時のパフォーマンスはほぼ無理だと思われます(いざというときはこんなこと考えていられないと思いますが……)。

3階などの場合は、着地面の状況次第では、パフォーマンスが保てるうちに……という考えもなくはないかもしれません。

最後に、もう一度、いざというときにパッと思い出せる分だけ話をまとめると、

  • (普段から動線を考えておく)

  • 最悪でも白煙のうちに、できればその前に逃げる

  • 黒煙になったら窓際をキープ

  • 避難器具、避難ルートを探す

  • 無ければ後は待機

となるでしょうか。

このような知識を、私自身、そして他の誰も使う日が来ないことを祈るだけです。

※本記事は素人がWEB知識のみに基づいて執筆していますので、正しさに関しては一切の保証をいたしません。また責任も一切負いかねますので、くれぐれもご注意ください

京アニ放火の場合、どうやって逃げるのが正しいルートだったか

実際に多くの方が亡くなられている中で、これを検証するのは心苦しいですが、生きている我々はせめて学びを得ないといけないと思います。

「こうすれば良かったじゃん」などという個人を貶めるような言説ではなく、テロ型の火災を真剣に考えるためにお許しいただければと思います。

建物内部の構造と死者に関しては、下図の通りです。

京都新聞記事より(この後、死者は35名になりました。2019/7/27現在)

まず、Wikipediaを参考に簡単に経過をまとめたいと思います。

経過

【10:30】男が侵入。直後にガソリンを撒き、火をつけ大爆発
【同時刻】2階で働いていた男性が、もめるような音と悲鳴、直後に「ドドドド」という大きな音を聞く
【数秒後】1階で働いていた男性が2階に上がってきて「火事だ」と叫ぶ(数秒後というのは推測。おそらく10秒弱くらいか?)
【直後】2階にいた女性が警報ベルを鳴らす
【15秒後】2階で黒煙認知
【直後】黒煙が充満

分かっている範囲だと以上になります。煙は上から溜まっていくと言いますが、ここまでの案件だと、2階と3階でそこまでの違いはなかったものと思います。

つまり、火災発生から20秒程度で黒煙を認知、恐らく1分以内には充満したものと思われます。

充満と書くと分かりにくいですが、つまり「視界ゼロ」「呼吸不可」です。

ある証言では、爆発音から15秒で黒煙を認知し、その後の15秒でどんどん見えなくなっていった(伸ばした手が見えない)とのことです。

あまりにあっという間の出来事で言葉もないものの、あえてまたここでも言いますが(何度も言ってきましたが)、自分が火災を認知してから黒煙に包まれるのが1分以内、というのはあり得ない話ではありません。

別フロアにいたり、寝ていたりする間に火災が発生して「気が付いたときには逃げ場がない」というのは、むしろ往々にしてあるケースです。

なので、確かに「火災発生から黒煙充満まで1分未満」というのは異常なスピードではありますが、「ガソリンでこんな放火されたら逃げようがない」「これは特殊ケースだ」という考え方をして、思考を止めてはいけないと私は思います。

ここまでを前提にして、避難について考えていきたいと思います。なお、フロアによって対応が変わりますので、階ごとに考えます。

上で紹介した「ビル火災に巻き込まれたときの避難方法」をあらためて以下にまとめます。これに沿って考えていきたいと思います。

  • 常に複数の避難動線を考えておく

  • まずは煙の状況を確認し、速やかに移動する

  • 避難経路があるかを確認する

  • 出火階を確認する

  • あとはひたすらはしご車の到着を待つのみ

1階にいた場合

常に複数の避難動線を考えておく

これは「通常の玄関」「社員通用口」「各窓」の3つがあると思います。

今回は通常のエントランスで放火が起きたので、選択肢としては「通用口」「窓」の2種類です。

自分に最も近いところから逃げるしかありません。

この際、気を付けておきたいのが「袋小路」には逃げてはいけないということです。

もちろんこれは理想論で、目の前で大爆発が起きて、一瞬で炎と熱波が襲ってくれば、とりあえず奥へ奥へ逃げるしかないのが実際だと思いますが、それでも窓がないところへ逃げてはいけません。

今回の事件でも「1階音声収録室」から遺体が見つかっています(特質上、窓はないと思われる)。

元々いたのか、とっさに逃げ込んでしまったのかは分かりませんが、辛いですね……。

また、トイレに逃げ込んだ方も3名いたとのこと。

ただし、窓はあったものの格子で出られず、たまたま近くで工事作業をしている方がいてバールでこじ開けた(記事)、ということのようですが、本来であれば逃げ込むべきではない場所ではありました(ただし、格子があったとはいえ、窓があったからこそ助かった、とも言える)。

……ということを、普段から考えておくことが必要です。火災が起きてからでは間に合いません。起こる前から考えておかないといかないのです。

まずは煙の状況を確認し、速やかに移動する

1階のエントランスから離れた場所でデスクワークをしていたと仮定します。

この場合では、今回の建物の規模感で言うと、煙どころか炎を目撃することになると思います。

尋常じゃない炎を視認した時点で、最寄りのドア、窓から飛び出るしかありません。

隣の部屋に逃げ込む、奥へ逃げる、は悪手となります。

そしてもうひとつ。先ほどはあえて触れませんでしたが、イレギュラーな対応として「2階」という逃げ場もあります。

今回の火災で2階に「火事だ」と知らせた男性がどうだったかは分かりませんが、階段の目の前にいて、一瞬の爆発で階段以外の選択肢がなくなることはあり得ます。

ただし、他にどうしても逃げ場がない場合を除いて、1階から2階に逃げる必要は本来はないですし、まして「人を助けるため」にヒーロー的な行動(愛他行動)をとってはいけません。

災害の現場で助かるのは「真っ先に逃げる人」です。

例えは悪いですが、

  • 千日デパートで適切な誘導を行わずはしご車で逃げた支配人

  • セウォル号でパンツ一丁になって乗客のふりをして逃げた船長(無期懲役になりましたが)

  • 三豊百貨店崩壊事故(Wikipedia)で客と従業員を全員見捨ててこっそり逃げた会長

など、生き残っているのはみんな「真っ先に逃げた人」です。

もちろんこれらの責任者は人として終わってますし、そもそも責任者は避難誘導をすることまでが任務であるわけですが、現象だけを切り取ると「真っ先に逃げると助かる」ということになります。

※防火責任者、船長、従業員などは避難誘導の責任があるため、逃げると罪に問われますのでご注意を

逆に、

  • ホテルニュージャパンで猛煙の中、最期まで避難誘導を行った日系アメリカ人の宿泊客

  • 9.11テロで飛行機が突っ込んだ後も上へ上へと道を開いて救助に向かった民間人

などは、とても尊敬できますし、人としてこうありたい、と思いますが、災害の現場でこれをやってはいけません。

そして過度に美談にしてはいけません。

もちろん、彼らの行いのおかげで何人もの人が救われたことと思いますが、あくまで自分の命あっての話です。

避難を促す場合は、100%安全な場所・方法で行ってください。

ただし、「火事だ!」「逃げろ!」と叫ぶことはかなり有効のようです。

叫ぶことで周知ができるというだけでなく、自分の冷静さをキープする効果、まわりの人を「凍り付き症候群」から解放する効果もあるようです。

2階にいた場合

常に複数の避難動線を考えておく

これは「螺旋階段」「通常階段」「窓」の3つです。

煙はものすごいスピードで上へ上へと昇りますので、屋上への避難は検討外です。

また、1階に降りてからも「正面玄関」「通用口」「窓」の3手段あることを普段から考えていられればベストです。

まずは煙の状況を確認し、速やかに移動する

今回は、爆発音を聞いて数秒後に、1階から人が上がってきて「火事だ」と叫んでいます。

この時点では1階で何が起きているか知る由もないので動きようがありませんが、まず最寄りの窓位置だけは確認しておくべきでしょう。

ただ、いきなり飛び降りるという発想には当然ならず、1階から逃げようと螺旋階段や通常階段に向かう、あるいはその場で様子見、ということになると思います。

しかし1階は火の海なので、熱気的、煙的に1階には降りれないはずです。

そうこうするうちに、15秒後には白煙を経ずしていきなり黒煙が上がってきます。

この時点で、いかにスムーズに窓際に移動するかがポイントだと思います。

「黒煙が見えたら窓際をキープする」これが鉄則です。

ところが実際の火災では、窓際や階段ではなく、フロア内に点在する形(一部報道では階段の比較的近くが多かったという情報も)で死者が位置していたとのこと。

推測ですが、「火事だ」と言われてもピンとこなかったのでしょう。

窓から飛び降りるという発想が無ければ、逃げ場は階段しかないので、デスク周りで「え、何が起きてるの?」「まだ大丈夫じゃないの?」「これだけは持って降りなきゃ……」などとしているうちに一瞬で煙に包まれ、身動きが取れなくなることが想定されます。

避難経路があるかを確認する

避難手段(避難はしご、ロープ、救助袋など)があるのなら、この時点でセッティング、避難を行います……が、今回の建物には設置されていなかったことが明らかになっています(ただし適法)。

ある場合は、平時に場所と使い方を把握しておくことが当然大切です。

出火階を確認する

本件では当然1階なので考えるまでもありません。

あとはひたすらはしご車の到着を待つのみ

体力に自信のある人は、窓に着いたタイミングで飛び降りれば良いでしょう。

覚悟を決めて飛べば、2階なら軽傷(悪くても中傷)で済むはずです。

運動神経に自信がない場合、このケースでははしご車というか救助ですが、とりあえず窓際で待ちます。

現にバールで1階トイレをこじ開けた工事作業者の方が、はしごも持ってきており2階から助かったケースもありました。

もし救助の見込みがなければ、多少運動能力が低くても2階から落ちて死ぬ可能性は低いので、比較的早めに飛び降りる決心をすべきでしょう(高齢者を除く)。

3階にいた場合

常に複数の避難動線を考えておく

「螺旋階段」「通常階段で下」「通常階段で屋上」「窓」の4パターンが考えられます。

この建物の屋上へのドアは、開けるのが難しいタイプだったとのこと。

まず平時にそこまで把握しておく必要があります。

まずは煙の状況を確認し、速やかに移動する

爆発が起きたタイミングでは、「下の階が何やら騒がしい」というくらいの認識だったと思います。

そして数秒後に階下から「火事だ」と聞こえてきたはずです。この段階ではまだ煙はそこまででもないはずです。

まだそこまで煙が出ていないのであれば、ここで取れるベストの対処としては、とりあえず階下に向かうということになります。

この場合、1階は無理ですが2階までなら降りられたはずです。

そして、2階に着くと同時くらいに黒煙が充満してくるはず。ここからは、2階時の対応と同じです。

しかし、実際はこんなに上手くいかないでしょう。恐らく状況が呑み込めず、少しザワザワしながらその場で待機(凍り付き症候群)になるはずです。

この場合は、移動のきっかけは黒煙の流入でしょう。

「ん、これ大丈夫か?」とここで初めて少し危険を感じるはずです。

しかしそれでも、まだ全力ダッシュで逃げる、ということにはならないはずです。

そして15秒後に黒煙が一気に大量発生したタイミングでパニックが発生して(これがパニックだったか合理的な競争行動だったかは不明です)、誰かが「屋上だ」と言ったのか、何かのきっかけで屋上への階段に殺到したものと思われます。

しかし、3階で黒煙が大量発生しているということは、すでに屋上への階段は「最高濃度の黒煙」で満たされていたと思われます。

煙は階段やダクトを伝って「上から」溜まる

屋上への階段が1呼吸でアウトの濃度だったのか、すでに弱っていてまともに動けなかったのか、あるいはパニックが起きドアが開けられなかった(視界もほぼゼロのはずです)のかを知る術はありませんが、2階とは異なる集団心理が発生していたものと思われます。

普通の火災であれば、ここまで急速に黒煙が溜まることもないのかもしれませんが、いずれにせよ「黒煙を見たら窓」という認識を持つのが良さそうです。屋上までの階段が煙にまみれていないのなら、話は別ですが。

避難経路があるかを確認する

今回はないものとして話を進めます。

出火階を確認する

今回は3階なので、気にする必要はありません。

もし4階だとしたら、火元が3階の場合、2階まで何らかの方法で降りる、という方法はあります(ニュージャパンの時に10階の客が7階は安全だと目をつけてシーツで降りたのと同様の考え方)。

もっとも京アニのケースでは、その余裕すらないほどの火勢だったわけですが。

あとはひたすらはしご車の到着を待つのみ

3階というのは、飛び降りるとするならギリギリの高さです。

運動能力が高い人でも大怪我は免れません。

窓際で粘れるだけ粘るべきです。

しかし、今回の場合は相当火の回りが早かったと思われますので、粘れる時間も限られていたはずです(それでも限界まで粘ってください)。

ただし、今回で言えば最後は飛び降りるしかなかったと思われます。

そういう意味では、平時に「どこの窓から飛び降りるのがベストか」ということも考えておく必要があるかもしれません。

具体的には車、植え込み、木、土、トタン屋根、フェンスの上(ここに意図して飛ぶのは厳しいですが……)などです。

もし、4階があったとしたら……

もし4階もあったとするなら、今回のケースでは、避難器具が無ければ完全になす術なしだと思います。

屋上には逃げられない、窓からは飛び降りれないという状況です。

しかし、もし4階建てだとすれば螺旋階段がなかった可能性があります。

螺旋階段がなければ、火や煙の巡りが多少軽減されるはずです(本当に多少ですが)。

そして、この「多少」で救助隊が間に合う可能性もあります。

その場合、やはり窓際にいなくてはいけません。

あるいは、究極的にはすべてこの話に帰結しますが、異常を感じた「その瞬間」に行動するしかありません。

追い込まれる前に階下、というのが避難の原則ですから、違和感を感じたらすぐに飛び降り圏内の3階に降りるクセをつけておく、などです。

(多少の煙で屋上に逃げるのは本能的に無理だと思われますし、通常の火災初期だったときは1階から普通に逃げられるので逆にリスクです)

もちろんこれでもかなり苦しい状況には変わりありませんが、このように普段から思考をクセ付けしておくことが、いざというときの生死を分けることになるかもしれません。

ちなみに通報に関して

自分が建物の中に居て、逃げ遅れている場合は基本的に命を守る行動を最優先すべきなので、通報などしている余裕はありませんが、幸いにも早期に避難できた場合、あるいは外から目撃した場合などは、ある程度時間が経っていても、消防隊・救急隊が来ていないのであれば通報すべきです。

というのも、どれだけ大火事だったとしても、通報が極端に遅いケースが多々あるからです。

例えば、ホテルニュージャパンの第一報は従業員や宿泊者ではなく、たまたま通りがかったタクシー運転手です。

「当時は携帯がなかったから……」と思うかもしれませんが、結局人間の心理は変わりません。関係者全員が「誰かが通報しているだろう」と思ってしまえばそれまでです。

その他① 火災系事故・事件の歴史

ここからは、今回の記事を書くにあたって知った、「単純なビル火災以外」の緊急事態に関して、紹介程度に簡単に記していきたいと思います。

鉄道火災

  • 1940年 西成線列車脱線火災事故(Wikipedia

  • 1951年 桜木町事故(Wikipedia

  • 2003年 韓国テグ地下鉄放火事件(Wikipedia

火災のたびに、燃料や材料、避難経路(ドアコック)など大きく改善されていきました。
(しかし、ドアコックがあるために外に出てしまい大惨事となったケースも・Wikipedia

ちなみにあなたは普段乗っている電車の非常ドアコックがどこにあるかご存じでしょうか。

もし、地下鉄を使っている場合は恐らく知らないと思います。

というのも、地下鉄は「第三軌条(サードレール)」といって、電気を地面側からもらっているからです。

つまり迂闊に車外に飛び出ると感電死するわけですね(なのでコックの位置を明示していない)。

現代の車両は基本的に難燃性の素材が使われていますので、原則燃え上がることはありません。原則は。

鉄道の場合、みだりな車外への脱出は違法ですので、これ以上のことが気になる場合は各自でお調べいただければと。いざというときは、知っているかどうか、ですので。

9.11

ビル火災を調べていく中で、避けて通れないのが9.11(特にワールドトレードセンターへのテロ)です。

これに関しては、これだけで大長編の記事ができてしまうので、今回は割愛いたします。

下記リンクはご参考までに。

2001年9月11日、ワールドトレードセンタービルの102分間

ナショナルジオグラフィック(飛び降りの写真があります。人生で一度見たら、もう二度と見る必要はないでしょう。私も開いていません)

その他② 火災以外の危機からの脱出について

車の水没

ガラスを割る、というのは脱出の定石のひとつです。

この番組、ウィキペディアで調べたところ、レギュラーは1年しかやっていなかったとのこと。

なのに、この放送はものすごく記憶に残ってますね。

ちなみにJAFは、この「ビニール袋と小銭」の手法を推奨していません(そりゃそうですが)。

少なくともマイカーの方は脱出用ハンマーを用意した方が良いでしょう。

ハンマーもビニール小銭も無い場合は以下の方法があるようですね。あくまで最終手段ですが……。

船の転覆による閉じ込め

かなりイレギュラーな状況ですが、転覆事故というのはときに起きますね。

懐かしの九死に一生。

この回もよく覚えています。

再現Vだと分かっていてもかなりの緊迫感です。

エアポケットができるかは運次第なので、自分ができる対処は正直ありませんが……。

最後に(災害に対しての心積もり)

さて、ここまで主に大規模火災を中心に、災害発生時の注意点に関して見てきました。

元々、京アニ放火の数日後には書き始めたこの記事でしたが、思っていた数倍(数十倍?)時間がかかりました。

それだけ私が災害に関する知識を持っていなかったということだと思います。

今回の執筆を通して自分事化していければな、と思います。

さて、最後に改めてになりますが、大切なことは下記の通りです。

  • 平時にあらゆる想定をしておく

  • 可能性の段階で逃げる

  • 火災の場合は呼吸を第一に考える

もしあなたが異常事態の可能性がある状況に陥った場合、「可能性」の段階で動くことが大切です。

他の何よりも優先させてください。

命よりも大事なものはありませんから。

※本記事は素人がWEB知識のみに基づいて執筆していますので、正しさに関しては一切の保証をいたしません。また責任も一切負いかねますので、くれぐれもご注意ください

(2019年7月31日)

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