宣伝会議賞で腹痛コピーを書いたら、人生最大の下痢ピンチを思い出した

第58回宣伝会議賞でグランプリとコピーゴールドをいただいた。
ビオフェルミンS錠の課題でいただいたコピーゴールドの受賞コメントを書いている時、そういえば人生最大の腹痛エピソードを書いたのを思い出した。
せっかくなので、ここで晒すことにする。
誰か読んで笑ってもらえれば、書いた甲斐があるというものだ。
舞台はクロアチアのドブロブニク。
話は、ツアー2日目から始まる。

さて。一夜明けて今日はいよいよドブログニク観光の日である。
天気は快晴。体は快調。
旅行だと6時起床でもまったく気にならないから不思議なものである。
朝からホテルのバイキングをしっかり食べる。
何しろ今日は歩き回るのだ。体力をつけねば。
と、食い意地を張って早朝から皿大盛りに色々と盛って食べる。
これが後々大変な事態を招くことになるのだが、
この時のおいらはまだ知るよしもない。

朝の予定は、スルジ山という有名な山の上から、
ドブロブニクの旧市街の街並みを見るとのこと。
360度を城壁に囲まれた城塞都市である旧市街は、
魔女の宅急便や紅の豚のモデルになった街とのことで、
上から見下ろすとオレンジ色の屋根屋根がすごく美しい。
そこに本来ならロープウェイでいくというプランだったが、
労使のいざこざでストかなんかして動いていないとのこと。
急遽、18名のツアー客がバン3台に分かれてクルマでスルジ山へ出発。
いよいよ観光のはじまりでごわす。

山頂に着く前に、中腹のなんてことない場所に止まるバン。
なんでも「山頂よりもここの方がいい写真が撮れる」という
地元の人のおすすめスポットなのだとか。
たしかにその通りで、柵がない分しっかりと旧市街の全貌が眺められる。
すばらしい。そしてさらに山頂へ。
山頂からも旧市街を見る。すばらしい。
山頂には、ナポレオンが築いた砦とかでかい十字架が建っている。
すばらしい。
そこに生々しい砲弾の痕。内戦の傷跡だ。
本来なら山頂でトイレ休憩のはずがストによってトイレも閉鎖されていた。
ここでおいらにちょっと嫌な予感。
この流れは・・・なにか怪しいぞ。
と思いつつも、まだなにも異常はおこらない。世はこともなし。

一通り山頂から旧市街を眺め、おいらたちはいよいよ旧市街に向かう。
来た道をクルマでくだる。
九十九折りのような道をひたすらくだる。くだる。くだる。
クルマが下るごとに、おいらのお腹に妙な違和感が。
なんと、おいらのお腹もくだってきているではありませんか!
しかもクルマがくだる何倍もの速度で。
ヒー!スピード超過で捕まりまっせ!
すごい速度である。
たまらず、持参したストッパを投入するおいら。
こんなこともあろうかと忍ばせておいた、秘密兵器にして最終兵器である。
しかし一度勢いのついたおいらのゲリッパは、
ストッパごときでは止まらない。
おお、日本の医薬界よ!これがおいらの下痢の力だ!
はぅぅぅぅ。急速に顔色と体調が悪くなるおいら。
バンの隅っこで、他のツアー客にバレないように一人悶絶する。
ここから、おいらの孤独な戦いが始まった。


左手にはだんだんと大きくなる美しい旧市街が迫ってきているが、
もうそれどころではない。
窮地! 日本から遠く離れた異国の地で、
おいらの人生が突然終わろうとしています。
止まれ、止まれ止まれー!
強く念じてストッパをもう一つ投入。
もう頼みの綱はこれしかない。期待はしていませんが。
……もちろん、まったく効く気配なし。
というか、もう濁流は肛門のすぐそこまで押し寄せてきている。
早い! なんかお腹がおかしいという違和感からわずか数分!
すでにすぐそこまで奴が来ている!
Amazonもびっくりのスピード宅配ぶりである。
なんも頼んでませんけどー!
すでに肛門へのノックが始まっている段階。
あとは玄関をこじ開けられるかどうかの攻防になっている。
ふーん!満身の力を肛門にかき集めるおいら。
ここで漏らしたら、もう旅行どころじゃない。
そんなおいらの心の悲鳴を知ってか知らずか、
バンは安全運転で旧市街をめざす。

なんとかかんとか車内での悲劇は乗り越えて、クルマは旧市街に到着。
ゲリッパも、第一波が引いて行く気配。
最初の攻撃は乗り切ったけど、もちろんここで安心するのはド素人。
このあと何回も、攻撃が成功するまでやつらは攻めてくるということを
おいらは経験上嫌というほど知っている。
つまり事態を打開するには、トイレ! 
一刻も早くトイレに行かなくてはならないのです!
というわけで、トイレ休憩を期待するおいら。
そんなおいらの気持ちをよそに、
バンを降りたあと旧市街の入り口に一行は集められると、
添乗員さんのイヤホンガイドの説明が始まる。

ツアー旅行では、現地ガイドさんや添乗員さんの説明が
聞き取りやすいよう、イヤホンガイドなるものが配られて、
旅行中それを使っていろんな説明がされる。
その使い方の説明がなんと今!このタイミングで始まってしまったのです!
それと呼応するように第二波が襲来!
はぅぅぅぅぅ!当然、一波目より二波目の方が強い。
門を突破するまで、奴らの攻撃は強さを増していきます。
おいらのケツ筋(おケツの筋肉のことですよ)は、
40年間にわたる数々の激戦で鍛えられているので、
第八波までは耐えられる仕様になっております。
つまり第二波ごときは、
まだまだ子どものお遊びのようなものでありま……はぅぅぅぅぅ!
エマージェンシー!
ドブロブニク仕様なのか、異常に下痢パワーが強い!
この攻撃は! やばいかもしんない!
まだですか、添乗員さん! イヤホンガイドの説明はまだ終わらんとですか!
もぞもぞと体重を右にやったり左にやったり怪しい動きをするおいら。
少しでも気を紛らわそうとしてするが、まったく効果なし!
恐ろしいほどの濁流がおいらの肛門を内側から打ちつける。

永遠にも思えた添乗員さんの説明が終わると、やっと移動。
いよいよ旧市街の中へ。
トイレに!トイレに行かせてくれ!
と、少しもしないうちにすぐに止まる。
添乗員さんが地元の人が何やら話している。
「今日はマラソン大会が開かれているようで、この門は閉鎖されている」
とのこと。
違う門まで迂回してから入れ、と。
なにぃぃぃぃぃ!?
旧市街に入ることなく、そのまま外壁に沿って歩かされること10分。
その間、おいらが考えていたこと。
漏らしたらどうしよう。
そういえば、深夜ラジオで伊集院光がたまにう●こ漏らした話してるな。
芸能人だって漏らしてるんだから
おいらが漏らしたってどうってことないよな。
でもここで漏らしたら着替えとかどうしよう。
スーツケースはバスの中だし。
そもそもこんな初期の段階で漏らしたら、
この先ツアーの人たちになんて呼ばれるんだろう。
もう漏らした前提で被害妄想が進んでいる。
完全においらの脳は敗北を認めていた。
トイレまでもたないというジャッジメントを下していたのである。
腹も下して、漏らす判断も下しちゃって。
いかんいかん!
これをあとの笑い話にするんや!
あの時はまじやばかった!と後で笑えるようにするんや!
頑張れおいら!
ここで漏らしたらどこかネットの口コミとかで
「同じツアーの人が初日にうんこ漏らしてすごく臭くて、最悪でした」
とか書かれちゃうぞ! 世界においらの恥が晒されてしまうぞ!
そんな事態だけはなんとしても避けねばならん!

真っ青な顔をしながら、添乗員さんに必死でついて行くおいら。
やっと旧市街の入り口へ。
ここで添乗員さんから救いの一言が。
「今から旧市街の観光に入りますが、
もしトイレに行きたい人がいましたら遠慮なくおっしゃってください」
まぢか!それ待ってたんやおいらは!
「はい、トイレに行きたいです」
秒で返答するおいら。
まわりのツアー客にはあまり聞こえないように
ひっそりと、しかし断固とした声で。
え、という表情の添乗員さん。遠慮なく言えとは言ったけど、
いい大人なんだからトイレくらいもうちょっと我慢できないの?
と思っているに違いない。そんな顔してる!
もちろんおいらの妄想ですが。この添乗員さんは
旅を通してすごく有能でいい人でしたが。
この時は、おいらはあんたが悪魔に見えたよ!
今すぐ行きたいんです。エマージェンシーなんです!
と、鋭い眼光と青い顔色で訴えるおいら。
察してくれ、この想い伝わってくれぇぇええ!
おいらの悲痛な思いが天と添乗員さんに通じて、
ツアーは予定を変更してまずトイレに行くことに。
旧市街の記念すべき最初の観光スポットはトイレになりましたよ皆さん!

こうしてトイレを第一目標に据えたツアー一行は、
旧市街の門をくぐって一路トイレに。
と思ったら入ってすぐに止まる添乗員さん。またしてもか。
なんだか壁に旧市街の地図が貼ってあって、
そこで今いる場所とか主な観光スポットとか
旧市街の歴史とかを説明しだすではないですか!
うぉぉい!それ今いるんかい!こっちはエマージェンシーで
ハルマゲドンで最後の審判を迎えとるって言っとるやないかい!
いいから!旧市街の説明はいいから!
早くトイレに!おいらだけもトイレに!
壁に体を預けて必死で祈るおいら。
この時点で、もう第何波がきているか記憶が定かではない。

とにかく耐える。忍耐につぐ忍耐の時間。
やっと説明が終わる。
話の内容は1文字もおいらの脳みそに入ってません。
そして旧市街の急な階段を降りて優雅な路地を歩く。
味わいある石畳も、通路も、なんも覚えてません。
おいらのすべての力は、肛門に集まっていたのですから。
この時点で肛門の状況は新たな難局を迎えていた。
パス、パスとガス漏れが始まっていたのである。
これは鋼のケツ筋がその筋力を保ち続けることができず、
一瞬緩んだ隙をついてガスが断続的に漏れている状況である。
ガスのすぐ後に濁流が迫っており、
ガスが出切った後にこの状況を迎えると、
それはすなわち濁流が漏れ出ることを意味する。

40年生きてきたが、ここまで切羽詰まった事態を迎えたのは初めてである。
ここからの戦いは未知の領域。
いつ終焉が訪れてもおかしくない、一瞬の油断も許されない状況。
おいらは戦慄した。
これはもう笑い話にはならん。トイレまであと何マイルあんねん。
世界遺産で漏らしたら、歴史に残ってしまうぞ。
トイレだ。トイレさえ行ければ!
しかし一向にトイレに着く気配はありません。
なんかわからんが路地で立ち止まる添乗員さん。
なんかの説明をしてた気がするが、本当に記憶がありません。
狂ったようにトイレのことしか考えられないおいら。
目の前で土産物屋のおじさんが開店の準備を始めているのを見て、
その店にいますぐ駆け込もうかと本気で考えるおいら。
本当に本当に本当に、一刻を争う事態である。
どうする? どうするー?
しかし、動けない。
心の中にわずかに残った世間体が、足を竦ませる。
同じツアーの人たちの目が気になるぅ!
もうちょっと我慢できるんちゃうのおいら。
ここが底力の見せ所ちゃうの!?

そうして脂汗を流して悩んでいる間に、
土産物屋のおじさんは店内に引っ込んでしまった。
ああー。やっぱ駆け込んでおけばよかった。。。
チャンスは一瞬しかないもんです。
おいらのチャンスは終わってしまいました。
それと同時に動きだす添乗員さん。
なんで止まってたのか謎のまま。
人生は不可解なことだらけです母さん。

そうして2〜3分歩いて、旧市街のいちばん端に。
「この階段を降りたらトイレありますのでー」
という添乗員さんの救いの声。
やっとか! 遠かったぞ!
しかし三たび止まる添乗員さん。
どうした?
「あー、今ちょうどマラソンがスタートしたみたいですね。
通行が止められてます」
なにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
Oh!ジーザス!
神はおいらにいったいいくつの試練を与えるのか!
階段の下の通路がマラソンのコースになっているらしく、
青いビブスを来た人の群れが続々と走っていく。
いったいマラソンの参加者は何人なのか。
いつ通行止は解除されるのか。
トイレは目前にして、クラクラするおいら。
諦めるな。
あの人の声が心の中に響く。
「諦めたらそこで旅行終了ですよ」
安西先生―!
旅行が、旅行がしたいです! その前にトイレに行きたいですけど!

やっと途切れるマラソン参加者の群れ。
うぉ。耐え切ったぞ。
しかしまだ通行止は解除されない。
Why? なぜ?
その時、ゆっくりと角を曲がってその原因が現れた。
車椅子の参加者!
なんかこのマラソン大会位はチャリティーも兼ねていたらしく、
車椅子の参加者もいたようなのである。
頑張って車輪を回して石畳を進む車椅子の選手。
拍手で応援する、外国の観光客たちやツアー客たち。
心あたたまる1シーンである。
もちろん、おいらも応援しましたよ。ガス漏れの音で。
パチパチパチパチ、プップップップッ。
拍手とガス漏れのハーモニーが、旧市街の美しい街並みに鳴り響く。
観衆に手を振りながら進む車椅子の選手。
早く!手を振らなくていいから、早くぅぅぅ!
8ビートを刻むおいらのガス漏れ。
肛門の薄皮一枚先での激しい攻防!
始まるカウントダウン!
やばいぜ!
車椅子の選手が角を曲がって姿を消すと、
ようやく、ようやく、ようやく通行止が解除。
やっと階段を降りられる。
そして念願のトイレの前へ。

ここで添乗員さんからトイレの使い方が説明される。
ヨーロッパのトイレは基本有料なのである。
一回だいたい1ユーロか、クロアチアだと5〜7クーナ。
120〜130円くらいか。
それを入り口の人に渡すか、投入して鍵を開けてどーのこーの、
という説明を途中で聞き流してトイレに直行するおいら。
駆け込むような不様な姿は見せない。
ほうほう、その有料トイレとやらを試してみるか、
という感じでフラッと、しかし誰よりも早く行動。
トイレの入り口で鍵の開け方が一瞬わからなかったが、
トイレ番のようなおばちゃんがおいらの非常事態を察してくれたのか、
すばやく説明してくれて事なきを得る。
言葉はなくても心って通じ合えるのねん・・・。
すでにガス漏れは機関銃のように断続的になっており、
耐えるケツ筋はもうバカになっている。
個室に入って着席すると同時にカウントダウンが0に。
解放!
ギリギリである。
あと0.0001秒遅かったら、たぶん人生終わっていた。
そのくらいキワキワの攻防だった。
なにわともあれ、ミッション・コンプリート。

これが40年生きてきて、まちがいなく最大の下痢ピンチだった。
驚くべきことに、山頂での異常感知からここまでが
わずか1時間の間に起こった出来事である。
人生でいちばん苦しさが濃い1時間だったと断言できる。
多分、おいらが死ぬ前に思い出すのはこの時のことでしょう。
無事に旅行が続けられることに感謝。
安西先生、おいら諦めなくてよかったです!
こうして、この旅行最大の危機は回避されたのであった。
いやー。ドブロブニク最高!




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