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『きのう生まれたわけじゃない』田端上映レポート

2月29日木曜日からシネマ・チュプキ・タバタでの上映が始まりました。ここは、目の不自由な人も、耳の不自由な人も、どんな人も一緒に映画を楽しめるユニバーサルシアターです。たくさんの人々の募金によって2016年に9月にオープンしました。
福間監督作品にとって『きのう生まれたわけじゃない』が、初めてのチュプキ上映となりました。その初日舞台挨拶は、岬・綾子二役の正木佐和さんと、次郎役で脚本協力・監督捕も務めた守屋文雄さんが登壇しました。

「本作がまた東京の田端に戻ってきてとてもうれしい。加えてチュプキが、音声ガイドと字幕付き上映という新しい上映形態なので、本作はここでまた成長していくのではないかと感謝しています」と正木さん。
「登壇」といっても壇上はなく、観客と同じ地平なので「すごく間近だから、皆さんがどう思われたか知りたくなりますよね」と言う正木さんの笑顔が、ここでは実際に近くてリアルです。
「もちろん知りたいけど、でもみんなちがうよね。自分は監督もしてるから自分の映画をいろんな劇場で上映するけど、上映ごとに空気がちがう。それが、ひとり家で見ることではない、映画館でみんなで見ることだと思う」と守屋さん。
正木「映画館によって音もずいぶんちがうしね」
守屋「映画館の音については、最近になってみんな気づきはじめた。シネコンなどは音を売りにしてるところもあるけど、音って見えないからすごく大事ですよね」
正木「だから、音声ガイドだけで見てくださる方に、どういう景色が見えているのか、すごく気になります。この映画は感じるところが大きいから、2回目3回目でもいつも発見がある。守屋監督として、今日の上映はどうですか?」
「みんな帰ってないから、いいんじゃないですか(笑)」と守屋さん。

正木「今回監督、主演した、現場の福間さん、あの素朴なしゃべり方がすごいですよね。役者のわたしには真似できないって思った。で、今回映画初主演のくるみさんの真っすぐで、突き抜けた存在というのはもう、ね!」
守屋「僕はね、女優さんでその声を聞いてると胸の中がキュッとなる人が、有名無名問わず何人かいるんだけど、今回くるみさんが新たにその一人に加わったんですよ」
正木「くるみさんと何度か舞台挨拶も一緒だったけど、言葉選びがティーンエイジャーとは思えないんですよ! くるみさんが話した言葉を持って帰りたい、宝物の一部にしたいって。くるみさんが福間さんと二人主演して、この映画にとってとてもよかったと思う」

正木「次郎ちゃんは、スタッフでもあったけど、役者脳とスタッフ脳とどっちが大きかったんですか」
守屋「スタッフ脳でしょう。予算のない小さな現場で撮影日数も限られるから、タイトなスケジュールになる。どうしてもさっさとやろうとするんだけど、そうしないところが福間さんのやり方だったのかなあって、終わってから思うことがあった。福間さんは、現場でのひらめきを大事にしたいんですよね。それって撮影現場では大切にされづらいもので、準備してそのとおりにやれば映画は完成できてかたちにはなる。予算がないとそれをやるだけで精一杯。そこからひらめきの方まで手を伸ばすというのはなかなか大変。でも……きっとできたはずなんだよね」
正木「私が酔っ払って歌うシーン、あの歌の曲と歌詞を直前まで送ってくれなくて、直前になって必死でメロディとかをおぼえましたね。たぶんひらめくまで待ってるんですかね。そのへんを聞きたかったですね」

正木「ロケ地の人から怒られたりしましたよね。でもビビったりしないんですよね、福間さん。堂々としてるんですよね」
守屋「謝り方がね、こう謝られたら俺も許すわ、みたいな。すごく丁寧に謝るんですよ。〈大変申し訳ありません〉って」
正木「それと福間組は食べ物がよく出てきますよね。そして現場でも美味しいものを出してくれる。それってみんなを大切にしてるってことだと思うし、それが映画にも現れている気がします」

さて、質問をリクエストしました。すぐに二人の方から手が上がり、この空間の親密さを感じます!
Q1「指信号のアイデアはどこから? もう一つ、二役の正木さんのご苦労があったらそれを聞かせてください」
守屋「指信号は元々監督のアイデアで、最初から台本に書かれてました。どの段階で出てきたかはおぼえてないですけど」
正木「岬と綾子は、私の中では別人なんですね。正木佐和の本来としては綾子の方がちょっと近いですけど、いや、両方あるかな(笑)。岬のどこが好きかといえば、七海を対等な目線で見ているところ。男女、老若、たぶん国籍とかも関係なくボーダーレスに対峙できる人なんだなあと。綾子の好きなところは、やっぱり寺田を愛してるところかな。福間監督の考えてることが難しくて、普通のドラマとはまったくちがうので、毎日悩みましたけど。でも、楽しかったです!」
守屋「そうだよね、言われたことやってればいいって感じじゃないもんね」

Q2「おもしろかったです! くるみさんて飴屋さんの娘さんですよね? だから、くるみさん、存在がこういう感じなんだって、合点できた。わたしは飴屋さんファンで、いつもくるみさんの話を聞いてたので、見ていてそれが浮かんできて、今めちゃ感動してます! 私のような微妙な年齢にはできない、というか、めちゃ新しいなって気がしました。私が、〈経験がない〉とか〈きのう生まれてない〉とか〈人間やめられねー〉とか言っても、そんなに説得力ないから(笑)。ぜんぜんおもしろかった! くるみさんが、拾って掬いあげて、やってるのがすごいなって。私たちには考えられない言葉がいっぱい出てきて、すごかったです!」
守屋「わー! 福間さん、絶対喜んでるよね!」
正木「うれしいですねー!」

会場全体がパーッと明るくなったような空気に包まれて、大きな拍手が沸いて、二人の舞台挨拶、というより観客のみなさんとの「歓談」を終えました。
やっぱりすばらしい劇場ですね、シネマ・チュプキ・タバタは!
とてもとてもうれしい初日でした。
見てくださり、語ってくださったみなさんに感謝します。
正木さん、守屋さん、スタッフのみなさん、ありがとうございました!

チュプキでの上映は、毎水曜日の休館をはさんで、3月12日まで続きます。
二度目三度目を見られる方には、音声ガイドで鑑賞されることをお勧めします。
舞台挨拶はもう2回予定しています。
3月3日(日) 17:50上映後 七海役のくるみさん+トリ子役の住本尚子さん
3月9日(土) 15:55上映後 今泉役の今泉浩一さん+プロデューサー福間恵子
ぜひいらしてください。お待ちしています!