『きのう生まれたわけじゃない』田端上映レポート3
3月9日土曜日、『きのう生まれたわけじゃない』シネマ・チュプキ・タバタでは、上映後に舞台挨拶を行いました。登壇したのは、今泉浩一さん、福間恵子さん(本作プロデューサー)です。福間健二監督初の長編映画である『急にたどりついてしまう』にも出演していた今泉さん。福間恵子プロデューサーとは旧知の間柄です。さて、どんな話が飛び出すのでしょうか。
今日観た感想はどうだったのでしょうか。
今泉「今まで何度も観ているのですが、何日か前に気づいたことがあって、不思議な体験なんですが。僕は中学、小学校の記憶がなく、シナリオでは七海が中学に行けない事や、マーくんが高校行かないという設定に対しても、自分なりに理解して客観的にみていたんです。だけどフッとチュプキの上映が決まってから思い出した。小学校高学年くらいから、とにかく学校へ行くのが嫌だった。行ってはいたけれど、馴染めなくて……」
つらかった学校生活。しかしそのあと様々な出会いがあったようです。
今泉「高校に入ってすぐアルバイトを始めて。皿洗いや居酒屋で高校生は働いちゃいけないけれど特別に雇ってもらったんですよね。働いていたらバイトの人たちは皆大学生なわけ。その年上の人たちと話すのが楽しくって」
恵子「授業の時はどうだったの? バイトは夜じゃない?」
今泉「自分の席で寝ていました……同年代の子たちと馴染めなくて。なぜとけこめないのか、というところから、全体主義について書かれている書物にも興味を持って。谷崎や三島を読んでいる中学生で、高校生になってからも、ハンナ・アレントの『全体主義の起源』や、ルソーの『不平等論』バロウズや、カール・シュミットなど哲学書にも興味があったかなぁ」
恵子「早熟な子ですね!」
今泉「同級生の子が幼く話してつまらないなーなんて思ってね。小学校の時に仲良しだったのは緑のおばさんです」
恵子「緑のおばさんって旗振りのおばさん?」
今泉「そうそう。家に遊びに行く程だった」
和やかな笑顔が二人に浮かびます。会場も全体がにっこり。それから、当時あったTV映画放映の話になりました。
今泉「日本映画名作劇場という番組がありましてね。評論家の品田雄吉さんがナビゲートする番組が楽しみだったんです。大映のエロ路線とかね」
恵子「若尾文子さんですね!」
今泉「増村保造監督の作品が面白くて……」
高校の時の席順の話にもなりました。
今泉「高校で後ろの席の子が映画に詳しくて、色々教えて貰いました。ぴあとか読んだりシティーロードって雑誌も買って年間350本は映画を観ていましたよ。名画座も沢山あって、文芸坐、銀座並木座、飯田橋佳作座とか当時はそういう劇場がたくさんあったんです」
恵子「なんだか福間健二に似ていますねえ」
今泉「福間さん、高校の時に若松プロに出入りしていたって聞いてすごいなあって思って」
恵子「役者と同時に映画監督でもある今泉さんは思春期の頃からたくさんの映画を観てきたわけですよね。話は戻りますが、今作の今泉について聞きたいです。他の作品でも普段会っている時よりも更に存在感があると色んな人から言われると思うけれど……」
今泉「台本をもらった時に、今泉"芸をみせる’’と1行しか書いてなくて、何をどうするのかを教えてもらえなかったんです」
恵子「アーチのある公園で、七海がお父さんにも会える?って聞く場面で周りを見渡してコートを脱ぐじゃないですか、あれが芸を見せるってことですよね」
今泉「現場に入らなきゃわからない事や、共演者が前にいることで出てくる演技もあるので……あれは自然に出てきた動きでもありますね」
恵子「即興要素が強いのかしら。台本通りにやれと言われても今泉くんはやらないのでは、ということもあったのではないかなあ」
今泉「ピンク映画出身なこともあり、時間が無い中ぶっつけ本番でやるということが身体にしみついているんだと思いますね。さまざまなことが限られた中でやらなければいけないということもあるしねえ」
今泉さん、福間恵子プロデューサーが当時を振り返ります。場内のわたしたちも撮影のその場に立ち会えているような気持ちになりました。学校生活になじめなかったけれど、映画や哲学や本を通して人と人との繋がりを体感してきた今泉さん。恵子プロデューサーとのやり取りから、名作映画を観たり本を読んだりを改めてしたいなと思いました。
シネマ・チュプキ・タバタでの上映は3月12日火曜日迄になります。
そして『きのう生まれたわけじゃない』は、これから全国展開していきます。
皆様是非一度ご覧下さり、希望の物語を体感し「人間やめられね〜え〜」とうたってみませんか?
文責 酢とレモン