見出し画像

【イベントレポート】12月26日『きのう生まれたわけじゃない』登壇:結城秀勇さん、鈴木史さん

12月26日、ポレポレ東中野での『きのう生まれたわけじゃない』上映も、今日を入れてあと3日となりました。
今日のトークショーは、映画批評家の結城秀勇さんと、映画監督で文筆家の鈴木史さんです。鈴木さんをトークのお相手に選んだ結城さんは、劇中で七海が言う「ゆうかんな女の子」にヒントを得て「ゆうかんな人」の候補を考えて、そのなかから鈴木さんに決めたそうです。鈴木さんもまた映画批評を手がけています。今回初めて福間作品を見たという鈴木さん。お二人の話はどんな展開を見せたのでしょうか。

鈴木史さん

鈴木「まず役者が着ている服に注目しました。ほとんどが自前だそうですが、それぞれが着なれている服だという印象。それは自分自身を持っていることにつながる。とくに今泉さん、顔は小さめで肩幅も狭いのに、大きめの黒い服。天使の側に行ってる、そんなふうに見えました」
結城「冒頭の〈いなくなった人たち、みんな僕のなかにいる〉の、今泉→寺田(福間)→今泉の、声だけのところ、福間さんの声のトーンも今泉さんに近いですよね。今泉が〈いなくなった人たち〉への思いを引き受ける存在だとしたら、寺田もなのかと思った」
鈴木「今泉さん、ロッセリーニの『神の道化師フランチェスコ』の幼な子のような聖人の印象もある。それから、色ですね。寺田のコートの裏が黄色、七海のリュックも黄色、オムライスの黄色、パセリと三つ葉の緑、そして樹々の紅葉。色に対する意識がとてもいいですよね」
結城「服が落ち葉だらけになるし」
鈴木「なんか植物に近づいていく、人間から遠いものに近くなる印象がありますね。
楽しい瞬間というのは、臆病だと逃げたくなるときでもある。みんなが独特の地点にいる気がするんですよ。
守屋さんの指信号、よかったですね! あのオムライスをがっついてるマー君を誰も非難しないところも。そして、七海は女性性から離れてるけど、トリ子は女性的でもある。自分から離れたものを志向する感じがしました」

話題は、どんどん核心に迫っていきます。

結城「〈ゆうかんな人〉とは〈何かになろうとしている人〉が定義で、それは現状否定でもある。自己否定しないと自己喪失するとも言える。福間さんの『あるいは佐々木ユキ』には、佐々木ユキ主義というのが出てきて、みんなもそれぞれの主義を言う。そして最後にユキが言う主義には、ユキだけのではなくみんなの主義も入っているんですよ。それも〈何かになろうとしている〉のかもしれない」
そして、〈人間やめられねえ〉を簡単に言わない。そこにたどりつくまでに迂回する。この〈迂回〉が福間映画のキーワードだと思うんです。第1作の『急にたどりついてしまう』のタイトルにも驚くけど、まだ福間さんはたどりついてない。そこから25年以上すぎてこの作品。つながってますよね。『急たど』に出てる今泉さんが、年月を経て『きのう生まれたわけじゃない』まで、第1作と最後の作品が回路をなしてたどりつく。今泉さんが〈声〉をやってる、これも〈迂回〉」
鈴木「私は福間作品をここまで見ないで来た。そして〈迂回〉して出会い直した。この〈迂回〉が必要だったのかもしれない。福間さんは、映画少年から若松プロへ。でもすぐに映画を撮らずに、出演したり、詩を書いたりしてきたんですね」
結城「人生を肯定する。それは福間さんが映画少年のころから変わっていない。いきなり言わない。近づいているのか、遠のいているのかわからないまま〈急にたどりついてしまう〉だったと思う」

結城秀勇さん

『きのう生まれたわけじゃない』をめぐるお二人の話は、まるで福間健二の映画人生を読み解くかのように結ばれていきました。
結城さん、鈴木さん、感動的なトークに深謝です!
そして熱心に聴いてくださった観客のみなさん、ありがとうございました。

ポレポレ東中野での上映は、12月28日で終了します。
まだ間に合います。
この小さな希望の物語をいまこそ体験するために、ぜひご来場ください!