敵の補給艦を叩け シャア編

「ええい!連邦のモビルスーツは化け物か」

「機動戦士ガンダム」第3話、「敵の補給艦を叩け」は、恐ろしい物語である。この物語を、シャアの視点で追ってみよう。

シャアは、ドズルの命を受け、連邦のV作戦の調査のためにサイド7に派遣された。戦力は、ムサイ1艦とザク4機。枯渇しつつあるジオンの兵力を考慮すると恵まれた待遇といっていい。ジオンのV作戦に対する注目度の高さとシャアへの信頼が窺い知れる。

偵察任務はうまくいくかと思われたが、部下の暴走によりザク2機を失い、次なる戦いでさらにザク1機を失う。戦力をほぼ失ったシャアは、ドズルに補給を依頼する。食料や弾薬に加え、なんとか都合をつけてもらったザク2機が欲しい。パイロットとしても圧倒的に優秀なシャアだが、自分ひとりではどうにもならないことをよく知っているのだ。

補給に現れたのは、ガデムという古参兵が操る老朽艦パプアだ。シャアは、
「よくもこんなくたびれた船が現役でいられるものだな」
と驚くが、ガデムに、
「赤い彗星が補給をほしがるとはな。ドジをやったのか」
と返される。ガデムの、シャア相手に一歩も退かない貫禄が光る。「早くしろ」と誤魔化すシャアに、
「わしがそんなにのろまかね?歳の割には素早いはずた」
と、現役であることをアピールする。
そしてガデムは敵基地から遠いはずなのに、レーダーを妨害するミノフスキー粒子が濃い事に気付く。敵が近くにいるのかもしれない、という疑念が生まれる。

そこへ、位置を知られないためにせっせとミノフスキー粒子を撒いていたホワイトベースからガンダムとコアファイターが出撃し、奇襲をかける。補給中で態勢の整っていないシャアは、なすがままにやられる。
仕方なく、みずからザクで出撃し、ムサイへの攻撃の無力化に勤める。
そこでふたたびガンダムと戦うことになるが、ザクマシンガンの直撃でもビクともしないガンダムの性能を考慮し、接近してコクピットへの打撃を行う。「ザクならこのへんに乗ってるよな」とばかりに、脇腹にアッパーをかますあたりがかわいい。どれだけ打撃を与えても、中のアムロが「わーっ!」と言うばかりで、一向にビクともしないガンダム。

戦う前は、
「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる!」
と意気込んでいたシャアだが、ここにきて考えを変える。
「ええい!連邦のモビルスーツは化け物か!」
さらに、パプアを沈められたガデムが、旧ザクで出撃する。さっきまで性能の違いを重視していなかったシャアをして、
「やめろ、お前のザクでは無理だ」
と、性能の違いが戦力の決定的差になることもあるとガデムを諭す。
しかし、性能の違いが戦力の決定的差ではないと信じるガデムは、愛機でガンダムと対決するが、特に見せ場も作れず完敗する。
シャアが、ガデムと同じように、自分の考えに凝り固まっていたら、おそらくガデムと同じようにやられていたはずである。

戦い終わって、敗北を喫したシャアは呟く。

「パプアがやられ、ガデムも死んだ。どういう事なのだ…。モビルスーツにしろ、あの船にしろ、明らかに連邦軍の新兵器の高性能の前に敗北を喫した。それはわかる。しかし、一体どういう事なのだ…。連中は戦法も未熟なら、戦い方もまるで素人だ…」
「少佐。マチュウ、フィックス共にザクに搭乗。敵を追撃いたしますか?」
「補給物資積み込みの援護にあたれ」
「は!援護にあたります!」
「…どういうことなのだ…」

名シーンである。
今まで、連邦の強者達と権謀術数の限りを尽くし、騙し合い、裏をかきあい、いずれの戦いでも勝利をおさめてきたシャアだ。
負けは負けだが、あんな高性能な兵器を素人が操っているのは、なぜだ…。そして、それに負けるという事は、プロの軍人が不要になっていくという事である。
誰しも、「自分、いらないんじゃないか」と思い、恐怖する事が、一度や二度はあるはずだ。それも、単に自分が無価値だからではなく、自分の上位互換の存在の出現にである。
「あなたと同じ性能、しかも若くてイケメン!」という人物が現れたら、かなり落ち込むだろうと思う。いるんだろうけど、そんな人間は、いくらでも…。

さて、アイデンティティ崩壊寸前で混乱状態のシャアだが、部下からの通信に的確な指示を与え、その後にまた混乱するところが素晴らしい。

高性能の兵器で、ほとんど考えなしにゴリ押しする敵に敗北したシャア。
この後、シャアはさらに驚愕の光景を目にする事となる。

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