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Landscape/Fragment  mixtape

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とりあえず現時点での詩集みたいなものです。
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2020年11月の記事一覧

In The Night

誰しもがこの夜の擬人化を試みては、くだらない形容動詞を当てはめようとする。しかしながら、大都市の電光の飛沫や、文明の寿命よりも永い距離といった事物に阻まれてしまい、誰ひとりあの夜空の冷たい地肌に触れることはできない。せめてもの悪あがきにと、人工衛星で真鍮色の傷をつけてみても、無声映画のコマ送りより速く消えてしまうし、星雲の群れが放つ光子の波の、億年単位のディレイは、いかなる天啓や隠喩も含まずに気層の裡で揺らいでいるだけだ。そんな徒労にも似た茫漠さを忘れたくて、風俗街を満たす有

冬の劇場 (リライト版)

夜明けが追いかけてくる、 終幕ののちに── 冬の叫びが劇場を駆け巡り、 顔のない俳優がコートを羽織る。 しおれた花束が客席を賑やかし、 スポットライトの熱は、とうに冷めきった。 「真実も、嘘も、大げさな戯曲も、 長ったらしい独白も、もうたくさん。」 老女優は煙草を吸いながら、そう嘯く。 煙は暁に染まり、 赤い絨毯の上に、灰が白く光っている。 緞帳は確かに愛を孕んでいた。 しかし、書割の世界は全て凍ってしまった。 月が沈み、星々の葬列を見送ったあと、 冷たい太陽の下で、我

海岸・小景

空の冷たい青が せわしなく回る地球儀をゆっくりと止める 僕はイヤフォンで音楽を聴きながら 秋の海岸を歩く 貝殻みたいなさびしさが やさしいユウガオの群落に潜りこみ セピア色の砂浜を 一すじの轍が駆け抜ける ここよりずっとずっと向こうに 透明な鐘が落下する 音もなく 振り返る人もなく やがてその鐘は 傷口のような水平線に触れて 藍色に弱くひらめく 藍色の光の繊維が降り積もり 海面は希土類の断面のように冷たい 天球を縁取る気流のなかで 飛行機が銀色の腹を晒し 発電所にかかる桟橋は