私の20世紀末(上)名探偵コナン第1話の恐怖

 これから書くことは完全な戯言ですが、5、6歳の私にとっては切実なことだったので、忘れないうちに書いておきたいと思います。ところで、いま「忘れないうちに」と言いましたけれども、それは自分が書こうとしていることを「忘れないうちに」ということであって、決して今から書く内容のことを「忘れないうちに」というわけではないのです。はい。余計なことを言いました。けれども、記憶とは不思議なもので、今から述べる5、6歳の記憶を、私は10代、20代で思い出したことなどありませんでした。だからこう思うのです。人間は経験したことの全てを覚えていて、思い出せないのであれば、それは記憶を引き出してくるきっかけがないに過ぎないのだと。
 いきなり大それたことを言ってしまいましたが、この記事で何が言いたいのかといいますと、それは初期のアニメ「名探偵コナン」が怖かった、という話です。もはや説明は不要かと思いますが、「名探偵コナン」のコナン君というのは、工藤新一が闇の組織に薬を飲まされた結果の姿です。工藤新一は、このアニメの第1話で薬を飲まされコナン君へとされてしまうわけです。私は当時、6歳にもならんガキでして、人間を縮ませてしまう薬が科学的にありえないと判断する知識もまだありませんでした。だから単純にこの世界にはそういう薬が存在するのかもしれない、と怯えたわけです。もちろん、薬を飲まされたのは高校生の新一で、ある程度身体面での成長を終えていたからこそ「縮む」ということも可能なわけです。それゆえ、仮にそういった薬があったとしても、誰かがガキの自分に飲ませるということは考えられません。ガキにガキになる薬飲ませたところで所詮はガキですし、そもそも私はゲームボーイをしながら鼻ほじっているような、何処にでもいる、暗黒組織の策略的なものとは無縁のガキてした。
 しかし、段々とわかってくることですけど、コナンはいつまで経ってもガキのままなのですね。これは、ほとんどのフィクションに関わる問題で、クレヨンしんちゃんはいつまで幼稚園生なんだとか、ちびまる子やカツオはいつまで小学生やってんだという問題にも共通することがコナンにも当てはまるわけです。余談ですが、名探偵コナンには「いつコナンを新一に戻して蘭の前に登場させるか」という問題がまだあるのだと思いますが、コナンを物語の中で成長させることで段々と新一に近づけていく、という「穏便な」方法もあったように思いますが、ここではこれ以上述べません。
 クレヨンしんちゃんはいつまでも幼稚園生だなぁ……という気づきは、ガキにはそう早くはやってきません。物語をメタに見る能力はガキのうちはほぼありませんから、これは仕方のないことでもあります。しかし、毎週同じ曜日の同じ時間に、都度リセットされたような形で、言い換えれば一話完結型のシナリオの提供として、コナン君やしんちゃんやちびまる子がテレビに常に同じ様に現れてくれることはわかっているわけです。彼らが変化しないことについては、何となく気づいてはいるのです。
 ここにおいて、新一が飲まされた薬のもうひとつの意味合いが生じます。あの薬は、成長した人間を縮ませることだけでなく、成長を止めることの効果もあるということです。ガキの私が最も恐れたのは、このもうひとつの効果です。1996年1月8日からアニメが始まって、その初回で新一は小学1年生のガキに変えられました。私はそのとき卒園を控えていた年長でしたので、コナンくんとはほとんどタメみたいなものです。放送を見てて高校生のあんちゃんの探偵物語が始まるわ思ってたら、タメのガキがダボダボの服で警察に保護されるところで第1話が終わるんです、確か。
 これから成長していこうっていうガキの前に「人間を縮ませ、かつ成長を止める薬」があるかもしれない、という事実が突きつけられたわけです。これを残酷と言わずに何といいましょう。ガキには「それはフィクションだから」と駁する知識もロジックもないわけですから。「怖いな。この世界、ちょっとやばいんかもな」くらいのことは当時ガキの自分でも思ったことでしょう。なにせ前の年には阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きてます。まさに「100年ぶりの世紀末」です。
 ここまで書いて私は、「名探偵コナン」の第1話を見てみたくなりました。そして、何と便利な世の中でしょう、Huluという動画サイトにコナンが収録されているではありませんか。無料期間だけのつもりで、早速登録して第1話を見ました。その内容はだいたい次のようなものです。まず豪邸で起こった殺人事件を新一が解決するシーンから始まります。この解決が新聞に載ることで、彼が有名な高校生探偵であることが視聴者に明らかにされ、同時にそれに嫉妬する冴えない私立探偵毛利小五郎も初登場となります。毛利小五郎の娘が蘭で、この人は新一と恋仲にあるらしいことがわかる。そしてそのデートで遊園地に行くのですが、ここでふたりが乗り合わせたジェットコースターで殺人事件が起こる。そこには黒づくめの男ふたり組も同乗しており、明らかに場違いでいかにも怪しいのだが、犯人はそのふたりではなく、手前に座っていた若い女性が恋愛がらみの嫉妬に及んでの犯行だった。もちろんこれを解決したのも新一で、一件落着という感じで蘭と遊園地をあとにしようとしたところ、先に見た怪しい黒づくめの男を見かけた新一は、彼らが何者かを突き止めようと、蘭を残して後をつける。そこで新一が目にしたのは億はあるだろうと思われる現金のやりとりで、そのとき後ろからドスっとバットのようなもので殴ったのは黒づくめの男のうちの背の高いロン毛の方。そして彼が気絶している新一に薬を飲ませ、その後、新一を探しに来た警官が彼を発見した時には、もう新一はコナン君の姿になっていた……。
 少し長くなりました。どうして私がこんなに長くこのエピソードを紹介したのかというと、薬のところともうひとつ、私にとって怖かった要素がここにあるからなのです。それが何かと言いますと、ジェットコースターの場面での殺人犯の殺し方です。ここから先は、次の記事にいたしましょう。実は次の記事は、2年前のブログに書いたことを土台にしています。次回、次々回で一応この話は終える予定です。それでは。あ、いま検索したら、コナンの第1話はYouTubeで見られるようです。リンクを貼っておきます。

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