過去一!咽び泣いた「アナテフカ」

はじめまして。今日からベルリンのお得情報について発信していこうと思います。コロナ禍で趣味になった劇場巡りやベルリンの至る所に点在する美術館、何よりおいしいレストランのメモなど。まずは数年前の記憶を辿る記事がメインになります。

記念すべき最初のテーマは、ミュージカル「Anatevka」。日本語では、「屋根の上のヴァイオリン弾き」のタイトルでお馴染みです。Komische Operの作品ですが、本館が改装中なのでもうすぐSchillertheaterで上演されるとのこと。2021年に観てからずっと忘れられずにいたのですが、またベルリンに戻ってくるとのことで嬉しくて仕方ありません。

こちらの作品、ウィキッドと並んで私が一番好きな作品の一つです。テーマがテーマだけに、「楽しむ」とは少しだけ違う感覚なのだけど…。ベルリンの劇場は開演の30-45分前に上演前の作品解説が聞けるのですが、話の舞台がウクライナだと耳にしたことだけが記憶に残っています。それはまだウクライナが自由だった頃、この作品を見て、ユダヤ系ウクライナ人の友達のことを思わずにはいられなかったことを強く覚えています。

当時私が観たのは生オーケストラ伴奏というめちゃくちゃリッチなバージョン。当日飛び込みで行ったのに一番の特等席に座れてとっても嬉しかったです。一階席のボックス席、しかもど真ん中の一列目。若者向けのClassicCardを当日に使ったので、お値段なんと10€。チケットを受け取る時、「これ以上いい席はないですよ」と言われたのですが、本当にあんな経験、後にも先にもこれだけなのでは?と思います。

というのも、2021年の年末は一番鬱がひどくて、もうダメだと毎日思っていた時期。小さい幸運がアホみたいに響いたのです。この日も体に鞭を打って、ベッドから這い出してたどり着いた記憶があります。この経験がどん底から浮上する契機になったのも事実で、未だに忘れられないのです。

Komische Operの演出はトラウマ級のものも多く、はじめにベネトンのトレーナーを着た少年が現れた時には少し不安を感じたのですが、完全に杞憂でした。あんなに素晴らしいミュージカルは、今までで初めて。舞台装置がベルリンの劇場の中では一番モダンで、回転式だから場面の切り替えもスムーズ。舞台装置の予算を切り詰めた感じもなくて(残念ながらベルリンあるある)、この劇場の底力を思い知らされました。

いくつか印象に残った場面があるのですが、主人公が夢でお告げを受けるシーンは、リメンバーミーでお馴染みのメキシコの死者のお祭りをモチーフにしていたみたいで、豪華さがすごかったです。他の踊りのクオリティも最強で、帽子にコップが何かを乗せてバランスを取りながら踊るシーンには心底びっくりしました。記憶違いはあるかもしれないけど、とにかく何かすごかった思い出です。

さて、問題の咽び泣きの原因となったのは、パートナーとの暮らしを優先するために作中の次女が故郷から離れる葛藤を描いた曲、「Far from the home I love」。当時はパートナーこそいなかったものの、現地人と「出会って」しまって日本に帰る選択肢を奪われることに恐怖を感じていたからです。これはきっと、パートナーシップだけではなく、仕事や学業にも当てはまることでしょう。エネルギーを注ぎたい分野に熱中すればするほど故郷とは遠ざかる。大学院修了の目前、日本に帰る選択肢がほぼ手の内にないことに気づいていたタイミングなのもあって、当時の心境にクリティカルヒットしました。一瞬だけ泣き声を抑えられず、隣の人にギョッとされたものです。この曲は、今でもイントロを聞いただけで泣けてきます。

結婚式のシーンの盛大さと、その後のシーンの落差がひどすぎてあまりにショックを受けたのを覚えているのですが、これがポグロムだったり、ショアに繋がる態度だったりしたのかと、ものすごく深く考えさせられました。終わりもまた最初の方の豪勢なセットとの対比がすごくて、もう強烈にアナテフカの世界観に引き込まれてしまいました。歴史には興味があるけれど、史実の繋がりを見つけるのがめちゃくちゃ苦手だから、こういう具体的な描写は考えを深めるすごくいい手掛かりになることに気付かされました。二つの戦争が始まった今となっては、観劇中に感じることもまた変わってくるのだろうと覚悟しています。

ちなみにこちらの劇場はシートの座り心地も抜群で、自分専用の字幕あり(日本語非対応)。通常は、一番設備面で強い劇場です(今は臨時で別劇場で上演中)。外から見た姿と、内装のギャップもいい意味で大きいので、改装後にはぜひ訪れてみてほしいです。た・だ・し!Komische Operは名前の通りめちゃくちゃ奇抜なことも多いので、演目はしっっっかり選ぶべし。もう一つ注意すべきは、柱席。別の公演で痛い目に遭いましたが、これはまた別のお話…。


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