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純粋「屁」を精製した話

私は小さな頃から、人よりやや多く屁をこいていたようだ。

 どのくらい人より多く屁をこいていたかというと、始終プスープスーと屁をこいている私を心配した母が、私を近所の病院に連れていき、「ウチの子は、腸内異常発酵を起こしているのではないでしょうか?」と医師に訴えたほどだ。

 診察の結果、私の腸に異常はなく、つまり私は単なる「人よりやや多く屁をこく少年」ということで落ち着いた。

 そうして私は毎日プスープスーと屁をこきながら順調に大きくなっていったのだが、ある日、地球環境を守らねばという気持ちになった。

 高校生くらいの頃だろうか…周囲の同級生たちはそろそろ落ち着き始め、真面目な友人は、国立大学の進学から、将来は官僚を目指すなどと言い始めた。

 また、リアルが充実していた連中は、彼女を作って青春を謳歌していたりした。

 しかし、そんな中でも私はやはり屁のことばかりを考えていた。

 どうやらガソリンなどの化石燃料は、あと何十年かしたら枯渇すると、何かで読んだらしい。少し記憶は曖昧なのだが、「エネルギー問題」について危機感を覚えたことは確かだ。

 私は、屁がエネルギー問題を解決するのではないかと真面目に考えた。

 なぜならば、屁はメタンガスが含まれており、燃えると何かで見たからだ。

 世界50億人の、いや、全ての生物が出す屁を、可燃性ガスとしてエネルギー利用できるようになれば、資源が枯渇する心配もなく、エネルギー問題は解決するのではないか。

 ところで、本当に屁は燃えるのか?

 まずはそこからである。

 当時高校生だった私は、100円ライターを尻付近で点火させ、放屁してみた。

 が、全然火がつかない。

 イメージでは、火炎放射器のごとく轟々と尻から炎が出る予定だったのだが、何も起こらなかった。

 私はこれを、屁か空中に出たとたんに空気と交じり合い、せっかくのメタンガスが薄まってしまって燃えなくなるのだと考えた。

 ならば、より純粋な状態の屁に点火すればいいのだ。

 次にやったことは、パンツを下ろし、肛門付近にライターを近づけて、そこに屁をぶつけるというやり方だ。

 パンツやズボン越しより、よほど純粋なる屁が、放出されるはずだ。

 しかし、やはり火炎は上がらなかった。

 私は少々ショックを受けてしまった。

 それからというもの、空気と交じり合わない純粋な屁をどうすれば精製することができるのか、それだけを考える日々となった。

 周囲の一般高校生は受験のことを考えて、塾や予備校に行っていたが、私はもちろんそんなことは微塵も考えず、ただ、屁の研究に没頭した。

 「純粋屁の抽出・精製」…。空気を通さなければいいのだ。

 私はこのアイデアに夢中になった。

 風呂に入り、風呂の中で屁をして、浮いてきた泡を洗面器で受け止め、それに火をつければいいのだ。

 しかし…すぐに自分の浅はかさを思い知らされることになる。

 洗面器を裏返した瞬間、空気が混じり、純粋屁にはならないのだ。

 もちろん、火もつかない。

 私は今度はビニール袋を風呂に持ち込み、袋の中に屁を集めた。

 洗面器よりもよほど純度の高い屁が集められたはずだ。

 そして袋の口にライターを近づけてみたが、火はつかなかった。

 私は追い詰められていた。

 このままでは、人類のエネルギー問題を永久に解決するという私の願いは絶たれてしまう。

 純粋屁さえ精製できれば、人類は無限の自然エネルギーを手に入れられるというのに。

 公害問題も解決するのに。

 そもそも本当に屁は燃えるのか? と心も折れ始めた。

 このままではいけない。

 ここであきらめてはいけない。

 私は自分を鼓舞した。

 アニメ『新エースをねらえ!』の宗方コーチの声(CV:野沢那智)が聴こえてきた。

「あきらめるな!」

 周りは志望校を見据えて受験勉強をしていた頃だが、私はそんな目先の進路に頓着している余裕はなかった。

 何せ自分の双肩に、いや、双尻に、人類の未来がかかっているのだ。

 私が次に考えたのは、屁を生み出す腸から、直接管を出して、その先に点火するというものだった。

 私はズボンとパンツを脱いであおむけにでんぐり返りの姿勢になり、肛門に、ボールペンの先と芯を抜いたプラスチックの管を突き刺した。

 そして、火のついたライターを管の先に用意して、屁をこいた。

 ポン!

 という音がして、一瞬青白い火が見えた。と、同時に腸内に衝撃を感じた。

 屁が、爆発炎上したのだ。

 17、18歳の頃の、この感触を今でも忘れられない。

 屁って本当に燃えるんだ!

 「ラピュタって本当にあったんだ!」というパズーの気持ちと、当時の私の感情は完全にクロスオーバーしていた。

 私がアメリカ生まれなら、「オーマイガッ!」と叫んでいたかもしれない。

 日本生まれでも、敬虔なクリスチャンなら、「ああ、神様…」と言ったかもしれない。

 とにかく私はとうとう純粋屁に火をつけるという目的を達成したのだっ!

 ※同じことはマネしないでください。明らかに危険です。どうしてもやる場合は医師立会いの下でお願いします。

 世の中に、自分の屁に火をつけたことがある人が何人いるのだろうか。

 少なくとも私は自分以外に知らない。

 もしいるのならば、どのようにして点火したか教えてほしい。

 ちなみに私は、腸に衝撃を受けたショックから、同じ実験を二度していない。内臓に損傷を受けると怖いからだ。

 しかし、屁は燃えるという実験は成功した。

 屁は空気と交じり合わせず、純粋屁を抽出・精製することで、エネルギー転換可能である。

 この事実は、世の中に発信したい。

 そして、無駄に放っている屁を、一人一人が大事にすることで、世の中変わっていくのではないだろうか。

 次のステージは、腸に衝撃を与えることなく、純粋屁を抽出することである。

 これは、根気よくパイプを肛門に差し込み、屁を集めることで可能かもしれない。

 やってみる価値はある。


 ちなみに私は今でもなかなかの屁をこくことについては自信がある。

 今では結婚し、娘もいる私だが、先日、リビングで、ドスン!とばかり大音量の屁をこいてしまった。

 驚いた妻が、キッチンから、「今の何? 雷?」と聞いてきたが、

 「すまん、俺の屁だ」。

 歳を経ても、いや、歳を経たからこそ、私の屁にはまだ力がある。

 人類の屁=エネルギー開発はまだまだこれからだ。



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