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【ショート】碧い境界


境界


今は、深夜2時頃だろうか。

静かな海辺には、誰も居なかった。僕以外に。

夢のような、それでいて現実のような。

ザー、ザーと。僕が想像していた音よりも、もっと小さかった。浜辺に近づいてもそうだ。

静まっている。寝静まっていた。

まんまるとした大きな満月が、目の前の波を形作る。

あの大きな月に近づきたい。そう思った。

力なんて、もう残っていないけれど

このために来たんだろう、と僕は僕を奮わせる。

寒さに震えているのか、それとも武者震いなのか。

つま先が、青い波の中に入る。

脚首。

脛。

膝。

太腿。

冷たさに少しずつ、はっとしながらも

最早それに反応するよりも、順応した。

僕の身体は、もともと冷たかった。

腰。

小さな波が僕を冷たくあしらった。

それでいて、下半身は麻痺どころか温もりを感じ始めた。

羊水。

次は、もっとがんばるよ。

途端。

海の青さが、限りなく広がった。ぱっと花が咲くように。

空のどす黒さと、海の黒さが溶け込む。

黒い薔薇が、僕の周りを包み込む。

そして、空と海が一体化した。

相変わらず、僕の身体は冷たい。

海の温もりをより感じるようになった。


漂流


僕は、海面に映りこむ満月を見た。

追い求めつつも、僕には諦めるしかないと感じていた。

満月。

太陽は、僕には明るすぎる。

ちょうど太陽を反射した、
満月の方が、僕は追い求めたかった。

自己矛盾。

命を賭けたからこそ、僕は少し夢を見られた。

命を削ったからこそ、失ったときに絶望した。

たくさんの夢を持ちなさい。そうすれば、夢が叶わなくったって、次の夢を追い続けることができるから。

僕には、それができなかった。

どうして、うまくいかないんだろう

そう呟いた。今日はじめて発した言葉だった。

水面に映る空は、何か別の世界に続く扉のように感じられた。

もうすぐ首の辺りまできた。このまま下を向いていたら

海の水を飲んでしまうだろう。

ぞっとしたと同時に、今の僕ならこの海のスープを全て
飲み干して仕舞えると思った。

僕は、何も抵抗もせず、そのまま沈んだ。

体内に含有している空気のおかげか、

一瞬身体が浮く。

そのまま、僕は息を吐いていく。

ふぅぅう。

ふぅぅ。

・・・。

もう身体の中の空気が無くなった、

そう思った時

身体が沈んでいった。

僕は海を飲み干す勢いで、海をすすった。

すすった。

もっと。

もう、こんな世界、なくなれ。

そう思った時。

まただ。

空気も抜け、海を飲み干したというのに、なぜか体が沈まない。

それどころか

海の青に足を踏み入れたというのに、僕は、まるで宙を漂っているかのような感覚に変わっていく。

僕は、海にいたのに。

僕は、僕を諦めたのに。

世界は、僕に夢を見せる。


流転


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