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[ep.18] 濃霧の摩周湖、黎明

【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路 2019の実行委員がリアルに100kmを歩くことを決意し、実行したらどうなるのか?

【前回の記事とあらすじ】
[ep.17]別れ、そしてひとりきり
スタートからずっと一緒に歩いてきた「あいぼん」氏と別れて、一人だけで第5CPに着いた。そして私の後に誰も到着せず、第5CPチェックインのタイムリミット1:00になってしまった。

●凱旋と背水の陣

第5CPのタイムリミット、1:00となりました。0:42に到着した私の後に、誰も来ることはありませんでした。頭が真っ白になりました。時間とはなんと残酷なことだろうか。どこでペースを誤ってしまったのだろうか。後悔も、怒りも、悲しみも、何も感じられない。1:00になってしまった、それだけが意識を満たしていました。

視点の定まらない状態の私の耳に、建物の入口の辺りから何か声が聞こえてきました。地元本部スタッフ・佐々木氏の声でした。「たくさん人が歩いてきてる!」

佐々木氏の言葉を聞くや否や、ぞろぞろと建物の入口に徒歩参加者が入ってきました。あいぼん氏と別れる直前にお会いした奥野氏もいらっしゃいました。ただ、その列の中には、あいぼん氏を見つけることが出来ません。嬉しさと悲しさが、大きな潮の満ち引きのように向かって引いていきます。

つい数分前まで誰も来ていないという情報だったのに、どうして突然徒歩参加者が現れたのでしょうか。聞くところによると、靄で外がほとんど見えない状態になっていて、徒歩参加者の明かりすらすぐ近くでないと確認ができない状態だったようです。

隊列の最後の方が建物に入り、私もとうとうあいぼん氏の到着を諦めるしかないのかと、腹をくくる準備をしていました。最後まで信じていたい、そんな思いは、砂の城が風で削られていくかのように形を崩していくようです。

●奇跡の再会、バディ復活

その時、奇跡の瞬間を目前にするとはまさにこのことでありましょう、あいぼん氏が建物の中に入ろうと歩く姿を見ました。

「よかった…」あいぼん氏と顔を合わせた瞬間、ただその言葉だけが無意識に発せられました。あいぼん氏を最後尾として、私の後ろを歩いていた方々は誰もタイムアウトにならずに第5CPに到着できました。

さすがにタイムチェックをしてすぐに出発するのは難しく、少し休憩してから出発することにしました。とにかく、再会できたことが喜ばしい。本当に良かった。私は体力的に無理をしてきたことと、目眩く出来事に対する感情の変化により、自分が何を思っているのかをアウトプットすることが出来ずにいました。

喜びを噛み締めながらも、本能的なものか、トイレチェックに向かいました。さすがユニバーサルデザインのホテルで、お手洗いが全て車椅子対応になっているので広々としています。もちろん清潔感は言わずもがな。今回も写真撮影は失念しました。

●1:16、第5CP「ピュア・フィールド風曜日」を出発

感動の再会、というには存外にあっさりとした雰囲気ではありましたが、笑顔で第5CPを出発することにしました。再会ができたことが喜ばしい、その事実だけで十分でした。地元本部スタッフの上村氏・佐々木氏も笑顔でお見送りしてくださいました。

次のチェックポイントは、第6CP「摩周第一展望台」です。アスファルトの道路ではあるものの、ここから本格的な山登りの道です。

1:16に出発、次の第6CPのクローズは3:30、距離は5.9km。上り勾配を考慮しても、5.6kmを2時間以内で歩くのは難しいことではありません。

再びバディを組むことが出来た私とあいぼん氏は、無理のないペースでコースを進んでいきます。ここのスティントについて、私はカーブの多い上り勾配を注目してしまいがちなのですが、実は最初の大きなカーブに差し掛かるまでの直線の長さが大変なポイントだと思っています。

山登りに差し掛かるまでの間は、道路に歩道があります。真っすぐ進んでいくと右側にパーキングスペースがあり、そこから間もなくして歩道が無くなり、道路の右側を歩いて山登りが始まります。登り始めてもしばらくの間は直線に見える道をまっすぐ進んでいきます。

Googleマップで調べてみると、大きなカーブに差し掛かるまでには、第5CPから3.5kmあるようでした。途中から少し左曲がりになっていますが、歩いていると直線に感じるほどの曲線半径です。

第5CPと第6CPの区間距離が5.6kmですので、区間の62.5%は直線を進むと考えていいくらいです。

我々はパーキングスペースを通り過ぎ、歩道が無くなったところで道路の右側に渡り、山を登り始めます。とにかく果てしなく直線が続いているイメージ。

第5CPから発生していた靄は、濃い霧か小雨のような状態で、前方を照らしても先がほとんど見えません。懐中電灯で照らす目の前の空間は水滴が散りばめられていて霧雨が降っているように思います。霧雨ということは顔や服がかなり濡れてしまっているかと思いきや、カラッと乾燥はしていないものの濡れているようには思えません。水滴を浴びているのに濡れていない感覚は、まるで熊谷駅前の冷却ミストを浴びている感覚と同じと言って差し支えないでしょう。

●バディからトリオへ、濃霧を切り拓いて山を登る

まだカーブに差し掛かるしばらく前、前方にゆっくりと歩いている徒歩参加者が見えました。近づいてみると、予てより顔を合わせていた奥野氏でした。ライトの電池が切れてしまったそうで、暗闇の中をストックを突いて歩いていました。

「差し支えなければ、第6CPまで一緒に行かせてもらえないか」とお願いされ、3人で第6CPへと向かうことにしました。今回の大会が始まって初めて、私とあいぼん氏以外の方がグループに入って歩き始めた瞬間です。

私はスマホで地図を確認しながら、あとどれくらいでカーブに差し掛かるのか、第6CPまでどのくらいの距離なのかを把握し共有しました。そんな中、私の懐中電灯の電池が切れてしまいました。この3人の中で明かりを照らせるのはあいぼん氏だけとなってしまいました。

「右曲がりのカーブで、左側に小屋が見えたら第6CPまで残りわずか」というのは、私が過去にこの大会に参加した時に把握していたことです。濃霧ではあるものの、あいぼん氏の明かりが小屋を微かに照らした気がしました。

程なくして、向こうの方にぼんやりと明るくなっている場所があるように思います。時間に追われたり、あいぼん氏と別れることがなくなったような心配事から解き放たれたせいか、脳内は非常に整理された感覚で前を見られます。間違いなくその明かりは第6CPのものです。

●3:08、第6CP「摩周第一展望台」に到着

自分が想像していたよりも時間がかかってしまいましたが、タイムアウトにならず無事に第6CPに到着できました。

このチェックポイントは、普段は観光施設として開放している場所です。日中はレストハウスにて飲食も可能です。4月~11月の日中は駐車場が有料(乗用車だけでなくバイクも)ですので、お金を忘れると入れません。

ここは、本大会名物の「カニ汁」をいただくことが出来ます。そこまでお腹が空いていなかったのですが、せめて名物は味わいたいとの思いから、「汁だけカニ汁」をサポートスタッフにお願いしました。紙コップに注がれた汁だけカニ汁は蟹の出汁がしっかり出ており、美味しくいただきました。

ストレッチを行うため、テントの中に入っていきます。睡眠している徒歩参加者を労って消灯しているため、テントの中は薄暗くなっていました。

テント内には、マッサージのプロである「ねぎぽぽ夫妻」がいました。私は躊躇いもなく、マッサージをしていただきました。

ここで一つ疑問が出てきました。なぜ自分は今回の道中で全く眠くならないのだろう。10年前に参加したときは、1:00を過ぎたあたりで止めどなく睡魔に襲われました。今回は全く睡魔に襲われません。起床直後に飲み干したユンケルなどがいい効果なのでしょうか。それとも時間に追われて気が張っているのでしょうか。

マッサージを終えて外を見ると、空がかなり明るくなってきました。この時期、晴れていれば3:00くらいには相当明るくなっているのですが、濃霧が影響して3:40を過ぎた頃に明るくなってきました。

サンダルを履こうとしたら、置いた場所が悪かったため、テントに付着した霧の雨露が下に垂れてサンダルを濡らしていました。ジェットヒーターがあったので、それで乾かそうと思ってすぐに「熱に当てたら溶けてしまうじゃないか」と思い直し、ティッシュをお借りして雨露を拭き取りました。

大変残念なことがあります。OTS(オフィシャルトイレスポット)のアトレーユに引き続き、トイレチェックを行うことが出来ませんでした。自分のトイレに対する熱情の足りなさを実感しました。これはいけない。

●3:44、第6CP「摩周第一展望台」を出発

まだ何人かテントに滞在していましたが、私とあいぼん氏は第6CPを出発することにしました。空は次第に明るくなってきました。

ここは上り勾配を登ってきてから到着したチェックポイントですので、徒歩参加者の方の中には「ここが頂点で、あとは下っていくから楽ができる」と思われる方がいると聞いたことがあります。残念ながら、ここから3kmちょっとは、もうしばらく上り勾配です。「摩周第三展望台」を頂点として、そこから下り坂となります。

[ep.19] 朝がまた来て、最後のチェックポイントへ につづく