テープマシンおじさん

免許の更新に行った。書類を提出すると、30分の講習を受けることになる。講習は15分の動画を見て、15分の講義を受ける。同じ内容が繰り返されている。書類を提出したタイミングで講習ブースに入り、30分経ったところでブースから出てくれば良い。そうすると一通り全ての内容を聞ける仕組みになっている。

驚いたのが、人間(おじさん)が講義しているということだ。おじさんは1日に何度も同じ内容の話を15分おきにスピーチしている。台本も持たず、はきはきと、さながら舞台俳優のように。

おじさんは機械に見えた。音声を吹き込んで連続再生すればいいだけなのに、なぜか人力でやっている。あまりにも気の毒だ。いや、だが待てよ、おじさんはこの仕事にものすごくやりがいを感じているかもしれない。そうだとすれば、機械にやらせることの方が暴力的になってしまう。

機械みたいな能力を身につけたい、という欲望は珍しいものじゃない。アスリートは機械みたいに最高のパフォーマンスを出したいだろうし、音楽家は機械にインスパイアされて技術を進化させてきた。スポーツや芸術みたいなクリエイティヴな分野では、機械と人間はタッグを組んで互いに発展してきた。これは歴史的にわかりやすい。だが、誰にも評価されないし、歴史にも残らないような分野でも、そういう欲望が働くのだとしたら……。人間って不思議だ。

などと書き連ねてきたが、おじさんは普通に「なんでこんなことをやらなくちゃいけないんだ」と怒っているかもしれない。そうだとしたら、同情する。

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