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2013年生まれの強豪たち ~ハイレベルの代償

  当然のことながら、競走馬における世代間の強弱にはバラつきがある。強い世代、弱い世代といわれるように、世代によってレベルに差が出てしまうのだ。強い世代の代表格といえば、スペシャルウィーク(日本ダービー、天皇賞春・秋など)、エルコンドルパサー(NHKマイルカップ、ジャパンカップなど)、グラスワンダー(朝日杯3歳ステークス、有馬記念連覇など)らの1995年の生まれだろう。昭和の昔で言えば、トウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスのTTGで名高い1973年生まれが有名だ。
 一方、弱い世代として認識されているのは、ダービー馬のウィナーズサークルやドクタースパート(皐月賞)、バンブービギン(菊花賞)らの1986年生まれ世代あたりではあるまいか。

「弱い世代」というのは誤解!?

  ただ、誤解を受けている世代もある。
 代表的なのは、ダービー馬バンブーアトラスらの1979年生まれだろう。この世代は他の世代とぶつかる大レースに勝っている馬がかなり少ないため「弱い」と言われているのだが、ダービー馬バンブーアトラスを筆頭に、皐月賞馬アズマハンター、NHK杯の勝ち馬アスワンなど、早期に引退した馬が多かったという事情があったのだ。また、ワカテンザンのように、過酷なクラシック戦線のツケから本来の力を発揮できなくなった馬もいたのである。
そもそも、クラシックの主役と目されていたサルノキングが、かの有名な“逆噴射事件”(八百長疑惑)を引き起こしたスプリングステークス(皐月賞トライアル、当時はオープン)で故障し、本番前の時点で引退に追い込まれていたのだ。
 近年も、この1979年生まれと同様に、「弱い世代」と誤解されている世代がある。マカヒキ、ディーマジェスティ、サトノダイヤモンド、リオンディーズらの2013年生まれにほかならない。
 世代の頂点ともいえる日本ダービーを制したマカヒキが凱旋門賞の惨敗から17連敗を喫し、超低レベルだった京都大賞典に勝ったものの、以降4戦連続で2ケタ着順の大惨敗続きで引退したのだから、どうしても悪いイメージがつきまとう。
 マカヒキ世代の評価が今一つなのは、1979年世代と同様に故障馬が続出したことに尽きる。トラブルが続いた理由も明白だ。いわゆる「レベルの高い」レースのオンパレードだったため、馬にかかる負担が尋常ではなかったのである。
 「レベルの高いレース」というのは、それほど頻繁にあるものではない。ところが、2013年世代のクラシック戦線は、本番のみならず目標に至るまでの過程でハイレベルの戦いだらけだったのである。それは、トライアルや重賞のみならず、条件戦(500万下=現1勝クラス)にも及んでいた。
 その延長線上にあったクラシック第一弾の皐月賞が、馬にとって負担の大きい、過酷なレースとなってしまったのも当然であろう。
 問題の皐月賞は、リスペクトアースの逃げで始まった。そこに、外枠(16番枠)から飛び出したリオンディーズが絡んでゆく。当然ペースは上がり、前半の1000メートルが58秒4の速い流れとなった。しかも、リオンディーズは暴走ぎみで3コーナー手前の地点でリスペクトアースを交わして先頭に立つ。これは、鞍上のミルコ・デムーロ騎手にペースを読み誤ったところがあったのも関係しているのだろうが、本来マイラーではないリオンディーズが朝日杯フューチュリティステークス(GI)に勝ったことで、マイルの速い流れに適応してしまったことが大きかったと思われる。実際、前走の弥生賞でも強引な早仕掛けの競馬をしたため、ゴール寸前でマカヒキにつかまってしまうということがあったのだ。
 最後の直線は、早めに先頭に立ったリオンディーズを巡る攻防となった。好位追走のエアスピネル、マウントロブソン、中団待機のサトノダイヤモンド、外からまくって出たナムラシングンらがリオンディーズめがけて一斉に襲い掛かってきたのだ。そんななか、後方に位置していたディーマジェスティが外を回って迫ってきて、あっという間にすべてを交わし去る。同じく後方待機のマカヒキも突っ込んできたが、すでに時遅しの2着までだった。勝ち時計の1分57秒9はレースレコード(翌年、アルアインが0秒1更新)。かなりレベルの高い一戦だったといっていだろう。

https://www.photo-ac.com/

過酷なクラシック戦線のツケを払わされた“マカヒキ世代”

 ハイレベルの皐月賞が成立した“立役者”は、リオンディーズではあるまいか。終始無謀なレースをしたせいで、過酷な流れを作ってしまったのだから。ちなみに、鞍上のM・デムーロは弥生賞&皐月賞の強引さを反省したのか、ダービーでは一転して待機策に出る。ところが、今度は後ろにいすぎるという愚策を犯し、最速の上り(あがり)で突っ込んできたものの、5着止まりに終わってしまった。
 ともあれ、2013年生まれの強豪たちは、後に過酷なクラシック戦線のツケを払わされることになった。ダービー直後に屈腱炎を発症し、早々と引退に追い込まれたリオンディーズを皮切りに、本来の力を発揮できなくなった馬が続出したのである。
 皐月賞馬ディーマジェスティは、クラシック戦線での頑張りが響き、4歳の天皇賞(春)を最後に引退した。ダービー馬マカヒキは、クラシック戦線のみならずタフな凱旋門賞で惨敗したことで能力が削がれてか、長い低迷を余儀なくされてしまった。菊花賞馬サトノダイヤモンドは同年の有馬記念を制し、その後の王道路線を引っ張ってゆくかと見られていたが、もともと脚に爆弾を抱えていたこともあり、阪神大賞典1着、天皇賞(春)3着のあと、本来の能力を出すことができなくなっている。ダービー6着で東京スポーツ杯2歳ステークス、毎日杯、京都新聞杯を勝ったスマートオーディンは故障のためダービー後2年もの休養生活に入り、復活後はかつての輝きを取り戻すことができなかった。3連勝で若葉ステークスを制したアドマイヤダイオウに至っては、すでに皐月賞時に体調を崩して9着に惨敗したばかりか、その直後に2年3か月の長期休養を強いられ、戦線復帰したもののわずか1戦で引退に追い込まれたほどである。
 ハイレベルなクラシック戦線を戦い抜いた代償は、あまりにも大きすぎたといわねばならない。
 

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“お宝”は記憶の中にある!
👇珍宝堂井鶴斎先生の今年の皐月賞の予想は……


◎ジャスティンミラノ

○シンエンペラー
▲アーバンシック
 
さて、2024年の牡馬クラシックの第1弾、皐月賞。今年のクラシック戦線は近年稀にみる低レベル。前哨戦となる共同通信杯(GIII、東京芝1800メートル)やスプリングステークス(GII、中山芝1800メートル)など、勝ち馬が本当に強いのかどうか判断しにくい状況でまったくお手上げです。
注目は牝馬で暮れのホープフルステークス(2歳GI、中山芝2000メートル)を勝ったレガレイラが参戦すること。勝てば76年ぶり、史上3頭目の快挙だが……。
(珍宝堂井鶴斎)




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