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コスパ最強列伝! 価格“ゼロ円”の名スプリンター、サクラバクシンオー

 “億越え”の値段をつける馬が珍しくなくなった昨今だが、安い馬がチャンピオン級にのぼり詰める「下剋上」は、競馬ファンにとって痛快な出来事といえるだろう。古い話になるが、日本馬として初めてGIジャパンカップを制したカツラギエースなどは710万円の安馬であった。
   ライバル対決で話題になったテイエムオペラオーとメイショウドトウは、1050万円に500万円とずいぶん格安だし、2冠馬メイショウサムソンは1000万円の大台を切る700万円。GI 6勝のモーリスも1050万円に過ぎず、これらはコスパ的に極めて優秀といわねばならない。
では、競馬史上最も値段が安かった「大物」は何なのだろう?

社台ファームからの“補填”だった!?
 

 それは、チャンピオン・スプリンターの座にのぼり詰めたサクラバクシンオーに他ならない。価格はなんと“0円”! 「タダ」だったのである。
 サクラバクシンオーの血統はサクラユタカオー×サクラハゴロモというもの。サクラユタカオーは活躍種牡馬だし、サクラハゴロモは昭和のチャンピオン、アンバーシャダイの全妹という良血。背景を考えれば、バカ高い値段であっても不思議ない馬なのである。では、どうしてそんな価格設定になってしまったのか?
 当時、「サクラ」のオーナーは名物馬主で有名な全演植氏(故人)であった。「サクラ」と言えば、静内の谷岡牧場を基盤にしていたことで知られていたが、社台ファーム(当時は先代の吉田善哉氏が存命で、社台ファーム、ノーザンファーム、追分ファームに分かれる前)、シンボリ牧場、藤原牧場などからも購入するケースも見られた。
 で、藤原牧場生産馬からはサクラシンゲキ、サクラユタカオー、サクラスターオーらをはじめとする多くの活躍馬を輩出していたのだが、社台ファームから買った馬はサクラサニーオーが活躍した程度で、結果を出せない馬がかなり多かったのである。それを心苦しく感じていた社台ファーム側が、「サクラハゴロモにサクラユタカオーをつけた牡馬が生まれたので、それを無料で差し上げましょう」と申し出たというのだ。いわゆる“補填”のようなもので、結果、「無料の馬」ということになったわけである(注:一説にはリース契約だった、という話もある)。
 3歳(注:当時は4歳と表記されていた。ここでは現状の表記で統一する)から4歳半ばくらいまでのサクラバクシンオーは、二流。良くて一流半程度の存在であった。スプリングステークスの惨敗で距離の壁にブチ当たってクラシック路線を断念したうえ、マイル路線でも今一つだったのである。3歳時に重賞のクリスタルカップに勝ったのが目立ったくらいだった。サクラユタカオー産駒によく見られる腰の甘さがネックとなり、本格化が遅れていたのである。

4歳秋、覚醒のとき


https://www.photo-ac.com/

 サクラバクシンオーが覚醒したのは4歳秋のことだった。1993年11月のオープン特別(1400メートル戦)に楽勝すると、スプリンターズステークス(当時は12月半ば)で、安田記念馬のヤマニンゼファー以下に2馬身半差をつける圧勝劇を演じたのである。まさに、ここからチャンピオン・スプリンターとしての快進撃が始まったのだ。
 1200メートルだった頃のダービー卿チャレンジトロフィー、スワンステークスに勝ったほか、適距離とは言えない安田記念(4着)や毎日王冠(4着)、マイルチャンピオンシップ(2着)などでも好走し、存在感を示したのである。大団円は引退レースとなる1994年のスプリンターズSであった。
まさに堂々の横綱相撲というほかはなかった。道中3、4番手の好位で追走し直線でスパートをかけると、あとは後続を引き離すばかり。先頭でゴールを迎えた時は、2着のビコーペガサス以下に4馬身もの差をつけていたのである。
 スプリント路線の頂点に君臨したサクラバクシンオー。1200メートル戦に限れば8戦7勝(ダート戦の新馬を含む)の好成績で、唯一勝てなかったのは本格化前だった3歳時のスプリンターズS(6着)だけしかない。
さて、今年の秋のGIシリーズ初戦のスプリンターズステークスでは、どんな馬が、どんな“激走”シーンを魅せてくれるのだろうか。楽しみである。                         (珍宝堂井鶴斎)

スプリンターズステークスの予想


https://www.photo-ac.com/

“お宝”は記憶の中にある!
珍宝堂井鶴斎先生の今年のスプリンターズステークスの予想はこちら ►
 
◎トウシンマカオ
〇ナムラクレア
▲メイケイエール

 
◎本命は、トウシンマカオ。混戦のスプリント戦線で思い出されるのは、8番人気のナランフレグが勝った高松宮記念(GI、2022年3月 中京)。後方一気が、まさに“ハマった”レースだった。舞台が中山競馬場ということもあり、さすがに後方一気は難しいが、中団により前でレースが運べて、差し脚を伸ばせれば、出番があるはず。
○対抗は前走キーランドカップ(GIII、札幌)で優勝。トウシンマカオ(3着)に先着したナムラクレア。▲単穴は、メイケイエール。気性の悪さが災いして、GIでは勝てないレースが続いているが、2歳のころから、スピードは“ピカイチ”! 当日、落ち着いていれば、その爆発力で悲願のGI奪取を叶える。
いざ、勝負!


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