シナリオ『 だから君はここにいる』


人物

白河柚葉・しらかわゆずは(20)大学生 

南条陽太・なんじょうようた(20)大学生・柚葉の幼馴染

伊原亜弓・いはらあゆみ(20)大学生・柚葉の友達

若月公輝・わかつきこうき(20)大学生

女性アイドル

男子学生A

メイド

食堂のおばちゃん


〇城修大学・校門前

    『城修大学学園祭』の華やかなアーチがかかっている。

    笑顔でキャンパスに入っていく学生たち。


〇同・体育館・外観

   入口に『学園祭LIVEステージ』のプレート。


〇同・体育館内

   女性アイドルのライブが行われている。

   客席の前方はハッピ姿でペンライトをふるファンたちで盛り上がって

   いる。


〇同・教室内

   メイドカフェ仕様になっている室内。

   客席に座っている男子学生Aの元に、メイド服の女子学生がオムラ

   イスを運んで来る。


〇同・中央広場

   ランドマークになっている時計台があり、時刻は11時半を指して 

   いる。

   行きかう学生たちの中に、胸元とショーパンにニーソで絶対領域を大

   胆に露出したひときわ目立つ格好の白河柚葉(20)とタブレットを持っ

   た伊原亜弓(20)が仁王立ちしている。

   そこに南条陽太(20)がやってくる。

陽太「柚葉、それに亜弓さんも何やってんだ?」

柚葉「陽太。ラッキーじゃん。君は歴史の目撃者になる」

陽太「はあ?」

亜弓「柚葉はこれから、あの難攻不落の王子に告白するのです」

陽太「エッ⁉」

   亜弓、タブレットを操作して陽太に見せる。

   そこに写ってるのはイケメンの若月公輝(20)。

亜弓「繁華街を歩くと、3分に1回は逆ナンされるかスカウトされるかです

 が、鉄壁のガードで、今まで一度も落ちたことありません」

陽太「ああ、若月か…変わり者って噂もあるけどな。…で、柚葉。こんなの

 が好みなのか?」

柚葉「何言ってんの。この超絶美少女のあたしに釣り合うのは、あの王子位

 のもんでしょ」

   セクシーポーズをとる柚葉。

陽太「…まーどーでもいいけどな。こんな目立つところで告んのか?」

柚葉「もち。大学祭のサイコーの出し物として後世に語り継がれるから」

陽太「で、その王子様を呼び出したってわけか?」

柚葉「呼んでない…だって連絡先知らないし」

陽太「はあ?」

亜弓「王子は毎日12時を告げるときに、あの時計台の下で祈りを捧げるのを

 日課としています。学園祭の間も、例外じゃないでしょう」

陽太「要は、変わり者同士ってわけだ」


〇同・体育館内

   LIVEが続いている。

アイドル「みんなー!あたしのこと好き?」

   盛り上がるファンたち。


〇同・メイドカフェ教室内

   男子学生Aの横にメイド服の女子学生が立ち、

メイド「ご主人様召し上がれ」

   男子学生Aがオムライスをスプーンで崩す。

   オムライスの中を見て驚く男子学生A。


〇同・中央広場

   時計台は11時55分を指している。

   若月公輝(20)がやってきて、時計台の下に立つと、そのイケメンぶり

   を、うっとりと見つめる女子学生たち。

   柚葉、若月に向かって歩いていこうとする。

陽太「柚葉、待て」

柚葉「何?邪魔しないで」

陽太「ずれてるぞ」

   陽太の視線の先、柚葉のニーソが片方下がっている。

   気づいて直す柚葉。

柚葉「スケベ。こんなとこ見てんだ」


〇同・体育館内

   ステージ上で叫ぶアイドル。

アイドル「あたしも、みんなのことがー!」

   「ウオー」と盛り上がる客席。

アイドル「す!」


〇同・メイドカフェ教室内

   解凍が中途半端で中身が凍ってるオムライスを目の当たりにしてスプ

   ーンが止まる男子学生A。

メイド「ご主人様、どうしたの?オムライス嫌い?」

男子学生A「い、いや、そんなことないよ。す…」


〇同・中央広場

   時刻は11時59分を指している。

   若月の前に立つ柚葉。

   その光景を固唾をのんで見つめる陽太、亜弓や学生たち。

若月「誰かな?これからお祈りなんだ。邪魔しないでくれる」

柚葉「あ、あたし、白河柚葉。ま、前からあなたのことが、す…」

   時計台が12時を告げる。


〇同・体育館内

   マイクを手に、言葉が出てこないアイドル。

   静まり返る客席。

アイドル「あ、あたし、何を…」


〇同・メイドカフェ教室内

   固まっている男子学生Aとそれを不審に見るメイド。

メイド「す…何?」

男子学生A「す…なんだろ?」


〇同・中央広場

   祈りを捧げている若月。

   その前でうなだれている柚葉。

   ざわついている学生たち。


〇同・学食内客席

   セルフサービス式の学食である。

   テーブルに突っ伏している柚葉。

   それを心配そうに見ている陽太と亜弓。

   亜弓、タブレットを操作して、

亜弓「柚葉だけじゃないみたいです」

陽太「何が?」

亜弓「SNSで色々上がってます。惰性で妻に毎日言ってた言葉が突然言え

 なくなったとか。企業でも自社商品のステマが出来なくなったとか」

陽太「ふーん。ま、世界からなんかの言葉が消えたってのか?ま、俺は別に

 困んねーけど」

   柚葉、突然顔を上げる。

柚葉「そっか!これはチャンスだ」

亜弓「柚葉?」

柚葉「世界中の人々が伝えられずに困ってる。それをあたしが成し遂げれば

 まさに歴史に名を刻む快挙」

陽太「前向きだねー」

亜弓「策はありますか?」

   腕を組んで思案顔の柚葉。

陽太「お、あいつ来たぜ」

   食堂に入ってきて注文口に並ぶ若月。

柚葉「これだ!」

亜弓「何?」

柚葉「彼と同じものを食べる。あたしの気持ちが伝わる筈」

   ダッシュで若月の元に行く柚葉。

陽太「そんなことで伝わんのか?」

亜弓「効果は期待出来ます。今まで王子と同じものを完食できた方はあたし

 の調査では誰もいません」

陽太「なんだ?とんでもない大食いなのか?」

亜弓「いえ…そういうわけでは」

陽太「まあいいや。俺たちもお昼まだだし。なんか注文しよーぜ」


〇同・学食内注文口

   若月、食堂のおばちゃんに向かい、

若月「いつものをA定食で頂きたい」

おばちゃん「あいよ。王子スペシャルね」

   その後ろで並んで見ている柚葉、陽太、亜弓。

陽太「王子スペシャル?」

   おばちゃん、A定食のカツ丼とみそ汁とサラダのセットを全てミキサ

   -に放り込んでスイッチを入れる。

陽太「何だ?」

亜弓「あれが王子スペシャルです。究極の時短メニュー」

   回転するミキサー。

   おどろしい色になったドロドロの液体をミキサーからジョッキに移し

   若月に渡すおばちゃん。

陽太「ゲェ。不味そ」

若月「いつも手間かけて申し訳ない」

おばちゃん「ま、王子の頼みは断れないね」

   続いて柚葉もおばちゃんに、

柚葉「あの、あたしも彼と同じものを」

おばちゃん「はあ?」

若月「ほぉ」

陽太「まじか…」

おばちゃん「いいけど。残しちゃ駄目だからね」

   作り始めるおばちゃん。


〇同・学食内客席

   柚葉の前に王子スペシャル。

   陽太の前に普通のA定食、亜弓はパスタ。

   一つ隣のテーブルで一気に王子スペシャルを飲み干す若月。

若月「ふー。柚葉さん、だっけ?」

柚葉「は、はい!」

若月「君も僕と同じ考えかな?食事は栄養を摂れれば良い」

柚葉「も、もちろん!ゆっくり味わうなんて時間の無駄」

若月「君とは気が合いそうだ」

   若月、柚葉の肩にタッチして去っていく。

柚葉「やったあ!」

亜弓「で、柚葉、それ食べないと」

柚葉「う、うん…」

   柚葉おそるおそる口をつけるも一口で倒れこむ。

柚葉「ゲェーーーーー無理!駄目!やばすぎ!」

亜弓「残すと怒られます」

柚葉「うえーん」

   陽太、自分のA定食と王子スペシャルを交換する。

   柚葉、顔を上げてそれに気づき、

柚葉「エッ⁉」

陽太「食えよ。安心しろ、まだ口付けてない。こっちは俺が引き受ける」

柚葉「で、でも」

陽太「勘違いするな。用事思い出してさ。ゆっくり飯食ってる暇ねーんだ」

   陽太、一気に王子スペシャルを飲み干しす。

   唖然と見ている柚葉と亜弓。

陽太「じゃあ行くわ」

   陽太、吐きそうになる口元を押さえ、去る。

柚葉「マジで時間ないんだ…陽太も王子を狙ってんかと思った」

亜弓「勘違いするとこ、そこじゃないよね?」


〇街中

   休日の繁華街。

   行き交う人々にテッシュ配りをしているバイトの女子たちの姿。

   柚葉と亜弓が物陰に隠れてその様子を見ている。

柚葉「王子、マジで来るの?」

亜弓「あたしの調査によれば明日は3か月に一度の聖なる儀式。今日はその

 準備に奔走してるようなので」

陽太「うさんくせー」

   突然背後から現れた陽太に驚く柚葉と亜弓。

柚葉「陽太!なんで?」

亜弓「3日ぶりですね。お腹壊してたんですか?」

陽太「まあ、いいから。で、なんだよ聖なる儀式って」

亜弓「来ました」

   若月が現れ、バイト女子からテッシュを貰う。

   熱い目で若月を見つめるバイト女子。

   若月、手提げ袋にテッシュをしまう。

   柚葉、若月の元に走っていき、

柚葉「若月君!」

若月「柚葉さん?」

柚葉「何してんの?」

   柚葉、若月の手提げ袋を覗き込むと中には大量のテッシュ。

若月「明日の聖なる儀式のため、今日中に町で配られてるテッシュを108個

 集めなきゃいけないんだ」

柚葉「108個…」

若月「それも全部違う種類の奴。いま30個位かな」

柚葉「た、大変ですね」

若月「あぁ」

柚葉「あの、良かったら、手伝います?」

若月「エッ⁉」

柚葉「それとも、他人の手を借りたらまずいとか?」

   その様子を隠れて見ている陽太と亜弓。

陽太「テッシュ集めてどうするんだ?」

亜弓「さあ?そこまでは」


〇道

   歩いている柚葉と陽太と亜弓。

   柚葉の手には若月が持っていた手提げ袋。

柚葉「配られてるテッシュには妖気がたまっている。それを3か月に一度集

 めて浄化する…んだって」

陽太「意味わからん…あいつ、要は身持ち固いんじゃなくて、変わり者だか

 ら実はモテないんじゃ」

柚葉「陽太には関係ないし」

陽太「ま、そうだけどな」

亜弓「どうしますか柚葉?3人で手分けします?」

陽太「なんで俺が入ってんだ?」

柚葉「いい。これはあたしが彼から託されたの。あたし一人でやらなきゃ意

 味ない」

陽太「だからなんで、柚葉があいつに丸投げされてんだよ⁉」

柚葉「時間ないし」

   足早に去っていく柚葉。


〇別の繁華街(夕)

   ひたすら歩き続け、テッシュを貰う柚葉。

   手提げ袋の中は少し増えてる程度。

   スマホで時間を確認し、汗を拭って歩き出す柚葉。


〇駅前広場(夜)

   大時計が23時28分を指している。

   ベンチに座り、テッシュを数えている柚葉と亜弓。

柚葉「82、83…83かあ。もう無理ー」

   力尽きたようにベンチに倒れこむ柚葉。

亜弓「王子との待ち合わせ、23時50分でしたっけ?」

柚葉「もう終わったあ」

   横たわっている柚葉の体にばらまかれるテッシュの山。

柚葉「痛あい!何⁉」

   体を起こす柚葉。

   テッシュをまいた陽太が立っている。

亜弓「これは?」

陽太「時間ないんだろ。手分けして違う種類のもの108つ見つけようぜ」

柚葉「陽太…」

陽太「勘違いするな。たまたまテッシュ配ってる道を歩いただけだ」


〇同・大時計の下(夜)

   手提げ袋を若月に渡している柚葉。

   それを離れた場所で見ている陽太と亜弓。


〇同・陽太と亜弓がいる場所(夜)

   柚葉と若月を見ている陽太と亜弓。

陽太「これで柚葉の気持ち伝わんのかよ」

亜弓「陽太君の気持ちはどうなんですか?」

陽太「何?」

亜弓「苦労したでしょ。テッシュ集め」

陽太「どうってことねーよ。柚葉とは腐れ縁だ。なんか慣れた…」

   去っていく陽太。


〇駅前から続く道

   歩いている陽太。

柚葉の声「待って陽太!」

   陽太、立ち止まり振り向くと、柚葉が駆け寄って来る。

   陽太の前で立ち止まり、息を切らす柚葉。

陽太「何だよ。王子様に柚葉の気持ち伝わったのかよ」

   柚葉、呼吸を整えて、

柚葉「ううん。大失敗」

陽太「そっか。苦労したのにな」

柚葉「でも…それは当然だった」

陽太「?」

柚葉「あたし、やっと分かった。なんで王子に肝心なこと言えなくなったの

 か…だってそれは、ホントの気持ちじゃなかったから」

陽太「…」

柚葉「陽太、ありがとう。いつもあたしのこと見守ってくれて」

   大時計が0時を告げる。

   柚葉の口元、『すき』の形に動く。



   





   



 


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