まるで『笑顔の神様』のような

 今日は一限の講義があったので午前五時に起きた。すると一緒に起きた母のスマホが鳴り出して、「こんな朝早くから何だ」と思った母は敢えて出ずに留守電を残させた。電話は親戚のおじさんからだった。

「おばあちゃんが亡くなりました。また連絡します」

 元々寿命が近いという話を受けていたので覚悟を決めていたことではあったが、それでもいざ”居なくなってしまう”と言葉が出なくなる。とりあえず準備を済ませて学校に向かい、講義が終わったお昼過ぎに遺体安置所へ向かった。

 眠っているおばあちゃんは今にも起き上がってきそうなぐらい綺麗だったが、鼻に手を近付けると勿論息はしていない。体も少しだけ白くなってはいるが、まだ完全に固まっているわけではなかった。「ただ中身だけが無くなってしまったような様子」。まさにその言葉の通りだった。
 おばあちゃんのことだから、冗談を言いながら起き上がってきそうなぐらい安らかな顔をしていて、正直実感が湧かなかった。
 コロナの影響もあり、葬儀は少人数の身内のみで行われるらしく、うちからは母だけが参加することになっているため、今日が最期のお別れだった。

 遺体安置所から帰る直前に目を瞑って合掌をした。俺は今までおばあちゃんが入院している病院に何度か顔を出しに行ったことがある。その度に俺は「また来るね」と言っていたが、今日だけは「バイバイ、おばあちゃん」と声をかけた。その瞬間、これが最期なんだなとようやく実感した。俺の目は多分少しだけ赤かったと思う。


 その後、家族と合流して車で帰った。その帰り道では何だかずっと笑っていた気がする。自分で言うのもアレだが、うちは笑いの絶えない家族だと思っている。でもこの帰り道だけは、いつもより笑いが大きかった気がしたのだ。
 そこでふと、小さい頃におばあちゃんがいつも面白い話を聞かせてくれて楽しかった時間のことを思い出した。隣に座っていた母に「おばあちゃん、見てんのかな」と尋ねると、「多分見てるよ、その辺で」と天井を指差して笑った。そして続けてこう言う。

「多分あれじゃない? 背後霊としてこれからも居るんだと思うよ」
「それって”憑いてる”方じゃない? それを言うなら、背後霊じゃなくて守護霊じゃねーの?」
「ああ、そっか。確かにそうだね」

 車の中で、また大きな笑いが起きた。

 確かにおばあちゃんは見てくれているんだな。はっきりとそう思った。