あべこべの部屋

夢を見た。

そこは遊園地のような場所。

みんな楽しそう。
たくさんの人が笑顔で行き交う。

いろんなアトラクションがあって、
大人も子供も楽しんでいる。

しばらく楽しんだ後

螺旋階段をおりた。


階下におりると、古ぼけた店。

店員はみんな無愛想。

早く帰って欲しいらしい、私たちに。

店は古ぼけているのに
素敵な商品が陳列してある。
物たちはみんな光を放っているかのようだ。

赤と黒のスカーフ、ベージュと黒のスカーフ。
どれも2色セットで置いてある。



階段は降りたらすぐに壊れてしまい、
もう戻れなくなってる。

この部屋から出るためには、ミッションがあるらしい。

部屋の中にはいろんなおもちゃが並んでいて、
それを全部バラバラにして倒さないと出られないらしい。

しかし、何回倒しても、
何回繋がりをバラバラにしても、
みんなでいつの間にか連結して
また元通りに立ち上がっている。

私のまた会いたいよって気持ちが伝わちゃってるんだ。

倒しても倒しても
すぐにくっついて立ち上がるおもちゃたち。

店員たちは言う。

「早く帰って欲しいんだよ。
もう時間は終わりだよ。」

でもどうやっても帰れない。

この部屋から出ることができない。

知っている人たちが、
ふわっと空中に浮かんでくる。

「ねぇねぇ戻れないんだよ」って話しかけると、
その人はパッとおもちゃに変わって
ふっと空に消えていく。


そうこうするうちに
突然気づいた。

その部屋の物たちに
心の中で言っていたこと。

「大好きだよ。
また会いたいよ。」

だからみんな立ち上がってきて
元通りに整列するんだね。

私は言った。
精一杯の笑顔で、
大きく両手を広げて。

「みんな大嫌い。
みんな大嫌いだよ。」

繰り返すと
おもちゃたちはみんな崩れていった。

連結し、壁に立ち上がっていたおもちゃは
連結が外れ
一つ一つ崩れていく。

壁にかかっていたタペストリーは、
「大嫌いだよ。みんな大嫌いだよ。」
と何回も聞かせると、
はらはらと床に落ちた。

さぁ、この部屋を出る時だ。

店員が言った。
「静かに素早く出な。」


私は
素早く
そして静かに
部屋を出た。

マホガニー色のドアを開けると
そこには当たり前の日常が広がっていた。

私に気づかないで談笑するカップル。
楽しく駆け回る子供たち。

日常に出て気がついた。

あれはあべこべの部屋だったんだ。

帰りたいって言えば帰してくれない。

出たいと言えば出してくれない。


だからいくら倒してもみんな立ち上がってきたのだ。

あの部屋のミッションは部屋から出ることだった。


ほんとにそうだったのかな。

本当はあの部屋が楽しくて、
もっといたかったのじゃないのかな、とも思う。


でも気づいた。


いつでも戻れるんだ。
螺旋階段を降りたらそこへ。

大きく手を広げて、「大好きだよ」って言ったらいい。

もし出たくなかったら言えばいいんだ
「大好きだよ」って。

何回でも繰り返す。

いつでも帰れるんだ。


またいつかあの部屋に行こう。


そう思った。

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