対面長期人狼計画「人狼尋常会SOTF」について

 どうも、こんばんは。オオツカ@人狼尋常会です。九州の隅っこで、ちいさな人狼会を毎月1回、かれこれ2年ほどやっています。
 今回は、これまで昨年4月と今年1月の2回開催された対面長期人狼計画「人狼尋常会SOTF」について、感じたことや考えたことを少しまとめておこうと思います。



1「対面長期人狼」とは

 対面長期人狼とは、読んで字のごとく人狼BBSなどで行われる長期人狼と対面人狼を融合させたものです。
 基本的な形式は対面人狼ですが、ゲーム内の1日を現実の1日とリンクさせて進行する、という点が長期人狼との共通点です。たとえば、1月12日に初日の議論と投票~処刑を行ったら、その日はいったん解散します。翌13日に生存者が再び集合し、2日目の議論を始めます。これを決着が付くまで繰り返すわけです。1回目は9人村(人狼勝利)、2回目は10人村(人間勝利)で行ったので、生存者とGMは最大4~5日連続で集合することになります。
 
初日と2日目の議論時間は1時間で、3日目以降は議論時間を15分~20分ずつ減らしていきます。通常の対面人狼で1ゲーム終わるくらいの時間を、初日と二日目に費やすのも特徴です。また、参加者が全員Twitterのアカウントを持っていることを利用して、#人狼尋常会SOTF のハッシュタグ付きツイートで議論時間以外も推理や感想を述べることができます(ただし、ツイートはあくまでも「ひとりごと」の体裁なので、他参加者へのリプライや引用ツイートは禁止としています)。他参加者のツイートも、もちろん推理の材料となります。
 議論時間が非常に長いこと、議論時間以外も推理を進められること、他参加者のツイートも参考にできることなど、考える時間の多さは長期人狼並みである一方、実際の議論や投票(ちなみに、投票はアルティメット式の自由投票です)は対面人狼そのものとなっています。



2 対面長期人狼の長所

 通常の対面人狼では、盤面整理や推理の速い人、限られた時間の中で情報を整理し、自分の言いたいことを的確に伝え、場合によっては議論の流れをねじ曲げながら、自分の思うように議論の方向性を定めることのできる人が一般的に強い、とされます。対面人狼における強さは、限られた時間(言い方を替えれば、時間の短さ)を自身の武器として有効に使えるかどうか、で測られる一面があります。
 しかし、対面長期人狼のように長い時間を取って議論をすると、他人の発言をメモしながら丁寧に自分のグレースケールを作りながら推理を進める、ということを参加者が全員きっちりできるようになるため、対面人狼の「強さ」の個人差が薄まります。また、時間がないことが原因で発言するタイミングを逃すこともなくなるので、参加者は出てきた情報を十分に吟味し、自分の考えを確実に伝えることができるようになります。そうすると、十分に推理が深まらないまま他人の誘導に乗せられやすくなる、ということが少なくなり、自分の見解をそれなりの根拠を持って語れるようになるので、村人側は簡単にはブレなくなります。
 一方、人狼側には、議論の流れをしっかり見定めながら状況に応じて的確な発言を続けていくことが求められます。通常の対面人狼以上に、人狼側には「勝つためのストーリー作り」が求めらます。議論時間の長さは一見人狼側にとって不利に働くようにも思えますが、時間をかけて説得力のあるストーリーを提示することができれば、人狼側の圧勝もあり得ます。
 「いつも時間が足りなくて、上手く喋れなかったり考えがまとめられなかったりする」「人狼を引いても、今日の吊り回避に精一杯で、勝ち筋まで考えて行動できない」「何となく人狼側の誘導に乗せられて負けてしまいがち」という人にこそ、対面長期人狼という形式は向いています。そういったタイプの人が、丁寧に推理を積み重ねることで輝けるという点は、対面長期人狼の大きな長所の一つだと思います。

 もう一つの長所は、投票や処刑の意味合いが通常の対面人狼と比べものにならないほど重くなる、ということです。
 対面長期人狼の形式では、1回のゲームに参加した十数名は、数日間に渡って同じ世界観と時間の流れを共有し、強く結びついた仲間になります。通常の対面人狼以上に「仲間の中から、疑わしい人物に投票し処刑しなければならない。処刑されるのは、あるいは襲撃を受けて殺害されるのは、自分かもしれない」という思いが強くなります。だからこそ参加者は必死に推理し、他人の話に耳を傾け、真剣にゲームに向き合うことができるわけです。このことが、通常の対面人狼よりも遙かに大きな感情の振れ幅をもたらします。実際、1回目も2回目も、GMとして傍観者の立場で観戦していてさえ感動させられるような誠実な言葉のやりとり、真実そのものの表情、パッションという言葉ですら追いつかないほどの感情の発露が数多く見られました。
 「仲間の中に人狼がいる」という、人狼ゲームというものが本来持っているドラマティックな面、勝っても負けても得られるカタルシスが最大化されることは、対面長期人狼の大きな長所と言えるでしょう。



3 対面長期人狼の短所

 大きな短所がみっつあります。一つは、言うまでもないことですが参加者のスケジュール調整が大変。10人村なら最大で5日スケジュールを空けておいてください、生き残っている限りは毎日来てください、しかも初日に脱落する可能性があります、というわけなので、もう無茶苦茶です。酔狂としか言いようのないこのゲームに付き合って、日程を確保してくれるクレイジーなプレイヤー達がいなければもちろん開催できません。
 そして、これまた言うまでもないことですが場所の確保も大変。人狼尋常会では、常日頃より大分市内のカフェバー・中村屋さんに場所提供について多大なご理解とご協力を頂いているんですが、中村屋さんの存在があってこそ対面長期人狼が開催できたという面は非常に大きいです。

 もう一つの短所は、これは上に挙げた長所の二つ目と表裏一体の部分でもありますが、参加者の心理的負担が大きいというところ。対面長期人狼においては、議論時間以外の日中も、ある人は村人として、また別のある人は人狼として、まるでゲーム内の登場人物その人自身であるかのように考え続けることになるわけです。これは、ゲーム内の世界と現実世界の境界線が曖昧になってくる、ということでもあります。この状態が進むにつれて、考えることも議論や投票を行うこともキツくなってくる場合があります。
 実際、参加者のひとりからは「だんだん混乱してきた。本当に友達を処刑しているんじゃないか、みたいな錯覚を起こす時があった」と言われたりもしました。そのようなシチュエーションを作り出すことは対面長期人狼の一つのねらいである一方、これは参加者の心身に悪影響を及ぼす可能性もある、たいへん危険な状態でもあります。なので、特に処刑者や襲撃の犠牲者、そしてゲーム終了後の各参加者に対するGMのケアが不可欠です。
 また、通常の対面人狼以上に議論時間中に感情的な発言が多発する可能性もあり、ゲーム開始以前の段階でGM含む全参加者の間に一定以上の信頼関係が求められる、と言えるでしょう。幸い、過去2回の開催では議論時間中極度に不穏な流れになることはありませんでしたが、GMがクールダウンのため介入する準備を常にしておくことも必要です。
 人狼ゲームは、本質的に投票・処刑・襲撃による死という他害的な要素を含みます。対面長期人狼では、良くも悪くもそれらの面が大きく強調されるので、GMは負の側面が大きくならないようゲームを管理しなければなりません。また、GMはあくまでも傍観者としてゲームの外側に自らを置き、ゲームの中に「取り込まれないように」注意しなければなりません。これはGMにとってもかなり大きな負担となります。



4 それでも対面長期人狼をおすすめする

 長所も短所も非常に大きい対面長期人狼ですが、それでも過去2回のゲームは非常に充実した楽しいものになりました。
 ゲームと現実の境界線が定かでなくなりつつある中、そして推理や情報が出尽くして飽和してゆく中、参加者がプレッシャーに曝されつつ最終的に頼りにするのは「この人は信頼に足る人か」「この人は誠実に他者に向き合っているか」ということだったと思います。
 ギリギリの状況下で、議論や推理の強さを超えて、参加者は自分自身と他参加者の人間的な部分を見ながら、誰を信じ誰に投票するかを決めていました(実際に、1回目も2回目も、勝敗を分けたのは「誠実さ」でした)。「時間が足りなくて分からなかったから何となく投票する」は許されません。すべての参加者は、勇気を持って、他でもない自らの意思と責任で決断しなくてはなりません。自身の行動と決断がゲームの勝敗に直結する苦しさと楽しさは、非常に大きなものだと参加者の感想を聞いて強く感じました。
 何より、GMとして関わっていた自分自身がとても楽しかったです。初日は、誰にも欠けてほしくなかったので、これから処刑される人に遺言を促すのが辛かったし、襲撃を受けて殺害された人に「あなたは殺害されました」と通知するのも悲しいものがありました。けれども、そうした辛さや悲しさの先に、感動を与えてくれる物語が2回のゲームそれぞれにありました。まさに「今をおいて他にない、たった一つの物語」であったと思います。
 参加者の心理的なケアについて、過去2回で必ずしも十分でなかった面もありました。ゲームの管理について、改善を重ねていかなければいけない部分は多々ありますが、それでもこのゲーム形式を断続的にでも開催していきたい、と考えています。

 人狼ゲームの本質が露わになる対面長期人狼。開催するには多くのハードルがありますが、自分たち以外にもこれを試みる人たちがどこかで現れてくれるといいなあ、と考え、この文章を書いた次第です。


追記。
 対面長期人狼計画「人狼尋常会SOTF」を開催するにあたり、場所の提供その他多大なご協力を頂いた大分市内のカフェバー・中村屋さんは、自由でカオスな雰囲気と美味しいコーヒーが素敵なお店です(基本的にフードはありませんが、アルコールは昼間から出ます)。ぜひ、遊びに行ってみてくださいね。
中村屋(大分県大分市府内町1丁目6-41 広瀬ビル3F)
facebook https://www.facebook.com/nakamuraya2016/
Twitter https://twitter.com/Rnakamura_ya


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