第2回ショートショート人狼投稿作
こちらは今月開催された第2回に投稿した作品です。
第2回のお題は「祝」。やはりショートショートではない掌編ですが、よかったらどうぞ。
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「おめでとうの箱」
順平は困惑していた。
それはそうだろう、差出人不明の小包が急に届いたのだから。佐川の配達員は、差出人不明であることに何も触れないまま、一抱えほどの小包を靴入れの上に置いてそそくさと帰ってしまった。
玄関には、順平と小包、得体の知れない静けさが取り残されている。不可解で、そして不気味だ。
ごく一般的な佐川の白い段ボールで梱包された小包は、やたら厳重に布テープでぐるぐる巻きにされている。まるで、「開けてはいけない」と無言で伝えようとしているかのように。
しかし、これだけ念入りに梱包されていると、逆に開けたくなってくる。よくない。
順平は、そっと小包を手に取った。軽い。小包はほぼ中空で、スペーサーも入れていないようだ。雑な仕事と言わざるを得ない。
順平は、小包を軽く揺すってみた。ことことと音がする。小さな箱のようなものが一つだけ入っている、そんな音だ。
順平は、もう少し強く箱を揺すろうとした。
「開けてくれないのか?」
順平は、小包から送り状をぺりぺりと剥がし、スニーカーを履き、玄関のドアノブに手を掛けた。まだゴミ回収車には間に合う。
「開けてくれないのか?」
順平は、ぴたりと手を止めた。
お前はなんなんだ。どこから来た?
「俺は『おめでとうの箱』。お前の幸せを確定させるために送られてきた。おめでとう、お前は幸せになる。どこから来たかは秘密だ」
僕は病気になった覚えはない。
「それはそうだ。お前はオーケーだ。これは幻覚とか妄想とか、そういうのではない」
帰ってほしい。
「帰らない。箱だから、足がないんだ。お前は10億人の中から選ばれ、俺を開けて幸せになる権利を得た。これは、たいへん幸運かつ名誉なことだ」
ゴミ回収車がもうすぐ来ると思うんだ。
「話が通じない奴だと人に言われたことがないか? まあいい。この俺、『おめでとうの箱』にはお前の未来がすべて書かれている。幸福も不幸も、すべて」
ゴミ回収車がもうすぐ来ると思うんだ。
「お前はもうちょっと人の話を聞くことを覚えた方がいいと思う。いいか、この俺、『おめでとうの箱』が過去の類似例より圧倒的に優れているのは、不幸を回避する手段も記述されている点だ。つまり、俺の中身を読んでその通りにすれば、お前の幸せは本当に確定する。どうだ。開けない手はない」
僕は人の話を聞く奴なので、お前の話をきちんと検討する。検討した。そして、先のことが分かってもロクなことはない、という結論に今達した。僕はそれを幸せとは呼ばないし、僕はお前を開けない。
ただ、
「ただ?」
僕はひとりだ。たぶん、これからもずっと。
順平はスニーカーを脱ぎ、リビングに戻り、小包をとすんとテレビの横に置いた。
だから、話し相手にはなってもらおうか。
確かそんな風だったな、と順平は思い起こす。もう半世紀ほども前のこと。ぼろぼろになった小包は枕元に置かれている。
部屋は白く、静かで、空気は動かない。
「開けてくれないのか?」
今さら開けないよ。
「それで、お前の幸せは確定したか?」
分からない。まだ、分からない。先のことが分からない、それが重要だ。その質問は、僕が死ぬ間際にもう一度聞いてくれ。
「だから今聞いている。お前は、最後まで話が通じない奴だな。まあ、それはもういい」
僕が死んだら、お前はどうする。
「課長に怒られる」
おめでとう、ご愁傷さま。
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こっちはちゃんと書きました。なので「11月の幸福論」とは書いた時の年代が20年近く離れています。
第2回は明確に字数制限が設けられたので、なかなか範囲内に収めるのがむつかしかった。余白と余韻、繋がらない会話、そして天丼。それら自分の好みが反映されています。
何やらコントめいている、と思いながら書きました。こういうのが面白いと思っているし、割と普段の言動はこんな具合に近い気がする。それから、書き終わった後に気付きましたが、セリフをカギカッコで括らないやりかたは「辺境の老騎士」Web版の影響がある気がします。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
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