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サブスクの波に乗る前に埋もれてしまった名曲やアーティストを掘り起こしたい

この頃、同世代の仲間たちが
難しい時代を切り拓こうと
様々な演奏会の形を提案しているのを見て
刺激を受ける日々です。

時代に合ったスタイルといえば。

YouTubeで時々見かける

『●●年代R&Bmix』
『Japanese citypop selection』

といった、
チャンネル所有者=DJによる
縛りメドレーの動画。

最初
(え、それ違法じゃないの…)
と思ったんですが、
に載っているように
(誤りがあると怖いので各自ご覧ください)
権利関係のあれこれをクリアしていれば
違法どころか
どうも権利の所有者に収益が入るらしく。

いいシステムだなぁ〜と思いました。
我々の業界にも
うまい形で浸透しないものかなぁ…
(著作権使用料のかかるものでないと所有者に反映されないというのは立場によってはネックとなりますが)

ポップスの世界においても
各種サブスクサービスが普及する前に
廃盤になってしまっていたり
レコード会社との契約が切れたり等
サポートが終了してしまっている
アーティストに関しては
名曲(特にアルバム曲やc/w曲)が
発掘されることなく
埋もれてしまっていることも少なくなく
CD自体はあっても
インターネット上で聴けるのは
シングル曲とアルバムと同タイトルの曲のみ…

なんてこともザラ。

そこまで行かなくても
自分が課金していないサービスでのみ
配信されているアーティストからは
縁遠くなってしまうのは
なんとも寂しい現実ですよね。

そんな思いから今回は*凹が
ちゃんと目に留まって欲しいと願う
作品やアーティストを
全盤試聴ページを添えて
ご紹介していきます。


荘野ジュリ/36度5分

『36度5分』
というアルバムタイトルが
実に言い得て妙だと思わせるほどに
全曲にわたってインスゥルメンタルと
声の調和が心地良いアーティスト。

…やった事ないけどたぶんこの感覚は
アイソレーションタンクと似ているはず
(追記:リンクが上手く貼れてなかったのか
ワード丸々消えてた、、、)

身を預ける液体の温もりが
いつしか自分から発せられたものなのか
はたまた元から
液体自身の体温だったのか
その境目が分からなくなりやがて
己を取り巻くひとつの宇宙として
一体化する_

そんな魅力を感じる。

インストだけを聴いても飽きないぐらい
凝った音づくりをしているし
コード進行のアンニュイさのもつ色彩感は
世界観を彩る重要な手助けをしているのに
楽器でギチギチに埋められた
音の合間を縫うでもなく
かといって
全てがヴォーカルの都合に合わせた
予定調和的な伴奏のような
トラックでもないのがいい。

声のもつ倍音と体温に干渉しないのに
効果的に作用するように作られた楽曲は
ボサノヴァ風情を纏う曲調と
非常に親和性が高い。

だからこそ
どこか厭世的な冷めた哀しさを感じる言葉が
重力を感じさせぬまま
心にスッと入ってきて留まる。

歌詞だけを見ると
訴える胸の内は原始的に見えるのに
その危うさを残したまま
自分の内側に取り込める形にする手助けを
楽曲がしている。

そんな視点で是非歌詞にも
注目していただければ幸いです。
(近年では作詞センスを買われて
ソングライターとしても活動中)

曲調や厨二病的要素の見せ方は異なるけど
椎名林檎の3rdアルバム
中島美嘉の2ndアルバムあたりが
好きな人はきっと好きかと。

*凹的おすすめをピックアップするなら

Track03《アリジゴク》
Track04《負け犬の遠吠え》
Track09《ツギハギ》
Track12《うたかた》

あたりですかね。

名取香り/perfume

荘野ジュリの歌声が
トラックや楽曲の音色を担う
重要な素材だとしたら
名取香りの歌声は
声が満たす音の幅を理解した
シンプルで洗練された
都会的で硬い四つ打ちの
ハウスサウンドの狭間を自在に揺蕩う
ゆりかごのような存在だろうか。

柔らかな声質を活かした
言葉のビートセンスは
絹玉が転がるようなベルの音色や
リリカルに掻き鳴らされるギターとの
相性もいい。

言葉のアクセントと
音楽がつくるアクセントの
折り合いのつけ方は
クラシックの声楽家が
目指す方向性【*1】とは少し違うけど
この世界における最適解なのかなぁと。

バレエダンサー出身で
モデルとしても活動する傍ら
Spontaniaメンバーでもあり
(有名どころだとこれ※当時は未参加)
FreeTEMPO
参加アーティストでもあるという
振り幅も興味深い。

*凹的おすすめは
Track01《Player》
Track10《『For Isla Bonita』…素敵な島へ》
Track11《another truth》
Track13《I believe myself feat.WISE(featuring WISE)》

です。

好きだなと思ったら
JazztronikのGrand Blueとか
(Beauty Flowは日本語版もあるけど
このアルバムにあるIncognito版が好き…!)
Flat ThreeのSky Is The Limitあたりも
おすすめです。

【*1】クラシックの現代の声楽家は“マイクを通さない=身体を楽器として鳴らすこと”と“一度聴いただけでその言語が分かる人に正確に言葉が伝わるように歌う”ということに日々心血を注いでいるので、そういった観点からすれば言葉より音楽のリズム感が優先されて本来言葉が持つリズムやエネルギーが損なわれるような音の曖昧化はナンセンスではあるのですが、それだけが言語を伴う音楽表現の全てではないと*凹は捉えています。言葉を伝える意識を放棄するわけではないし、詞(詩)の内容伝わるということはそんなに単純な話だけではないとも思うので。それでもあらゆる全ての歌手が一度は言葉の立ち上がりのスピードやメリスマ的なパッセージにおける母音の処理について試行錯誤していることでしょう。

EMI MARIA/A Ballad of My Own


これまでの2人とは異なり、
トラック制作まで手掛ける
シンガーソングライターである彼女。

>楽曲はリズムやビートから先に決めて後からメロディを乗せるという邦楽には珍しい楽曲制作をしている

>同じ手順で制作すると同じような曲ができるため、違う順番で制作することもある


とWikipediaに書かれていますが、
彼女のルーツがそうさせるのかは
定かではないものの
音楽のグルーヴ感と
彼女の持つ言語感覚がきっと
同じところにあるのだろうなと
感じさせられるほどに
音楽が先行であることに違和感がなく。

そして何より心底惚れ惚れする
厚みのある低音からホイッスルボイスまで
変幻自在の歌唱力と恵まれた声質。

2〜3度生歌も聴いていますが
音源で聴くより生の方が
立ち上がりの音色の鋭さが際立っていました。
(マイクの種類にもよるのかも)

このアルバムと次に取り上げる
Angela Johnsonが
プロデューサーを務めアルバムを
聴いてもらえれば
*凹の楽曲の好みの標準値が
なんとなくお分かりいただけるかと。

そんなアルバムの*凹的おすすめは

Track01《Drive》
Track02《愛と夢のあいだで》
Track10《A Ballad of My Own》

あと違うアルバムですが
ミニアルバム《cross over》の
Track07に収録されている
Whitney Houstonの
《The Greatest Love Of All》
のカバーも
歌唱力を存分に堪能できるので
おすすめです↓


Angela Johnson/Woman's touch Vol.1※日本盤

本作はこれまで取り上げてきた
他のアルバムとは毛色が異なり
Angela Johnsonという
女性ミュージシャンが
錚々たるヴォーカリストを迎えた
コラボレーション盤。

Take 6のClaude Mcknight
元IncognitoのMaysa Leak etc.
参加ミュージシャンがとにかく豪華…!

Take 6というと
こんなフルアカペラアルバムを出すぐらい
ジャンル内外を問わず高い評価を受ける
コーラスグループだし


Incognitoというと
一時期のDJシーンでトラックリストに
入っていない事はないのではというほど
もてはやされた
《Don't You Worry 'Bout A Thing》
でおなじみ

そんな彼らを呼び集めた
Angela Johnsonが
いったい何者なのかというと

>幼少期からゴスペル・クワイアに参加し、4歳からピアノ、9歳からヴァイオリンをはじめた。10代の時には教会のオルガン奏者とクワイアの音楽ディレクターを務めていた。ニューヨーク州立バーチェイス大学に入学し、作曲理論を学ぶ。大学での最初の2年の専攻はヴァイオリンだった(Wikipedia)

スーパーエリートな才女すぎる…

ちなみに彼女は
作詞作曲やプロデュース業を行う傍ら
自身もまたシンガーであり
在学中から大学仲間らと
Cool's hot-boxというユニットを組んで
活動しています。


欧米の音楽大学はクラシックだけでなく
こういったミュージシャンを
育成する環境が整っていて
西欧諸国やロシア以上に
ボーダーレスな土壌だというのは
強く憧れますね…
機会があればいつか
教育機関を訪れてみたいです。

話がずいぶん逸れましたが
*凹的おすすめは

Track04《Here I Stand Feat. Claude McKnight(Take 6)》
Track06《More Than You Know Feat. Maysa Leak》
Track09《Get Away Feat. Gordon Chambers》
Track12《Wait On A Maybe Feat. Marlon Saunders/Lenora Jaye》

です。
他にもたくさんあるけど…!!

Cooly's hot-box/Take It

Angela Johnsonが参加するユニット
Cooly's hot-boxのアルバム。

共同制作者であるメンバーの
John Christian Urichは
キーボードやドラムを担当するだけでなく
Angelaと共にヴォーカルを務めていて
個々のスキルの高さもさることながら
セクシュアルを超越した歌声は
調和も歌い継ぎもシームレスで
声質を揃える合唱的なスキルと
適材適所に楽器を充てがうことのできる
オーケストレーション能力の
ハイブリッド的要素を兼ね備えている。

収録曲《Make Me Happy》は
Incognitoの《Don't You〜》と同じぐらい
リミックス盤で見かける楽曲のひとつ。


*凹的おすすめは

Track03《Over&Over》
Track06《14 hours》
Track07《Make Me Happy》
Track12《What A Surprise》

乙三/お気楽ムード

最後に
これまで取り上げてきたアーティストとは
ガラッと毛色の異なるバンドを。

7人のうち5人が音大出身でありながら
ストリートからメジャーデビューした
かなり異色のバンド『乙三(おっさん)』

先行シングル『百』のMVに
にしおかすみこさんが
出演しているという話題の記事が
このバンドを知るきっかけという
独特な入口なんですがそれはおいといて…


このバンドの魅力のひとつ、それは
ヴォーカル・大竹創作氏の声。
そのスモーキーな歌声はまるで
トランペットに
ハーマンミュート【*2】を
装着したような質感で、
コンチェルトでソリストだけが
ピッチを高くチューニングして
質感を変える事により
後ろのオケの弦楽器群に埋もれず
音が飛んでくるみたいに
ブラス隊に対して創作氏の声が

“異質の同族楽器”

のように響き、
バンドサウンドの隙間が
ビッチリ声で埋まるような声というより
ビリビリとした倍音を
多分に含む声色のおかげで
音のパーソナルスペースを保ちながら
その隙間があっても間が持つ
(事足りる)

そういう、単純ないい声とは
また違う色を持った声で歌われるから
楽曲が生きるのだと思う。

サザンにおける
桑田佳祐の歌声の重要さに
通ずるものを感じる。


歌われている内容も決して
はじめから格好のつく
ストーリーではないからこそ
より一層味になる。

乙三の楽曲の世界観は
おしなべて喜劇俳優の姿が浮かぶ。
一話完結型の短編映画のようで、
“アジアのチャップリン”こと
故・渥美清氏演じる
『フーテンの寅さん』がもし
平成の世に生まれていたとしたら
きっとこんな人生を
生きたんじゃないかなと思わせるような
物語が香る。

道化に徹する者の可笑しさと哀しさ。
『涙拭けよ』って手縫い投げたくなるような
完封負けの試合でもちゃんと傾ききる
美学と不器用さと憎めなさ。


乙三の作品に登場する主人公には
幸せでいて欲しいなって思いますね。

こういう音楽をつくる彼らも同様に。

***

このアルバム内のおすすめ…難しいな。

銀座ムード➡︎In the Mood とか
限りなくオヤジギャグに近い押韻だし
シャバダ姫のふざけ方(褒め言葉)なんて
タモリさんのアルバム聴いてるみたいで
大好物だったりするんですが
そういうのは一旦おいといて
(真骨頂だったりもするけど)


Track01《銀座ムード》
Track02《嗚咽》
Track03《二人の距離》
Track04《百》
Track11《陽炎》
Track16《火曜日》


あたりですかね。


いやぁしかし
ジャパニーズファンクなサウンドは
赤羽橋ファンク【*3】の誘惑を
断ち切れない*凹には
大好物でしかない…


…おっとこの話は長くなるので、
また別の機会に。

【*2】関係ないけどコーヒーの空き缶でつくる自作ミュートが滑稽な見た目に反して有能で笑っちゃいました。作り方はこちら
【*3】YouTubeで“赤羽橋”まで入力したら予測でファンクって出てくるぐらい界隈には浸透しているワード。事務所が赤羽橋にあったことが名称の由来なので事務所移転しちゃった今はほんとは西五反田ファンクなんだけど、所属してる人たち的にパブリックイメージを大幅に損ねる危険性しかないからやっぱり赤羽橋のままだなぁ。西五反田ファンクもそれはそれで聴いてみたいけど、そういうのはもっとアングラ界隈の方々の聖域な気がしますね。

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