secret ingredient ∩ unsung hero=⁇(*1)

こんにちは。*凹(ゆきぼこ)です。

まだ近しい人にはそこまでアナウンスできてないんですが、たまたま辿り着いて読んでくださる方もいて嬉しいです。
こんな鼻息荒いとっ散らかった文章を(笑)…ありがとうございます。

ひと息で読んでもらいたい厚みある文章ってなるとついPCで書いてしまいがちで、若干読者を置いてきぼりにしてしまう覚悟で長文を垂れ流すんですが、今日はサクッと読める長さを意識して、ちょっとスマホからの投稿にも挑戦してみようかなと。

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今回は、ベートーヴェン作曲・交響曲第5番、俗に『運命』と呼ばれる作品の第一楽章の有名な冒頭部分についてのお話を。

というかまず、チェリビダッケによるこの素晴らしい音源を聴いてください↓
セルジュ・チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団によるベートーヴェン作曲・交響曲第5番『運命』(CD情報および音源の試聴ページはこちら

全曲試聴こそできないので残念ですが、それでもこの第一楽章のトラック開始から楽音が鳴らされるまでの約7秒間の無音状態がつくる気迫の凄まじさたるや…!!

この楽章は4分の2拍子で、一番最初に書かれている音符が八分休符なんですが、思うにこの八分休符に掛かるエネルギー、ひいてはこの楽章全体やこの作品全体が持つ想念や覚悟を表すものとして休符までの時間を過ごしているのではないか、と私は思います。

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_『空間恐怖症』なるものがあるという。
日本の意匠や紋様に興味を持っていた頃に読んだ書籍で知った話で(残念ながら書名は失念)
同じ図柄の反復繰り返しによって空間への恐怖を紛らわせるという意味合いから紋様が生まれたと考えられているらしいのですが、
(私が読んだ文献はまた別のものでしたが、こんな興味深い記事が出てきたので是非ご一読を)
これは演奏や作曲という表現活動においても同じようなことが言える気がします。



“凄そう、やった感がある”


そんな見かけ上の充実感に騙されることなく、作曲家の意図した(あるいは未だ見ぬ演奏家の生理に見合った息遣いを超えた先にある)楽曲がもつ緊張感や、訴えかけるメッセージを誠実に読み取るには、実は休符やブレスに意識を向けることがとても大切なのです。

頭では分かっていても、
いざ本番を迎えたり、
紙とペンを持ち机に向かったりすると、
人間どうしても分相応以上に自分を良く見せようとしてしまいがちで、そうした結果起こりがちなのが、
目の前の作品に流れる息づかいをないがしろにしてしまうということ。

今は亡き作曲家たちの生前の生身の姿のリアリティを追求しないまま神聖化するのも作品の本質に触れようとすることの妨げとなりますが、
自分が目立つ道具としてしか考えずに作品を演奏することこそ作品や作曲家にたいする一番の冒涜だと思います。

もちろん、演奏家としての魅力を存分に引き立たせるための独奏曲は存在しますが、
それもただ曲芸に走るのではなく、
音楽的にどのような工夫がなされているのか、
作風や作曲当時の作曲家のおかれていた状況など、
あらゆる観点から楽曲を捉える視点が必要となります。

場合によっては作曲家が交わした書簡を探したり、
戯曲を読み込んだり、
ギリシャ神話について勉強してみたり、
それも原語でしか存在しない場合は翻訳しながら解読したり_

楽器や紙に向かう以外の時間というのは想像されるよりもきっとかなり多いんじゃないかと思われます。
地味な作業すぎてあまり広く知られることではないのかもしれませんが、
少なくとも一流と呼ばれる人たちは当たり前にこのようなことに取り組んでいます。

演奏一本で生活することはままならなくとも、日々のルーティンワークの合間でこのような学びを地道に続けられる人だけが、何かしらのチャンスを掴み取ることができるのだと思います。

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突然ですが、
ベートーヴェンの『運命』の冒頭部分に使われている楽器を貴方は全部挙げることができますか?
チェリビダッケの名演↑を参考に、是非お考えください。
正式な楽器名が分からなくても大丈夫です。
どうやって音を出す楽器か、どんな音がする楽器かが頭にあればOKです。
(このネタ、愛好家の方は既知の事実かもしれませんね)


















正解は…




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(譜例は*凹がfinale 26という楽譜作成ソフトで入力したものです)


なんと、弦楽器セクション(ヴァイオリンⅠ&Ⅱ・ヴィオラ・チェロ・コントラバス)に加えてクラリネットが2本とも(*2)参加しているのです‼︎

これ、弦楽器が弾いているというのは一度聴けばお分かりいただけるんじゃないかと思われますが、クラリネットが入ってるかどうかって、言われて相当意識して聞き取れるかどうかですよね?


これがオーケストレーションの妙なんですねー。
まさに隠し味。
カレーに味噌、味噌汁にケチャップと昆布茶入れるみたいな。

↑電子音源なので再現性が高いとは言えませんが、クラリネットがない場合とある場合の比較サンプルです。こうした倍音の妙こそ是非生で聴いていただきたい…‼︎

ご時世的に厳しいという方には冒頭でご紹介したチェリビダッケのCDが超おすすめです。
というかこの作品に限らず迷ったらとりあえずチェリビダッケ聴いてみてください。
それぐらい素晴らしい指揮者なんで。



(*1:記事のタイトルにあるsecret ingredientは『隠し味』unsung heroは『縁の下の力持ち』。つまりこの記事ではクラリネットのことを指しています。“歌わぬ英雄”=“縁の下の力持ち”ってなんか洒落てますよね…!)
(*2:この曲のように、木管楽器が2人ずつ配置された編成を二管編成といいます。二管編成におけるその他の楽器の人数については↓の表をどうぞ)

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