「数学科編入のために」用いた参考書

はじめに

 公開しているツイッターのDMや,メールで,勉強方法等についての本当にたくさんの問い合わせをいただいた。たくさんの人が読んでくれていて,素直に嬉しい気持ちだ。まだ読んでいない数学科編入志望は是非読んでいただけると嬉しい。

 いただいた問い合わせの中で圧倒的に多いのが,「どのような参考書を使えば良いのか」や「過去問特訓等の参考書の使い方」という質問である。(ちんちくりんの)私が,そのような内容についてアドバイスをするのは大変難しく,大変おこがましいような気もしている。しかし,読者にわざわざ私へ連絡させるのも何か違うような気もしている。(ちなみに,ちんちくりんは方言・家庭語だそう)

 ということで,参考書について当時を振り返りながら紹介していきたい。個人的な評価に過ぎないことをどうかご了承ください。あくまで個人の感想です。


総合演習本

    以下3つの総合演習本には、数学科で出題されるような難しい問題は一切ない。北大、東北大、九州大、筑波大以上の大学を狙うならば、ここの問題で突っかかってはいられない。


 編入数学徹底研究

 通称みどりの本。初学者にはとてもわかりやすい説明があり,ベクトル空間を理解する上では大いに役に立った。しかし,工学部の問題が圧倒的に多く,理学部の問題はほぼ無い。
 さらに,難しい問題は無いし,数学科に合格するための力には全くならないと思う。解法や,答案の書き方を学ぶなら,次の編入数学過去問特訓の方をおすすめする。


編入数学過去問特訓

 通称黄色い本。難易度はみどりの本よりは上。難易度によってA,B,Cと分けられている。こちらも,工学部の問題が圧倒的に多く,理学部の問題はほぼ無い。
 よく質問されるのが,「C問題をやった方が良いですか?」というもの。やった方が良いとは思うが,この本のC問題程度の難易度(おこがましい言い方)なら解けて当たり前といったところか。決して難しい問題は無い。私も最初はまったく解けませんでしたが。
 解答は素晴らしいクオリティである。答案の書き方を学ぶにはもってこいだと思う。そういった面では買って損はない。


徹底演習

 通称クリーム色の本。解答が雑。問題の難易度はあまり変わらず、そこまで難しくない。過去問特訓(黄色い本)と併せて使えば,より高い密度で学習することができると思うが、工学部の問題が圧倒的に多く,理学部の問題はほぼ無い。(´;ω;`)


微分積分学


数学III(高校教科書)

 数学IIIの教科書。ここに乗ってる公式等は全部証明を覚えた。もう忘れたが。覚えた意味があるかは不明。
 安定してわかりやすいのと,楕円や双曲線等の基本的な図形や,極限,複素数など,大学数学の前段階として基本的なことが学べる。これを見ながら,チャート等の問題集を駆使して完璧にすると良いだろう。ただし,微分積分の範囲はチャートを使わずに,下で紹介する問題集(微分積分I・II)を使った方が近道
 そういえば,sinx/x→1 (x→0)の証明が循環論法だとかそうじゃないとかで一盛り上がりしていた。興味がある方は調べてみるといいかもしれない。


微分積分(小池茂昭)(教科書)

 新品が3000円程度。元在籍校で使っていた教科書。東北大の教授が書かれたものらしい。高校のノリで勉強を始めようとしていた自分は,当たり前だが,この本によってボコボコにされた。
 そうは言いつつも,きちんとしているし,比較的解答も丁寧。演習のための本ではなく,定理や補題,系,命題,公式をひたすら証明していく本。入試問題でも出るような命題の証明も多く載っている(ex. 筑波大学の最終大問)。
 筆記試験,口頭試験を問わず,微積(解析学)で出てくる定義や定理を問われる問題は出る可能性があるので,こういった大学で取り扱うような教科書でいくらか学んでおくと良いだろう。なお,微分方程式は取り扱っていない(北大数学科では関係ない)。


新微分積分I・II(教科書)

 高専の教科書。Iは理系の大学1年前期で取り扱うような1変数関数の微積分,IIは1年後期で取り扱うような多変数関数の微積分についての教科書。
 所詮は工学部寄りの教科書であり,理学部数学科向けではない。しかし,ほんの一部,内容が不十分な箇所がありつつも,どんな大学の教科書よりも読みやすい。高校のノリで学んでいきたい人向けの教科書だ。
 これだけで学ぶのは不安がありすぎるので,大学教科書と組み合わせて使用することをおすすめする。あくまでこの教科書は導入のためのものと割り切った方が良い。ちなみに微分方程式も取り扱っている。

 さらに,いろいろ調べてみると,線形代数の教科書や,これら微分積分I・II,線形代数の演習書も同出版社同シリーズから出ているようだ。お金があったり,大学図書館に取り寄せが可能な人は試してみると良いかもしれない。


入門微分積分(教科書)

 北大の三宅先生が書かれた教科書。演習問題もいくらか載っている。薄くて軽い。ほぼ読んでいないが,工学部寄り。北大の1年生の理系はこれ使ってる人が多いらしい。
 読みやすく,しかし簡単すぎず,持ち運びやすい,といったところか。重要な部分も見やすいので,よく持ち運んでいた。持ち運ぶだけだったが。


微分積分I・II(参考書・演習書)

 演習のための本。高校でいうところの4STEP的なもの。Iは1変数関数の微積分,IIは多変数関数の微積分についての内容。東北大数学科の編入学試験問題で出たような置換積分の問題もある。
 解答は比較的丁寧で,何より公式の量がすごい。こんなんめんどくせーよ!って思うほど計算問題多数とりあえず1周はしておくと良いだろう。ただし,IIにある,包絡線についてのみは解く必要はあまりないと思う(同ページにある接平面や法線はやること)。


マセマ 微分積分(参考書)

 これ使うくらいなら高専の教科書で良いと思った。内容はかなり不十分だし,演習問題も易しすぎる。ほぼ必要ないと思う。これ一冊だけでは数学科に編入することは厳しいのではないだろうか。東大京大の天才ならいけるかもしれないが。


明解演習 微分積分(問題集)

難しいと言われる演習書。確かに難しい。数学科への編入を目指す人は大体これをこなしている(ただし嘘かもしれない)。あと重いし厚い。
 私は全てはこなしておらず,必要な部分のみ,これで演習を重ねた。かいつまむように使った方が良いと私は思う。


線形代数


ベクトル・行列・行列式 徹底演習(参考書・問題集)

 必ず買っておきたい,高校のノリで学べる参考書かつ問題集。初学者にとっては一部壁を感じるであろう部分もあるが,そういった部分は大学教授なり友達なりYahoo!知恵袋なりで質問すればよい。
 注意してほしいのは,ベクトル空間についての記述がほぼ無いことである。これだけで数学科は無理だと思ってくれて良い。必ず,まともな教科書とセットで使うこと。ベクトル空間については次の参考書も良いだろう。


線形空間論入門(参考書)

 ベクトル空間に特化した参考書。東北大数学科に編入された明松さんが書かれた本。私は何十回と読んだ
 教科書等では抽象的で理解しづらい,ベクトル空間についてわかりやすくまとめられている。第4章 線形空間 あたりまで読んでおけば問題ない。


線形代数学(教科書)

 当時在籍していた大学の,教授の研究室へ質問しに行ったときに,教授から頂いた教科書。ちょっとした思い出の品。大学の教授のもとには,教科書が大量に送りつけられてくるらしい(出版社が,大学に出版している本を教科書として採用してほしいのだろう)。
 至って標準的な教科書であり,その辺の大学で取り扱ってるものと大差はないが,定理の証明が丁寧である。演習量は少し少なめだが,線形代数で計算するときといえば,対角化や逆行列問題のときくらいなので,問題ない。
 軽いし,ちょっと薄めにしてくれてるしで,ずっと持ち運んでいた(これはちゃんと読んでいた)。


入門線形代数(教科書)

 北大の三宅先生が書かれた教科書。演習問題は割と多めに載っている。軽くて薄い。ほぼ読んでいないが,レイアウトがとても良くて読みやすい。軽いけど,持ち運んではいない。内容はやや軽めな印象。


マセマ 線形代数(参考書)

 内容は不十分かつ演習問題も簡単すぎると感じた。微積とほぼ同じ評価で,微妙。たとえるなら小中学校の教科書といったところか。わかりやすいが。


マセマ 演習 線形代数(問題集)

 上で紹介したマセマの線形代数は参考書で,こちらは問題集。とはいえ,今までのマセマへの評価と同じ。これが解けたところで数学科の問題には全く歯が立たない。内容こそ違うものの,小中学校の教科書の例題と同じくらいのレベル。


明解演習 線形代数(問題集)

 難しいと言われる演習書。確かに難しい。数学科への編入を目指す人は大体これをこなしている(ただし嘘かもしれない)。あと重いし厚い。
 私は全てはこなしておらず,必要な部分のみ,これで演習を重ねた。かいつまむように使った方が良いと私は思う。(微積と全く同じコメント)


さいごに

 以上が,私の使った参考書たちへの個人的な評価である。工学部への編入組が書いた参考書についての記事とは全く違ったかもしれない。
 マセマをはじめとした,「わかりやすい」と言われている参考書たちは良く売れている。それらが編入数学を乗り越えるために役立ったという人も多い。それは事実である。
 しかし,数学科への編入を志す以上,内容が不十分な参考書というのは命取りになりかねないのだ。
 もし,線形代数学の教科書を一切持っていなくて,ベクトル・行列・行列式徹底演習しか持っていなかったら。きっと,当日の試験でベクトル空間の点数は1点も取れなかっただろう。これを読んでいるあなたには,そんなことがあってほしくないのだ。
 まともな教科書を手に入れて,定義や定理を完璧にすることが一番の近道であり,加えて適切な参考書や問題集があれば文句なしといったところである。

 数学科の編入を志望するならば,工学部への編入とは異なるアプローチや勉強をすることが求められる。参考書選びもそのうちの一つである。数学科への編入の成功体験記事は少ない。限られた情報を「公理化・抽象化」して,適切な道を辿れるよう,祈っております。公理化が言いたかっただけなんだけれども。

 偉そうにつらつらと書いてしまった。不愉快にさせてしまったなら申し訳ない。
 でも私は、試験に合格して編入学を控えた今でさえ、もっと教科書を深く読み込んでいれば、もっと点を取れたかもしれないのにとずっと後悔している。自分の回答自体への悔しい気持ちが残り続けている。
 あなたには悔いのない受験ができるよう、頑張ってほしい。

 ご不明な点等ありましたら,ツイッターのDMかメールアドレス(hako0818@icloud.com)までお問合せ下さい。
 編入についての質問も24時間以内に反応します。どうぞ気軽に,聞きたいだけ聞いてください。


あなたも合格できたら嬉しいです。

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