過去11年の週刊少年チャンピオンの連載作品における主人公の男女比に関する調査

【はじめに】

 現在の週刊漫画雑誌において四大少年誌と呼ばれるジャンプ・サンデー・マガジン・チャンピオンはそれぞれに特徴を持った誌面を展開しています。
 私はその中でも週刊少年チャンピオンの読者なのですが、先日Twitter上のタイムラインに下のような内容のツイートが流れて来ました。

 各少年誌の女性へのイメージは…
  ・ジャンプ…女は空気かセックスシンボル
  ・サンデー…女は強い
  ・マガジン…女はアクセサリー
  ・チャンピオン…女?なにそれ食えるの?

 チャンピオンが「不良と暴力!」なイメージを持たれていることは知っていましたが、読者の感覚としては「少年誌だけど女性主人公の作品が結構多いよね〜」と思っていたので、このような見方は少し意外でした。
 そこで「週刊少年チャンピオンにおいて女性主人公の作品は本当に多いのか?」について検証してみました。

【資料と方法】
〔対象作品〕
 2004年〜2014年までの11年間に週刊少年チャンピオン本誌で連載開始された作品(短期集中連載も含む)。
 今回参照したのは 週チャンマニアクス様とWikipediaの週刊少年チャンピオン連載作品の一覧です。
〔主人公について〕
 《分類》
  ①男性
  ②女性
  ③動物など人間以外の生き物
  ④その他(オムニバス形式の作品 例:不安の種)
   の4つに分類しました
 《各作品における主人公の判定》
  ①タイトルに名前が含まれる、あるいはタイトルが示しているキャラ
   (例:ドカベン/刃牙道/無敵看板娘など)
  ②主人公は2人までとする

 以上の基準を元に作品数をカウントします。
  例として
  「思春鬼のふたり」
   男性主人公1作品、女性主人公1作品として重複してカウント。
  「TWO突風!」
   男性2人の主人公ですが男性主人公作品として1作品としてカウント。

【結果】
 2004年〜2014年までの11年間のチャンピオン本誌で連載開始された全作品数は181作品でした。このうち男性主人公は133作品(73.5%)、女性主人公は50作品(27.6%)、動物主人公、その他がそれぞれ5作品(2.8%)でした。
 年ごとの連載開始作品数の変化はFig.1の通りです。

 このうち短期集中連載作品を除くと全作品数は150作品。男性主人公は112作品(74.7%)、女性主人公は41作品(27.3%)、動物主人公は4作品(2.7%)、その他は5作品(3.3%)でした。各年の変化はFig.2の通り。

 短期集中連載の作品数は31作品で男性主人公は21作品(67.7%)、女性主人公作品は9作品(29.0%)、動物主人公は2作品(6.5%)でした。各年の変化はFig.3の通り。

【考察】
 ☆チャンピオンの女性主人公って本当に多いの?
 過去に倩様が1980年〜2013年の少年ジャンプ作品について同様の調査をしており、女性主人公の割合は全体の約7%でした。集計方法が異なるので直接の比較は出来ませんがチャンピオンの約30%はかなり高いと言えると思います。サンデーやマガジンに関してはデータがありませんが、現行作品(2015年1月現在)ではサンデーはチャンピオンとほぼ同等マガジンはやや少ないように思います。

☆なぜチャンピオンは女性主人公が多いのか?
 チャンピオンの女性主人公の歴史を探ると創刊2年目の1970年には手塚治虫先生が「やけっぱちのマリア」という主人公の霊体がダッチワイフに入ってしまう漫画を、また同じ年にはかざま鋭二先生と梶原一騎先生による「朝日の恋人」というヤクザの娘を主人公にした作品を連載しており、特に後者はドラマ化され今で言うメディアミックス作品だったようです。その後もキューティーハニーやエコエコアザラク、少し遡るだけなら無敵看板娘などの女性主人公のヒット作が定期的に出ています。
 このように創刊当初から女性主人公の作品があり、継続していた結果なのかもしれません。

 もう一つの可能性は沢編集長の編集方針によるものです。沢編集長は2005年10月に就任しましたが、今回の調査でも、過去に「情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明」様が行った調査でも2006年から顕著に女性主人公が増えています。具体的な作品名を挙げると「みつどもえ」「ペンギン娘」「椿ナイトクラブ」「涅槃姫みどろ」「24のひとみ」「侵略!イカ娘」などです。後のアニメ化作品も含む多くの女性主人公作品がこの頃から始まっています。直接聞かないことには分かりませんが、ある程度は意図的に変化を狙ったのではないかと思います。(参考までに沢編集長の経歴と2010年までの誌面作りに関するグレースタイル様の記事雑食商店街3373番地様による2012年のデジタルハリウッド大学公開講座のレポートをリンクします)

☆なぜ実数ほどチャンピオンのイメージに女性主人公が反映されないの?
 1つは悲しいかなチャンピオンが読まれてない可能性があると思います。ただ、旧来の読者でもそのイメージが保たれているとするなら、それは誌面中でのメインキャラクターの中の男性の割合が高いせいではないかと考えます。
 今回の調査では主人公を2人までに絞って調査しましたが、一つの作品を読むと作中のメインキャラが10人を超えることも多いです。特に「刃牙道」「ドカベン」「弱虫ペダル」「囚人リク」「バチバチ」および「鮫島、最後の十五日」「錻力のアーチスト」などは主要キャラのほとんどが男性です。
 この場合、骨は折れますが単行本巻頭のキャラ紹介に登場しているキャラ全員の性別を分類するなどを行えば女性の割合はぐっと少なくなり印象と合致してくるのではないかと思います。

☆反省点
 残念ながら今回の調査ではマガジン・サンデーの調査が不足している為、四大少年誌における主人公の性別については比較することが出来ませんでした。また、チャンピオンに限っても10年程度しか調査していない為に創刊からの1/4程度しか調査出来ていません。今後はそのような部分を補完すると共により客観的な指標で主人公の判別や分類をする必要があるかと思います。

☆最後に
 先日、チャンピオンにこーへー先生の第83回新人まんが賞佳作である「黒緋」が掲載されました。本誌に掲載されたプロフィールによるとこーへー先生は無敵看板娘を期に漫画家を目指し、マイリトルポニーの漫画やアニメを愛好しているそうです。また受賞作である「黒緋」も「ガールミーツガール」の物語でした。
 今後はチャンピオンの女性主人公の作品を読んだ読者が漫画家となってチャンピオンに漫画を連載する、そういう事例が増えて行くのかもしれません。そういう意味でも、これから3年5年と経った時に再び主人公の性別という切り口で作品を見てみるのも面白いと思いますし、またやってみたいと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?