超えることのできないもの

水商売の出がらしのようなババアが21時ごろにおもむろにオープンする焼肉屋。開店時間は決まっていない。
8席程度しかないL字のカウンターのみ。カウンターの中でセブンスターをボコボコ吸いながら手際良く肉を用意するババア。足元には小汚いチワワが2匹。しつけ不足なのか、よく吠える。バカ犬だ。

この衛生面にいささか配慮の足りない焼肉屋にいくども足を運んだのはとにかくうまくて、安いのだ。

「犬と生きていくだけの金があればええ」をモットーにその生き方を貫いているので、サシがはいった肉を腹一杯食べて、飲んでも3000円を超えることはなかった。完全に利益度外視なのがこちら側にも伝わってくる。

味付けもうまい。特に生センマイの漬けダレは秘伝の絶妙なゴマダレであれを超えるビールのアテにはまだ出会えていない。


そんな思い出の店もババアの寿命とともに無くなってしまった。母親の手料理がまずい訳ではないが、最後の晩餐にはあの生センマイをもう一度食べたいと願う28の午後17時



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?