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YOU +私を変えてくれたもの <はちみつ>

私は2021年3月、17年続けてきた高校の英語の先生という堅い職業を捨て、養蜂家見習いとなった。

きっかけは、はちみつだ。

遡ること5年前に「塗って食べて美しくなるはちみつ講座」という生活クラブという生協の講座に参加した。ここで衝撃的な美味しさのはちみつに出会った。そのはちみつをレザーウッドハニーという。が、ここで詳しく説明はしない。ただ、今まで思っていたはちみつは何だったのだという衝撃的な美味しさだったということだけは記しておきたい。このはちみつが、私の人生を変えてくれたのだ。

その時の講師の先生は、ご自身がタスマニアでこのはちみつと出会い、はちみつの輸入を始めたというバイタリティあふれるお人。はちみつへの愛もすごいけど、蜜蜂への愛もすごかった。私は「蜜蜂の一生に集められるはちみつの量はティースプーン1杯なんですよ!あの小さな体で毎日2000個のお花を飛び回り、あの体にしてみればそれって月まで何往復もしているくらいの距離なんですよ〜」と熱を込めてお話をしてくれた。その話に私は「へー」としか思わなかった。このはちみつは美味しいけど、正直なところ蜜蜂には興味はゼロ、むしろちょっと引いたかも。(高橋先生、ごめんなさい)

でも、結果、はちみつって美味しい!そして美味しいだけじゃなくて、使い方もたくさんあるし、栄養満点で、なんていいとこ尽くしなんだ、はちみつ!私はそんなはちみつが好きだ〜!!!と、この時から人に言うようになった。

そして、何がどこでどうなって知ったのか全然思い出せないのだが、そのはちみつを作ってくれる蜜蜂が激減しているという情報に出会う。このことがなければ養蜂家にもなっていない。

蜜蜂が減るということは、全ての人に関わる重大案件なのだ。多くの人が知っていると思っていたが、どうやらそうではないらしい。なぜそう思ったかというと、知った瞬間から同僚にも、妹にも、週末に会う友達を捕まえては、「蜜蜂が減ってるって知ってた!?私たちの食べもののうち7割が蜜蜂の受粉によるもので、このままいくとスーパーに生鮮食品が並ばなくなるんだよ!!!」と話しまくったからだ。

衝撃的なこの事実をみんなが知っているのか、知っているのならどうしているのか、私はどうしたら良いのか分からなかったのだ。私には3、6、9歳の子どもがいる。みつばちがいなくなると知っていて、「ごめん、母は何もできなかったよ」なんて大人になった我が子に言えないって思った。

この話を件の生活クラブの集まりでももちろん話した。そこで、「そのテンションで人に話せるなら、もっと多くの人に伝えた方がいいよ」という人が現れた。「ハニーさんっていう人が同じようなことを言っているけど、リーフレットあげようか」という人もいた。それで、私はその場で森のいろどりフェスタという地域のお祭りでみつばちのことを伝えるワークショップに出展することとなり、リーフレットを後日ポストに頂くこととなった。もちろん、この時知ったハニーさんのプロジェクト「プーさんに手紙を書こう!」(はちみつが大好きなプーさんに手紙でみつばちがいなくなるって!助けて!という内容でディズニーに送る)を他の同僚も巻き込んで、英語のライティングの授業で取り上げた。

この頃から、私のFacebookに何度も上がってくる養蜂箱が気になり始めていた。みつばちの住むところが減っているなら、家を私がまずは供給してみたらどうだろうか、というアイディアが浮かび養蜂に興味を持た。気になる養蜂箱は蜜蜂の出入り口が高いので危険性が低く、はちみつを採る時には出入りを止めて安全に取り出せるというとても機能的で、おしゃれな色で、イタリア製!ただし、気になるからという理由だけでポチッとする値段ではないので、思いあぐねて夫に聞いたところ、「いいんじゃない?でも、マンションには置けないからね」と賛成とも反対とも取れる反応が返ってくる。

ここで、私はぐいっと自分の運命の糸を自分で手繰り寄せた。超ポジティブに、「やったー!反対されなかった〜!あとは置く場所が決まればオッケー!」

と、こうなれば、決まるよね、場所。

何気なく実家の夕食で「養蜂を始めるんだよね〜箱を置く場所を探してて、マンションはだめって言われたんだよね〜」と言ったら、「その辺の畑の隅にでも置けば?」と父の一言で養蜂決定!!

イタリアからお取り寄せして待つこと数ヶ月。春のみつばちのお引っ越しシーズンには間に合ったものの、待てどもみつばちは入らず。思っていたよりどうやら簡単に始められるものでもないらしいと気づく。

でも、みつばちへの愛は募るばかりで、とにかく本を読み漁った。そしたら、今度はみんなに「知ってるー?」って言いたくなるのは私の性。Facebookの友だちを相手に100日連続みつばちクイズなるものを思いつき、投稿を始める。これがまたみんなが面白がって、冷やかしで、答えてくれるもんだから楽しくて。知ったこと、学ぶことをシェアするって大事だと思うに至る。

「運は人が運んでくれるもの」という言葉を聞いたことはあったが、私の場合もまさにそれでした。

後日、生活クラブの知り合いから頂いたハニーさんのリーフレットは1枚ではなく、なぜかどさっと束で届いたので、「なぜ私が配るのか?」と思いつつも、ワークショップで配ったり、友だちに会うのに持っていって配ったりしていた。その1枚がきっかけで、ハニーさんのお話会が開かれることになったよ、と運命の連絡をもらった。もちろん、速攻申し込み。お話会はとても濃い内容だったけど、ここでも私は何も覚えていない。ただ、「私はこの人に会わないといけない」という感覚だけはっきりと覚えている。早速メッセージして「会いたいのですが、どうしたら会えますか?」とストレートに聞いてみたら「リトリートどうですか?」と。

そこからは、トントン拍子にことが運び、私は1月にハニーさんに初対面し、帰る前に弟子入りを果たし、2月に清里行きを決め、3月に仕事をやめ、4月に清里入りという怒涛のような運命の流れに乗った。突然仕事をやめると言った私を誰も止めてくれなかったのは驚きだった。夫も、父も友人たちも、同僚も、上司も、恩師も。誰か止めてくれよ、と心の中では突っ込んでいたものの、本当に一言も「そんな堅い仕事辞めて、情熱かけてやってきたのに、もったいなくない?」とは言わなかったのだ。

私は人生を変えるはちみつとの出会いから緩やかに、そして、気づいた時には大きく変わっていた。今は一人前の養蜂家になり、美味しいだけじゃない「本物のはちみつ」のストーリー付きのはちみつを人に届けたいと思っている。そして、みつばちが誰にとっても大切な存在だということを、多くの人たちに知ってもらえるように伝えたいと思っている。みつばちのいる地球を子どもたちに手渡せるように。

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